戦争という名の……19
帝国は墜ちた。皇帝は死に、そこの転生者もほとんど死んだ。
さて、現在は王国の方に向かっている。既に向こうも戦が始まっている。決着はまだついていないようだが……
「見えてきたな」
小高い丘の上に立ち、その遥か先で煙と炎が上がっているのが分かる。能力強化でさらにどうなっているのかを見た……残念だがその場所は俺たちがかつて拠点にしていたグルネの町のようだ……
「グルネは焼けたな」
「……そうですか」
まあ仕方がない。ここまで来る間に焼けた村々を見てきた。しかしよくもまあ一夜であそこまで進んだものだ。まあ俺が言えたことではないが……
「それで? どうするんだシラカゼ?」
「……事前情報によれば現在の攻防はどうやら長引いているらしい」
まあ村々を俺たちが来るまでに攻め落として焼き払ったにもかかわらずあの町の辺りで進行が止まっているのだからな。理由の1つが別の国の加勢だ。戦争の初めは様子見程度の軍だったのだろう。無論手抜きというわけではなく、だが本命というわけでもないというだけのことだ。だからこそなんやかんやと言いつつもあそこまで……いやもう少し先まで進行していた。だが本命が来て押し返された。
で、2つ目はこちら側の加勢だ。エルが頼みに行ったドワーフの国の兵が到着した。そのおかけであの町の辺りで留まることができている……ということだろう。
さてそれはつまるところ拮抗している状態ということになる。
「拮抗しているということは俺たちが加勢すれば状況は変わるだろう」
「ではリアさんたちに加勢をするんですか?」
無論加勢するとなればリアが率いる軍の元に向かうことになるだろう。おおよそあそこであのバカ共も戦っているだろうからな。
「いいやまだだ」
そうまだだ。今加勢をしに行くことはできない。
「なぜですか?」
「俺たちは今やつらから認識されていない戦力だからだ。ならば単純に加勢するよりもやつらの隙をつき退路を絶つ方が効率的だ」
無論それには情報と連携が必要となるわけだが。それは問題ない。
ただ俺が最も気にかかっているのはガットのことだ。あいつはよく分からんことをしでかすやつだ。行動は全く読めん。強いていうなら約束は守る。つまり約束したことしか保証されていないということ。別の国がわざわざ攻めてきたのはやつのせいだろうしな。それはさておきそれだけなのかが問題だな。呆気なく終わらせるつもりなのか、それとも……
「……まあとにかくだ? そういう方向で動くとしよう」
残念ながら深く考える意味はない。それよりもとっとと戦争を終わらせてしまった方がいい。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やれやれだね」
次から次へと敵がわいてくる。これじゃきりがない。
「ヴェリアサボらない」
「はいはい」
アイゼルに注意されたので仕方なく蝶をさらに増やした。
ところでな~んで僕こんなことしてるんだっけ? ああ、シラカゼ君に負けたからか。でもそのシラカゼ君はここにはいない……逃げちゃおうかな? それで後でおいしいところを頂いちゃう。うん、おいしそう。それにシラカゼ君も裏切っていいって言ってたし……となれば……
今も戦っている少女の方に視線を向けた……
「邪魔だね」
彼女の周りに蝶の群れの一部を集めた。
「……何のつもり?」
「ん? いやあ、君たちを裏切ろうと思ってさあ」
今この場にいるのは僕と彼女、そして敵の兵士と魔物だけ。うん、つまり実質僕と彼女の2人きりだね。そして天気は曇り……絶好の裏切り日和だねまったく。
「くっ……」
彼女は地面に膝をついた。麻痺の鱗扮が効いてきたんだろうね……じゃあ次は……
「僕の傀儡になってもらおうかな~」
右手の平を上に向けて白い蝶を生み出した。
「……させない」
能力を使おうとしてるのかな? はは、無駄な抵抗だ。
「残念だけどもう遅いよ」
だってもう……眠っちゃうからさあ~。
「……ぐっ……リ……ア……」
うんうん、僕も成長したな~。やっぱり念には念をだね。さてと……
手の平の上で待機させていた白い蝶を羽ばたかせた。蝶は彼女のもとに向かって飛んでいく。
はは、楽しくなりそうだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……おかしい」
「何がですか?」
移動中戦況が動いたことに気づき急いで確認をした。リアたちが戦っているであろう地の南東側の方だ。そこから攻めいられているらしく、急に火の手が激しく上がり始めたのだ。何が起こったのだろう? 加勢か? にしては軍などという目立つ存在を見落とすとは思えん。余程巧妙に潜んでいたとしても、こちらは上空から監視させているのだ。その動きを察知できなかったとは考えにくい。となれば少数か? 転生者ならば大いにあり得る……が、よくは分からない。とにかく急いで状況を確認しなければならないな。だがあまり悠長なことも言っていられないようだ。仕方がない……
「エル。悪いがお前はリアたちのところに行ってこい。どうやら戦況が悪くなったらしい」
「分かった」
エルは能力だけでなく元々の身体能力も高いだろう。俺から見てあいつの戦う様は経験を積んでいるやつの動きだ。だがつい昨日転生者と戦った。そもその前にドワーフの国に使いに出したりとほとんど休んではいない。まあ時間がないなかでもうまく休むようにはしているのだろう。だが限界はある。だから少し心配ではある……が、あいつならなんとかうまくやるだろう。それよりも……
「リリィ。俺たちはこれから王都を落としに行くぞ」
「え!? あ、じゃあまた帝国の時の方々が……」
「いいや」
いくらあいつらでもここまで来るのに時間はかかる。今はあまり時間がない。それに残念だが諸事情であいつらを戦わせることはできない。
だからまあ……
「まさか2人で?」
「そうだ。だが安心しろ。少なくとも俺はその辺の転生者よりも圧倒的に強い。そしてお前は……まあ大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないですよ!?」
リリィがあれこれ言っているがもう時間はない。状況は差し迫っているのだ。急いで終わらせなければ大変なことになる。
「ということで行くぞ」
「うぅ……神様どうか守ってください」
……目の前に神がいるのだが? まあいい……




