私のナイト君奮戦記
こんにちは きむんちです。前回、次話投稿は少し時間が掛かりそうと書いてしまいましたが、実はこの「小説を書こう」のシステムを良く理解しておらず、もっとお話を溜め込んでから(単行本1冊くらい?)でないと、投稿出来ないと思い込んでいたからなんです。力一杯初心者のお話にお付き合い頂けましたら幸いです。
普段はゆったりとした時間が流れ、あまり変化の無い日常で当たり前なのが「時の狭間の里」である。しかし、拓哉を里に連れてきた以降のこの数日間は、それまでとは違って色々な事が慌ただしく起こり、妙子を取り巻く環境はバタバタと大きく変貌を遂げた。ほとんどが「自分でまいた種」ではあるが、そんな事は棚の上に置き、少しほっこりとする時間が欲しくなった妙子は、珍しく自室の縁側でお茶を飲みつつ外を眺め、一人で思い出に浸っていた。
あれからいつの間にか12年も経ってしまっていたのね・・・
あまり高くない山々に囲まれた、さして大きくもない田舎の街並み。日差しが少し強くなってきたのも相まってか、山々の木々の緑もすっかりと深くなり、もうすぐ本格的な夏を迎えるのを、誰しもが実感する頃。妙子は珍しく人間の世界に来ていた。と、言うのも離れ離れになってしまった、仲間である白虎の真名をさがす為に、定期的に人間の世界に来ているのだが、すでに数百年以上も探し続けているのに、進展まるで無しが実情である。
でも、今回は少し事情が違う。妙子の張りめぐらせた妖力レーダーに、微かではあるがこの地域に反応があった気がした。と言うのも、すごく微弱で尚且つほんの一瞬の反応であったので、気の迷いかも・・・と思いながらも、念の為に来てみた、と言うのが正直なところであった。今にして思えば、ほぼドンピシャであったのだが・・・
人間の世界をうろうろするのに、座敷童の格好では目立つし、人間らしく歩いて行動すると活動範囲が狭い。なので人間界でこっそりと活動する時はいつも鳥の姿、それもスズメ程の小鳥サイズになって活動していた。この日もいつも通りの小鳥の姿で、この辺りであろうと思える家の屋根で羽を休めていた。
「あ~あ、やっぱり気の迷いだったかなぁ~。あのバカ娘いったい何処をほっつき歩いているのかしら・・・」と考えていたが、天候は素晴らしい快晴であり、気温も暖かく、吹く風も心地良い。
「まぁ、たまにはお散歩に出てきたと思えば、腹も立たないかもね」と納得し、屋根の上からのんびりと少し遠くを見ていると、いつの間にかウトウトと居眠りをしてしまった。
完全に油断していて、背後から忍び寄る黒い影に全く気付かなかった。
「ガツッ」と激しい衝撃と激痛が背中から羽の付け根にかけて走る。大きな黒いのら猫の攻撃であった。軽い小鳥の体は屋根の上から数メートル下の2階のベランダまで吹き飛んだ。最初の一撃で傷は肺から背骨に達しており、普通の小鳥なら即死は免れないが
「あいたぁ~!猫ちゃん何してくれるのよ。私は餌にはなれないのに、もう!」と、口には出せずに心の中でそう呟いた。いつもならほんの一瞬で傷を癒し、何事も無く飛び去るところではあるが、
「ガラガラガラ」と、ベランダの扉が開き、幼稚園の水色の制服を着た、4才程の男の子が自分の存在に気が付いた。胸のワッペンのような大きな名札にはひらがなで「たかむらたくや」と書かれている。そう、4才の拓哉であった。
「あっ、小鳥さん、大丈夫?」と言うや否や、こちらに駆け寄ってくる。
「あっちゃ~、これじゃあ傷を直せないわ」妙子は少し焦った。傷をちゃんと直そうとして、妖術や聖なる力を使うと、どうしても体が光ってしまう。場合によっては魔法陣が出現するかもしれない。いくら幼児と言えどそれは非常にまずい。咄嗟に光りださないよう最低限の妖術だけを使用し、痛み止めと止血、気付けだけを行い、傷を直すタイミングをはかる事にした。その時、屋根の上にいた大きな猫が、自分との間に拓哉を挟む位置に降りてきて
「シャァァァァァ」と拓哉に威嚇し始めた。獲物を取られまいと、猫も野生むき出しで必死である。
「こわい~、ねこちゃん、こわい~」本当は泣きながら家に入りお母さんを呼びたかった。でも、今家に入ると間違いなく小鳥は猫に食べられてしまう。
