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狩人の流儀

 「いらっしゃい」

 酒場に一人の青年が入ってきた。女主人は氷の入った水を出す。

「んぐんぐんぐっ」

「お兄さんどっから来たんだ?」

「アイス村」

「聞いたこともないわね」

「別の大陸だから知らなくても無理はない」

「別の大陸からってそりゃ長旅だったわね」

「狩り人ギルドはこの場所であっているか?」

「ああ、ここで合ってるよお兄さん狩り人だったの?」

「これしか生きる方法が無かった」

 狩り人は世界各地に生息している魔物や大型の生物を狩る職業。

「そうかいそうかい、狩り人には身分証明は無意味だからねじゃあ何を狩るんだ?」

「ポルン討伐で」

「はいポルンね」

 女主人は依頼書を取り出し青年はそれにサインした。

「そう言えば自己紹介がまだだったわね、私はここのマスターレヴィア君は?」

「俺はハルカ…」

 ハルカは外装を取り払う。手の甲に鮮やかな緑色の紋章が輝いていた。

「竜紋か綺麗なもんだ」

 レヴィアはそう言うと朗らかに笑った。その様子にハルカは面食らった様子だった。

「言ったでしょ?ここでは身分は無意味だってここは聖者から極悪人まで広く受け入れるが元の地位何て無意味なの、貴方がここで何を行うかそれを見ているからね」

「そうか…」

 ハルカは気が抜けた様に笑うと酒場を後にした。

「竜紋…それでどのくらい貴方が傷ついてきたかは知らないけれど、ここに居る間はここのみんながあなたの仲間よ」

 ハルカの去った酒場でレヴィアはそういった。


ハルカの受けた依頼ポルン討伐はクエストの中でも初級クエストと呼ばれるクエスト群に属する。初心者クエストの一個上のランクのクエストである。ハルカは新しい街や土地に行くと必ず弱めの種類のモンスターと対峙する、理由は土地土地で強さの次元が違うからである。昔失敗して重傷を負ったハルカの処世術である。

ロードランナーと呼ばれる亜竜に跨って目的地に向かった。そして目的地に着くとリュックから簡易テントを取り出し設営、そして忌避の薪と呼ばれるモンスター達の嫌いな薪に火を着ける。これで魔物達はこの周辺には寄ってこない。ロードランナーの世話を終わらせるとハルカは初心者用防具を身に着け、支給の短剣を持ち出発した。

天空は青空が広がり眼下には山から流れてくる川とそれに沿うように様々な植物や動物たちが見て取れた。

「雰囲気のいい場所だ」

 ポルンとは雑魚モンスターポルのリーダー格である。ポルは体が粘液のモンスターで中央にある核を壊すと死ぬ。ポルンは同じ風体ではあるが表面が硬い上に核までの粘液にも弾性があり刃が通りにくい。倒せたら初心者卒業と言われるモンスターである。

ハルカは開けた場所ではなく木が鬱蒼と茂っている場所へ向かう。地面が湿り気を帯び少しべたつく。

ポル達の食性は草食で生い茂った草や果実などを食べる。それによる農業被害が出ているらしい。ポル達だけならば農家の人たちでも相手に出来るのだろうがポルンが一緒となると話は変わってくる。下手に手を出すとポルンが司令官となりポル達を指揮して反撃を行うのだ。施設などを破壊されたら溜まったものではないと依頼が狩り人ギルドへ入る。依頼内容はポル達の討伐と倒した残骸の回収、コアはいりませんというものだった。ポルの残骸は良質な菌と豊富な養分を含んでいるそれ故肥料でもするのだろう。

「見つけた」

 場所が開けた川の水が流れ込み池を作っていた。そこに十数匹のポルと一際大きいポルンが居た。ハルカは短刀を構えた。

ポルン達も此方に向けて威嚇をする。

「行くぞ」

 ハルカは走り出した。ポル達は隊列を組んで前円方向から一斉に攻撃を繰り出してきた。だがこれは目くらましである。ポル達に直接攻撃する力はない。ポルンが硬い膜での体当たりをしてくる時間稼ぎでしかない。

