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フィロソフィア

まあ、いくら勇者でもチンコが喋るわけがない。

幻覚の向こう側に旅立ちかけた俺はようやく戒めを解かれ、人間らしい生活を送れるようになった。

今は召喚の儀式を行った国の王城に住まわせてもらっている。

なんでもあのとき本当は興奮させる作用のあるお香を焚いていたらしいのだが、憔悴し過ぎていたせいか、単に体質に合わなかったのか、俺は勇者を奮い立たせるどころか突然ケタケタと高笑いをし始めただけだったらしい。危なかった。

……ん?

……俺、ちゃんと、童貞だよな?

おかしくなって、ヤっちゃってないよ、な?

解放されたのは、目的が達成されたからじゃなくて、勇者のためにもその親である俺にも優しくしようという配慮、だよな!?

「どうかなさいましたか?ユウキ様」

突如わたわたしだした俺を心配してメイドのソフィアが声をかけてくれる。

この子は俺の身の回りの世話をしてくれるメイドさんで、ベビーピンクのふわふわのロングヘアーが印象的なかわいい系の美少女だ。

大人しくて照れ屋で、彼女以外のここにいる女どもはぐいぐい勇者チンコを狙ってくるのに彼女はふと指先が触れ合っただけで真っ赤になって硬直してしまうような純情可憐な少女なのだ。

拘束を解かれた当初はおっぱいばいんばいんのメイドさんがどこのイメクラかというような露出過多なメイド服でボディタッチ過剰気味にお世話してくれていたのだが、俺と俺のチンコが引いている様子なのを見て召喚のときの偉そうな女の人に【どうせ童貞はこういうのが好きなんでしょう?】とか失礼な事を言われながらあてがわれたのが彼女だ。

その押してだめなら引いてみろという思惑が鼻につく。

が、正直に言おう。

まあやっぱりこういうのが好きだよね!メイド服はやっぱりソフィアが着ているみたいな踝まであるクラシカルなタイプが最高だよね!

メイド服ってのは禁欲的な感じが逆に脱がせたくなるんだよ。ミニスカとかそんなのは女子高生にでもやらせとけ。

「ユウキ様?ユウキ様?……だ、大丈夫ですか?」

俺がすっかりメイド服への熱い思いに捕らわれ意識を飛ばしていると、ソフィアが心配げにこちらを覗きこんでいる。

ああ、こんなときでも絶対に俺に触れてこないソフィアがかわいい。前のメイドさんならすかさずしなだれかかっておっぱい押し付けてる場面だよ。

「ごめんごめん。大丈夫だよ。

ちょっと召喚されてすぐのことを思い出していてさ」

そう言って笑って誤魔化せば、ソフィアは顔を真っ赤にしてしまう。

「た、たた、大変でしたものね!」

俺の笑顔なんかでここまで狼狽えてしまうのは俺が勇者チンコの持ち主だからなのか、ソフィアが人並外れて照れ屋だからなのか。

「それで、今日のソフィアの予定の話だったっけ?」

このままソフィアをからかうのも楽しいのだが、あんまりやると逃げられてしまうので話をそらす。

俺の唯一の癒しには優しくしなければ。

「はい。本日午後より休暇をいただきたいのです。

ユウキ様には申し訳ないのですが、急に家族が私と面会に来るとのことでして……」

そうしょんぼりとしながら言うソフィアがかわいい。真面目だなぁ。

「大丈夫だよ。ソフィアは普段からがんばってくれてるからね。

むしろ日頃頼りっぱなしな駄目男で申し訳ないと思ってるんだ。

たまにはソフィアも羽を伸ばしておいで」

本当に、頼りっぱなしなんだよ……。

この世界でソフィア以外の全ての人間はまだ信用できない。

結果俺は2歳も年下の少女になんでもかんでも頼りきりの駄目男と化している。

「いえ、そんなことは!

ユウキ様はこの世界を救う勇者様の父君になられる尊い御方です!

