蝶という名の……2
世界は複数の領界によって構成されている。主にそれは神々や天使の住む天界や死者が行き着くべき冥界、人間などが住む下界の3つだ。
下界には6つの大陸が存在するが内2つは未開の地であり発見できていないため実質4つだ。アルディアル、フォルニゲイト、シェイプスそしてシャルナト……俺たちは今そのシャルナト大陸にいる。
シャルナト大陸は6つの大陸の中で最も大きい大陸だ。故に多様な地形、環境があり、様々な種族が存在する。俺たちが拠点としている町は大陸の南西側に存在する。俺たちが目指しているのはそこから東の方にあるユニ村だ。
ユニ村は変な村だ。どこが変かというとその村に住んでいるやつらのほとんどは……ルックスがとてもいいのだとか。少年少女が多く残りはほぼイケメソか美女と……しかも中性的なルックスが多い……これだけでも十分過ぎる程の悪意を感じる。だがそれに加えて恋愛などにおける性の境界がない……つまり同性だろうがディアニスみたいなやつだろうが関係ないということだ。加えてハーレムもokとか。変態にとってはというかそういう変態どもの楽園だな。俺にとっては地獄だ吐き気がする。そしてそんな地獄を作り上げた村長が転生者だったりする。
「後半はあんたの偏見じゃん。まあ最悪ってのは同感だけど」
とまあ説明してやったのだが……それを一番聞いて欲しいディアニスは大して興味なさそうにダルダルと歩いている。全く誰のためにためにしてやってると思ってんだこの脳筋。
「前に聞いた話だとユニの村長って男らしいね。それもあんたみたいな見た目の」
「うるさい」
誰が男の娘だ。
「なあそれ俺行く意味あんのかよ? 絶対暇だろ」
そうだな。争わずに済めばだがな……戦闘狂め。だが連れてきた意味はある。
「あるぞ。単純にお前はあの町の住人の性癖と同じだからな」
ディアニスはまあ中身はともかく見た目はいい。今回の場合は中身もあそこの条件にあう。ユニ村は規制が厳しいからな。まあこいつを連れてきたのはそんな理由よりも暇人だからだが。
「あっはは良かったなディアニス」
「ちなみにアシス。お前を連れてきた理由の一つはお前の平凡ルックスだったりする。なんせそんなやつらばかり見ていたら吐いてしまうからな。お前で緩和するというわけだ」
まあずっとこいつの顔を見ているのも嫌だが。
「何それ? あんたほんと最悪。なら鏡でずっと自分の顔でも見てればいいじゃん」
「言っただろ? そんなやつらばかり見ていたくないと。なんせ俺の顔も綺麗だからな」
平凡め。男の娘だなんだと言うからそうなるのだざまあみろ。
「は? あんたナルシストだったわけ?」
「ばあか。周知の事実だ」
嫌な話だがな。そのせいで、いやそれだけが理由じゃないがストーキングされたりセクハラされたり最終的に殺されたり散々な目にあっているわけだしな。
「そういうお前は本当に驚くほどのシスコンだな。まさかあんなところにまでついて行きたいとはな……」
そう実に驚いたことにこいつは自分の妹のためにここまでついてきているのだ。まあ正確に言うならば俺は当初こいつを連れていくつもりがなかったが、行きたいとうるさかったのでしかたなくつれてきたのだ。それほどまでに妹が大切らしい。
「ああなるほどな。シスコンのてめえらしいな」
ディアニスはニヤニヤしながらそう言った。さっきの仕返しなんだろうな。全くもう仲良くしろとは言わんからせめてケンカするなと言うに……
「フン……人のことを脅しといて良く言うよね」
「さてなんのことだかな?」
殺すとか言いながら睨んできた上に、暴れて人の手をとことん焼かせてくれたくせにしてはよく言うものだ。
だからまあしかたなくシエリアから引き出した情報を元に妹を殺すとかなんとか言ってやったわけだ。シエリア曰くアシスの妹は今は行方不明らしいが……まあ俺に見つかって殺されたくなかったらというかそもそもお前自身が死んだら……ということだ。
「本当あんた最悪……」
そう言ってアシスは俺を睨みつけてきた。声にこそ出していないが、それこそ言外に殺してやると言わんばかりに……
「おうやるってんなら相手になんぜ?」
で、ディアニスはアシスに銃を向けると……バカバカしい。
「くだらん。行くぞバカ共」
俺はさっさと先に進むことにした。なんせ向かっているところは地獄だ。さっさと用を済ませて帰りたい。
「だとよ。命拾いしたな」
「フン……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
町を出てから3日経った。今はユニ村の近くの森の中を歩いていた。ユニ村には今日中に着くだろう。で、さっきから少し前の方でバンバンバンバン発泡音がうるさいのはたびたび現れる魔物をディアニスが倒しているからだ。
「ディアニス。後ろから来るやつは撃つなよ」
「了解」
ディアニスにそう言って直ぐに後方から白い鷲が近くの木の枝に留まった。この鷲はメリアに会いに行ったときに捕まえたあの鷲だ。こいつは今のように伝令役をさせている。ちなみにいつものカラスなどとは違いこいつらに隠すつもりはない。言うなれば公の伝令役といったところか。
「あれが捕まえたってやつ?」
「そうだ。で? お前がそれを知っているということはあの時はお前が付けてきていたんだな」
そう言えばシエリアにお礼だなんだと引き留められてから別れた後付けてきていたやつがいたなと思いだし言ってみた。
「いいや。俺じゃないね。シエリアでもない」
「そうか」
どうやら他のやつらしい。他にも仲間がいたことはシエリアから聞いているし、既に情報を集めてリストにまとめてある。だがそいつらは監視させているので後回しだ……と言いたいところなんだが。
「ではそこに隠れているやつか?」
「っ!!」
おやおや何やら焦っているようだ。ここしばらくの間監視していたことがバレていないとでも思っていたのだろうか?
