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もうどーにでもな〜れ

――とある屋敷

「よくぞおいで下された。……ふむ、勇者の父親殿」


 目の前のソファに座る黒髪のゴスロリ少女が口を開いた。


「……」


 どう答えたものか。


「不満か? 勇者の父親殿」

「不満ってかさ……」

「ふむ?」


 不満しかねーよ。

 宿で寝ている最中、マッチョな黒服野郎どもが部屋に押し寄せ、俺を無理やり袋に押し込んだんだよな。そしてヤツらに担がれ、ラチられた。

 あれは、悪夢だった。袋越しに感じる筋肉とか、漂ってくる連中の汗の匂いとか、もうね……。死ぬかと思ったze。

 仲間の女性陣と一緒にいればこんな事はなかったかもな。あいつら、無駄に強いし。

 とはいえ、今はよりによって別行動だというね。色々準備があるとかで。

 う〜む……無防備なところを狙われたって訳か。

 まぁいたらいたで……なんというか、互いに牽制しあってる気配がもうね。

 あれは、胃にクる。



 まぁ、それはさておき……

 気がつけば、こんなトコにいるってぇワケだ。

 えーかげん怒るで、俺。

 ちなみに今俺がいるのは、おそらく貴族の館の豪華な一室。

 壁や天井には絵が描かれており、四隅には彫刻が置かれている。

 頭上には、シャンデリア。魔石を使って明かりを灯す、高価なヤツっぽい。

 机やソファなんかも繊細な装飾が施されてりしているな。



 そして俺はというと、部屋の中央付近にある椅子にくくりつけられている。

 目の前には例のゴスロリ少女と、赤毛のメイド。

 ゴスロリ少女は細身だが、メイドはそこそこの長身だ。もしかして、武術の心得もあるかもしれん。

 うーむ……怒るにしても逃げるにしても、まずは拘束を解かにゃなんねぇんだよなー。

 その間にメイドにとっ捕まったらアウトだ。そーなりゃもっとヒドい目にあうかもしれん。

 とりあえず、様子をみといたほーがいい?

 ケドさ、文句は言っとかんとね。


「無理やりさらっといて『おいで下された』はねーよw それに、俺は山田勇気ってちゃんとした名前があるんだぜ?」

「ふむ。非礼は詫びよう。では、ヤーマダ・ユーキ殿。申し遅れた。私はエミーネ。ノルドグレン辺境伯のラグナーの娘だ。今後ともよろしく頼む。それはそうとして……紅茶がいいかな? それとも香片茶(ジャスミンティー)にするかい?」


 おおう。あっさりと流しやがった。一応詫びは入れてくれたケドさ。どーせ俺はオマケですよ、と。


「……じゃあ、コーヒーで」

「こーひぃ? ふむ、よく分からないな。……まぁよかろう。ラウラ、香片茶を用意しなさい」

「はい」


 エミーネと名乗ったゴスロリ少女は、表情を変えることなく傍らに控えたメイドに命じた。

 ……アカン。嫌味も通じない。

 しかたねぇ。とりあえず、理由を聞いとくか。


「な、なぁ……何で俺をここに連れ込んだんだ?」


 とは言ったモノのさ、ナ〜ンとなく分かるけどね。


「ふむ、それはもちろん……君のソレだ」


 彼女は俺……いや、俺の一部を指差す。

 その先。それは……俺の股間。

 俺は、子種がどーのこーのっていう訳のわからん理由で、この世界に召喚されちまったんだよな。そして召喚された直後、それはもう……うん。

 トラウマだよ、あれは。おかげに余計……というね。あ〜あ、どーせ役立たずですよ、と。


「……やっぱしかー。こないだもそれでエラい目にあったんだよね〜」

「そうか。それは災難だったな。その辺りのことは、私も聞き及んでいる。だが、安心するがいい。我がノルグレン家が君を生涯保護すると約束しよう。もう、君には誰も手を触れさせないと」

「そ、そっか……」


 保護、ねェ。

 とは言ったものの、やっぱしヤな予感しかしねェ。


「でもナンで俺なんぞにそんな待遇を?」

「我がノルグレン家は、代々武門の家柄。かつての魔王討伐の際は、真っ先に駆けつけたほどのね。それ故、勇者となるべきものを産むのは、和が家の子女の悲願。だからこそ、君を我が婿としたいのだ」

「……お、おう」


 婿ときたか。

 そういや前にも同じよーなコト言われた希ガス。

 ケドさ〜、俺としてはそーいうコトにはそれなりにこだわりたいワケで。そもそも、知り合ったばかりの女の子ととか、ねェ?

