モデル初心者~7~
(これでもう逃げられないな、妹に『頑張れ』って言われたら)
「よしっ!」
凛はステージの横にある簡易な控え室へと向かった。
「早かったな……髪どうした?」
俺はトイレに行ってカツラを付けて来ると言ったのに髪には手を触れず元のまま来たのが不思議だったのだろう……
「あ、いや。このままでいいかなって……」
「そうだな、別にそのままでも大丈夫だろ」
凛はもともと顔が母親に似ていたのでただ女装しただけでも女子に見えるのだ。
凛はこの事を嫌がっている訳ではないが良く女子と間違われるのは困っているのだ。
特に昔は無口だったのですぐ女の子と間違われて女物の服を着させられそうになったこともあった。
「ああ、それよりそろそろ先輩方からコンテストが始まるんじゃないか?」
凛が時計を探してキョロキョロしていると
「そうだな、開始時刻だ」
永井が腕を見ながら答えてくれた。
どうやら腕時計をしていたようだ
「ありがと、でも腕時計したままコンテスト出るのか?」
「えっ?ああ、そうだな、はずそう……」
永井はちょっと恥ずかしがった表情をして腕時計を外した。
「ちょっと席に置いてくるね」
そう言って立ち上がり控え室を出ようとすると、
「永井さん!いますか?人数確認のためにこちらに来てくださーい」
運営の生徒会が永井を探しに来たのだった
「おっと、どうしよう……」
「俺が置いてくるよ」
「いいのか?」
「大丈夫だろ……俺がここを抜け出しても怒られないさ」
「そこじゃなくて……まぁいい、頼めるか?」
「大丈夫、席に起きてくるだけだから」
「ありがとな」
「どういたしまして」
そう言って中腰で立ち上がるとこの簡易な控え室を抜け出して腕時計を置きに行くのだった。
(てか、どっかに置いておけばよくね……)
そう思い、凛は時計の裏にあるブランド名を見た
(あー、これ結構高いやつだ……これはその辺に置いて置けないよな)
控え室を出るともう3年生達がステージに上がっていた。
さっきまで女子に送られていた歓声や声援ではなく、笑い声や野次が飛び交っていた。
(俺も見られたら不味いな……早く置いてこよう)
しかし、現実はそう簡単に物事を進めてはくれないようだ……
「ちょっと待て!そこのお前!」
「は、はい」
内心ビクビクしながら恐る恐る振り返るとそこには巻乃 季乃璃さんがいた。
「本日、女子は学ランを着てコンテストに参加しているはずだ……お前は何故学ランを着ていない?」
(コッワ、巻乃さんコッワ……)
「えっとですね……自分は男子なのですが……」
「嘘を言うな!そんなわけ、ない、だろ?……アレ?」
巻乃さんは顎に手を添えて何やら考え出したようだった
「しょうがない、名前を教えてくれ、あとクラスも」
「は、はぁ、名前は中条 凛です。クラスは1年1組です」
俺は正直に名前とクラスを教えた。
「ちょっと待っててくれ」
そう言うと巻乃さんは1年1組の女子が座っている座席に向かった。
そこで1組の女子と何やら確認をしているようだった。
恐らく、俺が本当に男か確かめているのだろう……
話が終わったのかこちらへ歩いて戻ってきた。
「ふむ、疑って済まなかった。女装が良く似合うな、見間違えて閉まった。時間を取って済まなかったな。また今度改めてお詫びに行きます」
「いえいえ!大丈夫ですよ!」
「いや、詫びをしなければ私が私を許せないのだ……すまぬが付き合ってくれぬか?……それとも、私と会うのが嫌なのか……?」
(出たっ!かわいい女子が良くやる上目遣い!しかも涙目で泣きそうな声で!断れなくなるだろ!!)
「わ、分かりました!時間はいつでも空いているので声を掛けてください」
「えっと、会いに行くと注目されてしまうのでLINEだけ交換してもらえますか?」
「分かりました」
(友達(?)の連絡先が新たに記録された)
「ありがとっ!また、連絡するね」
そう言うと爽やかに『くるっ』と回ると今まで通りしっかりとした歩みで離れていった。
男子に厳しい?そんな噂を聞いていたがここで会話をしている限りそんなふうには見えなかった。男子に対してもしっかり謝ることが出来るいい子だった。
3大美少女の1人は周りが勝手にきつそうなイメージを作っているだけなのかもしれないな。
特に最後、『くるっ』っと回った時の綺麗な黒髪と少しだけ見せた笑顔が頭に残っている。
出来ればこれからも友達でいられるようにしたいな……
「そうだ!やっべ!本来の目的を忘れていた!」
凛はスグに時計を永井の席に置いて目立たないように簡易な控え室に戻るのだった。
◇◇◇
「巻乃さん、遅かったですね、何かあったのですか?」
「ああ、ある女子生徒が学ランを来ていなかったので注意したら男子だったんだよ……あれは凄かったな……1組の男子だったんだけど確か……中条くんだったな。1組が出る時に見てみるといい」
「そんなに凄かったんだ!楽しみだねー」
そんな会話が1年2組の女子生徒間で行われていた
当の本人は何をしているかと言うと……
(大丈夫だよね!バレないよね!バレたらどうしよう!!)
