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蝶という名の……6

さて……リアとの交渉が決裂したため現在戦いの真っ最中だ。基本ディアニスがリューク、アシスがリア、ヴェリアと村人がロウとそのペットたちと戦っている。ヴェリアとロウの方は微妙なところだ。やはりここはメインの方を潰した方が勝利するだろう。


アシスの方はリアの能力に対してほぼ引き分けているところまで持っていっているので、あーだこーだと言う割りに頑張っているようだ。ディアニスの方は能力を使えば即勝利が確定するのだろうが、ディアニスはこういうことだけは無駄にこだわりが強いようで使おうとしない。というか楽しんでいるのだ全く……まあつまり現状進展していないのはディアニスのせいだ。


「シラカゼ……」


来たか……他が3人の相手をしている以上4人目が俺のところに来るということはまあ道理といえば道理だろう。だがとても軽率だな。


「さて……悪いが忘れっぽくてな? アイゼル……だったか?」


「そう……だ」


ほう? 我ながら珍しく覚えていたようだ。


「それで? 俺を殺しに来たか?」


「……」


『どうした?』と言おうとしてその言葉を途中で飲み込む。


「…… ふむ? お前の能力にはタイムラグがある。それも2回だ」


通常能力を行使するのにそれを使おうと考え実際に使うまでの間があるわけだ。無論言ってしまえばそれはほんの一瞬のことでしかない。だが能力持ち同士の対決ではこの一瞬の差で勝負がつくことはとても多い。それは0、何秒という世界だがその小さな差が実は大きな差となりえるのだ。故に処理速度はとても重要だな。

そして目の前のこの女の能力には通常のラグに加え、もう1つラグが生じるタイミングがある。こいつは封じた魂の能力を行使できるがそれは1つだけであり、その選択の時間にラグが生じる。そこに通常の能力行使のラグで2回だ。


「ここまで来る間に選択をしておけばいいものを……」


「したらお前逃げる」


片言だな……


「お前が選択したことなどわかるはずがないと思うが?」


「ある……ないならお前逃げる」


「フッ、なるほど当然だな」


単純なのか頭が回るのか……後者ならばそこそこだな。というかそうでなければがっかりだ。


「だがいいのか? そうなるとお前はピンチというわけだ。最初のラグで間を詰めて次のラグで仕留められる」


「嘘……騙されない……最初お前分かる。次お前私に近づく。私の方早い」


おもしろい騙されなかったか。とすればどうやら口はともかく頭はとてもよく回るようだ。恐らくさっきの会話での矛盾……いやそもそもリュークに俺が能力を使った段階で気づいていたのかもな。


「遊びが過ぎたな? だが終わりだ。言うまでもないがあえて言おう。俺はお前よりも早くお前を殺せる」


「知ってる。お前逃げない証拠。……でもお前私殺さない」


確かに殺すつもりはない。だが……


「場合によってはと言ったはずだが? しかもお前が敗れればあそこで戦っているやつらの敗北も決まる……俺には殺さずとも死なない程度に嬲るという選択肢もあるのだが?」


「上等」


上等ときたか……まあつっこまないでおこう。


「……それで? お前は何が言いたい?」


「お前なぜウル知ってる?」


なんだそんなことか……まあおもしろそうだから別にいいが……


「そんなことを聞いてどうする?」


「そんなこと……ない。大事。教えろ」


ここまでやる程度にはこいつらはウルと親しいのだろうな。まあそれは命を賭すとまで言いきったのだからかなりということになるわけだが。まあ言葉遊びついでに興も乗ったことだ少し教えてやろう。


「いいだろう。俺があいつを知っているのはまあ無論だが面識があるからだ。といっても最後に会ったのはかなり昔の話になるのだが……」


「お前……神か?」


おお核心をついてきたか。


「さてな? そうとは限らんと思うが? 少なくともウルが生まれたときから知っているとだけ言っておこう」


「むぅ……」


なにやら目の前の女は考え始めた。


「さて質問には答えてやった。それが無駄にならないよう生きて帰れるといいな? ……もう1度覚悟し直すことだ」


アイゼルは俺の言葉に反応し素早く選択を始めた……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「はあーあ……埒があかないんだけど」