 一応金持ちっぽいケドさ。だからといってホイホイ付いて行ってしまうのもどーかと思うしね。


「と、とりあえずさ。今は帰してくれないかねぇ? 後で返事よこすからさ……」

「ふむ。それも一理ある。が……まぁ、くつろぎたまえ」


 いやマテや。


「くつろげるか〜ッ! こんなアリサマでさぁ。その前に、とりあえず……」

「ふむ。くるしゅうない。おう、茶が入ったか。飲みたまえ」


 ラウラとか言うメイドが盆を持って部屋に入ってくる。

 そして、目の前のテーブルに置かれたティーカップ。


「あの〜〜」


 帰してくれと言ったんスけどねェ。つか、話を聞いてクダサイ。お願いしやす。

 …………。

 ……ヲイ。

 茶ぁ飲んでやがる。聞いてくれる様子はねーな。

 ま、まぁ……いーや。

 ところでさ。


「あのー、手ェ縛られてるんで飲めないんスけどー」

「ふむ……そうだったな。では」


 エミーネが目配せする。

 と、いつの間にか背後に回り込んでいたラウラが、俺の顔をホールド。そして、エミーネはカップを持って俺ににじり寄る。

 な、……ナンかヤバげ? 飲むのはヤメといたほーが……


「んえっ!? え、エンリョしときます」

「慎み深い男だな。気に入ったぞ。だが、何も遠慮する事は無い。口を開けたまえ」


 ヲイ。こんなアリサマで、意地でも開けるかyo!

 が……

 鼻をつままれた。

 んげっ! ヤバい。が、な……ナンとかガマン。ガマン……

 しかし……


「ンン゛ン〜……ぷはぁっ!」


 俺本体にはチートもMODもないんで、あっとゆー間にゲンカイだ。

 思わず口を開いてしまう。そしてそこに、


「さぁ、味わってくれたまえ。君の為に用意した、最高級の茶葉だ。それに、希少な“魔女の杖”の実を煎じて入れてある」


 エミーネは茶を流し込んだ。


「ゴホッ、ガッ……ングッ! ……ア゛ア゛ア゛ァーッ!! 熱ィ熱ィ熱ィ〜〜!」


 口の中に注ぎ込まれた熱い茶を、ナンとか飲み下す。

 舌、そして食道がヒリヒリする……。

 ヤケドしたかなー、こりゃ。

 確かにさー、いい香りで美味い茶だとは思うんだケド……ほとんど味わう余裕なんて無かったze。熱かったしね。


「お゛あ゛ぁあ〜。(アチ)ィ」

「ん? ……おっと、申し訳なかった。ラウラ、治癒を」

「はい。……“治癒”!」


 柔らかな光が俺を包む。

 気がつけば、舌や喉の痛みはなくなった。

 にしても、ナンかキモチイイ? 頭がぼうっとして……


「ふふ……効いてきたかね? それは、“魔女の杖”の効果さ」

「ま……“魔女の杖”?」


 ナンだそりゃ。


「森の奥、魔力が湧き出す場所に生えるという樹です。それだけに、その枝は魔導師の杖として最適な素材となるのです」

「へぇ……そうなんだ」


 流石ファンタジー的世界。そんなモンもあるんだねぇ。

 ……いや、待てや。


「ん? でもさー、入ってるのは実の方だろ? ナンっーの? ナンか酔っ払ったよーな感覚があるんスけど」

「そうですね……」


 ラウラはそこで言葉を切った。

 ……今『チッ』っつったのが聞こえたぞ、オイ。


「“魔女の杖”の実には、ちょっとした催眠作用と幻覚作用があるんです。といっても体に有害というわけでもありません。精々、強い酒を飲んだ程度でしょう」

「なるほどね……」


 確かに、酒に酔ったのと似たような感じではあるが……。

 い……いや、俺はまだ未成年だし、あっちじゃそんなに飲んでないよ? 正月とかで少しばかしね? あ、コンパで……ゲフンゲフン。

 と、ともあれ……それより少々ヤバい感じもすんだケドな〜。

 あ……でもナンかぼうっとして頭が働かん。記憶もナンか曖昧になってくるな。もう、あっちのコトなんてどうでもいーや。


「ふむ……効いてきたね」


 そう言うとエミーネは、俺のカップに口をつけた。

 あ、それ俺んだし。

 と思ったら、顔を近づけてくる。

 え? ちょっ……


「むぐっ!?」


 無理やりキスされた。抵抗するにも力が出ない。

 と思ったら、何か口の中に……

 あ、さっきの茶だ。口移しか。

 ン……むぅ……。

 あ……アレ?

 文句言おーと思ってたけど、まーいーや。ナンかキモチいーしね〜。

 …………。

 ぐんにゃりと椅子の上にくずおれた。


「では、始めようか」

「はい。それでは……」


 そんな俺を、エミーネはどことなく潤んだ様な目で見る。

 そして、放心状態の俺の前で服を脱ぎ始めた。そしてそれを手伝うラウラ。

 あー、意外といーカラダだねー。細身だと思ってたケド、出るところは出てるし。


「ラウラも参加するがいい」

「私もご相伴に預かってもよろしいのでしょうか?」

「何を今更。ラウラは私にとって家族も同然だ」

「ありがとうぞざいます。では……」


 おっ、ラウラ(メイドさん)も脱ぐのか。長身なだけに、こっちもなかなかスタイルが……

 でも二人とも、腹に田の字が見えるんスけどー。

 あー、そういや『代々武門の家柄』云々言ってたんだっけ。それでかなー?



