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グルメ小説の始まりではない。

よろしくお願い致します。

最近の供物は食べ物だけでなく、各地の工芸品が多く含まれるようになった。残念ながら私の暮らしに着物、鏡、刀、簪、貴重な海の幸は必要ない。長く時を過ごしていると人間の暮らしの移ろいが嫌でも見えて来る。それが供物からも伝わってくる。人は必要以上の富を求め、今以上の生活を求めるようになり、私は昔の人の暮らしが恋しくなる。


私が人の暮らしに干渉しなくなっても、神への信仰を重んじる者が多い為、今でも祠への供物が絶えない。その気持ちを無碍には出来ず、お手製の籠を背負って、時折山を降りる。木が痛み、葉と蔦に覆われた祠には今日も供物が置かれているのだろう。




祠の前に置かれていたのは白い布で包まれたナニカであった。両手で抱えると微かに温かい。手には規則的な鼓動が伝わってくる。珍しく今日は生き物だった。最近だと華美な羽根を持つ鳥、獰猛な犬、凛々しい馬などを手懐け飼い慣らすことが流行りだと森に住む獣から聞かされた。寂しい独り身として、家に住む住民が増えることは大歓迎なので、籠にそっと入れ、意気揚々と帰っていった。

こういった浮かれた気持ちが後に沈むことも知らずに。




籠から包みを取り出し、畳の上にそっと置いた。

「これぐらいの大きさなら犬、猫の類かも知れないな、名前はどうしようか?タマ?ポチかなんかが流行りだった気がするな」

「寂しい独り身だし、どっかの山のヘンテコな神と契りをかわすぐらいなら神になるまで育てて影武者にするのもいいかも知れないな」

包まれた布を解くと出てきたのは愛玩動物ではなく、スゥスゥと寝息をたてて熟睡をした少女だった。ゔぁっと声をあげそうになるのを唇をギリィと歯で噛み締めることにより防ぐことができた。再度布を被せ、目を瞑り考える。

「見間違いか?人の顔をしていた気がする」

汗がほおを伝う。神は汗をかくことを今初めて気づいた。畑仕事をしていても一滴だって汗をかかないのに。


白い着物否白装束に身を包み、死化粧が施されていた。頭髪、眉毛とまつ毛まで白く、美しい造形の顔の少女だった。

「ん〜 むにゃむにゃ」

寝言まで呟き出した。起こさないよう、中途半端に解かれた布を取り去るとある物が無かった。両足がないのだ。中途半端に残された足の先端には桃色の布で包まれており、桃色の布を解くと痛ましい傷跡が現した。人為的にされたとしたら、ここまで酷たらしい状態にはならないだろう。天災、災害などに巻き込まれたのでは?村での彼女の立場は?目の前の少女の波瀾万丈な生活を想像したが

「ふるへへ ふるへへ へへへ〜笑」

という珍妙な寝言を聞くと少女はそれなりに楽しい生活を送っていたのではと考えを変えた。


そのとき

赤い目と目が合った。

「ぬぁっ!」

今度は声を我慢できなかった。まずいよく見ると御御足をジロジロ見つめる大男と少女はまずい状況だ。



少女はすぐに目を覚まして、辺りを見回し、散策を始めた。足が欠けている為、匍匐前進の形であるが。

ズリズリィ ズリズリィ ズリズリィズリズリィズリズリィ ズリズリィ ズリズリィズリズリィズリズリィ ズリズリィ ズリズリィズリズリィ


ぼんやりとその様子を眺めている。畳の上を俊敏に匍匐前進しており、畳と少女が擦れる音が延々とこれからも続いて行くのではと不安がよぎる。村人たちから頂く供物は時の流れとともに変わっていく、普段と毛色が違う物が出されると毎回驚かされるが今回の貢ぎ物は一体?

はっと辺りを見回すと少女の姿がない。部屋の襖は開けっ放しになっていた。廊下を覗くと誰もいない。

「どっどこに!匍匐前進でまかれることがあるのか!」

辺りを見渡し、とにかく探さねばと家中を駆け回る。ドタバタドタバタドタバタドタバタ

ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタ

ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタ

ドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタドタバタぐにぃ

「えっ?!」

足に伝わる柔らかな感触

下を見ると赤い目と目が合う。足元に床を這う少女がおり、小さな口で包丁の柄を横に咥えていた。

後方に飛び去り距離をとった。少女は咥えていた包丁をペッと投げ、頭を床に伏せ、三つ指をついた。ここから見ると仰向けに寝っ転がった両足のない少女が頭の前に両手を三角形に置いている状況だ。

「お初にお目にかかります。私、地を這う物ミミズと申します。」


「みっみみず?」


「今回の供物(生贄)は、このミミズでごさいます。鮮度が落ちないうちにお召し上がり下さい」


今回の供物は随分と毛色が違う物だった。生贄を寄越すとは村人たちの品位も落ちた物だ。


「さあっ!どうぞっ!踊り食いが好みであればこのままどうぞ!あっ布が邪魔ですね!今すぐ素っ裸になりますね!オススメはね頬肉ですよ!どんな動物も頬肉が美味しいのですよ!その包丁で切り取ってお召し上がっては?!」

バサッと白装束を脱ぎ去り、その大胆さに圧倒され、あんぐりと口をあけてしまう。素っ裸のミミズは匍匐前進でこちらに近づいてくる。投げた包丁迄やってくると自らの右頬に突き立てた。

「やめないかっ!」

少女の細腕を掴み、そのまま引っ張り上げてしまう。少女の裸が目に入り、それを隠すように抱き抱えた。少女の右頬がわたしの右頬にピッタリとくっつく。


これがミミズとの出会いである。供物は(生贄)としてかなりポテンシャルが高い彼女をわたしはこの後、手放せなくなり何百年も捕らわれることとなる。長い話になるし、グルメ物語ではなく、かなりクセの強い恋物語になることは覚えていて欲しいと思う。

また、目を通して頂けたら幸いです。

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