そのお役に立てることは光栄なことで、あの、その、とにかく、ユウキ様は駄目なんかじゃないです……!」

うるうるキラキラとした瞳でソフィアが熱弁してくれる。

なんて、いい子なんだ……。

俺を勇者のオマケじゃなくて人として扱ってくれるのは君だけだよソフィア。

「あっ……!も、申し訳ございません」

ソフィアにしては少し近づき過ぎたことに気がついた彼女が、慌てて身を離す。

「大丈夫だよ」

むしろもっと近づいてくれてもいいんだけど。なんかいい匂いしたし。


しかし午後はソフィアがいないのか……。

今日は間借りしている自室に籠城して絶対に外に出ないようにしよう。

俺は情けなくもそう硬く決意をした。


いいんだ。俺は勇者じゃない。





コンコン


む。誰だ。どうせ狙いはチンコだろう。

今日は俺とチンコを守ってくれるソフィアはいない。

俺は絶対にこのドアは開けないんだ!


コンコン


勇者もオマケも今日は営業終了なんですよ。

そのドアは開かないんですってば。


コンコンコン……


しつこいな……。

でも、無視無視。

ソフィアだったら【ユウキ様】とあの優しい声で声掛けてくれるし、それ以外の人間は俺じゃなくて勇者チンコ目当てだ。

自室になんか入れられない。


ダンダンダンダンダンッ!!


しびれを切らしたらしきドアのむこうの誰かが乱暴にドアを叩いてくる。

ひえええええ。

なんでここの女は基本的に過激なんだ!

そんな乱暴に来られたって勇者チンコが竦み上がるだけだって何故わからない。

ドアノブがガチャガチャと乱暴に回され、ドアがバンバン叩かれている。

部屋の鍵はしてあるし、それが外されてもドアノブは縛ってあるしドアの前には部屋中の家具を配置してバリケードにしているが、このファンタジー世界の女たちはこれぐらい吹き飛ばしてしまうかも知れない。


こわい。

こわい。

助けてソフィア……!


「ちっ……」


部屋の外で低い舌打ちが聞こえたかと思うと、ドアへの猛攻が止んだ。

た、助かった……か?

どうかそのまま今日は諦めてください。

明日、ソフィアといっしょにならご用件聞きますから。

たぶんチンコだろうけど。そしたら断るけど。

やっと訪れた静寂に少しだけ胸を撫で下ろす。


ガシャーンッ!!


ほっとしながらも警戒を怠らずにドアを注視していると、背中側から盛大になにかを破壊する音が聞こえて来た。

まさかバルコニーから入ってきたのか!?ここ、3階だよ!?

恐る恐る振り向くと、そこにはやはり破壊された部屋の窓。

そしてメイスを持ったソフィア(・・・・)がそこにいた。

「ソ、ソフィア!?」

どうしたんだソフィア!君まで勇者チンコをそんな乱暴に狙うのか!?

ソフィアだったら素直に言ってくれれば吝かでもなかったのに……いやいやいや駄目だ俺!

俺がよくてもソフィアをそんな勇者のためと脅して手込めにするような真似、ちょっとしちゃおうかと思ったけどやっぱり16歳の美少女にそんな無体はできないと思い直しただろ!

「ユウキ様、緊急事態です!どうかこちらに!」

切羽詰まった表情のソフィアがそう呼び掛けてくる。

チンコじゃなかった!

そうだよねソフィア!俺は信じてたよ!

だいたい今日はご家族に会うとのことだったんだ。

緊急事態でもなければこんなところにソフィアが居るわけないし、窓もぶち破るわけないし、だいたい窓をぶち破ったせいで大切なベッドがガラスまみれになっている。

初めては、さすがにベッドじゃないと、ねえ?

よってソフィアはチンコ狙いじゃない!

「あ、ごめん。手伝うよ」

気がつけばソフィアがバリケードをテキパキと退けている。

しかも俺がひいひい言いながら移動したローチェストもひょいひょい簡単に動かしている。……意外に力持ちなんだな。

自分の情けなさにへこみながらも俺も手伝い、どうにか人が通れるだけのみちを確保した俺たちは、即座にソフィアの導きで城の中を走り出した。


……ところで、緊急事態ってなんなんだ?