 そして下着姿となった二人は、俺の傍へとやってくる。

 う……む。どーにかしないといけないと思うんだケド、アタマが働かん。

 えっと……アレ?

 ナンで俺はここにいるんだっけ? この二人は……俺のナンだ?

 それにしても、二人とも整った容姿だな。

 黒い下着の、細身の少女。白い下着のグラマラスな女。

 ああ……こんなのと、イロイロ出来れば……


「では……」

「はい」


 ラウラ……だっけ? が俺が座る椅子の座面脇あたりを操作した。

 と、


「うをっ!?」


 ガクンと背もたれが倒れた。

 ああ、リクライニングチェアみたいなのか。

 でも、ナンでこんな……?


「では、失礼」


 エミーネも椅子の傍らにやってきた。

 ン? ……一体何を?

 怪訝な顔をする俺をよそに、二人の女は俺に向かって手を伸ばす。

 ど、どーなるの? どうなっちゃうの、俺?



 まずは俺を拘束するロープが外された。

 逃げるチャンス……かナ? いやでもしかし。

 う〜ん……ナンかもー動きたくないな。

 そうする間に、上着を脱がされる。

 あー、ナンかちょっと暑くなってきた気もするしねー。ありがたい。

 さらにシャツ。そしてズボンも脱がされる。そして気がついたらパン一だ。

 え? あ……アレ? な、ナンかマズくね?


「ふむ……思ったより貧弱な身体だな」

「そうですね。勇者の父というには、あまりに貧相です」


 二人が言う。

 あ゛!? 待てやコラ。

 そりゃそーかもしれないけどさ、面と向かって言っていーコトと悪いコトがあるだろーよ。


「それよりも、勇者の“御座”だ」

「そうですね。さぞや立派な……」


 って、待って! パンツ下さないで! 抑えようと……って、腕が動かねェ⁉︎ って……あっ。

 ああ……下ろされちまった。


「ふむ」

「ああ……」


 ななナ何スか、その反応ォ!? あーそーですよ。どーせ粗末なモンですよ〜〜だ。


「あの、思ったよりも……」


 と、メイド(ラウラ)さん。幾らなんでも傷口に塩をすり込まんでもええがな……。


「ふむ。確かにラウラのベッド下にあった本に比べれば貧相だな」

「そっ、それはっ!? ……いつの間に!?」


 あ、今まで無表情だったラウラさんが動揺しよった。

 一方、俺もかなり落ち込んでますよ〜っ、と。


「だが、そいうのは誇張されているのが常だ。大体はこんなモノだろう。……おそらくは」

「そ……そうですか」


 エミーネの言葉に、冷や汗を拭うラウラがうなずく。

 俺も俺のも力なくうなだれたままだ。仕方ないね。


「とはいえ……これではどうしようもないですよ。この方が召喚された直後も、この有様だったようですし」


 さらに傷をえぐるラウラ。あああああ。アレは思い出したくないのによ〜〜。


「ふむ……それは聞いている。さっきの“魔女の杖”の効果で、その辺は解決したと思っていたのだがな」


 と、エミーネ。

 多分、アレだ。


「初日、お香を焚かれてた中で見たアレな幻覚のせいかもな」


 うむむ。あんなのを見てしまうとはな。“アレ”が喋ったりとかさ。

 フロイトとかの夢判断とかで解析したら、どんな結果が出るのやら。もしかして俺の精神状態、相当ヤバいのかもしれん。

 いや、それだけじゃない。幻覚から覚めた後も……だったしな。

 ああ……あの件は、あの件だけは忘れたい。

 というか、泣きたい。どこか、俺だけの場所で泣かせてくれ……。


「……ふむ。そうだな、“鍵”さえ外してやればよかろう。時折精神的な傷から“役立たず”になってしまう男もいるらしいしな」


 深淵へと落ち込んでいく様な俺をよそにしばし考え込んでいたエミーネが、再び口を開いた。

 ……へ? 鍵って、どゆコト?

 そう思った直後、エミーネは太ももに巻かれたベルトから、何か先端が尖った細い針金状のモノを取り出した。ヤな予感しかしない。

 ま、まさか……針!? ……そ、ソレ、どーするツモリ? まさか針灸みたいにソレ刺すの? つか、どこに? それに、鍼灸のにしちゃ太くねェ?


「うむ、安心するがいい。痛いのは最初だけだ」

「……えっ⁉︎ ちょっと、待っ……」


 と、眉間に何かが触れ……


「痛っ」

「ふむ? ……ただ触っただけなのだが」


 ……あ。

 確かにこれは、指の感触。ナンか油っぽいモノを塗り込んでいる。

 ああ……ハズカシい。

 と、その直後。


「!」


 ナンかチクっとした。

 ふ、不意打ちじゃねーか!

