モデル初心者~6~
遂に新入生を迎える会当日、天気は晴れ、風もそよそよと吹いており心が安らぐようなとてもいい天気なのだがここに1人そんな天気と真逆の人間がいた。
(やばい……腹痛い……このまま学校休もうかな……)
そんなことを考えながら凛はトイレに篭っていた。
前日の夜は今日のことを考えて早く寝て心の準備をしていたつもりだったのだが今朝になって登校の時間に近づくとお腹が痛くなってきたのだった。
嫌なことがあると何か理由を付けてサボりたくなる人間の心理なのだろう。
(でも、華巫女さんに制服を貸さないと大変なことになるし……仕方ない!頑張って学校行くか)
凛はトイレから出て制服に着替えようと自分の部屋に帰るが
「ト、トイレ……」
すぐにトイレに帰ってくるのだった。
しばらくトイレと自分の部屋とを往復しているうちに段々と体調が戻りやっと学校に行く準備が出来た。
「一華~、学校行ってくるねー」
「おけー」
(てか、お前も一緒に行こうよ……)
◇◇◇
中条家から学校への行き方はまず自転車で駅に向かう。これが大体10分位、その後電車に乗って行く。これが20分位、そして最後に……
(この坂か……辛い)
そう、凛が通っている学校は高い所にあるため毎朝急斜面を登らなくてはならない。
長さは大体50m、周りには桜の木が並んで植えてあるため春は桜の雨が降る。
春以外は葉が生い茂っけいるので夏は木陰ができる。
「はぁ、はぁ、はぁ~、着いた……」
一般人はみんなこの坂をぜいぜい言いながら登ってくる。
それに比べて
(いいなぁー、車で送ってもらってる金持ちは……)
この学校は東京の中でもとても綺麗な学校なので金持ちも普通に入学してくるのだ。
(はぁ~、コンテストが嫌で元々足が重くなっているのに坂のせいでもっと体がだるくなってきた。精神的にも肉体的にも辛いな)
「こんにちは、凛さん」
「え?ああ、こんにちは華巫女さん」
(焦った、登校中に話しかけられたことなかったから)
「どうしたんですか?『え?』って」
「ああ、華巫女さんは普通に歩きなんだなって……」
(なんか意外だな、華巫女さんは車とかで来てるイメージがあった。金持ちっぽいし……)
「ええ、私は歩きで来ているわ。坂を歩くことでダイエットなども必要ありませんし……車だと周りからの視線がちょっと、ね」
「ああ、そうですね。とりあえず教室へ行きますか」
「そうね」
教室へ向かう間華巫女さんと色々な話をしてくれた。
華巫女さんは色んな話の話題を持っていて話していて面白い人だと思った。
(今まではあまり話すようなタイプだとは思っていなかったけど……多分ゆっくり話す機会が無かっただけだったんだな……)
教室につく少し前に制服をどこで交換するか話した。
「後で体操服に着替えて渡しに行きますよ。それに着替えたら渡して貰えればいいので」
「ええと、今着ているやつだとちょっと困っちゃうと思って冬服を持ってきたのですが……」
「え?わざわざいいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。クリーニングなども不要です」
「あ、ありがとうございます!」
「これが冬服ね、ハイ」
華巫女さんは冬服をカバンから取り出して渡してくれた。
「ええと、俺は今着ているのしかないんですが大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「すいません、後で渡しに行きますね」
「分かりました」
ちょうど教室に着いたので話をやめて自分の席に着いた。
(女の子から何かを貸してもらうなんて今まで無かったからめっちゃ嬉しい……けど、これからコンテストだと思うと胃に穴が開きそうなほど心配になってくる)
今日しくじったらせっかくの高校ライフが完全なぼっち生活になってしまうからだ。
女装してモデルなんてやってるのがバレたら社会的に死す。
凛は絶対にバレないようにしようと改めて強く思うのだった。
「いたいた、おい凛……華巫女から制服借りれたか?」
永井は声を潜めて周りに聞こえないようにしながらからかってきた。
「借りれたよ。これってどこで着替えるの?」
「それなら……ハイ、これ」
近くにあった広告のチラシを持ってきてチラシの裏の下の方を見してくれた。
「えーと……」
凛がどこを読めばいいか探していると
「ココだよ。俺らは移動が無いね女子は隣の北棟で着替えるらしい……よいしょ!」
そう言って着替えを始めた。
周りを見ると女子が1人も居なかった。
(もうちょっと周りを見るようにしよう……)
「そう言えばさ、カツラとかってどうすんの?借りれたりするの?」
「それは自分で持ってくるもんだよ……もしかして持ってきてないの?」
「えっ?いや、あるよ……」
(てかもう付いてる。長い髪が……)
「そうか、ほんとに困ったら生徒会に言えば貸してくれるよ……多分」
「そ、そうだな」
(それよりどこで着替えよう……ここで髪をおろしたら永井にバレるし)
「どうしたの?」
「い、いや大丈夫だよ」
(髪をおろさなきゃいいか……)
◇◇◇
あれから準備時間が過ぎコンテストが始まろうとしていた。