アシスはリアの能力を警戒して距離をとって戦っていた。距離を詰められないのが精々でうまく攻められないでいた。


「クッ……」


が放っていた雷の一つがリアを掠めた。


「あーあ惜しかったないm……あっぶな」


とアシスが油断していると土を固めて作られた大きなトゲが飛んできた。それを避けている間にリアは距離をつめる。が、リアは素早く後方に跳んだ。すると轟音とともにリアのいた地面に雷が落ちた。


「惜しい。もう少しだった」


そう言って笑って見せるリア。


「おら余所見してんじゃねえ!!」


ディアニスがリュークに向けて撃ち込む。


「チッ、うぜえな」


リュークはそれを跳ねて避ける。同時にくるくると空中で反転しながら剣の力を使う。すると螺旋状の水ができディアニスに向かっていく。それは途中でするどい氷に変わった。ディアニスはそれを撃ち落とすとリュークに向けて追撃の弾を放った。リュークはそれに氷をぶつけて防いだ。

そして両者が次の攻撃に移ろうとした時……ドサッという音とパンパンという手を叩く音が鳴った。


「熱くなっているところ悪いがそこまでだ」


手を叩いたのは俺だ。そしてさっきのドサッという音は……


「アイゼル!!」


リュークは叫んでこっちに駆け寄ってこようとしていた。俺は氷の剣を作って握った。


「動くな! 安心しろ殺してはいない。だが……殺されたくはないだろ?」


剣で足元で気絶しているアイゼルを叩く。


「ぐっ、てめえ!!」


おお怖い怖い。めっちゃ睨んでくるんだが。


「ああやれやれお前みたいなやつは嫌いだ。折角お前たちを見逃してやろうと思ったんだけどなあ? そんなに死にたいなら仕方がない殺してやる」


「逃がすだあ? 何企んでやがる?」


こいつも失礼なやつだな。


「別に殺すのが惜しいと思っただけだ。今はお前たちに仲間になれと言っても無駄だろう? だから逃がす。ということで感謝しろ」


そう言うとやつらは『は?』という顔をした。


「ということでこいつは返してやるからとっとと帰れ」


「意味わかんねえ……」


「どうせバカがいくら考えても無駄だ」


そう言ってやると「なんだと!!」とまた睨んできた。


「その子の言う通り。リュークの頭じゃ無駄」


リアがこちらに近づいてきた。


「リア! てめえどっちのみk「うるさい」


「夫婦喧嘩なら後にs「「違う!」」あー分かった分かった」


もう夫婦でいいだろお前ら。違うと言うならなんなのだ。ん? まだ恋人だとでもいうのかめんどい。

という会話をしているとパンっという音が鳴り何かがリュークの体に吸い込まれていった。


「がはっ……てめえ嘘をついたな!!」


言うまでもなく今のは弾丸だ。リュークを見ると腹の上の辺りから出血していた。辛うじて急所は外れたようだがそれなりの処置は必要だろう。


「ついてない」


弾丸ということは……ディアニスの方を見ると今度は俺の方に銃を向けていた。ふむ……


「おいヴェリア。どういうつもりだ?」


「なんのことかなシラカゼ君?」


白々しい……


夢現なる幻死蝶(ドリーム・オブ・バタフライ)……」


それがやつの能力名だ。それは能力であると同時に魔術でもある。ヴェリアの能力は何種類かのある力を備えた蝶を魔術で産み出すというもの。蝶は実際の蝶ではなく魔術で構築された疑似霊体だ。

