戦争という名の……6
「えー……まあた歩くわけ?」
「当然だ」
朝、アシスとディアニスを連れてウルの城を出た。計画通りウルたちは巻き込めた。となれば次だ。それでその次なのだが……
「俺も居残り組がよかったなあ~」
「うるさい! 早く行くぞ」
全く……で、次だが。昨日ウルに話した通り他の国や種族を焚き付けに行く。エルには1人で行って貰うことにした。既に俺たちよりも早く(それはアシスのせいだが)ドワーフの国に向かっている。ドワーフはエルにくれてやった剣を見れば協力してくれるだろう……同時に俺が何者かも知ることになるだろうが……
そちらはともかく俺たち3人は別の人間の国に行く。リリィ、シエリア、ヴェリアは城に残していく。そしてリアたちは他の魔王の方に向かうことになった。
「だいたいお前も早く妹を見つけたいのだろう?」
「まあそうだけどさあ……」
フン、シスコンめ……
「でもよかったわけ? あいつ1人で行かせて」
「無論だ」
エルならば行けるだろう。それにこれはあいつ自身のためにもなるしな。
「ヴェリアは? あいつ残してきてよかったの?」
まあ確かについ最近リアたちと事を構えた後だが、だからこそ慎重に動こうとするだろうし、まあおとなしく待っているだろう。
「大丈夫だろ」
「ふーん……じゃあ後ろの聖女様は?」
……
「お構い無く。皆さんの邪魔はいたしません」
まあ確かに俺としては2人だけを連れてきたつもりだったのだがな……
「私の方は構っていただきたいです」
……
「ふぎゃ! ありがとうございます!」
はあ……気持ち悪い変態はてきとうにそこら辺に蹴り捨てていくとして……
「本当についてくるつもりか?」
「ええ」
まあ少なくとも損にはならんだろう。むしろ得になるやもしれん。なにせこいつの目的は……
「シラカゼ! あれ殺っていいか? 焼いたらうまそうだ」
「はあ……勝手にしろ」
そう言ってやると、ディアニスは少し先の方にいる鹿のようなやつのところに向かって走っていった。少しと言ってもその動物が気づかない程度には距離があるが……で、鹿が気づく頃にはやつの射程範囲と。走る勢いのままに跳ねて鹿を越えていく……その間に一発だけ弾を放った。やつが着地すると同時に、逃げようと走る準備をしていた鹿はその1歩を踏み出したが、そのまま倒れ動かなくなった。脳天に一発か。静かに終わってよかった。ついでに地形の破壊もないのもな。
「お見事です」
その光景に聖女はパチパチと拍手している。
「おう! シラカゼこいつ今すぐ食おうぜ!」
まあ確かに肉は硬くなるからな。とっとと捌いて食べるのが当然だな。とはいえ……
「は? まだ森抜けたぐらいじゃん!」
そうまだ魔王の城周辺の黒い森……言い換えれば魔王の領地を抜けたばかりのところなのだ。
「まあいいだろアシス。時間はある。それに食える時に食っておいた方がいい。そらもうすぐ昼だしな」
まあ昼というのは勘だが。とはいえいつも食事にありつけるとは限らん。と言っている間に既にディアニスは鹿の足を紐で木の枝にくくって吊るし捌く準備を始めていた。
「とりあえず準備だな」
まずはそこら辺に落ちていた小さな枝を集めて水で洗った。ちなみに水は持っていたものではないが、川から汲んできたというわけでもない。今ここに集めたものだ。
宙に氷のキューブを魔法で生成し、それを炎属性の魔法で溶かしたのだ。こうして水というか純水を生成したわけだ。で、一応それだけでは前世での暮らしによる抵抗もあるので、煮えたぎるお湯で消毒した。その枝を串がわりにして、ディアニスが捌き切り分けた肉を刺して火で焙っていく。
「ご主人様これもお使いください」
そう言って変態がキノコを差し出してきた。
「これ食えるのか?」
