過去そして現在
まだ薄っすらと空が明らんできた頃にメイドのパルメは動き出す。素早く身支度をして庭に行き今日使う分の農作物を収穫する。
パルメが料理の支度を始めるころにハルカとリラとエリカが起きてくる。
「おはようパルメ」
「おはー」
「ねむー」
「おはようございます」
三人にミント水を出すと二人は一気に煽った。
「よしやるか」
「おー!」
二人は元気に外へ向かって行く。
その間に料理の支度を終わらせると今日の予定を確認し荷物の準備に入る。それが終わるとパルメはアクアを起こしに行く。
「アクアさん、朝ですよ」
「んー…」
アクアは目をこすりながら上体を起こすがぼけーとしている。
「ふふっ顔を洗ってきてください」
「ふぁーい」
アクアはとてとてと部屋から出て行く。
パルメはキッチンに戻ると蜂蜜レモンを用意したそれとほぼ同時にハルカとリラ、エリカが戻ってくる。
「お帰りなさい蜂蜜レモンを用意してます」
「いつもありがとうパルメ」
「パルメ大好き!」
「ほんとパルメってマメだよねー」
ハルカがお礼を言いリラがパルメに抱き着くエリカも感心しながら水割りを飲む。
「いえいえ」
パルメは嬉しそうに笑った。
そしてみんなで揃って朝食を食べる。にぎやかな食卓にパルメの表情も緩む。その日を生きるだけで精いっぱいだったころが嘘のようだ。昔の仲間たちはどうしたのか分からないが幸せになっていることを願った。
仕事を受けるために五人で酒場へと向かう。
「これだけしか受けれないの?折角新しく大陸の外へ来たのに?」
金髪の少女がレヴィアに食って掛かってる。
「そうよ、ここに来たからには一から外の実績は関係ないわ」
レヴィアが再びここの仕様を説明している。
「いいじゃねぇかリスティ、俺達なら直ぐに上に上がれる」
筋肉隆々の茶髪巨漢の男が金髪少女を窘める。
「煩いバスター暑苦しいのよ」
リスティと呼ばれた金髪少女はバスターをぞんざいに扱う。
「…はぁ」
魔法使い風の少女はため息をついた。
「まぁまぁメイズ、あの二人はいつもあんな感じじゃない」
ゴスロリ風の防具を纏った少女はそういうと笑う。
「メルティ…だからため息ついてるんだけど」
魔法使い風の少女メイズはゴスロリ少女メルティにそういって再びため息を吐く。
「こんにちは!そっちの見知らぬ人もこんにちは!」
リラが気にせず前に行く。
「なによあんた、誰の許可貰って前に出てきてんの?」
「え、なんて?」
リラが素の表情で聞き返した。
「喧嘩はやめなさい」
「喧嘩じゃないわまっとうな意見よ」
レヴィアの注意にリスティは食って掛かる。
「レヴィアさん昨日言ってたクエスト行ってきます」
ハルカは依頼書の紙を出した。
「分かったわ、気を付けて行ってきなさい、またいろいろ破壊しないように」
「気を付けます」
「何で通すのよ!」
「貴方たちの事から処理したらギルドの業務が滞るのよ」
「むきーっ!良いわ最初のクエストを寄越しなさい!」
リスティは最低ランクの依頼書をひったくると走ってどこかへ行ってしまった。
「すまねぇなあんたら」
バスターが頭を下げ去っていく。
「またねお兄さん!」
メルティが二人を追っていく。
「縁があればまた」
メイズが丁寧に頭を下げて歩いて行った。
「何か凄い奴だったなあれ」
リラがリスティを指さしてそういった。
「面白い奴らだ」
「それは私もそう思います」
パルメは頷いてみたことも無いような笑顔を浮かべていた。
「なんかいいことでもあった?」
エリカがパルメにそう聞くと彼女は首を横に振った。
「いいえ」
「んじゃ俺達も行こうか」
ハルカ達も出発していった。