それぞれの色毎に能力が決まっている。例えば黄色の蝶は体を麻痺させる鱗粉を撒き青なら幻惑の鱗粉を撒くのだ。鱗粉は魔術でできたもののため風魔法で払うということはできない。加えて相手の体表に蝶がくっつき、小さな刻印となって直接相手を毒し侵すということもできる。


それだけでも十分たちが悪いが特に黒と白はめんどうだ。黒はシンプルに相手を殺す力を白は鱗粉に効果がないが相手の体表に刻印され、その部分から徐々にそいつの体のコントロールを乗っ取ることができるのだ。そうつまりディアニスがリュークを撃ったのは……


「だってシラカゼ君その子たちを見逃すつもりなんだよね? でもそれ僕としては困るんだよね」


俺の周りを黄色の蝶が数匹舞い始めた……


「お前が勝てたのはほとんど俺のおかげだ。ならこいつらをどうするか決めるのは俺だ。いやそうではないにしろディアニスに能力を使った時点で十分過ぎるほどの裏切りだ」


ヤバイな。徐々に体が痺れてきた……


「まあお前が最初から裏切ることなど分かっていたがな」


「あはは強がっちゃって。ほんと可愛いねシラカゼ君。でも知っていたなら今ピンチになってないと思うんだ」


そんなことよりもう立てなくなったんだが? 仕方ない座るか。


「ふん……別にお前の能力を無効化すればいいだけだからな」


「その前に彼が引き金を引く方が早いと思うんだけどなあ?」


チッ…….引っ掛からなかったか。


「ねえシラカゼ君? 君も僕のモノになりなよ……ね?」


ヴェリアの手元に白い蝶が現れた。そしてそれは俺の方に向かって飛んでくる。


「断る!」


俺の方に向かって来ていた白い蝶も辺りを舞っていた群れも消えた。同時に銃声が鳴った。そして次の瞬間……


「ああん……」


……気持ち悪いことこの上ない女の声が聞こえた。


「なっ……」


そうその女とは……


「流石ご主人様。私が壁になると知っていて能力を使ったのですね。そんな外道なところに……興奮しちゃいます」


おえー……気持ち悪……


「……はっ」


俺が汚物から目を逸らしているとザクッと痛みが走った。胸の辺りを見ると赤く染まっていた。


「ふっ、あははは、なあんだ焦って損したよ。君は本当におもしろいね」


ああ、俺もビックリだ。こんなにあっさり刺されるとはな。だが仕方がない能力を無効にしてもその残滓として麻痺は残ってしまったのだからな。

ヴェリアは倒れた俺に近づいてしゃがみ顔を覗きこんできた。


「残念だよシラカゼ君。僕本当に君が欲しかったんだよ? 君を手に入れて……犯す。そう犯してあげる。だって許せないんだもん。だからあーあ残念だな。君が快楽に溺れて堕落する様を見たかったなあ」


「……」


やっぱこいつも変態だったか……


「だからせめてね? ……残り僅かな時間を苦しませてあげるよ」


ヴェリアの背後に蝶たちが現れ飛び回り始めた……


「ああそうだ邪魔しちゃ駄目だよ? したらその子殺しちゃうから」


ヴェリアはそう言ってアイゼルを示してリアたちを脅した。


「さあシラカゼ君。最後にとっておきの悲鳴を聞かせてよ」


ヴェリアがそう言うと蝶の群れが俺目掛けて一気に押し寄せてきた。


「フッ……言ったはずだ」


しかし蝶の群れは俺の体に届くその直前で消えてしまった。


「断るとな」


そしてヴェリアの周りに青い羽の蝶が舞い始めた。


「なっ、なんでどうして!!」


まあ焦るだろうななんせ……


「僕の蝶じゃない……」


「その通りだ。そしてまあ……」


ヴェリアの前で倒れていた俺は青い蝶の群れとなって空中に散っていった。そしてヴェリアの首に背後から氷の刃があてられた。


「お前の負けだ」

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