戦争という名の……22
「化け物め……」
失礼なやつらだ……お前たちが弱いだけだというのに……
リズを含めた3人の転生者を相手にしていた……が、流石に3人を相手するのは辛いものがあるな……もっとも向こうの方が厳しい様子だが。
「威勢良く挑んできたにしてはずいぶん情けない様だな?」
やつらは俺が3人全員の能力を封じられないと考えて挑んできた……それは正しい。俺が封じられるのは1人だけだ。だが……
「うるさい! とっとと倒れろ!」
リズは俺に向けて武器を振りかざしてきた。
「バカめ」
俺は時を止めた……リズ以外の1人の能力だ。俺は止まっているリズを蹴りつけ再び時を動かした。直後、やつは壁の方まで吹き飛び激突した。
「惜しかったぞリズ? 3人で挑んでくるまではよかった。だが能力者の配役を間違えたな?」
まさかよりにもよって時を止める能力者とはな……それを逆手にとられているのだから滑稽というものだ。1人は重症で動けず、1人は気絶したのか床にぶっ倒れている。リズは軽傷だが疲労が見える。俺もそこそこ傷を負ったが大したものではない。少なくともリズを仕留める上で支障にはならない……勝ったな。
「ぐっ……」
「さてお前たちの敗北は確定した。もしここで降参するなら生かしてやってもいいぞ? 無論、続けると言うならば……死んでもらうが」
さあどうする? お前たちも今までのやつら同様死を選ぶのか? だとしたらバカなやつしかいないな。今後どうするか考えなくてはいけなくなる。わざわざこうやってだらだらと嬲って殺す……そんなものは時間の無駄であり、面倒以外の何物でもない。
「はっ……死ぬのはお前だ化け物!」
「なに? くっ!?」
「チッ……外したか……」
背後から攻撃された……なるほどまさかもう1人いたとはな。おかげで急所はなんとか逸らしたが他に直撃した。よく見ていなかったが身体強化されたこの肉体に傷をつけたということはそういう能力なのだろう。
「……まさかもう1人いたとはな」
「そうだ。てことで死ね化け物」
不意討ちならばともかく真っ向勝負なら受け止められる。とはいえ2人同時は流石に辛いものだ。更にナイフが飛んできた。放ったのは重症を負ってるやつだ。震える手でもう1本構えようとしている。
「ほう?」
更に気絶していたやつが起き上がり立ち上がった。そこそこ傷を負っているのか、ふらふらした足取りでこちらへと歩いてくる。
「やっちゃえ!」
……リリィを拘束していた能力者が、その能力の対象を俺へと変えてきた。
「よし! これなら……ぐっ」
「なめるなよ?」
この程度の拘束で俺の動きを止められると思ったか? バカめ。お前たちが今受けている俺の氷刃から武器を離して、切りつけられると思ったら大間違いだ。
「ふっ……だがお前はこれで動けない」
確かに動けなくなったな……あそこの死に損ないのナイフはともかく、そこのふらふらとしているやつの攻撃は避けられんだろう……
「そうだな。だがそこの死に損ないどもの攻撃で俺に傷をつけられると思うのか?」
リリィの方は普通に手を掴んで拘束しているようだ。だが能力をこちらのほうに集中しながらでは辛いだろう。まして俺の両サイドのやつらの疲労もかなりのもので、残り2人は能力も使えん死に損ないだ。身体強化したこの肉体に傷を負わせられたとしても、下手をすれば軽傷程度で終わるだろう。それは俺1人にここまでやったにしては中々笑える終わりだな。
肝心のやつらの希望はふらふらと1歩、また1歩となんとか近づいてくるが今にも倒れてしまいそうだ。
「どうした? 今にも倒れてしまいそうだぞ?」
やつは辛そうに激しく呼吸しながら近づいてくる。不思議なのは倒れそうで倒れないことだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あーあ……なんでこうなるのかなあ……こんなことなら裏切るんじゃなかったよほんと。いやでも結局変わらないか。
「いつまで寝てるの? それとも本当に死んじゃったかしら?」
目の前に広がる白く曇った空を、ぼーっと現実逃避しながら眺めていたら、今一番聞きたくない声によって現実に引き戻された。
仕方がないからで起き上がることにした。
「あーあ……最悪……」
服は泥と血で汚れていた……それだけでも最悪なのに、目の前のこの光景はもっと最悪だ。元々緑色の平原だったこの場所にもはや面影は残っていない。あの女によって真っ赤に染められ、ところどころ人間の手とか足とか内蔵なんかが撒き散らされててとにかくグロいし最悪な光景だ。
「あら生きてたの? 良かったわ~お前たちは脆いから~」
良かったなんて絶対思ってないのは知ってるから別にいいけど、この状況はとにかく最悪だ。着ている服も、光景も……そして今目の前にいるこの女もとにかく最悪で最低だ。とりあえずこことは違う綺麗な場所でお湯に浸かりたい……当然この女がいないところでね。
「まあいいわ~それじゃあ案内して頂戴?」
「案内? どこへ?」
確か……『あの男はどこ?』とか言ってた気がする。誰だが全然分からないけどね。あと結局訪ねておいて答える前に相手を殺すのもどうかと思うよねほんと。
「あら~とぼけなくていいわ……あの白い男よ!」
女がヒステリック気味に叫ぶと同時に体に再び悪寒が走った。
「あら? ごめんなさい? あの男のことを思い出したらつい……」
よく分からないけどその人はこの女に相当恨まれているらしい。可愛そうに……
「……分かったよ」
「そう。それじゃあ……あらあら邪魔するつもり?」
女の背後に1人の女の子……ウルが立っていた。女はウルの方をゆっくりと振り返った。
「誰かと思ったら下界に堕ちた神じゃない。それも愚かな小娘……」
「ふん、身の程を知らん人間風情が口を慎め」
ああ、ほんと最悪。今すぐ逃げしたいよ。なんなんだろう? これ僕いる必要ある? もう僕のいないところで勝手にやってほしいんだけど?
「あら~まだ気取っているの? お前ごときが……」
「ネチネチ、ネチネチとうるさいぞ老害が。1000年は経っているだろうに未だに鬱陶しく逆恨みをしているとはな。気持ちが悪いにも程があるわ」
1000年か~……確かに鬱陶しいなあ……
「……お前を殺してもあの非常な男はちっとも悲しんだりしないでしょうね~。残念だわ~。ええ、とても。でも邪魔をするなら……お前もここで染まれ」
ああ、始まっちゃうのか……どっちが勝つんだろ? まあどっちでもいいけど……
真っ赤な平原にもう一度仰向けに倒れた。どうせもう既に服も体も汚れてる。今さら血が付こうが、目の前で化け物たちがこれから争いを始めようが関係ないね。
「なめるな! お前ごときお父様のところへは絶対に行かせん」