その日の夜、パルメはグリード商店へ来ていた。手慣れた様子で必要な食材や調味料を入れていく。その場所に影が差した。
「お、あんたも買い物?」
リスティが買い物かごを持ってそこに立っていた。
「は、はい」
「何で緊張してんのよ~でもま、生きててよかったわフラウベル」
リスティは微笑むと食材をぽんぽん入れていく。
「!私だって貴方たちが生きてて良かったです」
パルメは涙ぐんだ声でそう言った。
「あんたが役所の連中に捕まった時私達は何もできなかった、あんたはまともな人の所へ送られたのね」
パルメたちの故郷は強国と呼べる国だった、強力な魔物達も多く、魔物達との戦争が毎年のように起こっていた。そのお陰で国は豊かになっていたのだが人も大勢死ぬ。故に孤児が多く孤児院が多く立ち並んでいた。孤児院とは名ばかりの廃墟だったがそれでも雨露はしのげた。パルメたちの育った孤児院は六の三番孤児院と呼称されていた。国営なのだが人はおらず孤児達は力を合わせて生きていた。そのメンバーがリスティ、パルメ、バスター、メイズ、メルティ…他にも多くいたが多くの者が生きるために罪を犯し役人に捕まえられ売られた。
「リスティたちは直ぐにギルドに?」
「泣いていた私達を見かねた狩り人ギルドの爺さんが口聞きしてくれてスタッフとして働いたわ、十歳くらいの時に爺さんのパーティーに入れてもらったてそれからいろいろあって新天地で自分たちの力を試そうってなったのよ」
「リスティらしいですね、私はあの後レヴィア様に買われてメイドになる為の教養を叩きこまれました、厳しくも優しいレヴィア様は親が居たらこんな感じなのかなと思ったことを覚えています、唯一の気がかりだった貴方たちが無事で本当に良かった」
「それであのハルカって男とはどこで会ったのよ?」
「この村の狩り人ギルドは初心者を卒業するとメイドを一人貸与されるんです、変態や変人には与えられませんがその辺はレヴィア様が判断なさいます、それでハルカ様が一人前と認められた時に私が貸し与えられました」
「変なことされてない?」
「優しい人ですよ、ハルカ様もリラちゃんもアクアちゃんもエリカさんも」
「どうせなら私達がフラウベルを貰いたかったわ」
「光栄ですがメイドは選べませんよ、狩り人の特性を見てレヴィアさんが与えるメイドを決めるので」
「えー」
「嫌そうな顔はダメだよリスティ」
口調の変わったパルメにリスティの顔は綻んだ。
「…ふふっやっと昔のフラウベルに会えた気がするわね」
パルメの本来の口調にやっと安心したようだった。
「あ、気が抜けてました」
「私達の前ではそれでいいのよ」
「オンオフの切り替えが下手だから」
「んじゃオフのままで良いんじゃねぇの?」
ハルカとリラとアクアとエリカがそこに立っていた。
「いつからそこに!?」
「あんた盗み聞きしてたわね!」
「入ったら聞こえてきたもんな?」
「うん聞こえたよ!」
「はっきりとな」
「はいでも最後の方だけでしたので」
「おう最後の方だけだ」
「全く問題ない」
「ふふっリスティもフラウベルも」
ハルカ達が来た方向の反対の商品棚からバスター、メルティ、メイズも顔を出した。
「っ~~~~!」
「顔真っ赤にしながら蹴るなっ痛い痛いって!」
バスターの脛をリスティは連続で蹴る。
「んじゃ今日は宴だな、お前らも飯食いに来いよ積もる話もあんだろ?」
「…あんたたちのおごりよ?」
「良いぜ、パルメ食材買い込んで帰るぞ」
「はい!」
「ちょっと何パルメに持たせようとしてるのよ!行けバスターあんたの力の見せ所よ!」
「おう任せとけ」
