①「お嬢さまと好き嫌い」
①「お嬢さまと好き嫌い」
――朝。それは、太陽光が燦々と降り注ぎ、小鳥が賑やかに囀り、草花が目を覚ます。そんな清々しい時間、なのですが。
「マーガレットお嬢さま。今日は、ギルバートさまがギナジウムよりお戻りになりますので、ドレスをお召しください」
燕尾服に白手袋を着用した執事が、淡々と平板な声で告げると、マーガレットは頬を膨らませて抗議する。
「いやよ」
――まったく。年齢が一桁の幼児が着るようなカボチャパンツ姿で、恥ずかしくないのでしょうか。
「お嬢さま。私の手を煩わせないでください。さぁ」
執事は、マーガレットのウエスト部分にあるリボンを掴んで持ち上げ、そのまま米俵でも運ぶように脇に抱えて運んで行く。
「着ないったら、着ないんだから。下ろしてよ」
マーガレットは、ジタバタと手足を動かして抵抗するも、その努力むなしく、そのまま衣裳部屋に連行される。
*
――結局、先程はワードロープを引っ掻き回しただけに終わりました。あとで散らかした服を片付けなければと思うと、いくばくか気が滅入ります。
「マーガレットお嬢さま。好き嫌いなさると、大きくなりませんよ」
執事がエッグスタンドの上に残っているゆで卵を見ながら、ウンザリとした口調で言うと、マーガレットは、ニッコリとした笑みを浮かべながら言う。
「いいの。ちっちゃいほうが可愛いから」
「お言葉を返すようですが、万事に控え目なままでは、殿方は靡きませんよ」
執事が、マーガレットの身体に足下から頭の先まで視線を走らせながら言うと、マーガレットは、しゃあしゃあと言う。
「フェルナンデスと同じことを言うのね。でも、お兄さまは、このままで良いって言ってたわ」
――あの性悪眼鏡と、一緒にしないでいただきたい。それから。あのシスコンには、一言申し上げねばならないようですね。
※お嬢様:マーガレット。十二歳。遊びたい盛り。後ろに大きなリボンが付いたハイウエストのカボチャパンツを愛用。