「はっ!」

 ハルカは当たりを付け一か所に突きを放った。硬い感触と強い弾性が返ってくる。

「!」

 それを突き破りポルンの体に裂傷を負わせた。

「!!」

 ポルンは逃げ出した。

 ハルカは逃げるポルンを追撃を加えるためにポル達を薙ぎ払い追った。

「ふっ!」

 先ほど作った裂傷を狙いを定め強力な突きを放った。硬い膜を切り裂きゼリー状の溶液の奥の核を砕いた。それだけで周りのポル達は統率を失い逃げ出した。

「ふー」

 生きるための糧を得るために他を殺す。彼らが死んだことを無為にしない為にハルカは一片すらも無駄にしない。

ハルカは支給用の短刀で急速に萎み始めた外膜から粘液を取り出し支給された樽に入れる。流れ出した水分はここの植物たちの栄養分になる。

 破損したポルとポルンのコアをポーチに入れるとハルカはテント設営地に行きロードランナーに跨ると村へ帰還した。

「お帰り納品は済んだ?」

「ああ帰りに農場によって渡してきた、これが証明書」

「うん確かに報酬の二万エンだ」

「ありがとうございますこれでやっと飯にありつける」

「何一文無しだったの?」

「ああ、結構量の多い定食とかあります?」

「それなら良いのがある、おーい子ブタちゃん!」

「だれが豚だこらぁっ!!」

 酒場の奥の厨房から豚耳を生やしたコック姿の少女が出てきた。

「オーク種か初めて見た」

「お?兄ちゃん新入りかい?あたいはオークの料理人パレってんだよろしくな!」

「俺はハルカ旨い料理を頼むよ」

「おう任された!」

 途端にいい匂いが酒場に充満しだした。村人や狩り人たちの注文が殺到し始めてウェイトレスがてんてこ舞いの様だ。

「腹の虫が…」

 ハルカの腹が頻繁にうなりをあげていた。

「はははっ楽しみにしていていい、あの子の料理は天下一品だからね」

 レヴィアは満面の笑みでそういった。

 しばらくするとパレが金属製のプレートに様々な料理の乗った物を持ってきた。

「ほいお待ちどう様」

「すげぇっ!」

 厚切りの霜降りのステーキに何かの鳥の巨大な骨付きのから揚げキャベツの千切り、スープそしてパン。

「料理の説明もしたいが腹減ってるやつを待たせるのも酷だな食っていいぞ」

「ああっ頂きます!」

 ハルカはかなりの勢いでがっついた。霜降りのステーキは歯切れがよく齧り付いたナイフが要らないくらいの柔らかさと染み出した油が口の中いっぱいに広がるがくどさはなく体に浸透していった。