「そんなに頑張らなくて良いから、って言うか、はやく逃げて」と妙子は思った。そうすれば、さっさと傷を直して飛び去り、一件落着に出来るのに・・・でも、妙子の願いもむなしく拓哉は頑張ってしまう。近くにあった布団たたきを手に取ると、無我夢中で振り回しながら
「ねこちゃん!ダメ~、こっちにきたらことりさんしんじゃうのぉ~、え~ん」と、小鳥が可哀想と思う気持ちと威嚇してくる猫の恐怖がごちゃ混ぜになり、半泣きを通り越して、半狂乱とも言える状態になってしまった。泣きながら布団たたきをブンブン振り回したので、ベランダに置いてあった鉢植えに当たり、大きな音を立てながら割れてしまった。
「ガラガラガラ」「たくちゃ~ん、どうしたの~」と1メートルも離れていない、隣の家の窓が開き、ピンクの幼稚園の制服を着た女の子が現れた。胸のワッペンのような大きな名札にはひらがなで「ごとうかほ」と書かれている。そう、4才の夏穂であった。夏穂が現れたからなのか、鉢植えの割れる音に驚いたのかは判らないが、脱兎のごとく猫は逃げて行った。
「ヒック、ヒック」と興奮冷めやらん拓哉は、布団たたきを投げ捨てると、小鳥に駆け寄り、その小さな両手の平で小鳥をすくい上げ
「ことりさんがしんじゃう~、ことりさんがしんじゃう~」と、どうしたら良いのかわからずに、泣きながら途方にくれてしまう。
一方、妙子も傷を癒すタイミングを掴めずにいた。いっその事、今この場でスカッと傷を直して、2人の記憶をさっさと消し去り帰ろうか・・・・とも脳裏をよぎるが、小さくて非力なくせに、こんなにも自分の為に必死で守ろうとしてくれる拓哉の記憶を消し去るのは、やはり胸が痛くためらわれる。もう少し様子を見させてもらう事にした。
「たくちゃ~ん、びょういんにつれていってあげなくちゃぁ~ふくだどうぶつびょういんよ~」と、夏穂が拓哉の家から200メートル程先の動物病院を教えてあげた。
「うっ、うっ、ヒック、わかった~」となんとか返事をして、いそいで部屋に入ると気を取り直したのか
「ドタドタドタ~」と1階に駆け下りていった。
「そうだ!おかね、おかね」と夏穂も急いで自分のぶたさん貯金箱をわきに抱え、1階に駆け下りていった。
拓哉は玄関を出ようとしていきなりピンチを迎えていた。小さな両手のひらで小鳥をすくうように持っているので、玄関が開けられない。一旦小鳥を置けば良いのだが、子供ならではの行動と焦っているのも手伝いどうしたら良いのかわからなくなってしまった。
「かほちゃ~ん」と大声で夏穂の名前を呼ぶと、「ガラガラガラ」っと玄関が開いた。夏穂が開けてくれたのである。
「たくちゃん、はやくはやく」と夏穂がせかす。拓哉は決して足が速い訳ではなく、むしろ遅い方であるが、夏穂はそれよりも遥かに鈍足なので、少し走っただけでみるみる拓哉と差が付いてしまった。
「たくちゃ~ん、かほにかまわずさきにいって~」と叫ぶと
「わかった~さきにいくねぇ~」と、子供の足なので遅いながらも一生懸命に走った。
一つ目の角を曲がったら、後は動物病院まで一直線である。その角を曲がってすぐの所で、何にもないのに突然つまづいてしまった。大きく前のめりの状態、丁度ヘッドスライディングのスタイルで、体重の軽さも手伝って結構な距離をふっ飛んでしまった。このままでは両手がふさがっているので、顔面と胸から着地せざるを得ない。
「危ない!」妙子は咄嗟に妖力を使ってしまう。拓哉の体が淡く光り、地面スレスレの所で拓哉を受け止めゆっくりと降ろした。角を曲がってすぐの所だったので夏穂にも見られておらず、幸い他の誰にも見られずに済んだ。
拓哉には何が起きたのか解からなかった。気が付けば地面に前のめりに寝ている格好になっていたが、どこも痛くは無い。両手のひらも小鳥をすくったかっこうのままだ。本当はとても泣きそうになったが、スクッと立ち上がり、また走り出した。後10メートル程で到着するタイミングで、気が緩んだのかまたも涙がこみ上げてきて、くじけそうになった。このまま泣き崩れてしまいたい。それでも小鳥を助けたい一心で必死に我慢して走り、動物病院に飛び込んだ。途端に今まで精一杯こらえていた大粒の涙がボタボタと溢れ出す。
「ことりさんをたすけてください、しんじゃう~」と力いっぱい大きな声で叫ぶのが精一杯で、その後は少し遅れて到着した夏穂と2人で、えんえんと泣く事しか出来なかった。
