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戦争という名の……15

偵察のカラスからの情報によると、明日いよいよ始まるらしい。既にそれぞれの国で進軍やらなんやらを進めているようだ。


「ということで各自きちんと休んでおけ。以上だ」


「それだけ?」


俺の説明に不満があるのか、リアが絡んできた。


「それ以外に何がある?」


「あんだろ。ほらもっとよ~こうぱあっとやれみたいなよ」


俺の返答にリュークがそう答えた。例の舎弟とやらもそうだそうだと声を揃えている。


「その辺は勝手にしろ。だが明日に差し障りのないレベルでな?」


「……」


リアはまだ不満そうにこちらを見ているが、そんなことは構わないとばかりにリュークとその舎弟たちはアルスやハテンを連れて広間から出ていった。


「まあいい。とにかく解散だ」


「待て」


とっとと解散しようとしたら、今度はアイゼルに引き止められた。


「なんだ?」


アイゼルは無論だがやはりリアも俺に何か言うことがあるらしい。雰囲気的には面倒そうな話題の予感だ。


「お前、私たちに言ってないことある。お前、なぜここに来た? 必要ない。違うか?」


……つまり必要ないのになぜここに来たのかと言っているようだ。


「どういう意味だ?」


俺がここに来た理由など、とうの昔に告げている。単純に戦力が不足しているからだとな


「つまりアイゼルが言いたいのは、あなたは私たちを頼る必要がないんじゃないかってこと」


「ある。戦力が足りないからな」


「嘘」


嘘をついているつもりはない。本当にやつらと戦うには不足していた。俺自身もまだ完全に回復しているわけではないからな。


「なら……」


リアは広間の大きな窓の1つに向かって歩いていきそれを開け放った。


「あれはなに?」


窓の外……そこには……


「魔物の群れだ。それがどうした?」


「あれは群れじゃなくて大軍」


確かに大軍だな。今この城の周りにはたくさんの魔物たちがいる。大地は魔物たちがひしめきあい、空中も羽をもつ魔物が多数飛び交っている。あの魔物たちの大半は俺が昨日急いで集めてきたやつらだな。


「だからなんだと?」


「あれだけ大量の魔物を集めておいて、戦力が足りないの?」


無論だ。


「足りるわけがない。敵は転生者。あの程度の魔物の群れぐらいで死ぬわけがない。分かったらさっさと行け」


そう言うと納得してないという表情ながら、リアたちは広間から出ていった。

最もあの量をまともに相手すれば大幅に疲労することにはなるだろうが。


「呆れた。あんた魔王すっ飛ばして大魔王にでもなるつもりなわけ?」


するとさっきまで黙って話を聞いていたアシスが呆れたようにそう言った。無論アシスごときに呆れられるいわれはないのだが。


「くだらん冗談だ」


俺は煉獄の支配者だ。その俺が下界で魔王になる意味などあるわけがない。集めてきた魔物も所詮は付け焼き刃に過ぎん。


「だけど不可能ってわけじゃないんでしょ?」


「バカめ。できるわけないだろう」


不可能だ。そんなことをすれば議会や神々を敵に回すことになる。そんな面倒なことをしてまで、下界を自分のものにする価値はない。


「どうだか。ちなみにその時は俺まだ死にたくないんで、一応あんたについてくわ」


「そうか。では今後は積極的にお前をこき使ってやるとしよう」


「やっぱなるつもりじゃん!? てか今でも十分こき使ってんじゃん。もっと休ませろ!!」


やれやれぎゃーぎゃーとうるさいやつだ。


「ああ、分かった分かった。とっとと休め」


しっしと手を振って追い払う。アシスは不満そうにしながらも、広間を出ていった。


「私がいない間にずいぶんと仲良くなられたんですね」


と、わけの分からんことをリリィは口にした。


「どこがだ」


今でも隙があれば殺そうと狙っている。あいつはそういうやつだ。今はただ力の差があるから従っているだけでしかない。


「そうでしょうか? 私は違うような気がします」


「俺もそう思うぞシラカゼ」


エルも同感らしい。さてさっきの会話のどこに仲良くしていた部分があったのだろうか?


「度し難いな。まあいいお前たちも行け」


そうしてようやく全員が広間から出ていった……


「うぅ……」「zzz……」


と思っていたがやれやれ……

とりあえず眠れるクリエをおぶり、キュラーを連れだって広間を後にした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「むぅー」


「何むくれてるんだ?」


クリエとキュラーをなんとか部屋に置いてきて、広間に戻ってくるとウルが不機嫌な顔で待っていた。


「別に何でもありません」


何でもないと言う割りににふんっと俺から顔を背けていかにも不機嫌そうだ。


「そうか」


「あっ……」


部屋に戻ろうとすると、ウルは俺の方に手を伸ばそうとしてすぐに引っ込めた。


「なんだ? 面倒だからはっきり言え」


「……ただ私は……私も昔のようにお父様にベッドに運んでもらったり、添い寝して欲しいです!!」


やれやれ……まあ無論気づいていたが。


「ウル。当然だが、見た目が少女のままであっても、お前がもう大人であることに変わりはない。俺が死んでからもう何年も経っているだろう。だというのに子供のように駄々をこねるな」


俺の言葉にウルはうなだれた。


「だって、だって……」


泣きそうになりながらそう言うウルは遥か昔と何一つ変わっていなかった。


「ウル。お前は昔たった1人で冒険の旅によく出ていただろう」


俺は昔語りを始めた。ウルが俺のために赤い石を見つけてきたこと、様々な冒険の話を……


「お前は自らの意思で冒険をしていた。その時点でお前はもう1人立ちしていたんだと思うぞ?」


「でもそれは……」


それは……きっと俺のためであったと言いたいんだろうな。


「いいやウル。お前はもう俺がいなくてもやっていける。現に俺が死んでからもお前なりに頑張ってきたんだろ?」


まさか魔王になっていたとは思わなかったがな。


「……はい」


ウルはそう答えつつも微妙な表情を浮かべている。


「フッ、まあ頑張れ」


そう言って頭を撫でてやるとウルの表情は和やかなものになった。


「はい」


そうだ。早く大人になれ。でないと……

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