電車
私は通学電車が楽しみだ。何故なら『彼』に会えるから。『彼』はいかにも運動部らしく日焼けしていて、爽やかさがある。
『彼』といっても私の彼氏ではない。ただ電車という空間に一緒にいるだけで幸せな気分になれる人だ。
私はいつも電車の扉のところで本を読んでいる。そしてその本越しに彼をチラチラと見てしまう。
きっと彼女がいるんだろうなあ。私はそんなことを考えつつ、本から顔を上げた。すると、『彼』と目が合った。
え?
『彼』も私を見ていたのだ。私は慌てて俯いた。どうして?もしかして毎日見ていたのがバレた!?
「次の停車駅は○○高校前~」
車内アナウンスが耳に入ってきた。私の降りる駅だ。私は慌てて降りた。心臓がどきどきしている。どうしよう。明日から電車の時間をずらした方がいい?私は悶々と考えながら学校に着いた。その日の授業は頭に入ってこなかった。
翌朝、私は同じ電車で車両を変えてみた。これなら『彼』にもわからないし、少し遠いけれど『彼』の姿も見ることが出来る。私はそれからしばらくその車両で通学することにした。
そんなある日のこと、人身事故で電車が遅延していた。ホームには物凄い人が溢れ、電車は満員だ。でも電車に乗らなければ学校へ行けない。私はなんとか電車に乗ると、電車は発車した。
ぎゅうぎゅう詰めの車内。私はドアに押し付けられてしまった。く、苦しい!そんなとき、私の周りが少し空いた。ふと目の前を見ると、『彼』が私を囲うようにドアに手をついている。
「大丈夫?」
「は、はい、ありがとうございます」
少しの間の彼との一時。でも私はどきどきと心臓がうるさくて顔を上げられなかった。そんなとき下車駅に到着した。
「あの、ありがとうございました!」
私はそれだけ言うと、逃げるようにホームを走った。『彼』は何故同じ車両に……?それに私を庇ってくれたのは何故……?私は答えの出ない問いが頭の中をぐるぐるしていた。
そして帰りの通学電車に乗ると、『彼』がいた!私は突然のことにパニック寸前だ。『彼』は私に近づいてきて言った。
「今朝大丈夫だった?」
「え?え?今朝?あ!はい、ありがとうございました!」
「あのさあ、前から君のここと見かけてて、その、気になっていたと言うか……」
彼はしどろもどろだ。これって告白……?
「その、今度良かったら遊びに行かない?」
「え?え?私とですか?」
「あ、無理にとは……」
「……あ、えーと、お願いします……」
私は消え入りそうな声で答えた。私の答えを聞いて、彼は太陽のように笑ってくれた。