蝶という名の……4
「ん……んん?」
朝だ。なぜ朝なのだろうか? 確か最後の記憶によれば……というかだ。
「んー……おはようシラカゼ君」
なぜ隣でこいつが寝てるんだ?
「よく自分を殺そうとしている相手と一緒に寝られるな?」
どういうつもりなのだろうか……いやなにせああいった形でこの村を維持しているようなやつだ、これもそういった考えあってのことなのだろう。とするならまあ分かるが……
「昨日言ったはずだよ? 殺してくれても良いってね。ふふっ、まあその前に意識を失っちゃたかな?」
まあ確かに昨晩そんなことを言っていたというのは覚えているが。
「さてな? 少なくともお前の言葉は信じるに値しないのだろうな」
俺を生かしておく意味などないだろうにな。それはつまり本当に殺されたいのか、面倒なことに何か企てがあるのか。ちなみに俺は後者だと思う。
「そんなこと言われると僕傷つくなあ……まあでもお互いのことまだ全然分かんないからしょうがないかな? だからさあ……」
そう言ってヴェリアは体を密着させてきた。
「もっと知り合おうよ?」
「……」
不快だ。俺はヴェリアから離れてベッドから出た。
「……呆れるな。その手は無駄だと分かっているはずだが?」
「そんなつもりないんだけどなあ……? しょうがない普通に話し合おうか。でもその前にご飯にしようよ? ちょっと待っててね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あんたさあ何殺すとか言っちゃってるわけ? 村長仲間にするんじゃなかったの?」
現在朝食を終えヴェリアの家にアシスたちも呼んで話し合い中だ。
「バカめそれが本来の目的だ。仲間にするのは単に戦力を増やして本来の目的を達成する可能性を高めるために過ぎない」
無論アシスたちには言っていないが本来の目的は逆だ。
ただストレートに殺すと脅してみたのは試してみたというのもあるし、なにより俺が嫌だったからだ。こいつ村の外の変態とはまた違った類いの面倒なやつそうだからな。まったくいいかげんまともなやつが欲しいものだ。
「それならそうと言ってくれればいいのに。シラカゼ君はツンデレだなあ」
ヴェリアはそう言って俺の頬をツンツンしてきた……やめろ……
「あーあ、いちゃいちゃしちゃって。流石おとk「黙れ平凡」
誰が男の娘だ。しつこいんだよ平凡面め。
「ふんっ……で? そう言うってことはなってくれるのか?」
「そうしてあげてもいいんだけどさあ? 問題があるんだよね」
よしこr……まったくなんでこういうときにツッコミ役がいないんだ。収拾がつかんだろうが。フィリユスがダメになってなかったらなあ。
「……問題とは?」
しかたない面倒だが真面目にやるか。
「まず僕が離れるなら後任を決めないと」
そもそもそんなあっさり村長辞めて村を出ていいのだろうか?
「その点は問題ないよ? 後任に関しては優秀な子から決めさえすれば僕がいなくてもこの村は維持できるだろうしね」
「心を読むな」
「君が読ませたんでしょ?」
やれやれあー言えばこう言うと……
「ただ僕がやめる前に片付けておきたい事があってね」
また面倒そうな予感がするんだが……
「で? 俺たちにその片付けとやらの手伝いをしろ……と?」
「そうだから君たち運が良いよ。君たち転生者がいなきゃ僕たち分が悪いんだもん」
転生者1人じゃ分が悪い? やはり面倒そうだな。
「つまり転生者と戦えと?」
「そう! でもあっちは数人なのに僕1人じゃ不利でしょ? だからちょうどよかった」
都合の良すぎる話だ。なにせこいつにとっても俺たちにとっても有益なのだからな。こいつは村をそいつらから守れる。俺はこいつとうまくやればそいつらも始末ないしは手駒にできると……
「いいだろう。ちょうど血の気の有り余ったやつもいるからな」
で、ディアニスの方を見ると……
「zzz……」
……
「い、いってーーー!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
というわけでだ? 話し合いの結果俺たちはヴェリアに協力することにした。明日村の外で転生者たちと戦うことになった。転生者は4人……もしこいつらが手に入ればそれなりに目標達成に近づくだろう……少なくとも効率は上がるはずだ。だがまあそううまくいくかどうかだ。そもそもこの話事態出来すぎているのだ。誰かの思惑があからさまに伝わってくるが問題は誰なのかが分からない。普通に考えればヴェリアだ。が、あいつはあいつの思惑があるだろうが、これは違うようだ。鷲から仕入れた情報によれば転生者と揉めているのは本当の話らしい。
なのでとりあえず話に乗ってやるとしよう。敵は転生者4人に雑魚が数十人こっちも転生者は4人で雑魚どもは村人がなんとかするということになった。戦況を大きく左右するのはまちがいなく俺たちだ。転生者を倒せばこの戦い制したも同然、が逆に言えば俺たち4人が負ければ敗北だ。無論負けそうになったら撤退するが。
「いやあでもよかったよこのタイミングで。降伏しようと思ってたしね」
夕食を食べながらそう考えをまとめているとヴェリアが話を切り出してきた。ちなみにアシスとバカは別の家に戻っていった。
「いいのか? お前は俺たちの力量など知らないというのに」
出会ってまだ1日経ったかどうかだからな。
「それはそうなんだけど……折角訪れた奇跡を無下にはできないでしょ?」
ヴェリアは笑顔でそう言った。奇跡ねえ……
「明日もその奇跡とやらが起こればいいがな」
まあ負けるつもりはない。明日の戦いもこいつとの駆け引きもな。
「期待してるよ」
「期待する余裕があるなら精々全力で戦うんだな」
「もちろんだよ」
さてまあそれもまた駆け引きなのだろうな。戦いに勝っても俺たちがこいつらに裏切られて殺されるリスクがあるからな。
「僕はここの村長……だからね」
なんだ今の間は? ヴェリアの表情を窺うと少し沈んでいた。
「どうした?」
「実はあいつらの本当の狙いは僕なんだよね」
ヴェリアが狙い……
「ほう? 恨まれることをしたと?」
まあ迷惑な話だが恨まれることは当たり前かもしれんな。それこそ下手をすれば切りがないものだ。
「もう僕がそういうやつに見えるのかい?」
「見える」
正直に即答してやるとヴェリアは頬を膨らませてしてないと抗議してきた。
「だいたいあいつらが悪いんだもん。あいつら転生者を片っ端から問答無用で殺してるんだよ?」
転生者を殺してる? 転生者を殺す転生者か……やはり他にもいたのか。
「ほう? では俺がそいつらの仲間とは考えなかったのか?」
まあ思いっきり昨日殺すって言ったしな、うん。
「もちろん最初はそう思ってたでも今日の朝君にその気があまりないって気づいたから」
なるほど。本来の目的が最初から抹殺ならあんな絶好の機会逃すわけがないからな。だが……
「違うな。お前は元々死を覚悟していたんだろう?」
昨日の夜こいつが殺してもいいと言ったのはなにかしら思惑があるからだと思っていたがどうやら違うようだ。
「言ったでしょ? 降伏しようかと思ってたって」
冗談だと思ったが……まあ状況的には絶望的か。少なくとも真っ向からやり合えば敗北確定だろう。
「でも勝てそうだからやっぱり戦おうかなって」
「自信があるようだが互いの詳細が分からん現状は五分五分としかいえんぞ?」
「その時はその時だよ」
「楽観的だな」
自分の命が懸かっているというのにな。
「1度は死んでるからね」
「フッ、それもそうか」




