ギルドという名の……
「この町には何の用で」
俺たちは町の入口にある門にいた。そこにはおっさん(そこイケ)がいて検問をしていた。俺はとりあえずおっさんに金入りの袋を渡した。
「ギルドへの加入だ」
これは嘘ではない。ギルドに加入することには色々と利点がある。転生者のなかにはギルドに入っているやつもいる。ここで入っておけば……。あと今後生活していくための費用が必要だ。ある程度は手持ちがあるが、それもすぐになくなるだろうしな。
「まあいいだろ。だがさわぎは起こすなよ? 最近の妙な事件で町のやつはピリピリしてるからな」
「妙な事件?」
「ああ、最近窃盗事件が起こっていてな。それが妙なことに変なものばかり盗んでいくんだよな」
変なものね~……
「金品とかには目もくれずに鍋やらドアやらの取っ手、テーブルの足、果ては靴の片方を盗まれたやつもいたな。かくいう俺もこの前家の窓を片方盗まれちまってよ、おかげでその日は風がびゅーびゅー入ってきて風邪ひいちまったよ」
おっさんの身の上話はともかく、その犯人はよほどの暇人なんだろうなと思う。
「それただの嫌がらせなんじゃないか?」
「そうだろうな。ところでお前、片方の袖がないがひょっとしてやつに盗まれたのか?」
おっさんはにやっとしてそう言ってきた。
「これは元からだ、ご忠告どうも。行くぞお前ら」
俺はおっさんの冗談を流して他のやつらと町へと入った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ。あれじゃないですかね」
リリィが剣のマークのある建物を指差した。
「そのようだな」
俺たちの歩く先にはそのハンターズギルドの建物が見えてきていた。
「ところでシラカゼ君」
「なんだ?」
「ギルドってなんだい? ってちょ、大丈夫かい」
フィリユスの発言に思わず転びそうになった。まあホモが止めてくれたわけだが。
「大丈夫か?」
「ああ」
ホモの腕を払いフィリユスの方を向いた。
「痛っ」
フィリユスの腹を殴った。
「バカかお前は?」
「うぅ……ごめん……」
まったくこのタイミングで聞くか普通……
「だいたいお前はあの紙からこの世界の知識を貰っているだろうはずだろうが」
「え? ……貰ってない」
「はあ?」
「だって神様が『僕らも削減できるものはできるだけしたいんだよね~。まあエコってやつだね。ということでシラカゼ君に知識をあげておくから、あとは彼に聞いてね~』って」
「……」
「シラカゼ君?」
「……あの社畜……次会ったら……」
「ひぃ、シ、シラカゼ君……落ち着こう、ね?」
「チッ……まあいい……で? 他のやつは?」
「……じ、実は私も……」
「……お前は?」
「分からん、ぐはっ……なんでだ!?」
俺は変態の顔を思いっきり殴った。
「なにが『分からん』だ。バカが、殴るぞ」
なにキメ顔で堂々言ってんだボケが。
「いやもう殴っ……いやなんでも」
「はあ……もういい。んで、ギルドについてだったな?」
「はい」
「ギルドっていうのは……まあ組合だな。んで、ギルドと一言で言っても商業ギルドやらなんやらがある。俺たちが今向かっているのはハンターズギルドの建物だ」
「他にもあるんだ」
「ああ。ただしハンターズギルドはちょっと特殊だ。他のギルドはその国のものだが、ハンターズギルドは各国共有のものだ」
「えっと……どういうこと?」
「ハンターズギルドはその名の通り魔物を狩ることを生業としているやつらの集まりだ。んで過去に色々とあって国同士の話し合いの結果このギルドだけ共有のものとしたらしい。共有であるから各国に行って魔物を狩るってことができるな」
その分とってもブラックなところだが……
「他のギルドは?」
「それぞれの国のものということになっている。まあ決まりやらなんやらあるが詳しいことはまた。ちょうど着いたしな」
俺が簡単に説明している間に目的の建物に着いていた。俺は中に入ろうとドアを開けようとした。
「あ~、そうだ」
が、俺はそこで振り返った。
「ギルドにはフィリユスと変態、お前たちだけ登録してもらう」
「なんで?」
「単純に全員登録する意味がないからだ。お前たちが働いている間俺とリリィはまた別のことをする。ま、その説明もあとだ」
俺たちは今度こそ中に入った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺たちはギルドのカウンターにいた。カウンターでは美人の受付のおねえさん……なんて悲しい幻想が叶うことはもちろんなく、そこにはオバハンがいた。ちなみにギルドにはテーブルとかが置いてあるがそこに座っているやつらが酒を飲んでいるということもない。……まあこれが現実だ。
「後ろの男2人のギルドへの登録をしたい」
「へぇー、珍しいじゃないか。こんなところにこんなかわいい女の子を2人引き連れ……いや逆に引き連れられているようだけど」
「俺は男だ。そんなくだらん話はいいから登録してもらいたいんだが?」
「あらそれはすまなかったねぇ。それで登録だったね」
オバハンは羊皮紙を2枚とりだした。
「あんたはいいのかい?」
「ああ」
「そうかい、それじゃあ説明するけど……」
それからギルドの決まりやらなんやらを説明された。
「…….というわけで説明はこんなもんだね。なにか質問はあるかい?」
「俺はない」
「俺も」
2人は返事をかえした。
「そうかい。それじゃあ、あとはこの契約書のほうにサインをしな」
「ああ」
変態は契約書のほうを読み始めた。フィリユスは読まずにサインしたが……
「あんたら……いや別に詮索するつもりはないよ? だが今夜はどうするんだい?」
「……なぜそんなことを聞く?」
「いやね、なんとなくあんたらもあの子らに似ている気がしてね。きっと今夜の宿をまだ決めてないんじゃないかと思ってね」
あの子ら……?
「あの子らというのは?」
「時々、あんたたちみたいにギルドに登録したいって子の中にこの町は来たばかりで色々と分からないっていうもんだからね。一応教えてやっているのさ。ま、ただのお節介さね」
ふむ……高確率で転生者たちだな。これはいい情報が得られたな。
「そうか……確かに今夜の宿はまだ決まっていない」
「そうかい、それじゃあ……というかあんたら金はあるのかい?」
「ある程度は」
「そうかい。それじゃあ火鼠亭というところがオススメだよ」
「場所は?」
オバハンは俺に宿の場所を教えてくれた。
「終わったぞ」
ちょうど2人も書き終えたようだ。
「よし、では行くか。では、教えてくれてありがとう」
「ああ、頑張んなよ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ということでギルドを後にした俺たちはオバハンの言っていた宿に向かうことにした。
「ここだな」
店の前の看板には針ネズミのようなものが描かれていた。ただし背中はどうやら炎のようだ。
「ふむ、おまえと同種か?」
俺は魔物に聞いてみた。
「きゅ?」
まあそうなるだろうな。魔物は首を傾げるだけだった。
来週の投稿ができないかもしれないです。すみません。