無我夢中で食べ進めいつの間にか目の前の料理は無くなっていた。

「あっはっは!良い喰いっぷりだハルカ」

「途中から何を食ってんのか分からなくなるくらい旨かった…ありがとうパレ姉さん」

 ハルカは手を合わせて頭を下げた。

「いいってことよ、まお代は負けねえがな」

「一万五千エンね」

「その価値はあるなありがとう」

 ハルカは一万五千エン払った。

「躊躇もせずに払うとは…」

「何か変か?」

「今までの奴らならそんなに高いなら食べなかったとか言ってたんだが」

「まぁ最初の報酬の四分の三が吹っ飛ぶ値段だからね」

「…」

「まぁ冗談って事さ、今のは新しい狩り人のお祝い料理ってところさお代は私持ち」

 レヴィアは大きな胸を叩く。

「…本当か?」

「これは疑われてるな」

「純真な子を騙して本当に申し訳ないと思ってます」

「ではレヴィアさんにも感謝します」

「良いのよ」

「で本当の値段は?」

「五千エンほどの料理だよ、価格が抑えられてる理由は自分の農場で育てている鳥と牛だからだ」

「また食べよう…!」

「他にもいろいろあるから頼んでみてくれ」

「もちろん」

「それじゃハルカ君の家を用意したおーいしもぶくれ!」

「だぁれがしもぶれじゃああっ!」

 ちょんまげ頭にしもぶくれの男がテーブル席から声をあげる。

「ハルカ君を家まで案内してあげて」

「えーまじっすか、今麻雀の途中なんすけどー」

「行け」

「はい」

 最初の威勢はどこへやらしもぶくれ先輩は案内してくれるようだ。

「しもぶくれ」

「だれがしもぶくれじゃあああああ!」

「俺はハルカ」

「ぐっ俺はB級ハンター桃太郎だ!」

「桃さんって呼ぶ」

「おちょくってくるかとおもったら案外真面なのか…」

「この村って規模の割に狩り人多いのは何故だ?」

「そりゃそうだ、ここは伝説の狩り人レヴィア姉さんが作った村だから慕って狩り人が集まってくるんだよ」

「でも依頼は少ないんじゃないんですか?」

「そうさな大きな街と比べると依頼は少なくなってるがこの辺りは地脈が太いから優れたモンスターが生まれやすいんだ良い素材が取れるんだそれを求めて狩り人が集まってきてる」

「桃さん」

「なんだ?」

「意外と詳しいのな」

「馬鹿にしてたのか」

「ははは!」

「否定しろ!」

 桃太郎の突っ込みを華麗にスルーするハルカそんなやり取りを続けていると一つの一軒家に案内された。

「狩り人の共同で使うための住宅だが住民は誰もいないだからお前の家だ好きにするがいいぞ」

「へぇ」

「金が溜まったら土地を買い家を建てるのもありだろう、土地は無駄にあるから安いぞ」

「それもいいですね」

 桃さんが帰るとハルカは家の中に入った。広い殺風景な玄関がありその先の扉を開けると広いリビングと談話室は一つになったような空間が広がった。狩り人達が談笑や食事をする空間なのだろう。階段があり一階に三部屋二階に三部屋あるようだ。取りあえず一階の一部屋の扉を開いて荷物を置いた。

「取りあえず掃除かな」

 ハルカは掃除用具を買いに商店へと向かった。村の商店というより都の商店の様な立派な出で立ちの店に入る。

「いらっしゃいませ」

 上品な艶のある女性の声が耳を打つ。

「こんにちわ、掃除用品とかありますか?」

 店の奥に向かうと柔和な笑みを浮かべた油断できそうにない美人のグラマーな女性が立っていた。

「ええありますよ、少々お待ちくださいな」

 店内の商品から道具を見繕ってくれた。

「此方でよろしいでしょうか?」

「俺が欲しい物は入ってるので大丈夫です」

「ではお会計二千五百エンです」

「じゃあこれ」

 ハルカはお金を支払った。

「丁度いただきましたありがとうございます」

 女性は丁寧に頭を下げる。

「いえいえ」

「初めてのお客様ですね?」

「ああ、ハルカだ」

「お客様に先に名乗っていただくとは恐縮でございます、私グリード商店のオーナーマリアと申します」

「御入用の際はどうぞグリード商店へ、どのようなものが欲しいかなどの要望も受け付けております」

 ハルカはグリード商店を後にすると大掃除を始めた。初日は自分の部屋とキッチンリビング玄関でいいかと思い全力で掃除を敢行した。終わったころには夜でくたくたになりベッドに倒れ込む。

この大陸の名前はアマテラスという。人が知りえている大陸の数は四つ。その先の世界は前人未到の地行った者はいるが帰って来た者はいない、そう言われている。ハルカが何故残り三つの大陸からこのアマテラスを選んだかというと単純な話ここが一番人が流入していないからだ。つまり竜紋の噂を恐れたのである。そんな噂を知っているか知らないかは分からないが狩り人の長レヴィアや先輩の桃さんなどは受け入れてくれた。狩り人は外での評価などは気にしない、純粋に狩り人としての評価で人を判断する。