その日ハルカ達の家ではリスティたちとパルメの再会を祝う宴が開催された。途中でレヴィアやウカノ、パレ、マリアなども参加し大きく盛り上がった。リスティたちの住居は近所だった最近建てられたばかりの新しい家だ。
「ふぅ」
「一番楽しそうだったな」
ハルカとパルメは縁側に腰を掛ける。
「そうですか?」
「ちょっと嫉妬しそうなくらいにな」
ハルカはけらけらと笑いながらそんなことを言った。
「何を言ってるんですか、いつも楽しいですよ」
「なら良いんだ、後口調も素で良いんだぞ」
「俺達はパルメの事をただのメイドとは思ってない仲間だと思ってるからな?」
「うん!」
「私もです!」
「私も」
リラとアクアそしてエリカの三人がひょっこりと顔を出した。
「ふふっそうですか、でもメイドの私も捨てたくないんですだからこのままの私でもいいですか?」
「ああ、パルメの好きにしていい」
「えー」
「嫌そうな顔はダメだよリラ」
「きゅんきゅん!不意打ちはダメだよ卑怯だよ~!」
パルメの素の反応にリラが顔を赤面させていた。
「あれ?また口調が変になっちゃいました?」
「オンオフ苦手だって言ってたもんな」
「はい、私の素そんなにおかしいですか?」
「オカシクナイヨ!」
そんなことを言いながらメルティがやってきた。
「フラウベルは昔から可愛いかったんだから!」
「メルティは昔から冗談ばっかり、私なんて普通だよ?」
「素で天然さんだな」
「でしょ?だからこの子の事頼むよ」
「任せろ」
「???」
パルメは首をかしげていたがメルティとハルカの意思は合致した。
「にしても君有名な竜紋持ちの人だよね?」
メルティが不意にそんなことを聞く。場の空気が変わった。
「有名かは知らないけどなー」
「まぁあの国の連中も馬鹿だよねー竜紋と魔相を間違えるなんて」
「無知は罪じゃないさ、優しくしてくれた人もいた」
「けどあの国はあんたを使い捨ての道具にした」
ハルカの脳裏に思い出したくもない過去の記憶が蘇る。
「…」
ハルカは痛みに耐えるように目を伏せた。
「メルティ駄目だよ、」
「そうよメルティ」
レヴィアが現れた。
「ここでは過去の事をとやかく言わない事」
「過去を完全に捨て去ることは出来ないと思いますけど」
「もう一度言うわ最後よ、ここに居る間は過去の事には触れない事」
レヴィアの言は有無を言わせない迫力があった。
「分かりましたよー英雄の話を聞きたかっただけですのに」
メルティはそんなことをいいながら去って行った。
「皆も今の話は忘れること、それじゃお開きにしましょうか」
レヴィアが手を叩くとメイド隊が現れ後片付けをしてくれた。
『悪魔!』
『こっちへ来るな化け物っ!』
『お前を国外追放とする!』
『戻ってくるなよ化け物』
ハルカは嫌な汗をかいて目を覚ました。
「…俺って弱いな」
ベランダに出て風に当たる。気持ちの良い風が嫌な汗を乾かしていく。
「あー気持ちいいな、寝れそうにもないし少し歩くか」
ハルカは着替え外へと向かった。夜中の村は虫の声しか聞こえない。しかし真っ暗ではない多くの星や月が闇夜を照らす。
「よぉ若人よ」
「ん?」
振り向くとベンチでウカノが月見酒をしていた。
「ウカノか、まだ飲んでたのか?」
「うむ、そうだこっちへ来い」
ハルカはウカノの隣に座った。
「お主は抱え込み過ぎじゃな」
「…」
「重く自分だけで抱え込むことのできないことは抱え込まんでいい、放り捨てよ、自分を大事にせよそうしなければ心が重さでつぶれてしまう、もしお主がその重さを抱えてくれる人たちに会ったらその時にまた抱えてみよ共にな、だから前を向け俯いとるから良く無いものが憑く」
ウカノの言葉は心にしみて今まで溜め込んでいたものが目から流れ落ちた。ウカノはハルカにキスをした。
