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名探偵・藤崎誠シリーズ  ジュリア編

SIN肝試し

作者: さきら天悟
掲載日:2016/10/31

「なんだ、これッ?」

藤崎は素っ頓狂な声を上げた。

ペンションの駐車場に愛車を留め、降り立った。

そこには車の事に詳しくない藤崎でも分かるスーパーカーが6台あった。

赤や黄色のボディ、カメムシを潰したような、世界でもっとも有名な車の一つもあった。

藤崎は舌打ちした。

「車はT社が一番だ」と吐き捨てた。

藤崎は壊れないことに車の価値基準を置いている。

だから、大衆車、もっとも売れている車が好きなのだ。

「あんな車、デザイン費ばかりに金を取られて、

ちゃんと、耐久テストしてないだろう」

大衆車は不具合が出て、リコールされると会社が傾くため、

十二分にテストしている、というのが名探偵藤崎誠の推理、いや口癖だ。



藤崎はスーパーカーらを横目にペンションの玄関に向かう。

東京から一人で運転してきた藤崎は、汗ばんだ体をシャワーで流し落としたかった。

ここは新潟県、隣は金属加工で著名な市だった。



「お久しぶりね」

ジュリアが笑顔で出迎えてくれた。


「久しぶり」と藤崎は右手を少し上げ、応えた。


ジュリアは大股で藤崎に近づき、両手を大きく広げる。

藤崎は両手で拒む素振りをし、ジュリアの顔を見上げた。

「ごめん、ちょっと汗かいてる」


ジュリアは構わずハグをした。

藤崎を包み込む。

170cmを超えるジュリアがヒールを履くと藤崎より大きかった。


今回はジュリアの依頼ではなかった。

相談だった。

だから、交通費も宿泊代も藤崎持ち。

でも、藤崎はジュリアに会いたかった。

彼女と出会ってもう6年になる。


ジュリア、本名ではない。

源氏名だ。

松井珠理奈に似ている。

新宿二丁目にいれば、ニューハーフにも。

ジュリアは珠理奈から取ったという。


出会ったのは、銀座のクラブだった。

大学院生の彼女はホステスをしていた。

学費を稼ぐのではなく、人脈づくりと言い切った。

そのクラブは超高級の部類で、官僚の時からこれまで数度しか合ってない。

しかし、彼女はいつも昨日会ったかのように接してくれた。

藤崎は心を鷲掴みにされていた。



「どうして連絡先知ってた?」


「銀座にいた頃、困ったことがあったら藤崎に連絡しろって。

今は名探偵をやってるから、

と厚生労働大臣になった太田さんに言われたの」


「太田のやつ」

たまにはいい事を言うと藤崎は思った。


「で、どう」


ジュリアの瞳は愛眼しているようだった。

藤崎には、銀座で鍛えたのか、本性なのか分からなかった。

「3、4つ考えてきた」


ジュリアは30歳になると起業した。

宣言していた通りだった。

祖父がいる町が寂れて行くの何とかしたい、と言って。

地方活性化に貢献したいという。

それにシングルマザーのためにも。

ホステスをしていたジュリアは多くのシングルマザーを見てきた。

ジュリアは起業し、彼女らを雇用したかった。


後ろで彼女を呼ぶ声がした。


「じゃあ、後で」

彼女はそう言いうと、藤崎に部屋のカギを渡し、客の方へ向かった。




藤崎は部屋に入った。

102号室。

景色は良くなかった。

窓からは赤いフェラーリが見える。

藤崎はニヤリとした。

ジュリアは自分を客ではなく、友人として招いてくれたと思った。

超ポジティブ思考である。

藤崎は立ち尽くした。

何か考え事をしているようだ。

その視線にはフェラーリがあった。

藤崎は荷物を置き、浴室に向かった。




午後8時、食事を終えた藤崎は、部屋で新たに資料を作っていた。

午後9時過ぎ、ノックがあった。

ジュリアだった。


ジュリアはソファに腰を降ろし、白い足を組んだ。

「始めましょう」


藤崎はジュリアの前に立つ。

「肝試し、ってどうかな」

藤崎は資料を渡した。


「肝試し?」

ジュリアは怪訝な顔をした。

「夏しかできないの?」