 とか思ってる間に、針が引き抜かれた。そして続けざまに喉、胸、ヘソあたりに針を刺し込まれた。

 つかさっき、“鍵”とか言ってたよな。もしかしてコレ、針灸というよりピッキングじゃ?

 ……とか思ってたら、処置が終わったようだ。


「ふむ。これで良かろう。……気分はどうだね?」

「へ? ……おおぅ!?」


 何やら身体の奥底から“力”が湧いてくる様だ。熱い“塊”が身体を駆け巡っている。

 もしかしてコレが、さっき言ってた“鍵”が開いた状態なのか?


「ぬぅ……おおっ、をあっ!」


 思わず叫んでいだ。


「上手く行った様だね。ユーキ殿から感じるこの“力”。やはり常人とは桁違いの強さだ。……まさにこれは“聖体”に相応しい。これで、勇者を為す聖餐(セレモニー)を行うことができる」


 エミーネは俺の“聖体”を愛おしげに撫でた。


「へ? て、ちょっ……」


 何気なく見下ろした俺の身体。

 “ソレ”は見た事ないほどに屹立していた。痛いぐらいだ。


「ふふ……では、始めようではないか」


 と、エミーネが俺の身体にしなだれかかってきた。そして反対側からはラウラも。

 柔らかく、暖かい感触。

 えっ、ちょっ、今ソレやられたら、もーガマン……

 お……襲っちゃうよ、俺。

 と、その時、


「曲者!」


 俺から身を離すと、鋭い声でエミーネが叫んだ。

 ふへ? 自分から寄ってきといてそりゃねーよ。

 って……あ、違う?

 二人とも部屋の一点を見つめてら。

 エミーネはさっきのより太い針を。そしてラウラはナイフを構えている。

 そしてその視線の先には、宙に浮かぶ針とナイフ。

 と、思ったら、それらが乾いた音を立てて地面に落下した。

 直後、空間がぐにゃりと歪む。


「クク……」


 含み笑いとともに現れたのは、一人の女。

 鮮やかな金髪と、浅黒い肌を持った細身の女だ。

 レザーの、何やら露出度が高い服を着ているが……少々身体の凹凸が欠けるのがナンだ。


「……貴様は、シーリーン」

「し、知り合い?」


 問うてみる。


「うむ。我が一族の末流に連なるものだ。しかし、その父が邪法に手を染めたがゆえに、勘当されている」

「邪法、ね。私は手段を選ばないだけさ。不当に奪われた当主の座を手に入れるためには、ね」


 シーリーンと呼ばれた女は紅い唇を歪め、嗤った。


「貴様の父上が当主の座に近い位置にいながら一族から追放されたのは、そもそも邪法に手を染めたからではないか」

「う……ウルサイ。それは過ぎた事だ。私は“彼の方”の力添えで、今こそ当主の座を手に入れる!」

「“彼の方”? まさか、貴様は……」


 ン? 誰なんだ、ソレ……


「クク……聞いて驚くな」

「ふむ、魔王か」


 エミーネが、事もなげに言い放つ。

 いや、そんな大物が……


「な……何故分かった!?」


 へ? 当たりなん?


「適当に言って見ただけだ」


 おおう。案外アバウトやね。

 にしてもさ、あのシーリーンを見て気になるコトが一つ。


「ところで……それ、大丈夫なん?」


 俺が指差す先。

 彼女の眉間にある小さな“点”。それは……


「う……うるさい! 少しばかりよけ損ねただけだ!」


 シーリーンは眉間に刺さった針を無造作に引き抜くと、投げ捨てた。

 つか、そこはどストライクでんがな。


「ふむ……。無理やり引き抜くのは良くないんだがな」


 エミーネは微かに笑った様だ。

 そしてまた、シーリーンに問う。


「何の目的でここに来た? 理由によっては容赦せぬぞ?」

「ふン……決まっている。我が目的は、その……」


 シーリーンは俺を指差し……そして顔を赤らめて視線を逸らした。


「そそそ、そんな卑猥なモノを見せびらかすな、この変態!」

「誰がじゃー! つか俺のせいじゃねぇぇぇ!」


 そこでまたブチきれですよ。


「うるさい! ……死ね!」


 シーリーンはナイフを拾い上げると、俺に向かって投げつけた。その先にあるのは、俺の……

 あ、避けれん。

 な、泣き別れちゃうの!?


「“防楯”!」


 ……ン?

 と思ったら、俺の前に淡い光の円が現れ、ナイフを受け止めた。

 た……助かった……

 あ、ラウラがやってくれたのか。


「何のつもりだ? ユーキ殿を害しようなど……もはや貴様にかける情けはない」

「クハハ……私の任務は、勇者の誕生を阻止する事だ!」

「へ? 俺を殺すの!?」


 んげっ、ヤベぇ! まだ死にたくないぜ!