「!?」
驚くほどハルカの心が急に軽くなった気がした。
「そういう時は儂ら先人がおるいつでも胸は貸してやろうだからこれは代償じゃ、お主の初めては儂が奪ってやったぞいかっかっか!」
「…ウカノのお陰で元気が出た気がする」
「そうか…一つ竜紋について講義してやろう」
「?」
「竜紋は観測者たる竜に認められた者が持つある意味最強の恩恵じゃ、それに見合うものにしか竜は力を与えんじゃから希望を持て絶望なんぞ捨てろお前は明日を生きる者じゃ」
「…」
「こんなおいぼれで良いならいつでも話くらい聞いてやろうかっかっか!」
ウカノはそういうといつの間にか徳利を片付け工房の方へ歩いて行った。
「ありがとうウカノ、竜紋があったことを誇る…直ぐには出来そうにないけどそう思えるように努力する」
ハルカはそう宣言すると家に帰りベッドに潜った。不思議なほどよく眠れた。
「珍しいですねハルカさんが寝坊なんて」
「昨日遅くまで起きてたから」
「しっかりしろよーお陰で今日はアクアと訓練だったんだからなー」
「もうくたくたです~…」
「私で良かったら手伝ったのに」
「起したよ!けどエリカ全然起きないんだもん!」
「えーそうだっけ?」
いつも起きないアクアを起こして訓練に付き合わせたのだろう。アクアがテーブルに突っ伏している。
「アクア迷惑かけた」
「良いんですよ偶には、ハルカさんの心がすっきりしたみたいで嬉しいです」
「…ははっ!」
ハルカは笑った、そんなに顔に出てただろうかと。ハルカは決意を込めてどう思われるのか覚悟をしたうえで
「皆に聞いてほしいことがある」
そう言葉にした。
皆は一様にハルカの方を見た。
「はい、聞かせてください」
「うん聞かせてよ!」
「私も力になれるのであれば!」
「私もだ」
「ありがとう皆…」
「俺の昔話だ俺の生まれた国はあんまり強い国じゃなくていつも魔物の被害を受けていた。国の兵士たちの士気は低く毎年多くの兵士たちが死んでいっていた、当然孤児も年々増えて行っていた。俺はその中の一人だった。俺は孤児だったが教会のシスターに俺たちは文字や言葉を習っていた。その人は俺の先生であり育ての親だった武器の扱いなんかもその人から教わったんだ、ある日教会の神父がやってきて俺のこの紋章の事を見て俺の事を悪魔の子だと言ったんだシスターは守ろうとしてくれたけど強制的に連行された、この子には魔相がある悪魔の手先だって、この国が不幸なのはこの子のせいだってな俺が生まれる前から魔物から襲われ続けていたのにな、それから俺は国中の憎悪をこの身に受けた、死にたいと思っていただけど王が牢越しにシスターや仲間たちを殺されたくなければこの武具を装備して戦えと言われたこんな子供に何が出来るのかとも思ったがシスターや孤児の仲間が大事だっただからその武具を装備した」
「…」
「魔装って言われてるやつでさ、魔相があるものが着ると凄まじい力を発揮するものでその代わり完全に体が悪魔に支配されるもの後で知ったんだけどな、それを着て魔物達を虐殺した意識はなかったが気づいた時にはもう遅かったその所業を見た国民たちは俺の事を化け物と呼ぶようになった」
「酷い…」
「国王は本来自我を失うはずの俺が自我を保っている俺を見て不思議だったようだが多分魔相ではなく竜紋だったからだろうと思う、それから国王は俺の事を手に余ると思って俺を国外追放にした、それから大陸を渡りブラフマー大陸で狩り人になってこのアマテラス大陸へとやってきた」
「これが俺の歴史だ」
「辛かったですねッ!」
アクアは泣きながら抱き着いてきた。
「その国はどこだ我が破壊してやろう」
リラの中から夜叉が出てきて物騒なことを言う。
