前世の夢
『アリナ!こっち!早く!』
『ちょっとまって!ローゼリア!』
白く霧がかかってる世界に2人の少女の声だけが聞こえる。
『アリナほらこっ…キャッー!』
『リアー!』
『イタタ。足を滑らせちゃった!』
『あー、びっくりした。もうほんとローゼリアは危なっかしいんだから』
『リア。さっき咄嗟に呼んでたでしょ?
そう呼んで?気に入ったの』
『えっ?分かった。……じゃあ私のことはリナって呼んで?似てて可愛いでしょ?』
『ふふ、ほんとだ』
段々と霧が晴れ、会話の最後には少女たちの姿はハッキリ見えていた。そして背景も色鮮やかに変わっていた。2人の前には夕焼け色に染った綺麗な街並みが見える。リアと呼ばれた少女が見せたかったのはこの風景なのだろう。
会話が終わると徐々に霧がかかり白くなっていく。もう少女たちの姿は見えない。
『マティアード殿下!昨日落とされていた書類手元に届きましたか?』
『うん、届いたけど…何で?』
次に霧が晴れた時には場面が変わっていた。そしてさっきと同じように徐々に話している人や背景も顕になっていく。
今度は学園の中にいるらしい。制服をきた男子生徒と女子生徒が話している
『廊下に落ちていたのをロンドに渡しましたので、気になりまして』
『え?ロンドに渡した?』
『はい。私が渡しました』
『えー!ローゼリア様何かの間違いじゃないですか?私がマティアード様に直接渡したんですよ?そうですよね?』
『うん。僕はミティアに貰ったよ』
『マティアード様、もう行きましょう?』
『あぁ。ごめん、ミティアと話す事があるから、もう行くね。』
後から来た女子生徒と男子生徒が歩き出す。
すると隣にいる男子生徒に気付かれずに女子生徒が後ろに顔を向けクスッと意味ありげな笑顔を向け、その場を後にした。
『そんな。マティアード殿下どうして…何でミティアが…』
絞り出すような声で訴えた言葉は誰かに届く前に空中で消えていった。1人残された彼女はただぼーっと突っ立ていることしか出来なかった。
しばらくしてまた霧がかかり始め白くなる。そして話し声が聞こえ場面が変わる。色んな場面が同じように何度も繰り返されていく。1人残された彼女を除いては…
彼女は2回目の場面から豹変していった。いや、根本的には一緒なのだが、やる事がエスカレートしていく。それは周りに頼られたせいなのか、はたまたミティアと呼ばれた女性のせいなのか。本当の事は誰にも分からない。確かなことは自分までも見失い誰の声にも耳を貸さなくなったことだけだ。
【あぁ、どうか…どうか次があるなら早めに思い出させてください】
と言う彼女の声を最後に白い霧は消え真っ黒な世界で何にも聞こえなくなった
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ツーと一筋の涙が頬を伝う。
一人部屋にしては大きな部屋にあるベットで少女が寝ていた。その姿は苦しそうにも悲しそうにも見える。
「うぅーん。さっきの夢って…」
目を開けると視界が揺らいでいた。
(あれ?私泣いてる?)
濡れた頬を手で拭う。何で泣いてるのだろうか?きっと夢のせいだ。彼女に同情したんだろう。
いや、これは同情なんかじゃない、私自身で感じた実体験に対する涙だ。という事は?
「はぁっ!」
全てを理解した時前世の想いを全部言葉にする勢いで叫んでいた。
「この人生2回目なのー!?」