「もちろんです! なにせこの身をもって野草やらキノコやらの毒を耐えてきたのですから毒の有無は分かります。はあ、あれはとても刺激的な日々でした……はっ、私としたことが。ここであえて毒キノコを採ってくるといううっかりミスをしてご主人様の蹴りをいたd……あん! ありがとうございます!」
気持ち悪い……まあとりあえず食えそうなので焼くとしよう。味付けはどちらもシンプルに塩だ。
「木の実を採ってきました。皆さんもどうぞ」
そう言って聖女が木の実を抱えて帰ってきた。
「いいのか?」
「ええ、タダで食べさせてもらうのは申し訳ありませんから」
食うのか……さっき構うなとか言ってたわりに図々しいな。まあ、確かにそこでただ座っているアシスよりはマシだ。
「……何? 言っとくけど俺も働いてるし」
「どこがだ?」
「天候操作。ここ晴れにしろって言ったのあんたでしょ?」
そうだったかもな。雨に濡れるのは良いとは言えんからな。こいつの能力でここら辺は晴れだ。だが向こうの方からはザアザアという音がしている。あれは強いな、うん。
さて肉が焼き上がるとディアニスはその串をとってかぶりついた。
「うめえ!!」
やれやれ……まあいい。俺も1本とって食べた。ま、うまいがさして感動もない。旅をしていればだいたいこうだからな。
「ほらお前にもくれてやる」
もう1本とって変態にも投げてやる。
「わん!」
誰が犬になれと言った……やつは投げた肉を口でキャッチした。
「おいしいです」
そうかよかったな。
「でもいいの? こんなのんびりやってて?」
「言ったはずだ時間はあると。ついでに言うと余裕もな」
時間は数週間。これだけではあの2国の周辺や近くの全ての国を回って焚き付けるなど不可能だ。というわけで最初から行く国はある程度絞ってある。運が良ければ焚き付けた火種が行かなかったところにも引火するかもしれん。そこはまあ希望的観測というやつだがな。
そして余裕だが。この計画において最大の障害は議会だ。だからその点余裕はない。が、考えても仕方がないことなので結局余裕としか言えんな。
「本当に戦争をするつもりなのですね?」
この聖女は誰かが戦って死ぬなど無益でしかないと言っている。だからこうしてついてきているわけだ。だが本来の目的とは少しずれている。
「無論だ。安心しろ。確かに規模は大きいだろうが被害は少なめだ」
「しかし死ぬ人もいる。仕方がないことなのでしょうね。でも死に意味はない……戦争にもです」
ほう? この俺に死のなんたるかを語るつもりか? それこそ無意味なことだ。
「邪魔はするなよ?」
「ええ、止めるつもりはありませんし、私1人では止めることなど叶わないでしょう。ですのでせめて私は私ができることをするだけです」
「そうするといい……少なくともお前の邪魔も俺はしない」
利得に繋がっているうちはな……
「ちょっと! 食ってるときに戦争の話とかしないで欲しいんだけど?」
「? 別にいいだろ? それとも怖じ気づいたか?」
「……辺り一面の血と散らばった肉塊に噎せ返るほどの腐臭……あんたは戦場に立ったことあんのかよ?」
そう言って俺を睨むアシス……
「フッ、あるわけがない」
なにせ人間風情がたった1人だろうが束になってこようが結果は同じだ。そこは戦場ではない。粛清の場であり、処刑の場だ。なぜならそもそも戦いにすらならないからな。無論転生者ならば話は違ってくるだろうが……
「だろうね。どっちかっていうとあんたは兵士じゃなくて安全なとこで指示だけするやつだし」
心外だな……
「半分正解で半分外れだ」
「ふーん? その外れの半分はどこなわけ?」
やれやれ決まっているだろう。
「安全なところでの辺りだ。俺は指示以前に……まあいい」
言わないでおいてやろう。隣の聖女のためにもな。
「何? 気になるんだけど?」
「想像に任せる。ってことで食い終わったなら準備しろ」