「落ち着け」
「いいですね私も混ぜてください」
「わたしも父様に頼んでその国潰す!」
普段は冷静なパルメといつも兄貴に容赦ない攻撃を加えるエリカも激高して賛同する。
「パルメ、エリカもか!」
四人を落ち着けた後ハルカは再び椅子に座った。
「皆の気持ちは嬉しいけどさ、今はこうして皆に会えて幸せだから良いんだ」
「いい子ですねハルカ様は」
「子ども扱いだぞ?」
パルメはハルカの頭を撫でる。
「うん…ぐすっ」
「うわぁぁぁん!」
「私達がずっと一緒だっ…」
皆が自分の為を想って泣いてくれるのが何よりうれしかった。ハルカは大切なものを失わないように力をつけるその選択だけは正しかったことを確信した。
病院のベッドの上で黒髪の少女が目を覚ました。
「ここは…?」
「起きたんですね?」
白衣を着た全体的にふわふわしている美人の医者が現れた。
「ここはガルディモア村の病院です、そして私はエイルと言います貴方は自分のこと覚えていますか?」
「…柊」
「ひいらぎちゃんですか、めもめもっと!取りあえず食事を運んでくるので待っていてください」
柊は何故ここに居るか起きる前は何をしていたのか思い出せずにいた。
食事を食べて暫くするとエイルがもう一人の女性を連れてやってきた。
「面会です妖しい人じゃないですから大丈夫ですよ?」
「そういうと怪しく聞こえるでしょうが!」
「あいたっ!ここ病院ですよ暴力反対!」
柊はそのやり取りを不思議そうに見ていた。
「私はレヴィア狩り人ギルドの長をやっています」
「私は柊、宇迦之御魂様の巫女をやっている」
「宇迦之御魂、かなり大御所ね」
「はい、優しい神様です」
「ふふふっ、貴方はどこからが記憶が消失している?」
レヴィアは確定事項のように聞く柊は不思議に思ったがそのまま発言した。
「皐月の四日夕方掃除をしていたことまで覚えています」
「確か五月って意味よね、ってことは事が起こったのは五月の七日か」
「落ち着いて聞いてね」
神職である彼女が悪魔の依代にされたことは大変ショックなことである故にレヴィアは前置きした。
「貴方は悪魔子の寄り代にされていたわ」
「う、そ…」
「けど大丈夫その体は既に清められてる」
「…じゃあ大丈夫ですとはならないですけど…感謝します」
「いえいえ、私じゃなくてハルカ君にお願いね」
「?」
「それで貴方を家まで送ろうと思うんだけど危ないから狩り人を一組付けるわ」
「は、はいこれ貴方の分の通行書ね」
レヴィアはぽんと置いた。
「じゃエイル、この子の事頼んだわよ」
「お任せください!」
エイルは大真面目に敬礼した。がはたから見るとあほである。
それから数日後、柊は酒場へとやってきた。佇まいの違う柊は一際この酒場で異彩を放っていた。
「来ました」
「ようこそ狩り人ギルドへ」
レヴィアが柊を迎えた。
「…」
柊はそわそわと周りを見渡す、少し不安そうな様子は小さな子供を連想させた。
「珍しい恰好ねあんた」
柊の隣に金髪碧眼の美少女リスティが腰を掛けた。
「そうでしょうか?」
「結構可愛い服着てみたいくらい」
「はい柊ちゃんウェルカム料理よ」
柊の前にフレンチトーストとホットミルクが置かれた。
「すみません箸はありますか?」
「あるわよ」
レヴィアはそう言うと箸をぽんと出した。
「では頂ます、はんぺんみたいですね…はむ…甘くて美味しい」
「レヴィアさん私もフレンチトースト」
「分かったわ」
柊の食べる姿を見ていたリスティも同じものを注文する。
そして食べ終わると食べ終わった者に対して拝む。
「ご馳走様でした」
「最初も何か言ってたわよね?」
「頂きますとご馳走様ですか?」