「本当に分からなかっただけだし。アリシエルがいたことに気づくとか化け物かよ」
「ふーん? で、そのアリなんとかとやらはいつまで隠れているつもりだ?」
とそいつが隠れている木の方に声をかけてみた。するとまあ逃げたと……面倒だな。
「ぐっ」
仕方ないので自身を能力で強化して走って跳躍。そしてちょうど木々の間を飛び移っていたところを殴って地面に叩きつけた。
「手を焼かせないで欲しいんだが?」
おかげで今走ったりしてきたところの地面とか木が少し抉れたり折れたりしてる。あまり目立つことはしたくないんだが。
まあそれよりもうっかり加減を間違えて叩きつけてしまったが大丈夫なようだ。頑丈な転生者でよかった。色々聞く前に死なれては困るからな。
「はあはあ……」
「さて……」
とりあえず引っくり返して仰向けにした。女……だと思う。短めの茶髪に黒い……忍びみたいな服を着ている……
「おーい大丈夫か~?」
ぺちぺちと顔を叩く。叩いていると後ろからアシスとディアニスが歩いてきた。
「瀕死の女の顔を叩くとか最悪なんですけど? シラカゼ君マジ鬼畜~」
そんな感情がこもってない声で言われてもなあ?
「つーかあんたほんと化け物なんじゃないの?」
周囲を見ながらアシスはそう言ってきた。
「別にこれくらいお前でもできるだろ」
「これをこのくらいとか言ってるあたりが化け物って言ってるんですけど~?」
ふん、ああ言えばこう言う。つくづく面倒なやつだ。
と考えていたら腕をがしっと捕まれてしまった。誰かは言うまでもないが……本当に大丈夫なのだろうか? 凄くはあはあと息が荒いんだが……
「見つけた……」
「何?」
見つけた? 何をだ? こいつは俺たちをずっと付けてきていた。だから少なくとも俺たちをではないな。では何を見つけたというんだ? 見られて不味いものはないはずだが……
「あなた……」
よく分からんが何か不味いものがあったのかもしれない。だとするならばヤバイな。吐かせたらさっさと殺すか? いやそれは早計か?
「ドSですね。それも私のことが分かる……」
……は?
「ああそういえばそいつドMだったっけ? 能力のせいで存在感薄いから忘れてたわ」
「その言葉……ゾクリときました。久し振りですねアシス」
……
「うわ忘れてたわあんたすげえ気持ち悪いんだったわ。しかもさらっと挨拶いれるとか怖いんだけど?」
「ああいいですいいですその謗りが……はあはあ……」
「きもっ」
……本当に気持ち悪いんだが? 気持ち悪いから腕をいい加減離して欲しいんだが?
「でも唯一私を罵ってくれるあなたも極希にしか気付いてくれない上に忘れてしまう。それはそれで興奮しますが、やはり放置プレイというものは認知された上でなければプレイじゃありません!」
何を熱く語っているのだろうか? 気持ち悪い。ああ、こんなことならずっと無視しておけば良かった。
「そして今私に気付いてくれる鬼畜でドSな方に出会えた……」
鬼畜でもサディストでもないんだが?
「おめでとう~」
おめでとうじゃねえ! 全然おめでたくないわ。何ニヤニヤしてんだシスコンが。
「ということで私もあなた様にお仕えさせていただきます。どうかたくさんいじめて下さいご主人s「断る!!」
誰がご主人様だ!! 気持ち悪いわ。そういえば前世にもこんなのが2、3人いたな。だがあの時はそんな変態から守ってくれるやつもいたのだ。あいつら今すぐここに転生して来て欲しいんだが? というか腕を離せ。
「っ……その即答goodです。ですが私も折角出会えたマスターを見逃すわけにはいきません!!」
言い方を変えればいい……なわけあるか!!
「ディアニス!! さっさとこの気持ちの悪いやつを撃て!!」
「ん? 気持ち悪い? ……ああアリシエルか。相変わらず気持ち悪いな……ん? 何するんだっけ?」
……こいつの能力か。面倒だな。
「さ、ご主人s、ぐはっ……」
気持ち悪いので触りたくもなかったのだが仕方ない。軽く強化して殴った。アリなんとかはそのまま吹っ飛んで木にぶつかった。そして折れて倒れた木の下敷きになった。
「よし……行くぞ」
「? なんかあったの?」
……
「いたっ……いきなり何!?」
この野郎さっきまでニヤニヤしやがって……
「とにかく行くぞ」
「……はあ、意味わかんねえ」