「ふン……殺しはしない。するのは……断種だ。つまり、“それ”を……」


 何故そこで顔を背ける。


「そそそ、それを、断ち切ってくれるッ! そして貴様(きさン)は“用なし”として一生を過ごすのだー!」

「嫌〜〜!」


 や、やっぱし切られちゃうの!? しかもコレ、この世界に置ける俺の唯一の存在意義(レゾンデートル)なんスけど……。

 も……もしそーなったら、何のツテもないこの世界で、誰にも顧みられる事もなく生きていかねばならないのか……。そんなのは、嫌だ。俺は、俺はまだ……


「大丈夫だ。君は、私達が命に代えても守る。なにせ君は、我々の“救世主”なのだからな」


 と、エミーネ。


「きゅ、救世主!? でも俺、“コイツ”のフロクなんだろ?」

「ふむ。勇者の父は勇者も同然であろう?」


 へ? そ、そっか〜。でも、ピンチにゃ変わらん訳で。

 エミーネとラウラは戦闘力は高いかも知れんが、裸同然。俺に至っては説明不要だ。

 と、いきなり部屋の扉が開いた。


「エミーネお嬢様!」


 そしてなだれ込んでくる、黒服マッチョ野郎軍団。

 あ……トラウマが。


「何が起きた!?」

「曲者か!」

「お嬢様は無事か!?」

「うほっ」


 流石に部門の家系に仕える連中。混乱しつつも、俺達を守ろうと……

 ……つかよ〜、最後のヤツ。ドコ見て言った? ナニ見て言った!?

 か、勘弁してくれ〜〜。別の意味で危険にさらされそーだ。

 つか、よく見りゃエミーネとラウラはちゃっかり服で前を隠してやがんのな。せめて俺にもナンか隠すものくれよ……。

 とりあえず、椅子の影にかくれとくか。


「ふン……有象無象が。我が(しもべ)の敵ではない」


 シーリーンはそう言ってナニやら呪文を唱え始めたが……って、ヤバくね? 何か強大な“力”が渦巻いてるし。


「ふふ……愚かな」


 あれ? エミーネは余裕ぶっこいてら。

 一方シーリーンは、自信満々な様子で呪文を唱え終える。

 その眼前に浮かび上がる、魔法陣。


「さあ……出でよ! ……あれ?」


 どういう訳か、呪文は不発だった様だ。


「え? どゆコト? な、ナンで出てこない? まさかサボって……」


 焦ってやがる。さっきまでとはえらい違いだ。

 あ……まさか、


「さっきの針?」

「ご名答。眉間の奥には魔力を操る中枢、そして第三の“眼”がある。そこに突き立った針を無理やり抜けば、魔力操作に影響が出るのは必定。ただでさえアイツはその辺不器用だからな」


 なるほどな〜。

 そういや先刻俺に施したのは、それを活性化させるためだったんかな?

 おかげで身体中に“力”がみなぎっているが。


「こ……このっ! 何故出てこない!」


 更に焦りを募らせるシーリーン。そして詰め寄るマッチョ軍団。

 いろんな意味で、ヤバげな絵面だ。


「さぁ、観念するがいい。もう打つ手は……」

「……ある! これだ!」


 懐から取り出したのは、翠色の八面体っぽいモノ。

 そしてそれを、彼女は地面に叩きつけた。

 乾いた音とともに砕ける八面体(?)。そして、何やらモヤの様なモノが湧き出した。

 ……まさか、煙幕張って逃れるってのか?

 いや、違う! 眉間の奥で感じる“これ”は……


「マズい!」

「クハハ……こうして魔石の魔力を開放すれば、多少魔力が封じられたとしても、我が僕を呼び出すことに支障ばない!」


 シーリーンの高笑い。

 その周囲には、“ゆらぎ”が見える。まさか、召喚成功?


「愚かな……」


 が、エミーネは冷淡に切り捨てた。

 ン?

 やっぱりダメだったか? いや……何かおかしい。眉間の奥が、ジンジン痛む。


「待った。どうも雰囲気が……」

「どうした? ……ふむ、これは! 貴様、“何”を呼び出した!?」

「え? ただ、いつもの様に(しもべ)を……」


 エミーネの指摘に、シーリーンは怪訝な顔をする。

 しかしその足元からは、ナニやら縄の様なモノが多数、湧き出していた。闇色の、しかし何色ともつかない燐光を発する“縄”。

 それが無数に、うねうねと這い出てくる。


「……って、わひゃあ〜っ!? ナニこれェ!? ナニこれぇぇ〜ッ!?」


 慌てふためくシーリーン。

 ……つか、ナンタが呼び出したモノでんがな。いや、想定外のもの出ちまったのか?

 そうする間にも縄は部屋にあふれ、塊となっていく。

 ナンかヤバくね?


「な……ナンだ、あれは!?」

「まさか、“異形”の……」


 へ? ナニそれ?


「この世界やユーキの世界の更に遠くには、虚無が広がっているという。おそらくはそこに跋扈する異形の“何か”、だ」

「え? ……ムッチャやばくね?」

「うむ。だから……ラウラ! ユーキ殿を連れて逃げろ!」

「は、はい。しかし……」

「速く!」

「はい、お嬢様……」


 ラウラは俺の腕を引く。え? 待てよエミーネ、アンタはいいの?