藤崎は資料で説明する。





「確かに田舎ならではね。

ある程度のスペースが・・・」

ジュリアは天を見つめる。

「リピーターにもなりそう・・・

段階的だし」

「資格って、いいかも。

資格商法は今流行りだよね」


藤崎は一つ大きく息を吸った。

ジュリアに前に立つ。


「ジュリア」と告げた藤崎に、彼女はハグをした。

「面白そう」と言ってジュリアは微笑んだ。




藤崎は資料を指差す。

「ちょっと、ここが問題がある」


「大丈夫よ」

ジュリアはニッコリと笑うと、さっそうと部屋を出て行った。






それから、3ヶ月が経った。

藤崎は再び新潟を訪れた。

ジュリアがオープンした『肝試し』は盛況だった。

オープンして2ヶ月、予約は半年先まで埋まっているそうだ。

ジュリアは「ありがとう」と藤崎にハグをした。

彼女の望んだとおり、ほとんどの従業員は女性だった。

一部、整備技術者を除き。

24時間営業しているが、深夜帯も女性が対応した。

「風俗よりも、ずっといい」とシングルマザーらはジュリアに感謝した。


藤崎はジュリアに敷地内を案内された。

広い敷地だった。

以前は鉄工所だったが、その会社は円高の影響で東南アジアに移転していた。

使い道の無い跡地のため、ジュリアは安く譲り受けていた。

工場施設を取り壊し、更地にするだけで、数千万円はかかるのだ。

ジュリアの行動力は絶大だった。

阿修羅のように動き、1ヶ月でオープンさせたのだった。




ブゥォォーン、ブゥォォーン。

爆音が響く。

赤い潰れたカメムシが鳴いている。

恐る恐る前に出る。

カメムシを操る男はジュリアに見つめられ、いっそう引きつっていた。

今日初めてこのイタリア車に乗るそうだ。

喜びよりも、やはり緊張が先立つのだろう。

電光掲示板が数字がカウントを続ける。

障害物が存在する敷地をカメムシは器用に避け、所定の位置に止める。

すると、カウントも止まった。


「さすがね」とジュリアが呟く。

「スーパーカーに乗れるのは最終段階だから」

ジュリアは男に向かって拍手する。


男はジュリアに頭を下げた後、悔しい顔をした。

「まだ、まだ遅いな」と漏らす。

最高タイムとは10秒の差があった。



ジュリアは藤崎に振り返る。

「誠さんが提案してくれた『男の肝試し』、大成功です」

そう言うと、ジュリアは微笑んだ。


そう、もう分かったかな。

藤崎はスーパーカーを使った『男の肝試し』を提案したのだった。

障害物がある狭い通路を通り、ギリギリのスペースに駐車する。

何度も、何度もハンドルを切り返しながら。

それもスーパーカーを使って。

もしボディを擦ったら、修理費で数十万。

男たちはビビる心を抑え、挑戦するのだ。

と言っても、いきなり挑戦できるわけではない。

段階を踏まなくてはならない。

3つの段階の資格を獲得しなければ、スーパーカーに乗れないのだ。

藤崎の思惑はずばり当たった。

スーパーカーに乗ってみたい男らが全国から集まり、深夜・未明まで賑わっている。

当初、町の人は、やって来る男らは警戒した。

それもそのはず、気合が入った格好、車で来る。

しかし一変、町の商店や宿泊所は歓迎に変わっていった。

ジュリアは施設内に飲食店を作らず、周囲に利益を還元したからだった。


広い工場内にもコースがあった。

冬でも営業できる。

また、その一角でスーパーカーの展示をした。

ジュリアは駐車場に眠るスーパーカーをオーナーから引き出した。

無料で整備する条件で。

オーナーらもジュリアと繋がりを持ちたくて喜んで提供したのだった。


こうしてジュリアの夢は少し実現した。





「ジュリア」と告げ、藤崎はジュリアを見つめた。


ジュリアも応え、藤崎を見つめる。


「付き合ってくれないか」

以前ホテルで言いかけた言葉だった。



「第一段階、クリアね」

ジュリアは藤崎に屈託のない笑顔を見せた。

SINシリーズはシン・ゴジラへのリスペクトです。

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