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サキュバス×タンクの最強戦術  作者: たけちの
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#01 異世界サキュバス!

約3100文字(約6分)

 廃墟の一室。暗闇に囲まれた何もない小部屋の中心で、少年が座禅を組んでいる。


 彼は瞳を閉じて、精神を集中させていた。

 その時を逃さないために。


 いつそれが来るかは分からない。だが、また機会はあるはず。

 過去に何度か気配を感じたが、捉えるには至らなかった。


 もう逃さない。そう自分に言い聞かせ、少年はひたすらに待つ。




 突然、少年の目が開く。視線は遠くへ投げかけられ――



(これだ……!)彼は胸中で歓喜の声を上げる。


 彼方、空間の揺らぎ。ある一点から無数に伸びる白い糸。


 不確かな空間の中へと自分を重ね、自身の右手を、遥かへ伸ばす。


 手はどこまでも伸び、伸びるほど糸になる。


 遂に糸の一本に触れた手は、決して放すまいとしっかと握る。


 確かな捕捉から、掌握へ。


 自分自身も糸になり、流し込むイメージ。


 雨音のような耳鳴りが急速に強まり、視界も白く染められていく。


 眩しさに瞳を閉じたとき、少女の声が聞こえた。




 ――「来た……! これが、この人が……? って、ガリガリやないか!」


 少年はガリガリだった。

 痩せ細った体に、こけた頬。


 少年は呆けた表情で首を傾げているが、まるでぽっきりと先が折れた枝のように見える。


 それもそのはず、彼はこの時のために、食事や睡眠を最小限に抑える生活を、1か月以上も続けていたのだ。


 探索する時間を最大にする、ただそれだけのために。


 先ほどの声の主であろう少女が、続けてまくし立てた。


「どういうこと!? これじゃあタンク役なんて無理じゃない!」


 目の前に立っている彼女が、隣の人物に怒鳴っている。

 だが、少年にはその言葉が理解できない。聞いたことのない言語である。


 少年は首をかしげたまま状況を理解しようとする。


 ひんやりした空気と埃っぽい匂い。

 そこは、地中を掘って作られたような、窓も家具もない小さな部屋だった。


 その中央の床に、魔方陣と座禅した少年。

 そして彼の正面に、4人が立っている。


 左から3人は女性、一番右は男性。

 その向こうに木製のドアが一つ目に入るが、あれが鉄格子でも違和感はないだろう。


 左端には成年の女性が立っており、瞳は宝石のようなグリーンをしていた。

 腰近くまである髪は軽くうねっており、色はなんとピンク色だった。


 露出こそ少ないが、体のラインが出るワンピースを着ており、妖艶さが滲み出ている。

 彼女は顎に手を当て、思案顔で少年をただ眺めている。


 その隣、先ほど怒鳴っていた少女もグリーンの瞳を持っていた。

 ただし髪色は薄いピンク色で肩に届かない程。

 年齢は15から18歳あたりに見える。


 そして怒鳴られ、今も睨まれている者は、肩にかかるくらいのストレートの黒髪と、その細い肩から女性であると推測できるが、顔を仮面で隠しており表情は読み取れない。


 仮面は黒光りしており、表面になんの模様も凹凸も、穴の一つすら開いておらず、異様で不気味な印象だった。


 右の二人は共に黒一色のローブを纏っているが、男性の方は肩から先を出して腕組みしている。その両腕は筋肉質で、立ち姿からもよく鍛えているのがわかる。


 彼も同様の仮面を被っており、髪は黒の短髪でトゲトゲと逆立っている。


 左の二人が、まるでファンタジー世界の妖精が現実に飛び出してきたような容姿と衣服を身につけていることから、それぞれ別の陣営だと少年は判断した。


 そしてもし、あのピンク髪が染髪によるものでないとしたら、やはりここは別世界なのだろうか。


(自分はこれからどうなるんだ……)などと少年が案じたとき、


「もしかしてお前――」と、仮面の男が屈み、顔を覗き込みながら声をかけてきた。


 彼の言葉に少年は息を呑んだ。それは彼の母国語である日本語だった。


「――日本人か?」

「はい!」


