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戦争という名の……14

「お父様。ガットはなんと?」


ガットと別れた後、全員で今後の予定を確認し解散した。今は魔王の間でウルと2人で話をしていた。


「……」


ガットはあの後議長からの伝言を言い残して去っていった。さてなんと言ったものか……


「いつも通り戯れ言を言っていた」


「それだけではないのではないですか?」


まあやつがわざわざ来たとなれば、何かしらあるのは当然のことだ。やれやれウルは決して逃さないとでも言うかのように真剣な表情で俺を見つめている。見逃してはくれんだろうな。


「議長からの伝言を聞いた」


やつからの伝言はこうだ……俺の保護を議会の方でする。それはつまり神々には黙ってやるから、議会の管理下に入れということ。


「それでお父様はなんと?」


「無論拒否した」


しかしそんなことをすれば議会を敵に回すことになる……可能性は高い。そうなればどちらにしても結果として俺はここにいられなくなるだろう。


「ではお父様は天界に……」


議会を敵に回したとなれば天界に戻らねばならなくなる。だから下界にはいられない……本来ならな。


「いいや、俺は戻るつもりはない。少なくとも今はな。」


「ですがこのままでは議会とここで戦うことになりますよ!?」


ウルは必死に俺を止めようとしているのが分かった。長い時を経てなおお前は……


「安心しろ。うまくあいつとは交渉しておいた」


「交渉ですか?」


ガットは昔と変わっていなかった。相も変わらずあの変わり者の多い議会の中ですら、厄介者扱いされているのだろう。あいつは言ってしまえば愉快犯だ。人間はもちろん神々すらもスキがあれば焚き付けて争わせ、それを楽しんでいた。つまりそれがあいつの最大の弱みだ。

あいつが人間同士の争いを見たくないわけがないのだ。故にそれを利用した。


「なるほど……しかしあいつは……」


「分かっている」


だがそれも言ってしまえばその場しのぎに過ぎない。俺たちが戦争を終えた瞬間俺に再度議会の管理下に入れと言ってくる。実際また聞くと言っていたからな。やつがわざわざ考える時間を与えたのは、それすらも楽しんでいるからだ。覆せるものならば覆してみろと嘲笑っているのだ。


「では何か良い策が既に?」


「いいやまだだ」


今策を練るには現状が乱れすぎている。状況がある程度進まなければ容易には決められない。


「そのような悠長なことをされている場合ではないのでは? 相手は議会です。議長やガットが許容してもアリアは黙っていません」


「あの女はネチネチとしつこいからな」


それも考えてあいつは俺にそんな提案をしてきたのだろうしな。あいつの考えていることはよく分からんが、なにやら俺が必要らしい。アリアに殺されるということはないだろうが……戦えば議会を確実に敵に回すことにはなる。


「だがそうせざる負えん。それに……今度はお前もいる。だろ?」


「……はい、お任せを。今度こそは……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



さて戦争まで1週間となった。無論1週間というのは予想だ。実際は前後する。それも考慮して準備を進めなければいけない……のだが……


「zzz……」


「ひっく……」


こいつらは役にたたんな……


「ううっ」


キュラーに至っては今も俺のローブをぎゅっと握ってはなそうとしない。非常に動きづらいし、鬱陶しい。そしてそれを見たウルが怒りだすからますます面倒だ。


「はあ……」


しかし引き剥がそうとすると泣き出してもっと面倒なのだ。ならば殺せばいいというエルの意見に共感したが、反対するやつが多いので止めた。その中にウルもいたのだからもうわけがわからん。


「シラカゼ」


「リアか。どうした?」


そんなことを考えていたらリアが近づいてきた。さて、何を言われることやら。


「今魔物を集めているんだけど全然足りない。それをウルに言ったらあなたに言えと言われた」


なるほど……俺のスキルを使えということだろうな。だがそれは無理だ。なにせ今の俺の魂の傷はまだ完全に癒えていないのだ。能力もスキルも安定的に使用することはできない。それが現状だ。


「分かった。何とかすると伝えておけ」


だが不可能というわけでもない。俺自身ができなくとも他にできるやつがいるからな。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ヴェリアやってくれ」


「OK!」


ヴェリアの能力によって大量の蝶が宙に現れた。黄と白色の蝶たちはキラキラと輝く鱗粉を羽ばたく度に撒いていた。黄は鱗粉だけでも浴びれば数十秒で体が痺れる。これは実際に体験した俺が保証する。白は鱗粉には特に効果はないらしいが。蝶を相手の体表につけて刻印化させると、相手の体の操作権を得られる。ただし時間がかかるらしい。

今、魔物をエルたちがうまくこちらに誘導してくれている。


「シラカゼ!」


少ししてエルが魔物を連れてきた。無論魔物としては追いかけてきただけだろうが。

そして蝶の鱗粉が舞うエリアに魔物たちが入って数十秒後、魔物たちは動きを止めた。動けない間に白の蝶を刻印化させ、魔物たちを1ヶ所に運んでまとめた。その後今度は橙色の蝶を出現させて、鱗粉を撒きつつ刻印をつけていった。結局何度か集めてもらって半日程度かかった。数が多かったことを考えれば、速いと言えるだろう。だいたい100ちょっとといったところだろうか? 当然だがヴェリアの疲労も相当なものだと思いさっさと休んでもらうことにした。


「しかし100ちょっとか……」


全然足りんな。リアたちのものを合わせて4、5千は体数として欲しい。現状この魔物たちを合わせても2千ちょっとだ。となれば今の倍欲しいところだが時間が足りなさすぎる……仕方がない。不安だがやらざる負えないな。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「なんとかなったな」


キュラーをなんとか言い聞かせ、城に置いてくることに成功した。今は能力で身体強化して、城から少し遠いところに来ていた。今までは議会にバレるとまずいので抑えていたが、もうバレているようなので、遠慮無くそこら辺のものが吹っ飛ばない程度に飛ばした。

ここの魔物ならある程度数もいるし、そこまで弱くもないだろう。さて……


「で、実際にできるかだな」


俺のスキル『キョウシンの誘い』は一定範囲のものに信仰心を植えつける。まあ忠誠心とも言うな。その信仰心は文字通り狂えるほどに……だ。だからこそかつては他の神に羨ましがられたものだ。最も今まで俺はあまりこのスキルを好んで使ったことはない。

このスキルは精神的な強さによって、差がでるがまずかからないものはいない。良くも悪くもだ。忠誠を誓うか、狂って耐えられなくなった精神が崩壊し実質的に死ぬかのどちらかだ。だからこそなまじ精神力があると、より狂い壊れてしまう。

ちなみに例外的に通用しないのは神々と議会のやつらぐらいだ。

さて、今までは魂がぐちゃぐちゃだったおかげで勝手に発動して前世で大変な目に遭った。今はなんとか抑えているがコントロールできているとは言い難い。加減を間違えなければいいが……

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