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誓いという名の……

ユニ村から帰ってきた翌日のこと。面倒なやつが2人も増えてしまったが、それはまあ仕方がないとして次に会いに行く転生者を決めていた。で、それを考えていた朝食の時間に面倒にも……


「俺しばらくパスで」


アシスに次は妹に会いに行くかとストレートに聞かれたのでいいやと答えたのだ。そうしたらそんなことを言ってきやがったわけで……


「は?」


「だってめんどいし。黙ってここで働いててる方が楽だし、野宿しなくて済むし。あ、妹見つけたら言って。その時は行くわ」


なんてやつだ! ユニ村に行く前は連れてけ連れてけうるさかったくせに……


「いいのか?」


もしかしたら俺がこいつに黙ってこいつの妹の所に行くかもしれない。そうなればこいつを脅す材料が手に入るし、今までよりも明確になる。ああそう、だからこいつはうるさく言っていたわけだしな。


「いいよ。そんなつもりないんでしょ? ……俺もあんた自身は信じてないけど、あんたが目的達成を自分よりも優先するってことは信じられる……ってことでよろしく~」


そう言ってアシスはいつも通り背を向けながら手を振り食堂を去っていった。

なんてやつだ。仕返しのつもりなのだろうか? 確かに使えるなら妹も使う。だがそれは本人次第であって、そいつが嫌だと言えば始末して終了だ。全く困ったやつだ。せっかく次も連れていって今度こそ馬車馬のように働かせてやろうと思っていたというのに……この町での仕事が見つけられなかったら無理矢理でも連れっていってやる。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



と考えていたのだが……アシスはあの後宿を出ていった。どこに行くのか聞いたら仕事を探しに行くと言われた。本気で言っていたんだなあれ……仕方がないあれを無理矢理連れていくのはむしろ面倒そうだし予定を変更しよう。


「ということでアシスが使えなくなったからお前を呼んだ」


そう言うと俺の部屋に呼び出したエルは『は?』という顔をした。


「シラカゼ。というわけででなぜ俺を呼ぶということになるんだ?」


至極当然だがまあそう思うのは当然だろう。だが逆にひねりが無くてつまらんな。ひねり過ぎてひねくれたものよりはマシだが。


「ひねり……」


どうやら思ったことがうっかり(・・・・)また声に出ていたようだ。エルが何やら真剣に考え始めた。


「深く考えるだけ無駄だと思うぞ? お前には向いてないだろうからな」


エルのコミュ力やトーク力は大して期待していないからな。だがまあ今後身に付けて欲しい能力ではある。


「ひ、ひねるぐらい俺だってできる! ……」


なぜか意地を張って必死に考え始めたエル……しかし全然良いものが思いつかないようだ。


「無理するな」


「すまんシラカゼ」


別に謝る必要はない。そもそもそんなもの求めてはいないからな。


「そんなことよりもお前を呼んだ理由だが……」


アシスが次の旅についていかないことそれがまあ理由なのだが……今俺を含めた初期のメンバー4人と後から加わったメンバーが5人いるわけだ。で、他の初期からいる3人は信用できるとして他の5人は一応見張らないとダメだろう。特にアシスとヴェリアは機会があれば堂々と裏切ると宣言したわけだしな。それでアシスはさておき他の4人で連れていけるのはまずディアニスと……不快極まるがあの変態は勝手についてくるだろう。シエリアは残すとしてヴェリアは微妙だ。少なくともヴェリアをつれていくならもう1人初期のメンバーからつれていきたいものだ。

しかし色々と考えてみれば残すにしろ、つれていくにしろリスクがある。そこでエルが出てくるわけだ。


「俺がもし死ぬことがあれば次のリーダーはお前だ」


「…… 」


そういう可能性も大いにある。そんなことは初めからエルも分かっているだろう。だからまあ俺が万が一でも殺された場合に備え資料などは残してある。こいつらが今後やっていくために必要となるだろう。


