Part/END 折れた2本の剣
うぇい
「お前を殺す!例え刺し違えても殺す!」
「フッ、頼もしいな、その体でどこまで持ちこたえるかな?」
激昂した俺は何度も何度も斬撃を繰り出すが、奴は避けたり、受け流したりするため、全くダメージが入らない。
「がぁぁぁ!あぁぁ!がっ!だぁぁぁ!」
「軌道がどんどんずれているぞ」
奴が冷静に言葉を発する中で、俺は気付いた。
それは、ヴァニッシュの能力が通じていない事。
「何故、通じない?!」
「何故か教えてやろうか?俺の持っているこの剣は全ての能力を無効化するんだ、残念だが、お前に勝ち目はない」
「嘘…だろ?!」
目の前で起こっている状況を俺は理解した。奴は効果を無効化した、ただそれだけの事だった。
それでも、俺は諦めずに何度も斬撃を繰り出す。
「何度やっても同じことだ。貴様には言葉も通じんのか?」
「黙れェ!この蛆虫がァ!」
しかし、奴が言っていることは正しく、俺を乗せるための罠でもあった。
「くっ!くっ!」
「だんだん動きが鈍くなっているぞ」
突然放たれたその言葉に気づいた時には、横腹に奴の剣が突き刺さっていた。
「……ここは?」
とても真っ暗な場所。何かがあるわけでもなく、俺だけがただ1人居るだけ。
「…そうか、俺は…死んだのか…」
寂しい世界に虚しい声が谺響する。
「そんな事は無い」
ふと、そんな声が聞こえた気がした。
見上げると、そこには一つの小さな光があった。だんだん、大きくなり、数多の世界を映し出す。
青い大海原。
砂の大地。
夜にならない氷河。
暑苦しそうな森。
そこには俺の知らない世界があった。
そして、雲一つない晴天に架かる……虹の架け橋。
「……。こんな所で死んでられっかよ!」
彼の動きが最機動する。
星の…いや、星屑の光と共に!
「終わりか…ん?今、何か気配が——」
それが奴にとって最後の言葉だった。
「お前が見ているのは……残像だ……クリムゾン、エンペストスラッシュ!」
彼がそう言い放つと、おぞましい音とともに、神殿は崩れゆく。
その後、すぐ近くに倒れていた少女に近寄る。
「ナノア!目ぇ覚ませ!」
だが返事は無い。
「どうしてだよ、どうして何だよ。あの時お前は……なんて言ったのか俺には聞こえなかった。だから目を覚ませ!」
それでも少女、いやナノアの目は開かれない。
「お前は俺に会った時、助けてくれた。何があってもその事実は揺るがない!だから、今度は俺がお前を守る!そう誓った!けど……俺は守れなかった。許してくれ、ナノア……」
俺はありったけの思いをぶつけた。そして、その思いが届いたのか、ナノアは少しだけ目を見開かせている。
「ナノア!」
「カル……ト、私は、あなたの事が……好きと……言ったのです。だから……あなたも……私の事を、好きに……なって……ね」
言葉を言い切ると、少女は動かなくなった。
「ナノア……くっ!神器、ヴァニッシュをナノアの命に継ぐ!媒体は……俺だ!」
そう言うと、彼は自然に倒れた。
「うん?」
ナノアは突然目が覚めた。そして近くにいたカルトに気づき、話しかける。
「カルト!どうして……まさか、自分の命を犠牲にしてまで、私を助けたのです?!どうして?何で私なんかを助けちゃったのです?!」
ナノアは涙を流しながらそれでも続ける。
「カルトは、私をどう思ってたのです?まだ答えを聞いてないのです……何で…私は!カルトのそばにいれれば、幸せなのです!私はカルトが好きなの!です!だから……」
そう言ってナノアは仰向けになっているカルトの口に唇を重ねる。
「だから……死なないで……」
「カルト!ナノア!応答して!」
船内で叫んでいるのは、ナノラ。
2人がアトランティスの中に入ってから、もう5時間が経つ。
神殿は所々崩れ去り、神殿の内部が見える部分もある。
「早く、戻って来て……」
翌日、完全に崩れ去ったアトランティス神殿の中で2人の人が倒れていると新聞で話題になった。
その後、世界は平和になったそうだ。
英雄は、伝説を残して去る。
彼の言葉であった。
END
終わり!