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②「お嬢さまの執事」

②「お嬢さまの執事」


――昼。ブランチのあとは、お勉強の時間。少しでも教養あるレディーになるよう、あの手この手で机に向かわせようとしているのですが、いつも三分と持ちません。

「マーガレットお嬢さま。先程から鉛筆が止まっていますよ」

 執事が机を指でトントンと叩きながら言うと、マーガレットは鉛筆を抛り投げて言う。

「こんないい天気の日は、お外で遊ぶべきよ。お勉強は雨の日でもできるけど、お庭には、晴れた日でないと出られないもの。はい、決まり」

 椅子から降りてドアに向かおうとするマーガレットだったが、執事は素早くマーガレットの行く手を遮り、正面から両脇の下を両手で抱えると、そのまま椅子に座らせる。

「嫌いな勉強をしないためなら、どんな理屈でも捏ねようという執念を、学習意欲に変換していただきたいところでございます」

 執事が皮肉を込めた口調で言うと、マーガレットは長い睫の生えた目を伏せ、溜め息を一つ吐いてから言う。

「私も執事がよかったと思って、フェルナンデスと同じ格好をさせたのに。私が望んでたのは、これじゃないわ」

――外見だけ似せても、元の構造はメイドのままですからね。男装の麗人になるのが、関の山です。しかし、これでも私なりに努力しているのですよ、お嬢さま。

「何が、お気に召さないのですか?」

 執事が腰を屈め、マーガレットの顔を覗き込むようにしながら言うと、マーガレットは顔を上げ、執事を指差しながら言う。

「それよ。そういう、すました態度が気に入らないの。真面目すぎる」

――真面目すぎましたか。なるほど。

「では、ご期待に添えるよう、不真面目について勉強いたします」

 執事は真摯に言ったが、マーガレットは不満そうな顔をしたままだった。

  *

――勘の良い皆さまなら、薄々勘付いていらっしゃるでしょうが、私は、生身の人間ではございません。そう。使用者の霊力と水で動く、生命人形(リビングドール)でございます。

「水銀とか、硫酸とか。もっと、こう、凄い燃料で動くものじゃないの?」

 パンケーキを頬張りながら、マーガレットが言うと、執事は眉を顰めながら言う。

「水にも、銅像を溶かしたり、木材を腐らせたり、地球を温めすぎたり、山を削ったりする作用がありますよ。――口の中を空にしてから、お話しください」

 マーガレットは、もごもごと口を動かして食べ切ると、執事に疑問を投げかける。

「そんな危険なものなの?」

「はい。たかが水、されど水です」

 淡々と応えると、執事は、オレンジジュースの入ったグラスを置いた。


※執事:ナンシー。男装の麗人。真面目で、毒舌。使用者の霊力と水で動く生命人形(リビングドール)。お嬢さまの希望で、燕尾服と白手袋を常に着用。


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