 が……


「開かない!?」


 ラウラが愕然としている。

 まさか、扉がロックされてるのか!? 何故?

 まさか、さっき……。

 いや、マッチョ軍団にはわざわざ鍵閉める必要なんてないハズだ。

 というか、コレ……まさか、空間が隔離されてる!?

 気がつけば扉の表面からも縄が湧き出してきたし。


「そんな……」


 蒼白な顔のラウラ。

 こうなりゃマッチョ軍団があの怪物を倒してくれるのを期待するしかないか?

 ケド……劣勢だな。


 斬ろうがブン殴ろうが蹴っぱぐろうが、効いた様子はない。

 そりゃ、縄だしね。

 というか、倒せるんか? あんなん……。


「うにゃあぁあー!」


 あ……シーリーンが絡め取られやがった。召喚者がナニやってんだよ。

 ……と思ったら、マッチョ軍団も何人か。

 つか、マッチョ男の触手プレイなんざ見たくねェ。確実に“正気度(SAN値)”が削られちまう。

 ……どーすんべ?

 と、針を構えつつ、エミーネが後退してくる。


「ふむ……まずいな、これは。すまない。君をこんな事に巻き込んでしまって」

「いや……」


 何と答えるべきか。

 と、その時、縄怪物が天井の大きなシャンデリアを叩き落とした。……そして落下してくるのは、俺の頭上。

 あ……マズい。避けられん。


「うをっ!?」

「ぐぅっ!」


 衝撃。そして、うめき声。

 え……何が!?

 気がつけば俺は、床に倒れている。

 どうやら突き飛ばされた様だ。おかげで俺は無事。だが……


「エミーネ!?」

「お嬢様!」


 シャンデリアの下敷きになっているのは、エミーネ。

 見れば、かなりの血が……


「お……おい」


 そこまでして俺をかばうこともなかろうに。


「ふ……ふふ……君を守れてよかった。母のなり手は数多(あまた)だが、父となるのは唯一人。そう、君だけなのだからな」

「おい……」


 慌ててシャンデリアを退ける。

 う……む。背中にガラスの破片が突き刺さってる。それも、かなり深い。その傷口からは、大量の出血。そのせいか、顔面も蒼白だ。これはマズい。


「だから……生き延びてくれ」

「喋るな! けど……」


 この状況。

 気がつけば、マッチョ軍団もシーリーンも縄に絡め取られちまったらしく、姿が見えない。うめき声は聞こえるが……時間の問題だろう。そして俺達の周囲にも、次第に縄がにじり寄ってきていた。

 ……これじゃ、脱出できそうにないな。

 にしても……俺の無力さが恨めしい。死にそうな女の子も助けられない。それどころか、自分の身一つ守れないなんてさ。

 何が“勇者の父”か。何が救世主か。

 この無力さに、歯噛みする。


「ふむ……ならば、奥の手だ。心苦しいが……君の手を借りたい」

「お……俺の!?」


 俺に出来ることなんてあるのだろうか?


「君の“龍”を呼び醒す」

「……へ?」


 “龍”だと?


「勇者の父たる方。その身には、とつもない“力”を秘めた“龍”が眠っているはず。……私には時間がない。ラウラ!」

「はい! ……失礼」


 ラウラが強引に俺を四つん這いにさせた。

 え? ちょっ……

 そして苦しい息を吐きつつ、エミーネが身を起こす。

 その手には、針。


「“龍”の在処は、肉体を貫く柱の一番下。神護の骨の中。つまりは……ここだ!」

「ちょっ、まっ……アッーー!!」


 俺の身体に突き刺さる針。それは、骨盤の背面に突き立った。

 ま、まぁ……“そこ”じゃなくてよかったよ。色々トラウマが……。い、いや。今はそんなコト気にしてる場合じゃない。

 針を刺された直後、尻……つか、仙骨だっけ? のあたりで急激に“何か”が弾けた気がした。

 “それ”は、まさしく真っ赤に燃えるマグマ。熱く煮えたぎる“それ”は背骨を駆け上がり、やがて脳天へと突き抜ける。


「お……おお……」


 さらには肉体を駆け巡った“それ”は、全身の細胞を沸き立たせた。

 全身が熱い。そして、走る痛み。骨が、筋肉が軋みをあげている。まるで身体が膨れ上がっている様な……?

 な……何が? 何が起きているんだ!?

 いや待て……! これは。

 何気なく見下ろした俺の身体。

 一回り、いや、それ以上に大きくなっている気がする。

 特に、筋肉だ。大胸筋が盛り上がり腹筋もバッキバキに割れてら。肩も、太ももも……

 おっと、それ以外にはエミーネ達が言うところの“聖体”もだが……見なかったコトにしよう。


「ふ……ふふ……。ふむ、それこそ勇者の父、そして我が夫にふさわしい姿。その腕に抱かれなかったのが、心残りだ」

「お……おい! 死ぬな!」


 慌てて彼女を抱き上げた。

 俺を助けてくれた人が目の前で死ぬなんて事、あってたまるかよ!


