蝶という名の……8
さて……これからどうするかだな。ヴェリアが加わるかどうかは一応保留として決めないとな。
俺が作ったリスト……つまり現在ミラメリアにいるとされる転生者は50人程だそうだ。
だがそれは確定しているものだけだ。転生させたものの人数は基本的にカウントしているが、中には他の派閥に内緒で転生させられたものもいるからだ。カラスたちに探らせた情報によれば既に数人リスト外の転生者が確認されている。逆にリストの転生者の中には死んでいるものもいる。行方不明のやつはなんとも言えんがとにかくリストは常に更新する必要がある。
俺たちは当然除くが今回の更新でリストの転生者は57人。内今のところ9人に会ったな。で、昨日戦ったアイゼルだがあいつの中には3人の魂が封じられていた。それらの能力と現在の情報を照合するとリストにあった2人が死んでいることが分かった。それで2人減った。もう1人はリスト外だな。
とにかくまだ会っていないのは48人だ。居場所も数人を除いてだいたい分かっている。となれば今拠点としているあの町から行ける範囲内にいる転生者は……せいぜい10人といったところか。多いな……まああと48人という時点でな?
だがその点に関して言えば……
「おチビあれ結局どうすんの?」
アシスか……全くうるさいやつだな。今忙しいというのに。
「どうするも何も言ったはずだ仲間にできるならする。できないなら下僕か殺す……とな」
「それ本気なわけ?」
しつこいな……こういうことには興味無さそうなのだが……
「そうだが? それよりも普段妹のことしか興味のないシスコンのお前がこれに食いついてきたことの方が驚きだ。……面倒だから単刀直入に言え。何が言いたい?」
「別に? 興味はないけど裏切り濃厚なやつを入れられても困るって思っただけ」
なるほどな。まあ不安になるのは当然だ。ヴェリアは実際昨日裏切ったわけで……いやそもそも裏切る云々以前に敵であって仲間ではなかったわけだ。まあだから用が済んだら俺たちと敵対するのは当然だったといえる。
「そうだなお前の言う通りだ。いやまあ実のところ俺としてももしあいつを仲間にしたとしてもどちらかといえば裏切るだろうとは思っている」
どちらかといえばというかほぼ確実にいや絶対なのではと疑っている。要するに信用するには値しない。さてそう言ってやるとアシスは『は?』っという顔をした。
「じゃああんたはわざわざ裏切る前提のやつを仲間にしてるってこと?」
「やつをではなくやつもだ。実際前例としてお前をこうして入れてるわけだ」
アシスもあーだこーだと言っているが裏切れるタイミングがあればそうするやつだ。そう俺を仕留めるチャンスがあれば狙ってくる。前から本人がそう言っているわけだし俺もそれを分かった上でこいつを使っているわけだ。
「……つまりあんたはバカってことでいい?」
失礼なやつだ。まあいつも失礼だが。
「そう思うお前は単細胞だな。お前たちが俺を殺そうとするにしろ逃げようとするにしろお前たちは俺の行動を観察しなければいけない。つまり俺の近くにいなければいけない。まして俺がそれを許しているのだから尚更そうする……違うか?」
そうこいつは結局俺たちを裏切るために俺たちの近くに居続けなければいけない。それはまあつまり……
「つまりお前たちが裏切ろうと思っているうちはお前たちは仲間だ。だからまあ……お前たち自身は信用に全くもって値しないがお前たちが裏切ろうと思っているという事実は信じているということだ」
『全くもって』のところはきちんと強調しておいた。なんせこれっぽちも信用していないのは事実だからな。だが裏切りは別だ。とても信用できる。まあそうなるとシエリアとディアニスはこいつらより微妙かもしれんな。
さてやつにそう言ってやると一瞬睨んできたかと思えば今度はため息をついた。全く不満しか表せんのか。
「あーあ……バッカらし。俺本当運ないわ。こんな化け物に捕まるなんてさ」
そう言ってダルそうに家から出ていこうとするアシス……
「一応言っておくが裏切りにはそれなりの罰があるぞ」
「あーはいはい」
せっかく人が忠告してやったというのに適当に返事をして出ていった。全く何しにきたんだあいつは? ああそれよりもリストの方をだ……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「僕も行くよ」
翌日ヴェリアに返事を聞くと意外な答えが返ってきた。
「よかったねーおチビ」
