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蝶という名の……3

「着いたか……」


道中変態に絡まれるといったアクシデントがあったがなんとかたどり着いた。村の外側は石の壁で覆われている。見たところ壁自体は薄いが、魔術によって結界が張られているため守りはそれなりのようだ。


「あ~……腹減った」


「少しは我慢しろ」


ディアニスを諭して村の唯一の出入口に向かうとそこには壁を穿つように少し大きめの門がありその両サイドにはカウンターのような作りで中に門番がいた。噂どおりどちらも中性的で男か女かいまいちよく分からんがまあまあの美形だ。


「ん? こんな時間に何のようかな?」


声も中性的だ。分からん。こいつはどっちなんだろうな?


「悪いが村に入りたい。一晩ここで休ませて欲しい」


「君とそこの人はいいけどそっちの2人はダメ」


2人? 嫌な予感がしたので後ろを振り向くとはあはあと息を荒くした女がアシスの隣にいた。


「うわ……隣にいたとか気持ち悪いんだけど」


本当に気持ち悪いんだが。


「フフ、言ったはずです逃がさないと……」


……


「頼む! 実はこの気持ち悪い女に追われてるんだ! 匿ってくれ!」


必死に門番に頼み込む。必死にもなるわ。なんせ気持ち悪いからな。ああ、また腕を捕まれた吐きそうだ……


「……分かった特別に入れてあげるよ」


すると門が開いた。


「君はその子を離して」


「嫌です!」


「しょうがないなあ」


そう言って門番はごそごそと何かをとりだした。すると……


「ダメ……折角見つけたの……に……」


アリなんとかは倒れてしまった。どうやら眠っているようだ。魔術だ。それも道具による……まあそれはともかく腕を剥がした。眠ってなお掴み続けるとはなんと執念深い……


「入っていいけど案内がつくからその子に従ってね~」


「ありがとう」


ふうやっと中に入れるな。まあアシスも入れたし変態とはおさらばできたしよかったよかった。


「僕に着いてきてね」


村に入ると門が閉まった。と同時に案内役の人間が現れた。見た目は……言うまでもないが中性的でとてもきれいな顔をしていた。服装は青い綺麗な蝶の飾りがついたシルクハットに……青いリボンが胸元についた膝までの長さの黒いドレスとブーツ……女……なのだろうか? 少なくとも年は近そうだ。


「分かった」


ということで着いていく。


「君変態に追われてたんだってね……かわいそうに……」


そうだな。まさかこんな目にあうとは思っても見なかった。しかも村に到着する前にだから笑えない。

まあそれはともかくとしてだ……


「なぜ俺の手を握る……?」


「あっごめん。不安かなと思って……馴れ馴れしかったよね……」


不安そうねえ……


「いや、ありがとう」


とりあえず当たり障りのないように笑っておこう。不自然じゃなきゃいいが……


「……っ!!」


するとやつは顔を手で隠して顔を俺から背けた。


「うわあ。さらっとおとすとか……流石男の娘だねー尊敬するわあー」


聞こえてるぞ。誰が男の娘だ。アシスめ後でボコる。


「どうかしたのか?」


聞くまでもないが……


「……ううん。なんでもないよ。さ、行こうか」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ここだよ」


で、俺はアシスたちと別れて宿というか案内人の家の前にいた。この村には宿がないため臨時でどこかの家に泊まってもらうそうだ。全員バラバラにされそうだったっがディアニスの頭が弱いから1人にするのは不安だと頼んだらアシスとディアニスは一緒にしてもらえた。ケンカしなければいいが……


「さあ中に入りなよ」


そんなことを考えている間に案内人はドアを開けていた。


「ああ……」


外からの見た目は普通の……と言っていいのかは分からんが、まあ恐らく少しきれいなぐらいで普通と言っていいだろう。中はきれいに手入れされているな、うん。きれい好きなのかもな。


「今からご飯作るからそこに座って休んでて」


「ああ、ありがとう」


そう言って別室に行ってしまったので、とりあえずは言われたとおり椅子に座り部屋の中を観察することにした。それであるものを見つけたので立ち上がって壁に近づきしゃがんでそれを見た。指でそこにあるものを撫でた。この家を守るための魔術だろうか? 小さく細かい赤と青の文字と模様、図形が描かれていた。このきめ細かさ……知り合いの魔術の神を連想させられるレベルだ。俺よりも深く精通しているのは言うまでもないがまさかこれ程とはな……