心拍数をはね上げながら色々な災厄の事態を想像していた。
「凛、大丈夫か?顔が真っ青だぞ……」
「だ、大丈夫、だ……です」
「おいおい、語尾がおかしくなってるぞ……」
今ステージは2年4組が上がっている。
次の5組が終わると遂に1年1組の出番となる。
緊張するのも無理はないのだ……
「大丈夫だって、ただ立っていれば終わるんだからな」
「そ、そうだな……です、ね」
「やっぱ語尾おかしいぞ」
そう言いながら永井は笑っていた。
歓声(?)が止んでまた歓声が上がる。
多分5組が登場したのだろう。
「では、一組さーん。移動しまーす!こっちに付いてきてください!」
運営の生徒会が次のクラスを淀みなく登場させるべく奮闘していた。
「行こうか」
永井は立ち上がると準備体操を始めた。
なにしてんだ?と聞くと
何となく、と答えて移動を開始した。
5組が終わって歓声があがった。
そして、これから1組が登場するという時、事故は起こった。
(や、ヤベぇ!)
シュル、と髪を止めていたゴムが取れ、髪が広がったのが分かった。
今、凛は髪型はストレートになってしまっている。
「登場お願いします!」
生徒会の指示に従ってみんなが登場していく……
(どうしよう……!でも、出なきゃ行けないし……)
凛はまだ躊躇っていたが責任感があるお兄ちゃんの血が責任を放棄するの辞めさせ一かバチかの賭けに出たのだった。
凛も登場する。
それまで飛び交っていた声援(?)……いや、野次が止まり会場が静寂の時間を迎えた。
少し時間が経つとある独りが
「なんで女子が混ざってるんだよ!女子を女装コンテストに出したら優勝に決まってるじゃん笑笑」
と話し出した。
これに反論する声はなく、誰もが女子だと思い込んでしまっていた。
この時、巻乃は、
「どうだ?あれは見間違うだろ」
「確かに……女の子にしか見えないよね……」
「うんうん」
巻乃の話を信じていなかった者達が巻乃の意見に賛同の意を示しただった。
「えっと、審査員の方々……採点は宜しいですか?」
近くにいた生徒会役員がOKの札を見せると司会が、
「それでは!1組の皆さん退場お願いします!」
こうして奇妙な一幕が終わったのだった。
ステージを降りて自分たちの席に戻る
(はぁ、ついでちゃったけど誰にもバレて無いかな……?)
「凛!決勝戦進出おめでとう!カツラ持ってたのか……」
「えっ?いや……そうそう、ちょっと恥ずかしかったから……」
(危ねぇ、自分から地毛ですと言いそうになったわ……それより、また決勝にも出なきゃいけないんだな……)
自分たちの席に戻るとちょうど自分の話を女子達がしていた。
「中条くん凄かったねー」
「ねっ!私も女子かと思っちゃった!」
(だめだ、胃がもたねぇ)
「永井、ちょっとトイレいってくる」
「今度は何だ?」
「タダのトイレだよ……」
そう言って席を立ちトイレに向かって歩いて行く。
体育館を出てスグのところで話しかけられた。
その相手は、
「一華っ!どうしてここに?」
「別に、お兄ちゃんのことを褒めようと思っただけ……」
「そうか、ありがとな……もしバレても俺は一華がいれば!」
「そう、私はお兄ちゃんがぼっちになったら一緒にぼっちになって上げるよ……」
「あの~一華さん、それって結局『あんたなんかと話さないわよ、話すぐらいならぼっちでいい』って事?……いって!何すんだよ……」
「知らない……!」
一華は凛の脛を蹴ると足早に自分の席に帰ってしまった。
(なんでお兄ちゃんはそういう解釈しかできないのかなぁ……)
「何だったんだろう……とりあえずバレないように言い訳でも考えておくか……」
こうしてステージにあがった。
髪は一応カツラと言うことにしてと、顔は遠くてあまり見えていないはず……
バレてないと祈るしかない……
こうして、バレる危険性80%越えのイベントをこなした凛だがこの後にまだ決勝と言う意味不明な追撃がかかって来るのだった
今度落ち着いて見られたらバレてしまうかもしれない……
(いてて、胃が……本当に胃に穴が開くんじゃねぇの……凛はそんなことを考えていた。いや、そんなことではないか、穴が開くのも問題だな……)
放送でアナウンスが入り昼休憩として1時間、時間を取ったらしい。
早く永井の所に戻ろう……っとその前に、我慢していたトイレのことを思い出してトイレに向かうのであった。
少し遅くなってすいません……
今回の観客のリアクションの表現が難しくちょっと変な所もあると思います。
何かありましたらアドバイスや感想よろしくお願いします!
今日はコミケに行ってきました。
軍資金が少ない中行きたかったサークルは見て回れたので良かったです。
次回もよろしくお願いします!