新天地に来て二週間ほどの時が過ぎた頃酒場へやってくるとレヴィアさんが近づいてきた。

「ハルカ君、装備は整えてる?」

「防具は整えてる、武器はこの短刀だ」

「それ支給品の短刀じゃんハルカ君はマゾなの?」

「マゾじゃない!」

「ポルンのコアで作れるポル武器くらいは作っといてもいいわよ、ここから先は短刀じゃ危ないモンスターいっぱいだから」

 レヴィアさんに駄目だしをくらい仕方なく鍛冶屋へやってきた。

「うへへ、お姉ちゃん良い体じゃのぉ…♪」

「いやぁっやめてぇ!」

 狩人らしき女性に小さいがでっぷりとしたお爺さんがセクハラをしていた。

「あ」

「ぐへえっ!」

 爺さんの体が吹っ飛び対面にあった馬小屋のわらの山に突っ込んだ。無意識に体が動いてしまった。

「た、助けてくれてありがとう…」

「俺がムカついただけだ気にするな」

 ハルカは俵山に歩いていった。

「爺さん生きてるか?」

「ふぅ死ぬかと思ったわい」

 爺さんは普通に起き上がった。

「全く近頃の女子の体はたゆんたゆんでたまらんのぉ」

「これが日常なのか…!」

「かっかっか!これが若さの秘訣よ!」

 爺は今日一番の笑顔を見せた。

「カリン嬢ちゃん、防具一式一週間後納品じゃ金額は堪能させてもらったから半額で良いぞ!」

「…うぅ」

「泣いてんじゃん!」

「おごぉ!」

 ハルカは爺さんの頭を叩いた。

「で?儂に何か用か若いの」

「ここが鍛冶屋で合ってるよな?」

「男の対応はあっちじゃ」

 爺さんの指さす先には銀髪碧眼に狐耳の巫女服を着たロリ美少女だった。ハルカはそちらに歩いて行く。

「ほほぅこれはまた良い男が来たのぉ♪」

 ロリ狐はそういうとなめずりした。

「俺はハルカ、レヴィアさんに武器を作って貰え言われた」

「儂はウカノのじゃ、うむうむ作ってやるからこっちにこい」

 ウカノはそう言うとハルカを裏に連れて行った。

「ほほぅ良いの良いのぉ!」

「こら変なとこ触んな!」

「クンカクンカ」

「鼻息荒いぞ!」

「良いでは無いか良いではないか!」

 三十分ほど経ちハルカは疲れた様子で出てきた。

「…精神的に疲れた…」

「うむ、お主の事はよぉーく知れた、まぁ予防接種と思って諦めるのじゃ♪」

 つやつやとした様子でウカノは槌を取った。

「一時間ほどで出来る、どっかその辺で時間潰してくるのじゃ!」

 ハルカは工房から押し出された。

「注文まだしてないんだが」

 いつの間にか素材袋が取られていた。

「素材で分かったのか?」

「鍛冶屋は体の構造からその者の戦い方が分かるのじゃよ」

 セクハラ爺が椅子に座ってアイスを食べていた。

「そして奴はレヴィアの装備を作った伝説級の職人、儂らの憧れじゃ彼女の技術を学ぶために他の大陸から渡ってきた者も少なくない」

「つまりエロ爺のその特技はウカノから習ったのか?」

「まぁそうじゃな」

「エロ爺は否定しないんだね」

「まぁそうじゃな」

「エロスこそが技術を発展させるとウカノから聞いて以来妄想をたぎらせる毎日よほっほっほ!」

「ははは、嫌がることはやめろよ」

「うむその線引きが難しいのじゃがな捕まったことも両の手じゃ足りんほどだ」

 そんなことを笑いながら話す爺さんは少しかっこよかった気がした…しかしああはなりたくないなとも思った。

そして再びウカノの工房を訪ねるとウカノは店の前で日向ぼっこをしていた。

「ぁー暖かいのじゃー」

「ウカノ終わった?」

「んーお主か…ほれこれじゃ」

 青みを帯びた刀を渡された。

「凄い少しひんやりしてる」

「それはコアの特性じゃ鉄とコアを混ぜ合わせると柔軟性がある特殊な水属性を持った鉄が出来上がるのじゃ…それを特殊な技巧で作ったのがその刀じゃ」

「ありがとうウカノ」

「よいよい、お代は十万エンじゃ」

「これとこれ買い取ってもらえるか?」

 ハルカが出したのは昔使っていた太刀と防具一式だった。

「やはりの型が刀の方に寄っていたからそう思っておった、何故これを売ろうと思った?」

「俺の過去を忘れない為に持ってたんだけど、ここでは昔は関係ないって言われたからさ、ここからまた始める為に売るんだ」