「そうそう」
「頂きますは食材となった者達への感謝と作っていただいた方への感謝の気持ちを込めたものです、ご馳走様は料理を作ってくれた人への感謝と命を貰い感謝しますと言う意味もあります」
「毎回やってるの?」
「はい、人は忘れるもの感謝を忘れればその先に待つのは破滅です」
「んじゃ私もごちそうさまでした…これでいい?」
「はい」
一組の集団が酒場に入ってきた。
「やっぱりここに居たか」
筋骨隆々の男バスターはリスティの隣に座る。
「何で隣に座んのよ!暑苦しいって言ってるでしょーが!」
「だから痛てぇ!」
「レヴィアさん来たぜ」
「ハルカ君もう来たの早いね?」
「クエスト行こうかって話してたとこだったんだ」
「んじゃ紹介をこの子たちが柊ちゃんの護衛しながら稲荷神社に送る子たちね」
「俺はハルカよろしく」
「あたしリラよろ~」
「私はパルメですよろしくお願いしますね柊様」
「私はアクアです!よろしくお願いします!」
「私はエリカ!」
「柊ですよろしくお願いします…」
「んであと一人が」
珍しい人物が酒場に顔を出した。
「お主たち揃っておるな」
ウカノは普段着でやってきた。
「ウカノさんが?」
「安心してよいぞハルカ、武器職人として武器の事は誰よりも熟知しておる、主らの誰よりも強い」
凄まじい自信だ、事実なのだろう。
「事実よ、彼女私の師匠だもの」
「ウカノさんが!」
「ウカノちゃんが!」
「ウカノ様がッ!?」
「のじゃろりが!」
どう見ても幼女にしか見えないウカノがレヴィアより年上と聞いて酒場全体がどよめいた。
「そういうことじゃから安心せい、そして行くぞ」
ウカノは歩き出す、ハルカは柊の手を引き後を追う。
「ウカノさんが動くって珍しいっすよね」
桃太郎が空いた席に座りレヴィアに尋ねる。
「そうね、けどいろいろ想うことがあるんでしょあの国はウカノの故郷だから」
「ああもしかして先代の?」
「桃くんはアマテラス生まれだったわね」
「しもぶくれ先輩」
「だれがしもぶくれじゃっ!」
「本当に怒ったおもろっ!」
リスティは桃の反応にげらげらと笑う。
「面白いじゃねぇよクソガキ」
「はは、だってあの子どう考えても稲荷の宇迦之御魂の眷属でしょ?狐耳生えてるし」
「眷属って何だ?」
「神様が生み出した人とか動物とかだね、あそこは狐が有名だし」
「良く知ってるねリスティ」
「これでも本読むのは好きだからねーまメイズの次にだけど」
「名前からしてウカノだし宇迦之御魂って神様の名前をもじってるんでしょ」
「ふふっさぁどうかしら?」
レヴィアは意味深な笑顔を浮かべた。
ハルカ達は西に向かった。前回戦った場所の傍を通り関所へ進む。
「止まれ!通行書を見せろ」
「これでいいか?」
「人数分だな、入国理由は」
「護衛任務だ」
「ふむ、まあいい通れ」
険しい顔で睨みつけてきた衛兵だったが案外すんなりと通してくれた。
そこから先は世界が違うようだった。田畑が広がり働いている村人たちは笑顔を浮かべていた。
「去年は豊作でしたので皆笑顔なのです」
「アマテラス大陸は山が多かったよな」
「はい大昔に隆起した大山が多くあります厳しい環境もありますがお陰で豊富で美しい水源があります」
「良いところだな」
「そうなんです」
柊がハルカの言葉に自分が褒められたかのように朗らかに笑う。
「この辺りはアマテラスの英雄の一人の九朗義経と言う方が治める国名前を源氏と言います」
「へぇ、稲荷神社は何処にあるんだ?」
「源氏南の都市、狐の杜というところにあります、この道を道なりに進めばあるはずです」
「分かった道なりだな」
