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戦争という名の……18

「愚かしい限りだ……」


さて……2人を相手にしなければならんわけだが……その内のめがねをかけた方に愚かしいと言われた。


「愚かしい? 何がだ?」


「ははっ……言うまでもないだろ? 私たち2人と戦う? 愚かしいねえ愚かしい限りだ。勝てるとでも? この身の程知らずが」


身の程知らずとはな……やれやれ……


「ふん、そう思うならやってみろ」


「はっ……!?」


「……どうした?」


さっき愚かしいと宣っためがねのやつが慌て出した。


「チッ……なんでだ? 能力が効かないだと!?」


「なるほど……お前の能力はそういう能力ってわけか。能力を無効化する能力」


もう1人が俺の能力に気づいた……ような気でいるようだ。ははっ、愚かしいか……そのまま返してやりたいな。


「だがお前は……見た目からして弱そうだ。女みてえな顔と華奢な体……どうやら能力が使えなくても関係なさそうだぜ」


手をポキポキと鳴らしながらジリジリとこちらに近づいてくる。


「……チッ……驚かせやがって」


さっきのめがねもジリジリと近づいてくる……


「フッ……」


「なに笑っていやg……ぐはっ……」


バカらしくなって笑ってしまった。それを見ためがねじゃない方が何か言おうとしたが……タイミング悪くもう殴ってしまった。


「なっ……」


それを見ていためがねの方は何が起こったのか理解が追い付いていないらしく動けずにいた。


「すまん。もういいと思って殴ってしまった」


能力で身体を強化し、一瞬で殴り飛ばしたやつの方に近づいた。やつは壁に衝突してひびを残し地面に崩れ落ちた。俺はそいつの髪を掴んで持ち上げた。


「で? なんて言ったんだ?」


「ぐってめ、がっ……」


地面に顔を叩きつけてやった。石の床が割れる程にな。そしてもう一度持ち上げた。


「違うだろ? さっきなんて言おうとしたんだ?」


「……」


……気絶してしまったようだ。残念だ……

髪を掴んでいた手を離した。


「お、お前!」


うるさい……めがねのやつが騒ぎ出した。


「うるさいやつだ……もうすぐ終わるんだ。静かにしろ……」


「かは……」


めがねの鳩尾を殴った。するとやつはあっさりと崩れ落ちた。こうもあっさり終わるとは……笑えんな。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



さて残るは1人か。皇帝がいるであろう部屋の扉を蹴破った。周りにいた召し使いたちは悲鳴をあげて逃げ出した。


「来たか……まさかあいつらがやられるとはな」


座している皇帝の前方の床で胡座をかいていたおっさんが立ち上がった。その目の前に引きずってきた2人を投げ捨てた。


「ああ、俺も驚いているまさかあんなにもあっさりと終わるとは思わなかったぞ?」


「ぐう……おい! 何をやっている! 無様にやられおって! 早くその女を、ひっ……」


皇帝のすぐ横の壁に氷の槍が突き立った。無論俺が投げたものだ。


「俺は男だバカ皇帝……」


「はっ……おい早くやれ」


人の話を聞けと言うに……まあいい。やつは後だ。


「不躾なやつですまんな」


おっさんは俺に謝罪をしてきた。


「何を謝っている!いいから早k「だまれ!」


皇帝に向けて殺気を込めて叫んだ。皇帝はひっと悲鳴をあげて黙った。全くもって鬱陶しい。


「……さて始めるか」


おっさんはそう言って身構えた。


「能力か? 無駄だぞ?」


やつはもう能力は使えんからなあ。


「なるほど。お前には能力は通用しないというわけか……ならば……」


おっさんが力み始めた。するとそのたくましい肉体がさらに膨張した。身体強化だ。それも能力や魔術ではない魔法によるものだ。


「なるほど。お前は能力以外に魔法を授けられたのか」


「いいや。俺が神から授かったものは能力だけだ」


ほう? ということは魔法を自ら修得したということになるな……

魔法……この世界に戻ってきた際にヘルトゥナが言っていたな『魔法は肉体に依存する』と。だがそれは半分正解で、半分大はずれだ。魔法は基本的に才能に依存する。肉体の材質は下地であり前提に過ぎない。それに加えて才覚が必要なのだ。


基本属性とされる火・水・氷・風・土・雷・光・闇。それらがなぜ基本とされているのか? それはその才覚の部分に関わりがある。それらの属性は結局のところ自然の片鱗なのだ。自然がもたらす災害と恵み……それを感じ汲み取って初めてその魔法を行使できる。だがそれは最も身近な脅威故だ。魔法自体に本来属性の縛りはない。才能さえあれば世界の改変すらも行える。まあ人間には不可能だが。とにかく魔法とはそういった奇跡を体現するものだ。


しかし魔法の修得には例外もある。肉体の材質は前提故にそこは覆ることはない。だが才覚の有無は時に覆る。例えば前に立ち寄った炎の湖で長く暮らすことができれば、稀にではあるが火属性の魔法を修得することがある。それは才覚に頼ることなく、日常の中で感じ汲み取ったが故だ。それは偶然であり、努力とも言える。うちの聖女もそうだ。あいつは回復魔法の使い手だ。それも才覚ではなく努力で掴んだもの。よく僧侶などは回復魔法(といってもほんの一端に過ぎんが)を修得することがある。それは神の御業の片鱗だ。聖女の場合は……まあそれはいい。このおっさんもそういった努力の末に肉体を強化する魔法……まあこの場合人間は極意やら、武術などの一種と思っているが、まあそういうものだ。


「ほう? では見せてもらおうか?」


俺はおっさんを蹴りつけた。おっさんは俺の足を左腕で防ぎ、空いている右腕で俺の足を掴もうとした……が、すぐに俺は足を離し距離をとった。


「このスピードと力に耐えるとはな」


「……むしろおまえの力はこの程度か?」


言うじゃないか……


「面白い……が、それはそれとしてだ。おっさん。俺の仲間にならないか?」


「……どういう意味だ?」


「そのままの意味だ」


皆殺し……にしてやろうかと思ったが、こいつは見所があると思ったのだ。


「……残念だが断る。どうしてもというなら力ずくでこい」


「いいだろう」


拳と拳が中央でぶつかり合い、その衝撃で周りの奴らが吹っ飛んだ……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



転生者2人はあっさり過ぎるほどの早さで敗北した。もう1人も魔帝が破った……俺が最後の1人を倒した後だが。まあもうそんなことはどうでもいい。オウクスフィア帝国はもはや陥落したのだからな。


「俺は次に向かう……後は任せたぞ?」


膝まずく魔帝に俺はそう言い、エルたちをつれて歩き出した。


「……お任せを」


「や、やめろーーー!」


後ろの方から幽鬼の1人に、首に剣を押し付けられた皇帝の叫び声が聞こえた。だが……それもすぐに聞こえなくなった。

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