「ふむ、ならば儂が預かろう十万エンの片にな」

「じゃあ頼む」

 ハルカは頭を下げた。

「この質にこの防具…」

 ハルカが渡したのは悪魔の様な防具だった。彼の幼い頃の異名、竜紋の悪魔を形にしたような防具それと同時に表面上には表れていないが封印が施されている形跡があった。

ウカノはそれ以上調べるのを辞めた。

「汝が欲することを成せ、それが汝の道とならん」

 ハルカはかつて聖人と呼ばれたある人に言われた言葉を思い出した。

「俺は俺の道を見つけます師匠」

 そう言うとハルカは依頼を受ける為にに酒場に向かった。

「いらっしゃい、仕事を探しに来たの?」

「何かある?」

「討伐系?納品系?」

「何でもいい」

「んじゃこれなんてどう?バトラの群討伐」

「バトラって猛獣系の?」

「ええここから東に十キロほどの地点にジャングルが広がってるんだけど今年異様に繁殖してしまったらしくてエサが足りなくて村降りてきてるみたいなの」

「分かりました受けます」

「ちょっと待て」

 声がかかったピンとした犬耳を生やしている痩身の男が立っていた。

「それ俺も行かせろ」

「ポチ君貴方桃くんのパーティでしょ良いの?」

「あいつならあそこで麻雀やってる」

「桃さん…」

 ハルカは憐憫を込めた目で桃を見た。

「じゃあいいでしょう」

「よろしくな俺はポチ、見ての通り犬族武器は爪だ」

「よろしく俺はハルカですポチさん」

 そして今回は馬車を用意してもらった。討伐系の他に納品系のクエストをいくつか受けた。そうでないと村への輸送費だけで結構痛手だったからだ。

「今回お二人のお手伝いをさせていただくパルメです」 

 メイド服を着た美少女がついてきた。パルメというらしい。ギルドに所属する使用人らしい。らしいというのは向こうの大陸ではこんなシステム無かったからである。

「私は納品物の確認などの依頼の達成状況の確認を取り、クエストに必要な支給品の運搬など狩り人ギルドの見届け人と思ってもらってよいです」

「今回より正式な狩り人のメンバーとなったハルカ様お付きの使用人となります以降はハルカ様に仕えるのでよろしくお願いします」

「そうだったのかよろしくパルメ」

「大仕事の場合はパーティの使用人も手伝いにやってくる場合があるぞ」

「へぇそうなんですか」

「はいございますよ、それとレヴィア様から伝言です東の村には強い戦士が住んでいるから最低一人は雇ってこいとのことです」

「戦士?」

「桃太郎でいうと俺達みたいな立場の奴らさ、東の村で育ったものは勇敢な奴らが多くて大人になると良く狩り人ギルドに来て狩り人になるんだ」

「へぇ」

「俺達もまだ若い頃に桃太郎に頼まれてきびだんご一つで仲間になってしまったんだ」

「そこはかとなく後悔してる?」

「初めて黍団子を食った時の衝撃は忘れられないがついていった先の狩り人ギルドの酒場で食べた料理の旨さはもんどりうったよ、何で俺黍団子で引き受けたんだろうとな」

「はははっ!」

「まぁ狩り人になる選択肢をくれたのも桃太郎だから感謝してるさ」

 そう言ってポチさんは笑った。

 半日ほどかけて東の村に着いた、近くにジャングルがあると言う事もあって甘い果実の匂いが鼻腔を擽る。

「とりあえず依頼は明日だ、宿を取っておくからお前も後で来いよ」

 ポチはそういうと手を振って去って行った。

「ではハルカ様依頼人の下へまいりましょう」

「ああ」

 東の村の村長の家へと向かった。

「ようこそいらっしゃいました、東の村エタン村の村長ヒルクと申します」

 黒髪の妙齢の美人が頭を下げた。

「俺は狩り人ギルドから依頼を受けて来たハルカこっちは」

「パルメです」

「はいよろしくお願いしますね」

 ヒルクはにこにこと品のいい笑顔を浮かべていた。

「それで依頼ですが」

「はい、それがバトラが夜皆が寝静まった頃に家畜小屋を襲い家畜を喰らって去っていくんです、昼間には絶対近づいてきませんこの村の戦士たちにはかなわないことを知っているのでしかし夜はバトラたちの方が夜目が効くので容易に家畜を喰らって行ってしまうのです」