ハルカ達は馬車を走らせること二日、狐の杜へと着いた。都市の真ん中には巨大な大樹があり遠くからでもはっきり分かった。
都市の至る所に水路が走り、人より木の方が多い場所だった。
「すげぇ…」
大樹の根が交わるところに田畑が広がっている。
「幻想的ですね」
「すっげー」
「元気になりますね!」
「少ししか離れていないのに懐かしい気分です…」
「…」
ハルカ達は真っ先に稲荷神社を目指した。
「貴方柊!?」
神社の手前で巫女の一人が駆けてきた。
「楓さんただいま戻りました」
「無事なの!?」
「はい無事です、この方たちが護衛してくれましたので」
「はぁ…良かった…貴方たちにも感謝します、どうぞこちらに」
柊相手とは打って変わり丁寧な口調で客間に通してくれた。
「神主からお礼を申し上げるので少々お待ちください」
「了解です」
楓と呼ばれた巫女は去って行った。
「ちょっと厠へ行ってくる」
「あたしもおしっこ行きたい!」
「そうですね待っている間は暇ですので良いんではないでしょうか」
「そうだな」
ウカノ、リラ、パルメ、アクアが席を立った。ハルカは女性陣を見送ると本を読み始めた。完全攻略狐の杜と書いてある来る途中の書店で買った。
「稲荷の杜は宇迦之御魂様の神社が有名、豊作や農業、商業の神とされ多くの人間たちから信仰されているか」
「ええそうです、そう言ったことを司る神ですね」
いつの間にか巫女服を着た美人が目の前に座っていた。
「おわっいつの間に」
「読み始める頃です、まぁいいじゃないですか」
「ヌスミギキイクナイ」
「堂々と聞いていたので問題ないでしょう」
「あんたが神主?」
「ええ、私はここの巫女たちのまとめ役大巫女の樟と申します、貴方様はハルカ別名竜紋の悪魔さんですね?」
「プライバシーもクソもねぇな」
「はい、体の特徴からすべて把握しております」
「一種のストーカーだな、で?」
「で?とは」
「俺とウカノさんの飲み物以外に薬仕込んでたろ」
「うふふ、バレましたか」
「バレましたかじゃねぇよ、ただの利尿剤だったから見逃したが殺しに来てたら暴れてたところだ」
「真っ直ぐな目をしていますね、驚くほど澄んでいる」
「意味が分からない」
「ふふっ弟子たちからもそう怒られます」
そこで言葉を切り樟は佇まいをただした。
「この度は、家の弟子の柊を助けてもらい本当に感謝しております、ハルカ様貴方様には感謝の念は途切れることはありません、故にこれを」
急に真面目になり神紋の入った手のひら大の水晶石がハルカに渡された。
「いや、助けたのは偶然だ、そんなに改まってもらう事じゃない」
「良いのです我らが感謝したいだけですので」
感謝の品と言いながらグイグイ来る樟に根負けした水晶石を貰うと懐に入れた。
やっと朗らかな空気が流れ始めた時すさまじい破砕音が聞こえた。
「!なんだ」
「あっちは本殿の方ですか…」
「俺もついていっていいのか?」
「その石は身から離さぬようにお願いしますでなければ命の保証が出来ぬので」
「ああ」
二人は神社の中を駆ける。樟の身のこなしが普通じゃない何か武術を治めているのだろう滑るように音もたてずに走る。
「宇迦之御魂様っ!」
「!」
そして本殿に突入したそこにはウカノが居て倒れているのは宇迦之御魂なのだろう。
「貴様ッ!」
楠はウカノに突進する。
「邪魔じゃ」
パンと空気の破裂する音共に樟は床に叩きつけられて気絶した。
「ウカノどうしたんだ?」
「ハルカか、まぁ待っておれ説教の途中での」
「説教?」
ウカノは倒れている宇迦之御魂の前へと立った。
「起きんか馬鹿娘、寝たふりしとるのは気づいとるぞ?おんしの腹心が儂に叩き潰されるのを見てもまだ奮い立てんか?」