「ああ……ユーキが無事でよかった。今、今ひと時だけでいい……ユーキ、私を妻にしてくれないか?」

「分かったよ! 約束する! だから……だから死ぬな!」

「ふふ……ありがとう。ラウラのことも、頼む。……今は眠らせてもらうよ。我が君よ……武運を祈る」

「! お……おい!」


 彼女は俺の口に唇を重ね、微かな笑みを浮かべる。

 そして……その目が閉じ、身体が力を失った。

 ああ……そ、そんな!?

 頰を伝う涙。


「ユーキ様。お嬢様の願いに……答えてくださいますか?」


 ラウラが俺のそばにひざまづく。そして、俺の腕からエミーネの身体を抱き上げた。


「あ……ああ。必ず」


 思わずうなずく俺。

 ……勢いでナンかマズい事言った気がするけど……

 でも、しょうがないよな。

 ヤツを倒さにゃこの場から生きて戻れないんだ。

 ならば……

 立ち上がり、ヤツに向き直った。

 自分を信じるしかないんだ。こんな時はな。

 そして、精神を集中し……

 ! 見える!

 部屋の中央あたりにある、無数の縄が絡まり、一抱えもある塊になった場所。そこに魔力が集中し、またバケモノの身体全体へと拡散していく。

 心臓か、それとも脳か。

 いや、どっちでもいい。まずはあれを叩き潰す! 駄目だったら次の手を考えればいい。

 よし……


「行くぜェ!」


 縄の塊に向け、地を蹴る。

 肉体が強化されたとはいえとはいえ、戦闘スキルなんて俺にはない。精々、中学、高校の体育授業でやった剣道や柔道ぐらいだ。

 そもそも、ロクにケンかなんてした事もない。

 いや、縄の怪物相手だ。仮に武道の有段者だったとしても、ヤツ相手に役立つのか?

 迷ってる暇はない。……やる事はシンプルだ。

 “力”を集中した右拳を思いっきり握りッ……


「……おおっ!」


 そしてッ、殴るッッ!


『〜〜〜・・ー・・ーー〜〜!!』


 脳に響く、絶叫。

 っしゃ、効いたかッ! もう一丁!

 今度は左。

 また……ブン殴るッ!

 さらなる絶叫。

 脳がシビれる様な高揚感。

 アドレナリンがドバドバ出てやがる。

 俺は力任せに殴り続けるだけだ。

 と、腕や脚に縄が絡み始めた。

 何か、身体から“力”が抜けていくような……


「チッ……なめるなァ!」


 それを無理やり引きちぎり、引き剥がしてくれる。

 この程度で俺は止められん。


『〜ー・*・:!』


 絶叫、というより苦悶に近い“声”。ずいぶんと苦しそうだな。

 そンなら……

 塊に手をかけた。

 適当に縄を掴んだ。そして、引きちぎるッ!


『・ー・・!』


 悲鳴。

 っしゃ、効果あり。

 ……だが、まだだッ!

 次々に引きちぎり、握りつぶし、投げ捨てる。

 そして……


「……これか」


 縄の中から現れてた、虹色に光る球体。

 コレがヤツの……コアだ!

 それに腕を伸ばそうとし……


「!」


 またしても縄が絡みついてきやがった。

 しかも、“力”の吸収はさっきよりも強力だ。

 だが、ここまできて死ねるか!

 強引に腕をねじ込み、コアをガッチリ掴んだ。

 そして、引きずり出したのちに頭上に掲げる。

 が、ヤツも必死だ。全身に縄が絡んでくる。


「勇者よ……未来の息子たちよ! 俺に、力を!」


 思わず叫んでいた。


『……“力、”を……』


 脳裏に響く、誰かの“声”。そしてまばゆい光が俺を包んだ。

 これは!? ……いける!