「村の戦士の数は少ないのか?」

「殆どの子達は狩り人ギルドや兵士になる為に大きな街などに奉公に行っているので、村の守りが疎かになるんです」

「なるほど依頼は分かった」

「バトラの巣は調べたところこの四か所」

「依頼達成の確認の為に私の娘リラを同行につけます」

 バトラの装備で実を固めた黒髪褐色の美少女が現れた。

「私はリラ、エタン村の戦士見習いだ」

「俺は」

「いい、どうせすぐ忘れる」

 リラはハルカの言葉を遮った。

「そうか、じゃ明日迎えに来る」

「ふん」

 ハルカ達は村長の家から出た。

「どうなされるおつもりですか?」

「多分本当に数が多くなっている、人的被害が出る前に狩る、ちょっと準備があるからパルメは先に宿に向かっててくれ」

「はい、畏まりました」

 パルメが去ったのを見送ったあとハルカは頬を叩いた。

そして次の日の朝、三人は村長の家の前に立っていた。

「来たか行くぞ」

「おう」

「気づかれたな」

 ポチがそう言うとあちらこちらから低い喉の鳴る音が聞こえる。

「構えろ」

 ハルカは刀を構える、リラも槍を抜いた。

 二十体ほどの成体のバトラが一斉に駆けてきた。

「ふんっ!」

 三百キロほどある巨体がポチの拳を受けて砲弾のように吹っ飛ぶ。

「凄いな…」

 ハルカはバトラをポルの刀で確実に仕留めながらリラの方を見た。拙くはあるが確実に攻撃を決め一体ずつ仕留めていた。

 ハルカが刀を振るうたびバトラたちは息の根が止まって行く。

 リラが穴だと分かったのだろうバトラの群の一部がリラを強襲する。

「逃げろっ!」

 ハルカとポチがその間に無理やり入り込み攻撃を抑えた。がそのお陰で陣形は崩れバトラたちは一斉に攻勢にでた。

「くっ!」

「六花閃っ!」

 ハルカの刀が走り六つの閃きがバトラたちを貫く。

「やるじゃねぇか!化勁炎弾」

 ポチの拳が燃え残ったバトラたちを一掃していった。

「何で逃げなかった?」

 ハルカは真剣な顔をしてリラに問う。

「私が下がれば陣形が乱れる」

「良いんだよ陣形が乱れるくらい、それをフォローしてこその仲間だろ?」

「…私は」

「死んだら終わりだ、死ぬくらいなら逃げろ生きてりゃ何とかなる」

 ハルカはリラの頭を強引に撫でると立ち上がった。

「さてあと三つ片付けようか!」

「…」

 ほとんどのバトラを仕留めた。

「終わったぞ」

「…ああ」

 そういうとハルカはキャンプによって村に戻った。

「クエスト完了だ、詳しくはリラに聞くと良い」

「母様数体のバトラは逃げたがほとんどのバトラは打ち取った」

「バトラの肉は悪くなりやすいから村の商店に売った、素材は俺達が持って帰る」

「分かりましたでは報酬を」

「では私が」

 パメラが報酬を受け取る。

「戦士を一人貸して欲しい」

「なるほど、では優秀な者を」

「母様、私が行きたい」

「…貴方は何を言っているか分かっているの?」

「うん…こいつについていけば私は今以上に強くなれる気がする」

「…意志は固いのですね?」

「うん母様に何を言われたって変わらないよ」

「そうですか…ならば行きなさい、娘を頼みます」

 ヒルクは自分の意志より娘の意思を尊重してハルカに頭を下げた。強い人だと思った。

「そっかじゃあよろしくなリラ、俺はハルカだ」

「私はリラ、戦士になりたいよろしくお願いします!」

 リラは深く頭を下げた。最初は疑っていたハルカに謝罪の念もあったのだろう。

「ハルカ様、出発いたしますか?」

「ああ」

ハルカ達はガルディモア村へと戻ってきた。村に戻ると早速酒場にやってきた。

「お帰り~」

 レヴィアの声が迎えてくれた。

「ただいま戻りました」

「ここがエタン村以外の村か」

「お、何か新しいのがいるね」

 レヴィアはリアの前に躍り出た。

「こんにちはお嬢ちゃん私は狩り人ギルドの長だ」

「お前が狩り人の長か…私はリアだ!」

「おーおー元気がいいねぇ!こっちおいで美味しい物食べさせてあげる」

「そうかよろしく頼むぞ」

 長と聞いてなお偉そうな口調で話すリラにパメラはハラハラしていた。ハルカはそんなリアを見ても何も感じていないようで席に座り料理を注文していた。

「パメラお前も来いよ打ち上げしよう打ち上げ」

「なんだなんだ楽しそうだな」

「おパレの姉御おはようございます」

「景気良さそうだな?」

「今クエストから戻ったばっかり何で打ち上げしようかと」

「いいんじゃねぇの、うちへ金ばらまいてかえっていきやがれ」

「そうだ姉御にお土産」

 ハルカが出したのは何かの燻製だった。

「これは何だベーコンか?」

「はい、バトラの燻製です」

「ふぅんちょっと待ってな」

 パレは厨房に入って行った。

「な?言っただろ?」

 ポチがどや顔をしていた。エタン村でポチから教わったことが功を奏した。食材を提供することでパレの新作料理が食べられると聞いたハルカはバトラを燻製にしてもらって持って帰ってきたのだ。

「ほいお待ち」

 パレが持ってきたのはサンドイッチだった。

「どうでした姉御」

「ジャングルだからしょうがないのかもしれないがベーコンの塩味が薄い多分塩をケチったな、がまぁ最低限の塩で旨みは分かりやすいだからバトラのベーコンに塩をかけて焼いて新鮮なレタスと共に挟んだ好みでレモンソースを掛けろ」