アシスが棒読みでそんなことを言ってきた。悪くはないが良くもない微妙だ。
「どういう風の吹き回しだ?」
一応何かの間違いが起こることもあるだろうと思って明日までと猶予をやったわけだが……
「いやだなあシラカゼ君。楽しそうだなあって思ったからだよ。無くなったものはしょうがない。だから君たちがそれを埋め合わせてくれるんだよね?」
やはり間違いのようだ。
「いや違うが?」
「あははもうシラカゼ君ってば」
そして右腕に抱きついてきたヴェリアは……
「裏切ってもいい……だよね?」
耳元でそう囁いた……
「さ、行こうか?」
……
「うわーこっわ。リア充っていってもあーいうのにはなりなくないわー」
……
「? よくわかんねーけど早く帰ろーぜ」
……
「そうですご主人様。早く帰りましょう。そしてこの前のご褒美をください」
……
「あぐっ……」
とりあえず最後のやつは後頭部を掴んで地面と挨拶させてやった。
「……よし帰るぞ」
あーあますます面倒な事にになりそうだ……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よお。もう帰ってきたのかよ」
拠点にしている町に戻ってくると今日もおっさんがいた。
「なんだおっさんか……」
「なんだってなんだよ! つーかまた増えてやがんな。面倒は起こすなよ?」
おっさんに金の入った袋を投げた。
「分かった分かった」
このおっさん暇そうでいいな本当……
おっさんと分かれ宿を目指して歩いていると……
「あら? おかえりなさい」
シエリアに遭遇した。手に持ってる食材を見るに買い物をしていたのだろう。
「ああ。買い物か?」
「ええ」
「シエリア今日のめしはなんだ?」
とディアニスが言った。全くどこぞのピンクといい食い意地だけは無駄に凄い。
「そうねえ……あなたたちが帰ってきたわけだし今日はお鍋にしようかしら」
「おおー!!」
鍋ねえ……
「鍋って土鍋か? あるのか?」
「あるわよ」
へえーあるのか。
「分かったではそっちは頼んだ。俺たちは先に戻っている」
「ええ、お疲れ様」
シエリアと別れて宿へと向かう。途中ずっと鍋鍋とディアニスが鼻唄を歌っていた。
宿に着き扉を開けると……
「あっ……」
ピンクはいつも通りとして偶然だがリリィとフィリユスがいた。で、なぜかフィリユスが泣いていた。
「シラカゼ君ー!!」
フィリユスが俺に飛び付いてきた。あーあ涙を人の服に拭いやがって汚いだろうが。
「リリィちゃんがひどいんだよ~!」
どうやらなんやかんやで元のダメ人間に戻ったようだ。良いのか悪いのか……
「あー分かった分かった」
適当にフィリユスを剥がした。
「おかえりなさい皆さん」
「おかえりなのですシラカゼty……ぐふん、シラカゼ君。ちゃんと新しいお客を連れてきたですか? あっハーレム要員ならお断りなのですよ」
ピンクとリリィが出迎えてくれた。で、ピンクはなぜかファイティングポーズをとっていた。
「リリィ俺がいない間は変わりなかったか?」
「ちょ、僕のはなs「はい。特に何も無かったです。シラカゼさんの方は無事スカウトできたんですね」
ピンクがブーと視界の端で膨れているが気にしないでおこう。
「どうでもいいんだけど俺先に部屋行っていい? 疲れてんだけど?」
ガキかお前は。
「ああ、アシスとディアニスお前らは部屋に行け」
するとアシスとディアニスは2階へと上がっていった。ディアニスのやつはまだ鼻唄を歌っていた。
「で、紹介しようこいつはヴェリアージュだ。ヴェリア、リリィだ。あっちのピンクがリコでここの店主だ。で、あっちの残念なやつがフィリユスだ」
「残念!?」
フィリユス何を驚いているのか知らんがお前とても残念なやつだぞ。いい年して実際はともかく見た目は自分よりも若い俺に泣きながら抱きついてきたり、カニバリズムだったり。イケメソの意味ないだろ。
「よろしくお願いいたしますヴェリアージュさん」
「ヴェリアでいいよ」
よし俺も部屋に行って……
「はあはあ……」
すると後ろから荒い息づかいが聞こえた。
「そうだリリィ土産があるんだ」
そう言って後ろの変態を差し出した。
「はあはあ……ご、ご主人様これはいったいどういうプレイなのでしょうか?」
「……すみませんシラカゼさん。私変態さんはちょっと……いじって嫌がるのを見るのが好きなので……あ、私ったらすみません。なのでお気持ちだけ……」
リリィに丁重に断られてしまったのでしかたく適当に縛って床に投げ捨てておいた……