「……ぉおっ!」


 ジャンプ。そして大理石らしき床に、それを思いっきり叩きつける。


『ーーー・・・〜〜〜!!』


 断末魔の“声”。

 と、まるで繊細なガラス細工が砕ける様な涼やかな音とともにヤツは砕け散った。

 直後、縄達はまるで暴れる様にのたうち……そして動かなくなった。

 縄がのたうってる間に何やら絶叫が聞こえた気がするが……気にしなかったことにしよう。


「やった、ぜ」


 俺は大きく息を吐き……そしてがくりとくずおれた。



 床上に力なくわだかまった縄達は、やがて黒い煙を上げて消滅していく。

 そして残されたのは……

 荒らされた室内。そして前後不覚となったマッチョ軍団と、あられのない姿のシーリーン。

 あ〜あ。あんな露出度の高い服着てるから、見えたり見えそだったり……

 まぁ自業自得だし、それはいいや。

 それはともかく、


「終わった、か」


 一つ息を吐き、立ち上がろうと……


「うをっ!?」


 立ちくらみ。そして急速に身体から“力”が抜けていく。あんなに逞しかった身体も、元通り……いや、それ以上にしぼんでいく。

 そして、俺の意識は暗転した。

 その直前、


「感謝する、ユーキ殿。我が夫よ……」


 エミーネの声が聞こえた気がした。



――翌日 宿の一室

「ああ……どうしてこうなった」


 俺は天井を見上げ、呟く。

 が、それだけで胸や腹に痛みが走る。

 筋肉痛だ。

 いや、それだけじゃない。あの戦いの後、“力”を失った俺の身体は見る影もなくしぼんでしまい、まるで老人の様だ。

 まともに立って歩くことすらままならん。

 それに、あの超常的な“感覚”もなくなっている様だ。

 これは肉体強化の代償なんだろう。無理矢理肉体の潜在能力を100パー引き出しゃそうなるか。今まで特に身体を鍛えてた訳じゃないしね。

 それでも、何とか“救世主”らしい活躍は出来たかな?

 まぁ……正直二度とやりたくないけどさ。

 いいさ。生き延びたんだし。後は、頼んだぞ、未来の息子達よ。

 俺は……お前達の活躍を見守りつつ、平穏無事な生涯を送りたい。



 ……と、部屋の扉が開いた。


「粥を持って来たぞ、旦那様」


 と、現れたのはエミーネとラウラ。

 エミーネは無事だった。

 ……ああ、この世界に回復魔法があるのをすっかり忘れてたよ。そりゃ、目の前であんなコトになりゃ仕方ないよね。……多分。

 でもさ、


「『旦那様』はどうかと……」

「ふむ……あの時、約束してくれたではないか。我ら二人を妻にしてくれると」

「ぐっ……グムー」


 確かに言ったけどさ。言っちまったけどさー。


「救世主殿の言葉だ。違えることはない。安心するがいい、ラウラよ」

「はい」

「では……口を開けるがいい。旅立てる様、回復してもらわねばならん」

「へ? 旅?」


 婿にするとかどうとか言ってなかったっけ?


「うむ。ユーキ殿は、この世界を救う旅の途中なのであろう? ならば、それに帯同するのが妻たる我らの役目」

「お……おう」

「心配する必要はない。回復するまでは、我ら妻二人が下の世話を含めて面倒見よう」

「い……いやその。俺は大丈夫だしさ。館のこともあるだろ? だから、さ」


 女の子にそれを世話してもらうってのも、ねえ? それに、二人がついてくるとなるとイロイロと……


「そうか。なら……アウリス!」


 エミーネはパチン、と指を鳴らした。

 と、扉が開く。

 現れたのは、黒服の巨漢。その顔、確か……


「アッー!」


 あの時のマッチョ軍団の一人! 『うほっ』とか言ったヤツだ!

 背筋を冷たいものが走る。


「彼の希望でな。是非とも君の世話を担当したいと」

「え? ちょっ……」

「ユーキ様の世話をさせていただけるとは、光栄の極みであります!」


 ヲイ。ナンでほおを赤らめてんだよ。

 つか、ヤバい。これはヤバい。俺の貞操が……


「では、頼んだぞ。仕方ない、我らは……」


 え? そ、そんな〜


「ま、待って!」

「ふむ、どうされた?」

「お……お願いします。俺の世話をお願いします!」


 思わず叫んでいた。


「ふふ……分かった。それもまた、妻たちの務め。よろしいか?」

「助かった。だから……」


 あ……アレ? もしかして、また失言?


「ふむ。ではアウリスよ。ご苦労であった。屋敷の事は頼んだ」

「はい……」


 あ……あからさまに肩を落とした。

 少々かわいそう? いや、俺の貞操が先だ。

 ……つか、この二人といても変わらん気もするケド。でも、まぁ……女の子なら。



 そして肩を落としたアウリスが扉のノブに手をかけようと……


「あ〜っ! ここにいた!」

「!」


 勢いよく扉が開いた。

 哀れアウリス。扉と壁に挟まれて悶絶してら。

 そして現れたのは、数日前に知り合った女達。

 準備が整ったら迎えにくるとか言ってたけど……

 タイミングが良いんだか悪いんだか。


「そこの女! ユウキをさらった挙句に、何てコトを!」

「それに関しては、申し訳ない。だが……我々は妻として、責任持ってユーキ様の看病をするつもりだ」

「だからって……って、妻ぁ!?」

「ワタクシ達を差し置いてそんな事……許せませんわ!」

「ユ、ユウキ殿を保護するのは(それがし)の役目!」


 エミーネに詰め寄る三人。

 が、彼女は動じた様子はない。


「そう。我々は昨日、ユーキ殿にしていただいた」

「どどど、どゆコト、ユウキ!?」

「ワタクシたちを差し置いて……何故ですの⁉︎」

「不潔でござる! そんな……そんな……!」


 今度は詰め寄ってくる彼女達。

 ……コレは、アカン。

 俺はどうすればいい?

 いや……もうどーにでもな〜れ。

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