 パレは料理の説明が終わるとじっとこちらの反応を見るように凝視した。

「んじゃいただきます」

 ハルカはまずは何もつけずに齧り付いた。ベーコンの旨みが塩と香草のお陰でより引き立ちレタスがくどすぎない様にしていた。

「かなり旨いです、クエスト行く時とかの弁当とかにしてくれると嬉しいですね」

「ふむなるほど」

 次にハルカはサンドイッチにレモンソースを掛けた。

「女子受けが良さそうな味に変わります、けど俺は何もつけない方が好きですね」

「良い意見だハルカ、流石に馬鹿どもとは違う」

「馬鹿って誰の事だ?」

「お前だわんころ、試食に旨いしか言わないお前はダメだ」

「ぐはっ」

「ポチさんの言ってることも正しいよ、ここの料理全部旨いから」

「ははは、中々関心なガキだ、よしデザートもやろう」

 パレは厨房からゼリーを持ってきた。

「新作ジュレだ」

「頂きます…凄い果物感ですねはっきりと果物を感じれる」

「実はな、ウチの農園でポル達を品種改良してたんだが、林檎を主に食べさせていたポルが死んでコアから木が生えてきた」

「ポルって死んだら木になるんですか?」

「いいや、ボルは死ねば大地に帰りまた大地から生まれてくる今回が特例だな」

「木はすくすくと育ち一か月ほどで育ち切った、それから季節が過ぎ秋になると林檎のように実を着け始めただがその実が全部ポルだった」

「ポルって木から生まれるんでしたっけ?」

「さっきいったろーが大地から生まれるんだよ」

「そんでそのポルは普通のポルのサイズではなくポルン大までデカくなった」

「全てですか?」

「ああ、だが柔らかさはポルだったそしてポルと違うのは大きさそしてあたいらたちへの対応だった」

「懐いたとかですか?」

「ああ、種名リンゴポルと名付けたが異様に懐くそれでそいつらが毎日卵のように硬い膜に覆われた物を産むんだが」

「う○こ」

「黙れわんころ、それをどうにかできないかと湯銭したところ溶けた香りはリンゴで甘みはリンゴの甘味を凝縮したような味だった」

「う○こたべ…」

 ガスという音ともにポチの体は吹っ飛んで行き、桃太郎にクリーンヒットし雀卓がごちゃごちゃになった。

「きゅぅ」

「…勝ってたのに…」

 桃さんは涙を流していた。

「それに水を入れ冷やし固めたのがそれだ」

「へぇ…凄いですね」

「欠点として奴らが生きれるのはリンゴがある時期だけって言うのがな」

「じゃあもう居ないんですか?」

「殆どが木になった来年また生まれるだろ、だが一匹だけ変なのが居た」

「よぉ俺様だ」

 大きな厳つい顔のポルが鎧と剣を身に着けている。

「………はっ一瞬気が遠くなりました」

「うんそうなるわな、けどこいつ強いんだよ」

「ふはははは全て俺に任せるがよい!」

「マジですか…何て面白人材」

「俺は全てのポルを孕ませることが出来るのだ!凄いだろ凄いだろ!」

「こいつ昼間っから何言ってるんだ、パレさんそいつやっぱ魔物だよ殺そう」

「ふははは!」

「こいつの言ってることも本当なんだだけどせめて繁殖って言い直させてくれ…もうこいつの一族の村が北の果物の森にある」

「どうだ凄いだろ?」

「繁殖スピードヤバいでしょ取りあえず殺っときましょう」

「繁殖スピードは速いけど死ぬスピードも速いんだ」

「ぐはっ!」

