承
聖エリスネア学園、放課後。
各々が自主的な活動に励む中、
ナツキは訓練室にいた。
「はぁ……はぁ……」
かれこれ1時間を超えるだろうか。
もはや底をつきかけた魔力を振り絞り、
両手を的へ向ける。
「『メテオ』ッ!!」
ドウッと音を立てながら
魔法は的へ吸い込まれていく。
「58点か……」
的の上に取り付けられたパネルに
書かれた数字を呟いた俺は、
意図せずして座り込んでしまった。
「見ろ、まだやってるよ」
「ホント、残酷だよなぁ、実力主義は」
大きく扉を開けて入って来たのは、
スクナとギユウの二人。
どちらも学園を代表する実力者であり、
今後の活躍が約束された人物だ。
「悪いけど、まだ追試中なんだ」
彼等がここに来た理解している上で、
あえて俺は2人に言った。
「早くしてくれよ、俺たちの練習が出来ないから」
俺は知っている。
この2人がただ練習をするために
来ている訳では無い訳を。
「スクナ、もうお前が代わりにやってやれよ」
「何言ってんだ、代わりにしたら
強すぎて俺がやったってバレるだろ」
2人は笑いながら話を続ける。
「大丈夫だって、なんせ俺らよりも1年も頑張ってるんだぜ?なっ!ナツキセンパイ!」
「……」
「ん?そんな目で見てきて、なにか」
俺の身体は一瞬の浮遊感に囚われ、
「言いたいことでもあんの?」
「ッ!!」
一拍遅れて届いた腹部への痛みから、自分が
『メテオ』を食らったことに気付く。
「吹っ飛びすぎ」
ケラケラと笑うギユウに吊られて、
スクナも笑っている。
「ごめんごめん、ファイヤーボールだし、
一番弱くしたつもりなんだけどね」
スクナのユニークスキル『黒閃』。
全ての魔法がワンランク上位種となるというスキル。
膨大な経験と知恵によって初めて超える事が出来る
ワンランク上の壁。
スクナはそれを嘲笑うかのように超えてしまう。
本来なら、枯れ葉に種火をつける程度の炎族魔法なのだがユニークスキルによって人が吹き飛ばされる程の威力となる。
努力も才能も、ユニークスキルによって覆されてしまう。
酷い現実だ。
このユニークスキルを持つ者だけが入れるSクラスでさえも、彼は頭1つ実力が抜きん出てている。
それに比べ、俺のスキルは……
「ほら、早くユニークスキルで対抗しなよ?」
スクナはゆっくりと魔素を練り上げ、新たな
『メテオ』を構成している。
「なんだっけ、『呼吸』だっけ?
それで、なんかしてみなよ」
笑いを堪えたギユウの手にも、
『メテオ』が構成されている。
どうすれば、いいんだ。
俺のユニークスキル『呼吸』の能力は、
人よりも少し深い呼吸が出来る。
言うなれば、息継ぎをしなくても
ある程度であれば耐える事が出来る。
と言うだけの能力だ。
役立つことなんて、思わず1呼吸置きたくなるような
長い詠唱を言えることしかない。
勿論、詠唱が長い魔法はそれだけ高難易度であって、俺のような才能が欠如した者が行使すれば、
たちまち暴走するのは必然であるが。
「……もう、どうにでも」
「ん?」
「もう、どうにでもなれッ!!!」
「ッ!?」
「『呼吸』ッッ!!!」
全集中でのユニークスキル発動。
一流、それこそ過去に存在したと言われる賢者相応の技術がなければ暴走は免れない行為。
魔法士同士の戦いでは、
短期間で尚且つ一撃で仕留めるのが良いとされるのは
これが原因の1つとされている。
自分の容量を無視した魔法行使。
その周囲の魔素を巻き込んでの攻撃は、
最後の自爆行為として最も秀でた手段といえる。
俺が自爆をしたのを理解したスクナとギユウは
その優れた反射神経によって
防御魔法を張り巡らせる。
が、それは遅すぎた。
俺を中心にみるみると膨れ上がる魔法に引き込まれる
2人はもはや立つことさえ許されない。
「ハハ……」
最後に、アイツらの困る顔を見れて良かった。
それが最後の記憶だった。
*
「……?」
ここは、どこだろう。
どこまでも白い空間に浮かんでいるのは、水晶玉?
その一つ一つにどこか分からない景色が
映し出されている。
「……これはッ!」
いくつもの水晶玉の中で見覚えのあるものが1つ。
「エリスネア学園……」
そこに映されているのは、
確かに俺が通っていた学園だ。
気が付けば、俺はその水晶玉に触れていた。
パンッ!!
激しく音を立てて触れた水晶玉は砕ける。
それに連鎖するように周りの水晶玉も砕けていく。
どこか分からない景色が
映し出された水晶玉も割れてしまった。
途端、頭に流れ込むのは
その景色で感じた風の匂い、音、心境。
一区切り落ち着く頃には、その景色は
たしかに記憶に存在するものとなっていた。
驚く間もなく、次々と自分が経験
していないはずの記憶を思い出していく。
「俺は……」
二人の魔族による同時魔素暴走を食い止め、
『賢者』として崇められたあの日。
世界中で流行した病への特効治癒魔法の開発。
『外界からの侵略者』と恐れられた黒龍の討伐。
「……」
ふと周囲を見渡すと、白い空間は既になく
目に映るのは、愕然とした
スクナとギユウの顔であった。