戦争という名の……
「1人の旅はどうだった?」
部屋につい昨日帰ってきたエルとリリィを呼び出した。エルはだいたい2週間ほどかけ旅に出ていたが……
「旅事態には問題はないが……」
話し合いがうまくいかなかったため戦闘……転生者が死に回収は失敗。加えて町での戦闘によりそこそこ目立ってしまったようだ。幸い死体の回収と証拠隠滅などは行ったらしい。ただ人間共はともかくとしてそうでない輩に気づかれていると厄介ではある。
まあ今さらでしかないが……それに回収できなかったとはいえ最低限のことはしたので十分だろう。
「いい。十分だ」
「……そうかならいい。ところでフィリユスはどうした?」
フィリユス……
「逃げた。1週間ぐらい前にな」
エルが旅だってから数日後のことだ。特訓……というかただの拷問だったが、その特訓に耐えられずフィリユスは逃亡したのだ。
「私が止めなかったから……」
フィリユスが逃亡したその日。特訓で気絶し寝ていたフィリユスが逃亡……その時玄関で掃除していたリリィと鉢合わせた。リリィによればフィリユスは必死の形相でしかも泣いていたそうだ。その様子を哀れんだのだろう。リリィは必死で逃げ出そうとするフィリユスを見逃したのだ。
「構わん。どちらかといえば俺のミスだ」
まあひどいことをした自覚はあるからな。
「そうか。フィリユスは逃げたか」
「責めないのか?」
「なぜ責める必要がある? やり方はどうであれお前はあいつのためにやったのだろう? そも逃げたのはあいつ自身の意思だ。逃げた以上あいつにはやはり無理であったというだけのことだ」
エルの言う通りだ。やったことは悔いていないし、俺にもリリィにも非はない。フィリユスが逃げ出したのも自分で決めたことだしな。
「愚問だったな。まあ誰にも非はない」
それにだ。むしろ逃げ出してよかったと思う。あいつが俺の元から逃げて、その過程でこの世界を見て来て欲しい。逃げ出したとしても苦痛から逃れることはやはりできない。故にそれをまざまざと思い知るだろう。それを思い知った上で俺たちの元に戻ってくるかどうかを決めればいい。まあその点はリリィにも言えるが、リリィの場合やりたいと言っているのだからいいだろう。
「それに今はあいつが居ない方がいい」
フィリユスは精神面だけでなく実力もかなりダメだった。ヘルトゥナがあれを選んだ理由は……まあ察しているが、足手まといになることは必然だったろう。だからだ。だからこそ今は居ない方がいい。これから起こることに巻き込まれれば単純に足手まといになるだけでなく、高確率であいつが死ぬからだ。
「お前が居ない間に……というか旅先で聞いていないのか?」
「……すまない。転生者のことしか考えていなかった」
……まあ仕方がないか。
「次からは情報集めもするようにな? 話を戻すが、お前が居ない間に人間の国2国間での戦争が起こることになった。それもよりによってその2国の内の1国が今俺たちのいる町を含んだ国だ。つまり……」
戦争に俺たちも巻き込まれるということだ。本来戦争はそこに至るまで軍備を整えるなりなんなりで時間がかかるものだ。しかし今回の戦争は異様なことにその期間が短いと予想される。あと1月も経たぬうちに戦争が始まるだろう。それでその短さの理由がやはり転生者だったりするのだ。とある対立している2つの転生者の派閥が、それぞれ拠点としている国を唆し、力を貸しているというわけだ。
「つまり代理戦争ということか?」
「違う」
まあ普通この流れならそう思うだろうな。
「ではなぜ人間共を戦わせる必要があるんだ? 戦力を削ぐにしても転生者にただの人間が束になっても敵わない以上無意味だろう?」
「それがあるんだから困った困った。あー困った……」
全くもって面倒だ。とても面倒だ、ああ。
「……お前の言う通りただの人間では無意味だ。だが転生者同士なら別だろ? そう例えば俺たちだ」
「まさか……」
「えっと……どういうことですか?」
各地に散らばっているであろう転生者たちは当然それらの国にもいる。そしてその中には俺たちのように対立する2つの派閥に属していないやつらだっているのだ。つまり戦争が起きれば必然的にそこに住んでいる転生者たちは……
「戦わざる負えない……ということでしょうか?」
「その通りだ。無論俺のように事前に分かっていれば逃げることもできるだろう。だが……」
だがそうであってもできない……俺たちは逃げられない。なぜならこの戦争には多くの転生者が関わるであろうからだ。ならば転生者の回収もしくは抹殺を目的としている以上逃げるわけにはいかない。
とても腹の立つ話だ。なによりムカつくのがこれを企てたやつらは王都にいて、俺たちはそちらから離れた町にいるということだ。王都の前に先にここが戦地になるのは言うまでもない。となればそいつらよりもまず俺たちが戦うことになる……関係ないやつらの排除も狙っているのだろう。ムカつくことこの上ない。
「あのどうするつもりなんですか? このままだと……」
リリィは俯きながらそう言った。まあこのままだと良いように使われる。それはなんとかしなくてはならない。
「……策は練っているのだろう?」
「……考えた。が、このままの状態ではダメだろうな」
ああダメだろう。王都にいるやつを直接止めることはできない。そんなことをしようとすればもう片方の派閥のやつらの思うつぼだ。
ではそれ以外の国内の転生者に知らせて集め対抗する? 無理だ。まずそんなことをする時間も人員も……なにより信用がない。いちいち各地に散らばっているやつらに伝えていくなど馬鹿らしいにも程がある。
かと言って一時的にでもここを離れ漁夫の利を得ようとただ待つというのも難しい。なぜならその時点で転生者の数が大幅に減ってしまうし、そもそもそれこそそれを狙ってるやつらもいるだろう。この戦には様々な思惑が渦巻いている。ならば……
「ああ、だから最悪の一手を打とうと思う」
そうこれは最悪な一手。その最悪を以て打開……できればいいが……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ということでしばらくここを離れる」
「本当に行くのですか?」
エルたちに俺の考えを伝えた後、部屋の魔方陣を消し、転生者のリストを燃やし、物品を幽鬼に回収させた。これからしばらく旅に出る以上ここには何も残してはいけないからだ。
「は~めんど」
「まあまあ……でもちょっと寂しくなるわねえ……」
……今回は全員連れていく。ここにはしばらく戻ってこれないし、もしかしたらもう戻ってこないかもしれない……
「ああ」
「そうなのですか……むうシラカゼ君たちが居なくなればうちの収入が……あっ、あと食z「さ、行くか」
全く食い意地だけは無駄に凄い。
「むう……まあしかたがないのです。いってらっしゃいなのです。できれば今度来るときはもっと人を増やしてくるのですよ。特にイケメンを中心に!」
「……ああ」
そうなればいいが……あ、イケメソはいらん却下だ。