 厳つい顔のポルが死んだ。

「持って二日」

「………なんかセミより悲しいのが出てきた」

「けど増えるスピードも速いからなんというか…」

「「ふははははは!」」

 大量の厳つい顔のポルが笑いながら出てきた。

「うっせぇ!!」

「うん、何かリンゴポルの特性を受け継いでるのか懐いてくるんだ…」

「んでさこいつらは繁殖させなければ死滅するから良いとして、初めてこいつの系譜の女の子が生まれたんだ」

「女の子?」

 ハルカはこのポルみたいな顔の女の子を想像した。口に含んだ水が口の端からマーライオンのようにこぼれだした。

「その表情で何を想像したかは分かるけど見せた方が早いか…おいでアクア」

「はぃ…」

 出てきたのはおどおどしたか細い声の美少女かなり可愛い。

「どう思った?」

「「超かわいい~!」」

 野太い声と黄色い声が同時に酒場に響き渡った。その声でアクアと呼ばれた少女は身をすくませる。

「こらやめなお前ら!」

「ひぅ!」

 パレの怒声にも身をすくませる。

「ポルから人間が生まれたのか?」

「んーこの子は私が見つけた時からこの姿だったから分からないけど」

「俺達にもわからん、俺たちの十数世代前の話だからな」

 一か月ほど前と言う事かと心の中でハルカは思った。

「そう言われると壮大だな、でこのかわいい子最初から話せたのか?」

「それを言うなら生まれた瞬間から話しているこいつらは何ってなるけど」

 パレは厳ついポルを指さした。

「それ言われると困るな…」

「でアクアちゃんは一体何なのかって話だけど」

「まぁいわゆる水精霊ね」

 レヴィアが話に入ってきた向こうではリラがカウンターで突っ伏して寝ていた。アルコールでも飲んでしまったのだろう。

「ポルの繁殖で突然変異で依代が出来てしまったんでしょそれでたまたま近くに居たこの子が依代に入っちゃった」

「そんなことがあるんですか?」

「精霊たちにとって魅力的な依代ってのは見ただけで分かるらしいわ、どうアクアちゃん?」

「は、はぃ、ポルさんたちの巣に純度のとてつもなく高い水宝石というものがあってそこへ宿ったらこんなことになってます…すみません…」

「?」

 ポル達は首をかしげている。

「ま、パレはその血気盛んなポル達の相手で忙しいからアクアちゃんの世話はパメラ貴方に一任する」

「わ、わたしですか?」

「ハルカ君の家に住むんだから良いでしょハルカ君、パメラ、リラちゃん、そしてアクアで四部屋しか使わないんだから六部屋あったわよね?」

「ですね」

「じゃあ俺達」

「私達もハルカ君に家に!」

 阿呆なハンターたちが目の色を変えて引っ越してこようとしている。

「あれは社宅なの、引っ越すんなら持ち家じゃないと駄目よ」

「「えー」」

「何か文句でもある…?」

「「いいえマムっ!」」

 レヴィアの有無を言わせぬ口調にハンターたちはひれ伏した。

「さてじゃあ帰るか、ポチさん今回はありがとうございました」

 そう言うとハルカは今だに動かぬポチさんと項垂れる桃さんの前で手を合わせた。パレさんは怒らせないようにしようと誓った。






初投稿をアレンジした作品です。

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