「だからこそ俺が村に行くときお前にここを任せたというわけだ」


「シラカゼ。お前が行く前日にお前は俺を頼りなりになると言ってくれた。それは嬉しいし期待に応えてやりたい。だが俺は……人間がそもそも嫌いだ……だからリリィやフィリユスを……」


そういえばこいつに出会ったときに確認されたな『お前は人間か?』と。なるほどそういうことだったか。


「お前は2度俺に聞いてきたな『お前は人間か?』と……で、俺は天使だ答えたわけだが気づいているんだろう? 本当は違うとな」


「だが人間でもない……違うか?」


あの一言のどこにそんな確信を得られるものがあったのやら。


「さてな? ……お前がなぜ人間を嫌っているかはどうでもいい。だがここで誓え。何があっても……何があってもだ。他は殺してもいいがあの2人は殺すな。お前はあいつらが嫌いだろうがそれでもここまで割りきってやってきたのだろう? ならお前が導いてやれ」


別に俺の死後こいつらが死のうがどうでもいいといえばどうでもいい。だがまあこれもまた神としての仕事だからな。こいつらと直接約束していないとはいえ俺がやると言った時点でしたも同然だ。だからまあ……


「シラカゼ……お前は……しn「勝手に人を殺すな。その可能性もあるというだけだ」


全く……勘が無駄にするどいな……


「分かった……あいつらはきちんと導く」


エルは俯きながらも誓ってくれた。


「それでいい」


まあできれば他のやつらも何とかして欲しいものだが、それは高望みというやつだろう。


「でだ? その万が一に備えてお前には他のやつ以上に経験を積んで貰いたい。そこで……」


転生者のリストの束の中から1枚取り出してやつに渡した。


「お前がそいつのところに行ってこい。ただし1人でだ」


「分かった」


1人で行かせることが大事だ。ここで他に頼ることなく自らあらゆる問題に対処する経験を積ませておきたいからだ。


「内容は今覚えて紙は置いていけ」


まあ厳しいかもしれんが紙をここから持ち出されるのは困るからな。


「……覚えた」


早いな……


「そうか。ではあとはこれを持っていけ」


そう言ってエルに紙と金の入った袋、そして黒い鞘に収まった一振りの剣を渡した。


「簡易的なものだが俺が作った地図と少しだが金を渡しておく」


エルは俺がそう言っている間に鞘から剣を抜いた。その剣は刃の部分が漆黒の、他は白銀の光沢を放っていた。薄くも欠けることを知らない少し幅のある刀身には文字が掘られており、黒いグリップついている。シンプルながらも美しいものだ。


「これは……いいのか?」


「お前には2度転生したと言っていたな? その剣は俺が転生する前に友人から貰ったものだ。見れば分かるがとてもよいものだ。お前如きが持つことすら本来は許されない程にな」


その友人はドワーフだった。鍛冶の神に引け劣らぬ腕を持つ生きた伝説だった。だからまあこの世界にこうして戻ってきてあのドワーフが死んだと知ったときはショックを受けたものだ。寿命がある以上当然のことではあるが惜しいものを無くしたと言える。


「それはお前の誓いの印にくれてやる。だからまあ精々その剣に見合うようなやつになることだ」


「……分かった。この剣に見合うよう努力する」


まあこいつにくれてやるにはもったいないが、実際もらったはいいが振るう機会も無かったためしまっていた。それを少しは申し訳ないと思っていたというのもあってこうしてこいつに託すことにしたというわけだ。


「その剣は混沌を切り裂く。つまり殺すまでは至らんが神やそれよりも遥か高みにいる大いなる存在すらも傷つけることはできる。特に人間のように肉体を持つものには有効だ……なにせ能力使用の妨害ができるからな」


混沌それは万能なるもの。それは肉体をつくり、あるいは霊体つまり魂をもつくる。能力は魂にとても大きく関わるものである以上それが傷つけられた場合能力の使用に支障が出る。特に肉体に閉じられた魂は密集しているため大きく傷がつくのだ。


「……本当に貰っていいのか」


……


「恐いだろう? その剣はお前を喰らおうとしている……力の誘惑には溺れぬことだ……さてお前に渡す物も以上だ。準備が出来たら向かえ」

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