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恋愛模様  作者: 奈月ねこ
11/19

別れ話

「もう終わりにしよう」

「え……?」


 彼が突然口にした一言。それで私達のつきあいは終わってしまった。

 私は薄々感じてはいた。彼からのメールが減ったこと、会うことも少なくなったこと、会っても話さなくなったこと。原因はわかっている。彼女だ。私の友人の奈未なみ。彼女は私の彼氏に会いたいと言った。だから会わせた。その時から奈未が暗躍しているとは最近まで知らなかった。そう、奈未は私の彼を盗るために私に紹介させたのだ。

 奈未は可愛い。男性からももてる。それはわかっていた。でも友人である私の彼氏を誘惑するとは考えてなかった。

 最近になって奈未は言った。


「相手がどんな風に私を落とそうとするか興味あるんだよね」


 その言葉を聞いたとき、私は瞬時に察した。私の彼氏を盗ろうとしてると。そして彼は彼女の罠にはまった。彼女は相手が自分を落とそうとする過程が好きなのであり、相手とつきあう気はないのだ。

 私は悔しいと同時に彼に対しては気の毒にも思った。私達はもう戻れない。




「喜美枝ちゃん、一緒に帰ろ」


 私に声をかけてきたのは同じ会社の同僚。北嶋君。彼は私よりも年下のくせに私をちゃん付けで呼ぶ。


「北嶋君、私はあなたよりも年上なんだけど」

「喜美枝ちゃんは可愛いからいいんだよ」


 彼は人懐こく子犬のような笑みを浮かべた。

 そんな時だった。


「喜美枝!」


 奈未だった。彼と別れてから私は奈未とは距離を置き、警戒していた。もう友人には戻れないと思って。それなのに、私の彼氏を誘惑しておきながら私の会社へ現れるなんて!

 私は無視したかったが、そうもいかない。同僚の前だ。


「奈未、どうしたの?」


 ついキツい言い方になってしまった。でも奈未は気にした様子もなく平然と言った。


「一緒にごはんを食べようと思って。……あら?そちらは喜美枝の彼氏?」

「違うわ。同僚よ」


 北嶋君は私達のやり取りを聞いていた。


「初めまして。喜美枝ちゃんのお友達?」


 彼は楽しそうに笑った。


「ええ、そうです。もし良かったら一緒にごはんを食べに行きませんか?」

「え、いいの?」


 ああ、またか。北嶋君が奈未の犠牲者になってしまう。奈未は北嶋君にロックオンしたようだ。私はもう諦めていた。奈未が近くにいる限り、私に彼氏は出来ないだろう。


「悪いけど、私は今日は用事があるの。行くなら二人で行って」

「喜美枝ちゃん行かないの?それなら俺も行かないよ」


 私は驚いた。奈未を前にしてこんなことを言った男性はいない。案の定奈未は気分を害したようだ。だが、更に闘志を燃やしているように感じる。


「そう、それならまたにしましょ」


 奈未はおとなしく帰って行った。しかし、やはりというべきか、翌日から奈未は私の会社へ訪れては北嶋君を誘った。もちろん私も一緒に。私という建前が必要なのだろう。断り続けるのも限界になった頃、私は言った。


「わかったわ。食事に行きましょう。北嶋君、良かったら一緒に行く?」

「喜美枝ちゃんが行くなら行く!」


 またしても彼は子犬のように笑った。

 そして三人での食事。奈未は北嶋君へ熱心に話しかけ、私の悪口を言った。自分がどれだけ私よりも勝っているのかを誇示するように。


「喜美枝は彼氏の年収を気にするのよね。私はそんなことしないけど」


 奈未はさりげなく私を貶める。


「え?喜美枝ちゃん、そうなの?」


 北嶋君が聞いてきた。


「そんなことはないわ」

「またまた~。喜美枝ったら嘘はダメよ」


 奈未は楽しそうに私を悪く言う。私は北嶋君が私を誤解して、これからは近寄って来なくなるだろうと思っていた。


 翌日


「喜美枝ちゃん、一緒に帰ろ」


 北嶋君がいつも通りに話しかけてきた。


「北嶋君、奈未と会いたいなら私がいなくてもいいでしょ」

「え?奈未さん?俺は喜美枝ちゃんと一緒に帰ろって言ったんだよ?奈未さんは関係ないよ」


 私は驚いた。奈未の誘惑に負けてなかったの?


「でも奈未は……」

「俺は喜美枝ちゃんと一緒にいたいんだよ。奈未さんが言ってたこと、あれ嘘でしょ。いつもの喜美枝ちゃんを見てればわかるよ」


 私は更に驚いた。


「き、喜美枝ちゃん!」

「え?」


 北嶋君はハンカチを差し出した。それを見て私の目から一粒の滴がハンカチに落ちた。いつの間にか私の頬を涙が伝っていた。


「ありがとう……」


 私は北嶋君のハンカチを受け取った。


「喜美枝ちゃん、俺と付き合って」


 私は知らず知らずのうちに頷いていた。また涙が私の頬を伝う。


「ああ、もう!」


 北嶋君は私を抱き寄せた。


「泣くのは俺の前でだけだよ」

「年下のくせに」


 私は精一杯虚勢を張った。


「喜美枝ちゃんのそんなところが好きだよ」





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