戦争という名の……10
「なぜこの私が……屈辱だ……」
「ふん、生かしてやっただけ感謝するんだな」
炎の湖からしばらく歩きようやくあの暑かった森を抜けた。今はもう日が沈んでしまったので野宿の準備中だ。
「……死んだほうがマシだ」
で、精霊だが。聖女に頼まれて渋々雑用係……というか下僕として生かしてやることにした。と、言ってもこいつのできることなどたかが知れている。魔物との戦闘はディアニスが勝手にでもやるからいらん。得意の火を起こしも別に俺でもできる。強いて言うならそのための枝集めぐらいだ。ふん、全く生かす価値がないな。
「それを決めるのは私たちです。あなたではありませんよ?」
聖女と言うわりに冷徹だな。いや、結局お優しいことには変わらんが。
「うるさい。どうせそこの男に私を襲わせるつもりだろう! そしてあんなことやこんなことを……」
精霊は休んでいたアシスを指差してそう言った。ふむ……
「いった! 何?」
アシスの頭を叩いた。
「サボってないで働け」
みんな働いているというのにサボるなという。ちなみに俺はこの場所に魔物除けの魔術を施している。ディアニスは狩りに、聖女は食料集めをしている。聖女に関してはたまたま今集めてきたものを持ってきていたからで、こいつのようにサボっていたわけではないのだ。
「はいはい……たくっ」
アシスはグチりながら森の中へ歩いていった……結局サボりそうだな。
「ふん? あの男を遠ざけて信用させようというわけか。そんな手にはのらんぞ! どうせ眠りについた瞬間に……」
こいつはさっきから何を言ってるんだ? 俺はただ本当にあいつがサボっていたのを咎めただけなのだが?
「ふっ……なるほど。ご主人様にはそういった狙いが」
……なるほどよく分からん。
「くっ……あ、ありがとうございます」
とりあえず変態は蹴り捨てておくとしてだ。
「別にお前ごときに何もしないぞ?」
だったらとっくにやってるだうしな。
「嘘をつけ! そうやって油断させて襲うつもりだろう!」
嘘をつく意味が全くないのだが……バカらしい。
「ああ、もういい。おい、お前が責任を持つと言ったんだからしっかり見張っておけ。俺はもうこいつのやかましい戯れ言を聞くに耐えん」
「分かりました」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おお、やっと着いた」
結局男の頼みで町まで来てしまった。まあ泊まるつもりはないし、この男ともここでお別れだ。
「ではな」
さあ先を急g……
「待てよお兄さん!」
「なんだ? いいかげんにして欲しいのだが?」
ここまで連れてきてやった上に金もくれてやった。こいつももはや俺は必要ないはずだ。
「いやあ……うん、これ詰みだな。やっぱ俺こういうの苦手だわ。なあお兄さん。正直面倒になったからぶっちゃけるけどさあ?」
何を言うつもりなのだろうか。まあ道中必死に食い下がっていた時点で何かしら企みのようなものがあるとは察していたが。
「あんた……転生者だろ?」
「……ほう?」
驚いた。なぜ気づいたのだろうか? この男も転生者か? そうは感じなかったのだが……見誤ったか。
「否定しないのかい?」
「必要ない。そもお前は確信があるのだろう?」
まあそうでなければ転生者という言葉が出てくるはずがないからn……
「いんや。なんとなくだよ、なんとなく。あはは……」
……
「でもまあ実際当たっちゃったわけだけどね」
そうだな。確信はなくとも思うところはあったのだろう。
「そうか。それでだからどうした?」
「うーん……まあ要するにさあ。俺としてはこの町じゃ不満なわけ。なにせここじゃあさあ色々とやってくのに不都合なわけ……あ、もちろんここまで連れてきてくれたことは感謝してるよ? でもそれはそれってね」
ふむ? なるほどだから小さい町では不満ということなのか……
「だから他の町に連れて行けと? 俺がお前の頼みを聞くとでも?」
「うーん……転生者ってことばらすよって言ったらどうする?」
確かにそれは困るな。
「……死にたいか?」
「そこまでは……でもさあ考えてみなお兄さん。俺が転生者ということ当てた時点で……ね? それにここで殺すなんてはったりでしょ?」
確かに当てられたということはこの男も転生者なのだろう……殺すと脅したもののそれも実際は目立つ。故に逃げてしまおうと思ったのだが……敵に背を向けることはできまい。
「フッ、それで俺にどうしろと?」
「その前にさあ……」
男は腹の辺りに手を当てた。
「何か食おうぜ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ああ、やっと着いた」
次の日。1日中歩きようやく1つ目の国……の端にある町に到着した。
まあ道中特に何もなくこれたのでよしとしよう。意外なのはあの精霊がおとなしかったことだ。そう怖いくらいだ。
「久々にベッドで休める~」
相変わらずアシスはだらしないな。まあベッドで休みたいというの同感だ。単純に地面とでは寝心地が違うからな。
「ここでは暴れるなよ?」
一応精霊に警告しておいた。まあ責任は全て聖女が持つので、どうでもいいといえばいい。とはいえとばっちりはごめんというもの。
「おい。なぜ襲わなかった?」
「なんだ? 襲って欲しかったのか?」
だとしたらやめてほしいものだ。変態は1人だけでも手に余っている程だからな。
「な……そんなわけあるか! ただ人間はそういう生き物だと聞いていたから……」
とんだ偏見だな。誰から聞いたのか知らんが、少なくともそいつは人間のことが嫌いなのだろう。ま、人間じゃない俺には関係のないことだが。
「それは違いますよ。人間はそんなことしません」
聖女が精霊にそう諭した。
「ふ、ふん……嘘つきどもめ。どうせそれも油断させるための演技だろう? やはり浅はかだな人間の考えなど」
こいつに余計なことを教えたやつもだが、なによりこいつ自身がひねくれているな。まあこういった手合いは今までもたくさん出会ってきたが、面倒なので放置するに限る。
「まあいい。疲れたしとっとと休むとしよう」
「同感」