「君も魔術が使えるの?」


声に振り返ると案内人がかカップが乗った盆を持っていた。


「嗜み程度にな。それよりもご飯作るんじゃなかったのか?」


差し出されたカップを受け取った。湯気のたつカップには紅茶が注がれていた。


「しながらだよ。お客さんをただ待たせるのは申し訳ないでしょ? そうだミルクと砂糖は?」


「いや大丈夫だありがとう」


案内人はじゃあゆっくり待っててと言って戻っていった。というわけでゆっくりと待たせてもらうことにした。紅茶はヘルトゥナの時以来だな。この村はこの紅茶のような高級品などを売って成り立っているそこそこ豊かな村だ。それに加え魔術がとても進んでいる。そして美形ばっかりと……この村はこれだけどこかの国に狙われる理由があるにも関わらず、どこの国にも属していないのだ。よく守っているものだと感心すると同時にどうやって守っているのか疑問だ。


「お待たせー」


ゆったりと待っていると案内人は料理を運んできてテーブルに並べ始めた。ほかほかと湯気が立ち美味しそうだ。


「さ、どうぞ召し上がれ」


「ありがたくいただくよ」


スプーンでスープを掬って口に運んだ。美味しい……


「美味しい」


「あはっ、そう言ってもらえてうれしいよ」


美味しいか……


「どうかした?」


「いやなんでもない」


とりあえずは自然に振る舞うよう努力しよう。考えをまとめるのは後だ。


「? ……あっそういえば僕名前を言ってなかったね。僕はヴェリアージュ。ヴェリアって呼んでね」


「俺はシラカゼだ」


普段どうでもいいと思っているからな。うっかりしていた。


「シラカゼ君かあ……うんよろしくね?」


それから夕食で色々ととりとめのない会話をした。夕食を終えて今はこうしてお湯に浸かってる。一人暮らしにしては浴槽が広い。いやそもそも浴槽があるって時点で裕福なのか。


「湯加減はどう?」


のんびり湯に浸かっていると浴室のドアの向こうからヴェリアの声がした。


「ああ、とてもいい」


俺が返事を返すと……ドアが開く音がした。後ろを振り返ると胸元で長いタオル押さえたヴェリアが立っていた。


「一緒に入ってもいいかな?」


「……ああ、構わない」


俺がそう言うとヴェリアは体を洗い始めた。俺が浴槽の奥につめると洗い終えたヴェリアが入ってきた。


「ねえシラカゼ君……」


そして俺の方に近づき上に乗るような形で抱きついて首元に顔を埋めてきた……体が暑いがきっと湯に浸かっているからだろう。


「……」


「動揺しないんだね」


首もとから話して俺を見上げる顔にはつまらないと言いたげだった。


「十分驚いているよ」


「本当~?」


そう言ってさらに体を密着させてきた。そして分かった。


「お前男だな」


感触がな……


「男じゃ嫌?」


そう言って首をこてんととして涙目で見上げてきた。なんとあざといのだろうか。


「……なるほどな。こうやってこの村を守っているというわけか」


「……」


まず相手を甘い誘惑で油断させ、薬と魔術で肉体と精神の両方を侵す。そして都合の良い操り人形に仕立て上げると……あざとい。実に悪辣だ。暑いと感じているのは薬のせいだ。やはり夕食に…….いや紅茶の方かもしれんが入っていたようだ。


「お前がこの村の村長だな」


ヘルトゥナから与えられた情報には名前はともかく顔が無かった。だから出会うまで(・・・・・)は分からなかった。出会ってこいつがそうだと気づいた上で誘いに乗ったというわけだ。しかし……


「もしかして君も転生者かな?」


「……そうだ」


薬のせいで少しボーっとしてきた。しかも浴室に何匹か蝶が現れ舞い始めた。これも魔術なのだろう体が痺れてきた。


「へえ~それで僕に何のようかな?」


「……お前を殺しにきた」


本当の目的としては仲間に引き入れるべきなのだろうが……こいつは無理だと判断した。となればということだ。


「ぷっ、あはは……何それ? あんまりおもしろくないよ?」


「だろうな」


殺すと言われて喜ぶとか……あ、あの気持ちの悪い女が……思い出したくも無かったというのに……


「それで? 君は僕をどうやって殺すつもりなのかな?」


そう言って再び顔を埋めてきた。


「さてな?」


痺れる腕を無理矢理動かしてなんとかやつの背に腕を回して引き寄せる。なんとなく色々とムカつくからだ。


「無理しなくてもいいよ?」


「無理などしていないが?」


力がうまく込もっていないのだろうな。ということでもっと強く……なっているか分からんが頑張ってみる。


「ふふっ君可愛いね……いいよ。殺されてあげても……」

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