 話が通じる安心感と嬉しさのあまり即答するが、同時に軟弱な体がぐらついた。


「おい!」男が素早い動きで少年を抱き留める。


 そして男は「大丈夫か?」と声を掛けながら、少年の左手になにかを握らせた。


 めまいから回復しつつ(なんだろう……?)と手触りを確かめていると、


「ど、どうしよう。大丈夫? 取り敢えず薬、持ってこようか!」と、先ほど怒っていた少女の狼狽えた声が耳に入ってきた。


「いえ……! 結構です。ただのめまいですので」


 少年は咄嗟に返答するが、異変に気づく。


「言葉が……?」

「そう――」男は少年を座り直させ、「それを身につけていると異国の言葉が理解できるようになって、話すこともできる」と続けた。


 手を開くと、それは銀のリングに小さな赤い宝石が一つ埋め込まれた指輪だった。


「できるだけ会話するように心がければ、3日から1週間くらいでこっちの言語を修得できる。俺はもう必要ないから、お前にやるよ」

「……ありがとうございます」


 わからないことだらけだが、とにかくありがたい。少年は素直に受け取ることにした。



 不意に、ふわりと甘い香りがした。指輪を持った手に、なにかやわらかいものが触れる。


「とにかく今日は、食事と睡眠にいたしましょう」


 左端に立っていた色っぽい女性が少年のそばに膝を付き、両手で彼の左手を包んでいる。


「これからのことはあなたの体調を整えてから、にしましょうね」と、優しい口調で語りかける。


 彼女は指輪を手に取ると、その白く細い指で、少年の手に指輪を嵌める。

 まずは小指、次に薬指、といった具合にサイズを確かめながら。


 あたたかい手と、ゆっくりとした動きに背中がぞわぞわし、少年の動機が早まる。

 人差し指、中指まで試したところ、中指が適当だと判断したようで、彼女は顔を上げてにっこりと微笑む。


「きつくないですか?」

「……は、はい」


 頭がぼーっとする。まだ自分の手を握っている女性から、少年は目を離せない。


「そういうのやめてよ」


 きっぱりとした声で、薄桃色をした髪の少女が嫌悪感を示す。


 女性は名残惜しそうに少年の手を離して立ち上がると、元の位置へと戻る。依然として表情は微笑のまま、少年を捉えて放さない。


「それで、あんたの名前は?」少女は腕を組み、横目で見下ろしながら少年に尋ねる。


「はい、リクオといいます」

「あら、とってもいいお名前ですね」


 左端の女性が胸の前で両手を合わせ、少女に同意を求めるような笑みを向ける。

 だが少女は、それを黙殺して話を進める。


「リクオね。私の名前はルヒメナ。こっちの頭ピンクはオリエ。この黒い二人は……、まあ知らなくていいか」

「はあ……」


 黒仮面たちの方をちらりと見るが、不服はなさそうだった。

 両陣営はあまり友好的な間柄ではないのかもしれない。


「それと、あんたたち」ルヒメナが怒声を発する。

「はい!」


 リクオの方にずっと顔を向けていた仮面の女性が、ビクリと肩を揺らす。


「リクオとの交渉は事前に決めたとおりこっちでするけど、それ以前にリクオが条件に満たない場合、報酬は払わないから」

「……はい」


 しょんぼりと、今度は肩を落とす。表情は見て取れないが、きっと素直な人なのだろう。

 感情まる出しの反応と声音から、ルヒメナや自分と同世代か、少し下くらいに思える。


(どうしよう……)


 少年は考えを巡らせる。

 恐らく黒仮面の少女が召喚主。その依頼人がルヒメナ。

 召喚主が責められているのは、自分が条件に合致していない可能性があるから。


 そしてその一因は、間違いなく自分にある……。


 上手く考えがまとまらない。栄養不足から来るものだろうか……。


 ころん、とリクオは、今度こそ倒れた。


「ちょっと! まさかオリエ、吸ったんじゃないでしょうね!?」

「あら、こんな子から吸うわけがないでしょう?」


 二人の声が、わんわんと頭に響く。言葉はぼやけて耳に入り、もうなにを言っているのかわからない。


(すった? いったいなにを……)


 リクオの意識は、そこで途切れた。





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