ウカノはその小さな足から考えられない威力の踏みつけを床に叩きつける。蜘蛛の巣状に床が陥没した。
「ちょちょちょっまってお母さん死んじゃう死んじゃうからぁッ!」
神とは思えぬほどの狼狽の仕方だった。そしてウカノをお母さんだと言っている。その事実に二度驚く。
「主結界があるのに気づかなかったとは言いわけが立つわけなかろう、巫女は我々の家族も同然それを見て見ぬふりをして連れ去られるとは言語道断じゃぞ!?」
「ぴぃ!」
宇迦之御魂が鳴いた。
「安易にこの地位に我が娘を付けたのが間違いだったか」
「待って待ってよ母さん」
「何じゃ言いわけか?」
「結界内への侵入が容易でないことは母さんも知ってるでしょ!」
「そうじゃな、だが主は儂の侵入にも気づけんかったぞ?」
「うぐっ」
「でもあの時は気づけたの!いきなり結界の内側に現れたの!」
「…ふむ」
「調べてみる価値はあるかもしれないな」
「うむ、ハルカその石を見せよ」
「これか?」
「何これ?」
「神紋が入っておるな、稲荷の神紋じゃな歪じゃな」
「封印球発動!」
無数の手が現れる。
「なっ!」
その言葉を発したのは巫女の長の樟だった。
「樟なんで!」
「ふん…本物の宇迦之御魂を捕まえるチャンスを待っていたここに居るのは雑魚だったからね」
梓の巫女服が闇に染まっていく。
「樟…そんな」
信じていたのだろう宇迦之御魂の目から大粒の涙が零れ落ちる。ハルカは刀を抜き放つが無数の手は刃さえ弾き飛ばした。
ウカノが無数の手に包み込まれる。
「お母さまっ!」
ウカノの体が完全に黒い球体に飲まれてしまった。
「あんたにはまだ借りを返せてないだから死ぬなっ!」
「死んで無いわよ、これは封印球貴方たちの大事な人はこれから私達の主の道具になるのですから!」
「まったくやれやれじゃのぉ、この程度で儂を捕まえた気になるとは…」
球体にひびが入った。
「ウソッ主神級でも捕まえられるって聞いていたのに!」
ウカノは手を払うだけでそれを粉々に打ち砕いた。
「主に理解できる力ではない羽虫が」
「くっ神紋の封印球が効かない!」
「天罰じゃ」
ウカノが手を振り下ろすと空から何かが樟に突き刺さった。
「ぐぅぅ…これは!」
樟の体がみるみる小さくなっていく。そして狐耳が生えた。
「天罰紋じゃ、主は稲荷神の眷属として我らの命令を拒むことが出来なくなった。」
「…」
「これは心その者を作り替えるお主という存在は消え去る」
「!?」
「お母さま…」
「分かっておる、こやつは連れて行く」
「出来るならひどいことはしないであげて…」
「相も変わらず優しいのぉ、それが主の良いところじゃがな」
裏切った樟を相も変わらず気遣う娘を見てウカノは少しうれしそうに笑う。
ウカノは樟の腹に一撃を加えると持ち上げた。
「じゃあのバカ娘」
「お母さん…」
「じゃあ俺も行きます」
「ちょっと待ってくれ、これを」
宇迦之御魂が出したのは三十センチほどの剣装飾具合から儀礼剣だろうと思った。
「それは我らとの友好の証、いつでも参るが良い」
「じゃ俺たちの事もいつでも呼んでくれていい、ウカノの娘だし力になる」
ハルカはその場を後にした。
「我も強くならんと行けぬな…」
宇迦之御魂はそう決心した。
「やれやれ、化け物とは聞いていたけど想像以上なんだけど!」
「あれを捕えるのは無理ね、力を削ぐ方向で行きましょうか」
「削ぐと言ってもこの地域での活動は我らでは無理だ、結界が強すぎる」
「別の方法を考えるので…あなた方は他の大陸へ散ってください」
「じゃここは頼むぜハーミット」
評価を出来たらお願いします。自分のモチベーションの為に…!よろしくお願いします!