福田動物病院は女性ばかりの医者・看護師・受付総勢3名の小さな町の病院であった。たまたま、他の患者が居ないタイミングでもあり、医者の先生自らが玄関まで出向いて、小さな急患依頼者に対応してくれた。妙子は少し焦ったが、一時的に呼吸と心臓を止めて、死んでいるように見せかけた。幸か不幸か即死クラスに傷が深いのも相まって、医者は一目見て、小鳥はすでに死んでいると判断したが、
「2人ともよく頑張ってくれたわね。小鳥さんはもう大丈夫よ。必ず助かるけど、暫くは入院してもらわないとダメなの」
「にゅういん?」
「病院にお泊りして怪我や病気を直す事よ。それとこの小鳥さんはお家で飼ってはいけない小鳥さんだから、怪我が治ったらすぐに逃がしてあげなくちゃいけないの。だから君達にはもう会えなくなるけど、小鳥さんを直す為だから、我慢出来るかな?」
「わかったよせんせい。でも、ぜったいになおる?」
「約束するわ」と言って右手の小指を拓哉に、左手の小指を夏穂に差し出すと、2人同時に「優しい嘘」の指切りを交わした。
「ちりょうひ、をはらわなくっちゃいけないですよね。おねえさんおいくらですか?」と夏穂が受付のお姉さんにたずね、抱えてきたぶたさん貯金箱ごと渡そうとした。貯金箱は取り出し口が無い、割らなければ中のお金が取り出せないタイプなので、もらったふりをしてごまかすことも出来ない。受付のお姉さんは困ってしまうが、
「小鳥さんはしばらく入院だから、お金は元気になってからね。それまでこの貯金箱は大切にしてね。開けちゃ駄目よ」とここでも「優しい嘘」をついた。後で先生と二人、この子達が次に来たらどうしよう・・・と頭を抱える事になるのだが・・・
それから間もなくして、子供達から預かった小鳥の死骸が、ちょっと目を離した隙に無くなってしまったので、病院では一時大騒ぎになったが、妙子の妖術ですぐに小鳥の事も貯金箱の事も全て忘れ去ってしまった。
その日の深夜、拓哉はほっぺたを何度もつつかれて目が覚めた。昼間に助けた小鳥さんが目の前にいて
「たくちゃん、助けてくれて本当にありがとう。今日はお礼を言いに来たんだよ」と、喋ったので驚いたが、子供らしく高い順応性で納得した。小鳥さんが
「お礼にお空に連れていってあげる」と言うと、拓哉の体が淡く光りだし、光の粒になって小鳥さんを包んでいく。すると拓哉は小さくなって小鳥さんの背中に乗っていた。最初は怖かったが、星空を小鳥さんと一緒に飛ぶとすごく気持ちがよかった。しばらく夜空の散歩を楽しんだ後・・・
「ありがとうことりさん、ほんとうはまたあいたかったの・・・」
最後にそれだけ言うのが精いっぱいで、子供らしく深い眠りについてしまった。
拓哉の部屋にもどり、元のように寝かしつけると、妙子は座敷童の姿に戻り
「こんなにも非力なくせに、私の為に必死に庇って助けてくれるなんて・・・とっても素敵でカッコ良かったわよ、私のナイト君。姫はあなたに恋をしてしまいました」と言って、拓哉の頬にキスをすると
「今度は私が守ってあげるからね」と言って、光の泡となって消えてしまった。
あれから12年間、約束通り妙子は拓哉を「物見の水晶球」で見守り続けるうちに、増々、拓哉の事が大好きになって行くと同時に、夏穂には強いライバル心を燃やすようになっていった。
あの時、一瞬でも夏穂に触れていたら、きっと白虎の存在に気付く事が出来ただろうが、見つけても拓哉と玄武の助けが無ければ助けられなかったと思うので、結果オーライだったと納得しておくべきだろうと思う。
ある時、妙子が「物見の水晶球」を消し忘れて席を離れた。いつも何を楽しそうに見ているのか気になっていたルゥが覗き込み・・・
「あの子いつのまにショタコンになっちゃったのかしら」と、マジで心配になってしまった。
いかがでしたでしょうか?きむんちです。ちょっぴりエッチなエピソードをまじえて・・・を基本にこの「座敷童」を書いて行きたいと思っていますが、今回の出来上がった物語を自分で読み返してみて、エッチなエピソードが入っていない事に気付きました。早々にコンセプトが崩れた訳ですが、あまり形にとらわれずに、自由にキャラクターが活躍してくれたらいいなぁ~、と言う事で・・・言い訳がましいですが・・・一人でも多くの方にこの物語をお楽しみ頂けましたら幸いです。