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夢のその先へ

作者: 藍川秀一

夢のその先へ

藍川秀一


 ただそれだけを一点に見つめ、前へと進んで来た。それが間違いだったとは思えない。その結果が今の状態だというのなら、それは俺が求めていたものだ。毎日のように、夢だけを追い続けて来たんだ。それに対する後悔はどこにもない。

 それでも今、どこへ迎えばいいのか、わからなくなっている。ゴールにたどり着いたはずなのに、スタートラインに立っているかのような感覚が消えてはくれない。

 何もかもというわけではないが、ある程度のものは夢のために捨ててきた。一生かけても叶わないかもしれないんだ。なりふり構っていられなかった。付き合いの良かった友人も、頼りにしていた恩師も、今では関わりがなくなっている。もう十年も連絡を取っていない。

 俺のことなんて、誰も覚えてはいないだろう。

 夢は叶った。欲しいものは手に入れた。それなのに、胸の奥に残るこの感情は一体なんなのだろう。自分の周りを見渡したとしても、俺が欲しかったもので溢れている。地位や名声、手に届くものは、できるだけ手に入れたはずだ。

 それでも、重要な何かを道の途上に置いてきてしまった気がしてならない。振り返ると、確かに自分の足跡が残っている。けれどそれ以外は何も残っていない。

 俺は何をなくしてしまったのだろう?

 なんども振り返り、確認する。それでも答えはみつからない。

 昔はもっと、簡単に世界というものを見つめられていた気がする。その全ては輝いていて、いつも眩しく目に映っていた。社会というものを知れば知るほどに、俺の目は曇っていったのかもしれない。

 あんなにも目指していたもののはずなのに、達成感はどこか軽薄なものだった、嬉しくないわけではない。ただもっと、劇的な感情が胸の中に生まれると思っていた。

 俺はただ、夢という幻想にとらわれだけなのかもしれない。

 俺が本当に欲しかったものとはなんだろう。現状を考えると、夢だけが心から欲しかったとは思えない。今まで歩いてきた道のりを否定するわけではないが、こんな空虚に包まれた結末で納得できるほど、単純な人間でもない。

 俺は考えた。自分が手に入れていないものとはなんなのか、心から欲しいと願っていたものはなんだったのか、自分に問いかけてみる。

 考えたら以外にも、簡単に答えは出てきた。

 今まで、自身のステータスのようなものを追いかけてきた。地位や名声、それが何よりも重要なものの一つとして、俺の中に存在していた。それ自体が間違いだったわけではないだろう。

 ただ俺は、考え方の方向性が少し違っていた。

 過去の自分のことを考えれば、それは仕方のないことだと思える。余裕なんてものはまるでなかったし、あの頃はただガムシャラに前へと進んで行くしかなかった。


 俺はまだ、確かな幸福を手に入れていない。


 夢のその先とは、吉凶な話ではあるが、今の俺には必要なものなのかもしれない。

 今度はしっかりと、幸せを掴んでやろう。こんなくだらないことを思考することすら、考えられないほどの、でかい幸せを。


〈了〉



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