ソフィアも無言のまま走っているし、声をあげればその緊張事態とやらに捕まってしまうのかもしれない。

そんな気持ちで黙ってソフィアのあとを追う。嘘ですカッコつけました。

ソフィアの足があまりに早くてただ黙って必死に追いかけることしかできなかっただけです。


走って走って走って走ってたどり着いたそこは、どうやら誰かの自室のようだった。

そこは俺の与えられている部屋よりもかなり狭く、簡素な造り付けの家具がわずかに有るが、部屋のほとんどはベッドで占められているような小さな部屋だった。

「……ここ、は?」

まだ落ち着かない息の合間にそう尋ねる。

ソフィアは周囲の警戒を続けているようで、窓の外や部屋の中までもなにやらあれこれ確認しているようだ。

「私の、自室です」

確認を終えたらしきソフィアが、最後に部屋のドアの鍵を閉め、ドアを背にしたままそう告げる。

……ソフィアの、じしつ?

……ソフィアの自室!?

女の子の部屋なんて、初めて入った!

初めて、女の子の部屋に、入ってしまった!

言われてみればなんかいい匂いしてる!

ということは目の前のこれはソフィアが普段寝ているベッドなのか!

いや馬鹿なにを考えてるんだ俺!

今は緊急事態なんだぞ!?

「ユウキ様……」

わたわたと挙動不審になる俺をよそに、ソフィアがぐいと俺との距離を詰めてくる。

その瞳は潤み、頬はピンク色に染まり、吐息はわずかに熱くなっているようだ。

「……へ?」

まさか、本当に、ソフィアまで、チンコを狙うのか?

やっぱりピンクは淫乱なのか!?

ああ、いや、でも、ソフィアだったら淫乱でもいいかも……。

いや違う!単にここまで走ってきたからこんな風になってるだけで、ソフィアは、ソフィアは恥ずかしがり屋さんなんだ!こんな、こんな自分から迫るようなことなんて……!

「どうか、私めに、お情けを……」

ソフィアが熱い吐息にのせ、そう言ってくる。

やはり勇者チンコ狙いか……!

どうしたソフィア!?ご家族に何か言われたのか!?

ソフィアの顔が、唇が、こちらに迫る。

ベビーピンクのふわふわの髪、同じくベビーピンクの大きなうるんだ瞳、透けるように白い頬すらも今はピンクに染まり、視界がピンク色で塗りつぶされてしまったようだ。

唇までぷるぷるのピンク色で……。

俺は、俺は……。

ああ、なんかもう、このままいただいてしまってもいいんでは?

据え膳食わぬは男の恥というじゃないか。

シチュエーションはあまりに唐突だったけど、相手はソフィアなんだし。

ソフィアの気持ちがどうのと言ったって、むしろ彼女から迫って来てるんだし。

自分の鼻息が荒くなってくるのがわかる。

ああ、ソフィア……!

もう互いの唇は、触れそうな程に近い。

せめてファーストキスくらいは奪われるんじゃなくて、自分からしたい。

震えながら、唇を合わせる。

柔らかい。

いいにおいがする。

ふと違和感を感じ、唇を離した。

「君は、誰だ……?」

半ば無意識で、そんなことを言ってしまった。

ソフィアも、俺も、動きが止まる。

何を言ったんだおれは。

目の前にいるのはソフィアじゃないか。

この顔立ち、姿、ソフィアだろ?


いや、でも、香りが、違った。

今朝嗅いだ香りとは、違った。

この部屋の香りとも、違った。

甘くて甘くて香りまでもピンク色みたいなソフィアとは違う、もっと爽やかで、きりりとした、そんな香りだった。

「……ちっ」

ソフィア(・・・・)が舌打ちをする。

そうだ。

ソフィアは、舌打ちなんかしない。

この子は、ソフィアなんかじゃ、ない!