「これより新入生を迎える会の男装女装コンテストを開催しますっ!司会は私、放送委員会委員長の多沼がお送りします!審判団、審査員はこちらです!えー、時間が押しているので紹介はカットさせていただきます。それでは男装コンテストを開始します。3年1組から順番に審査していき最終的な優勝者は決勝進出をした者の中から選ばれます。それでは3年1組の皆さんからよろしくお願いします!」
司会の話が終わるとステージの幕が上がり学ランをきた3年生が出てきた。
これに対して客席からは、
「おー!!」、「めっちゃ似合っとる!笑」、「ヤベぇー萌える!!」
など色々なコメントの嵐が巻き起こった。
しかし、これを言っているのは男子である。
今の男子は普通の格好ではなく女装をしているのでオカマが叫んでるようにも見える。
これはなかなかのエグい光景だった。
「3年生が終わり、ここからは2年生が登場します。2年生にも大きな声援を送って上げてください!」
そう司会が言うと、客席の男子(女装)が大きな声援を送り始めた。
「なんかすごい騒ぎだね!」
「そうだね!でも、こんなに盛り上がるってことは来年もありそうだけどね……」
「そうだな、でも楽しければおっけーだよっ!」
(楽しそうでいいなぁー、俺は死にそう。主に社会的に……)
2年生達にも大きな歓声が上がりすごく盛り上がった。
しかし、忘れてはいけない。
ここ、私立東京聖蘭高校にはモデルとして活躍する華巫女さんと橋野さんがいる。しかも同じ学年の同じ組に。
男装コンテストの優勝候補第一位と第三位がいる。
男子(女装)達は華巫女さんと橋野さんが出てくるのを今か今かと待っていた。
「続いてのクラスは1年1組の皆さんです!」
司会がそう告げると会場が割れんばかりの歓声が響いた。
そこにいたのは、
茶髪と金髪の少女、いや違う。学ランをきた男の娘の様な可憐な姿があった。
華巫女さんは長い金髪を畳んで凛のなんちゃってボブみたいなものを作っている。学ランも男子のものなのでサイズがあっておらず更にステージという遠くにいるため小さく見えていつもはお姉さんキャラの華巫女さんが頑張っているボクっ娘妹のようになっている。
「すごい歓声だね!」
「ああ、特に3年生がやばいな……でも橋野さんもいいね」
橋野さんはいつも活発な活発系女子なので学ランが違和感なく着こなしている。髪も短く、更に茶髪なので男の娘のように見える。いつもは主張が激しい胸が大きめの学ランに隠れて更に極まっている。
「確かに……こんなの見せられた後に出てくる子が可愛そうだな……」
「だな……」
「続いて2組どうぞっ!」
もうそこまで大きな歓声は上がらないだろうと考えていた2人に不意打ちで大きな歓声が聞こえてくる。
「な、なんだ……?」
「あれだよ……」
永井が向いているステージに目を向けると忘れていた優勝候補二位が立っていた。
「確か彼女の名前は季乃璃さんだ」
「季乃璃さん?どんな人?」
「ええと、名前が巻乃季乃璃さん。今年一年生として入学した1年3大美少女と華巫女と橋野と一緒に言われている。あと……」
「せーのっ!」、「いのりん!いのりん!」
「ん?何だ?これは……」
「熱狂的なファンが付いているって」
「凄いな……」
「ああ、モデルをやっている2人には可能性がほとんどないからと異次元に見られていて、季乃璃さんはモデルとかじゃないし。それに性格がきつくて彼氏も作らないらしいからね」
永井は彼氏を作れるけど作らない位の人の方がファンは付くよねと言いながら最後にトイレに行ってくるといって席を立った。
季乃璃さんは黒髪ロングでみんなは男装するために髪をまとめて短くしていたけどそこをあえてロングのまま学ランを来ていた。とても凛々しくカッコよかったが男装でそれはありなのか……
2組が終わったあとは特に大きな歓声は起きずに普通の声援が送られた。
決勝進出した人は後ほど個別で呼ばれてステージで発表しそのまま優勝者を決めるらしい。
永井が帰ってくるとちょうど
「女装コンテストを開始します。出場される方は準備をしてください」
とアナウンスが始まった。
「俺もトイレいってくるね」
「トイレ?」
「カツラ付けてくる、ステージにはちゃんと行くから」
「分かった先に移動してる」
そう言って永井はステージの横へ向かった。
(早くトイレに行ってこよ……)
「どこ行くの?」
「ん?この声は……」
凛は恐る恐る振り返って後ろを見た。
「えっ!一華っ!どうしてここに!」
「ここは学校だよ……そんなこと言うなんてお兄ちゃんサイテー」
「なぁ、ほんとにそう思ってるならもうちょっと感情込めろよ……そう言えばコンテストには出てたか?」
「出てない」
「そっか……お前が出たら歓声が上がっていたもんな」
「お兄ちゃんは出るんでしょ」
「う、うん。出る……スルーかよ」
「頑張ってね……見てるから」
「なぁ、ほんとにそう思ってるならもうちょっと感情込めろよ……」
といつも通りのツッコミを入れた。
(これでもう逃げられないな……妹に『頑張って』と言われたら)
「よしっ!」
凛はステージの横にある簡易な控え室へ向かうのだった。
投稿が遅くなっていつもすいませんm(_ _)m
次回は遂に凛がステージに上がります。
髪はまとめてボブにしたまま出場するのですが
出場前にハプニングが起きて……
次回は誰にもバレずに終えられるんでしょうか!
次回もよろしくお願いします!
何か気づいたことやアドバイスなどありましたら教えて下さい。
少し違う話も考えているので少し投稿が遅くなるかもです。