嫁として愛でたい
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白い着物きた両脚のない生贄の少女は縁側に横たわり、戯れる蝶々をぼんやりと見ていた。季節は夏 じんわりと汗が滲んでくる。この暑さに干からびて死ぬやつはいるのでこのまま干からびること少し期待していた。庭は作物たちの鮮やかな色に染められ、はちきれんばかりの過食部は美しい曲面を描き、深緑の葉は日光に美しく照らされている。この家の主は土弄りに精を出しており、食べさせられる作物はどれも味が良く、無意味に生かされている生贄を肥すために作られているのではないかと期待している。
体を少し起こすと、床に散らばった長い白髪が引きづられる。遠くを見ると頭に白い布を巻き、作務衣を着た男の姿が見えた。彼が丹精込めて編み、作り出した自慢の籠を背負い帰ってきたのだ。小さく見えた男は近づくにつれて大きくなる。少女が接してきた男の中で彼に勝るほどの大男はいなかった。近づいてきた男が縁側に供物が詰まった籠を置くと、ゴトンッと鈍い音がした。この重さを1人で背負って帰ってきたのだ。視界が暗くなる。作務衣を着た男が日陰を作り出した。
「神様、今日の供物はどうでしたか?」
と彼女が呼びかけると背中を向け、縁側に腰掛けた男は、
「いきのいい魚があったよ。今日は煮魚にして、残りは冬に備えて干物にしよう。」
と答えた。
「小分けにして消費する予定ですか?」
「そうだよ。なんせ海が近くにないから、魚は貴重だよ。少しずつ食べていこう。」
少女の薄紫色の目が鋭く光る。
「次の生贄がいつ来るか分からないので、私も小分けにして食べませんか。」
「よし!ちまちました事は辞めて、煮魚、塩焼き!天ぷらにしてしまおう!」
と、豪快におおきな背中を揺らして笑った。
「早く食べないと鮮度が落ちますよね。
魚も私も。」
ぴたりと笑い声が止んだ。
神様はこちらを振り返り、貼り付けたような笑みを浮かべ、
「魚は食べるけど、君は食べないよ。」
と言った。いつも通り言い返そうとすると有無を言わさず抱き上げられる。ふと気付いた瞬間、住んでいた家の屋根が足元に見えた。下から見上げた木々を上から見上げている。
その瞬間、少女の気分は高揚する。地を張って生きる日常とはかけ離れた光景が視界一面に広がる。日々感じていた。濡れた土、虫のふん、獣の死骸、腐った根、青々とした草。
風に運ばれて来た匂いを敏感な鼻で嗅ぎ取っていた。今はまったく感じない。地上から離れたここでは風は何も運んでは来なかった。
「私は、君の喜ばせ方を知っているよ。」
と男は投げかけて来た。男の背中には作務衣を突き破り、伸び伸びと広げられた翼がある。少女を抱える大きな手には、羽が僅かに生えていた。
「私は君を嫁として愛でたい。」
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