「……な!なああああ!?」

突然に何かで上半身をぐるぐる巻きにされ、俺はベッドの上に乱暴に突き飛ばされた。

目の前の彼女は俺のことを冷徹な瞳で見下ろしながら、俺の上にのし掛かってくる。

「君は誰だ!?本物のソフィアはどうしたんだ!」

足だけでじたばたと抵抗しながら、必死に問い詰める。

「安心しろよ。姉貴は呑気にお袋たちとダベってるから」

姉貴……?ソフィアのことか?ということは、目の前のこの子は。

「俺は、フィレイ。お前のかわいいかわいいメイドさん、ソフィアの双子の弟だ」

そう言いながら()はいとも簡単に俺の足をつかみ、俺の抵抗を封じてしまう。

悲しいことにびくともしない。

「単に極度の恥ずかしがり屋でせっかくいいポジションとってんのに勇者に特攻かけらんねー姉貴の代打で俺が来ただけだから。

しかし、まさかバレるとは思わなかったなー。ここまですると、親でも騙せんだけど」

そう言いながら彼が指を軽く振ると、彼の姿がぐにゃりと歪む。

次の瞬間には彼の瞳も髪もペールブルーへと変わり、髪も短くなっていた。

これが、彼本来の姿なのだろう。

俺がその変貌に呆然としていると、けらけらと愉快そうに彼はわらった。

「そこまで姉貴が好きだなんてな。

俺はちょっと感動したよ!

ん?じゃあ、姉貴の姿の方がいいか?」

言いながら彼はまた指を振り、ソフィアの姿へと戻る。

こうして繰り返されるとよくわかるが、色合い以外はこの双子は本当にそっくりだ。

「さあ、ユウキ様、リラックスなさってください」

ソフィアの顔で、声で、優しくそう言われると、ついつい体の力が抜ける。

「……あ!ああ!」

うっかり体の力を抜いたその瞬間、俺の下半身はすっかり裸に剥かれてしまった。

「んだよ勇者起きてねーじゃーん……」

楽しげだったフィレイは、急にテンションを下げ、ぺたぺたと無遠慮に勇者を触る。

「やめろやめろやめろ!触んな!

だいたい俺とお前じゃ、勇者できねーだろ!?」

そうだろ!?さすがに異世界でも男同士で子どもはできないだろ!?

「あ゛?」

不機嫌なままの彼が俺の顔を睨み付ける。

ひいい勇者が縮こまるぅ。

なんなのこの子。顔はソフィアそっくりなのに、中身は全然違うじゃないか!

「……タネさえ手に入れちまえばこっちのもんなんだよ。

実際産むのは姉貴だから安心しろ」

全く安心できないことを言いながら、ふいに彼はその手を離す。

「お前相手じゃたたねえよ!!」

だからさっさと諦めろ!

そのまま俺に服を着せ、さっさと自室に帰してくれ!

「安心しろよ。たたせてやるから」

ニヤリと彼がわらう。

気がつけば彼の手には何かの液体が入った瓶が握られていた。

「それは、まさか」

怯え切った俺の様子に、彼は実に楽しそうに高笑いをする。


やめろ!

なんでこの世界の住人は揃いも揃って俺の童貞の前に俺の処女を狙うんだ!



「無理無理無理無理無理無理っ!!」

「だーいじょーぶだーいじょーぶ。

リラックスリラックスぅー。

……ほら、ここ、だろ?」

「やめ、やめっ……!ダメダメだめぇっ!」

「へーきへーき」

「むり!むりだから!あっ……!」

「ほら、やっぱり。ここだろ?

俺はあいつらと違って優しくするから、な?」

「やめてっ……!やめ、あ!」



「ここまでしても、イかないとか。

……お前、ビョーキ?」

最後は何故か同情されて、やっと俺は、解放された。

結果として、ちょっとだけ勇者は元気になりかけたが、さすがは勇者、ぐっと堪えてくれた。ありがとう勇者。


ただ、もう、俺は、お嫁に行けない……。


翌朝、何にも知らないソフィアはいつものかわいらしい笑顔でいつものようにかわいらしく挨拶をしてくれた。

しかし、フィレイと同じその顔を見たその瞬間、俺はなんだか居たたまれなくなって、尻を押さえながら逃走したのだった。


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