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蝶という名の……

シラカゼに呼びだされ部屋の外で待っているとフィリユスが出てきた。


「あ、エル君おはよう」


俺に気づいたフィリユスは虚ろな目でそう言った……


「ああ」


フィリユスは自分の部屋へと歩いていった。このところ色々とあったようだが……


「エルか。入れ」


視線を部屋の方に向けるとシラカゼが入り口に立っていた。


「ああ……」


シラカゼに言われた通り部屋に入ってドアを閉めた。部屋に入ると床の上に描かれたいくつかのサークルと机の上の道具が見えた。この世界の魔法や魔術についての知識は神からある程度は貰っている。ただシラカゼが描いた陣や文字についてはよくは分からない。唯一分かるのはあれがこの世界の冥府や煉獄の神などが扱う文字というところか。

机の上に置かれた道具は魔術の道具や大したことのないものばかりだが一つ目を引いたのが白い木の実だ。危険だ。いや危険というのは正確ではない。言葉では言い表すことができない何かを感じる。触れてはならない何かを……


「さて、今朝も言ったが明日この町を2人ぐらい連れて出る。そして本来の役割を遂行する」


シラカゼの声で実からシラカゼの方に視線を移した。


「で、お前にはここに残って貰いたい」


「……俺を残す?」


俺はシラカゼには敵わないかもしれないが他のやつらよりも地からがある。戦いたいわけじゃない。だがシラカゼと……


「確かにお前は戦力としては最も頼りにしているし、そこそこ頭を回せる。だからこそ俺はお前にここに残っていて欲しいわけだ」


俺を頼りに……


「現状リリィとシエリアは宿で働いている関係で残っていた方がいい。フィリユスは精神が不安定で連れていくのは不安だ。ディアニスは暇人だから連れていくとして、なにより面倒なのがアシスだ」


「……ならいっそ殺してしまってはどうだ? その方がお前も楽になるだろう?」


シラカゼが何を考えているのかはよくはわからないが、色々と悩んでいるのだろう。だが俺としてはあいつは殺すべきだと思う。あいつに機会があれば裏切るのは明確だからだ。それに俺はあいつが嫌いだ。


「お前の言う通りだ。正直何人かはとっとと切り捨ててやりたい。だがまあそれはダメだ」


ダメか……なぜだ?


「……俺はただお前の指示通り動けばいい。そうすれば願いを叶えると神は言った。だが俺としてはお前の助けになりたい。だから教えて欲しい。あの神は一体何がしたいんだ? 効率と成功率を上げるためだとしてもあんなやつらを生かす必要はないはずだ」


あるはずがない。なぜ生かす? 殺すことが目的だと言うのに……


「……まあお前ならいいだろう。この程度で今さらショックを受けるということもないだろうしな」


シラカゼはテーブルの上にある羊皮紙の束の中を俺に渡してきた。1枚目には何人かの名前と思われるものが書かれていた。2枚目以降にはそれぞれのプロフィールが書かれていた。


「これは転生者のリストか?」


「そうだ。ここ数日間で俺がまとめた。お前の言う通りあの紙切れはあいつらやそこのやつらを殺せと言った。だがそれはお前達3人にも言える。目には目をと言うがお前たちをここに送るのはそれこそ本末転倒というものだからな」


「そうだな」


俺はとにかく他の2人が裏切る可能性は十分にあっただろう。


「まあ率直に言うとあいつの目的は転生者を殺すことではないということだ。そもそもなぜあいつは転生者を殺せと言っていたか覚えているか?」


「戦争に備えたいからだったか?」


「そうだ。それで転生者の中にはそれこそ神に匹敵する程の力を持つものもいる……にも関わらず簡単に切り捨てるというのはもったいないだろう? つまりそういうことだ。あれは俺に選別をして欲しいわけだな。少なくともあれ自身としてはな」


なるほどな。つまり俺たちも含めて集めた転生者を戦争に使いたいというわけか。だがそれはそれとして……


「では話を最初の方に戻すぞ?」


「待てシラカゼ。こんなことは今さらでしかないがはっきりさせておきたい。お前は転生者じゃないな?」


俺は神々のことをよくは知らない。だからこそ初めは天使でも転生するということがあるのかもしれないと思っていた。それに天使ならば元々神に近い存在故にリーダーに指命されるのも納得できる。

だが恐らくシラカゼはあの神の真意を知っている。それはおかしい。複雑な事情があるのだろうが転生させた他の世界の天使に出会ってすぐに本当の目的を教えるわけがない。


「お前は以前ここに来た時も俺たちとは別れて行動したな? あの時は与えられた知識から財宝の場所が分かっていたからだと思っていたが、お前は帰ってきたときに後日届くと言って持っていなかった……言葉にするのが下手で済まない。つまり俺が言いたいのはお前は初めからここを知っていたんじゃないかということだ」


「口下手であることを考えても及第点にも満たんがまあいい教えてやる。元々俺はこの世界にいた。が、まあ色々あって他の世界に転生してまたここに転生という形で戻って来たわけだ」


2度転生している……? そういうことが本当にあるのかどうかは分からないがなるほどそれならば矛盾しない。


「だがきちんと捕捉させてもらうが、俺が知っているのは転生させられる前の世界だ」


それは当然と言える。シラカゼの言うことが本当ならばシラカゼが他の世界から戻ってくるまでの空白があるからだ。そしてシラカゼはその空白の部分は知らないはずだ。


「それは当然だな」


「ふん、勘違いしているな? だがまあ及第点にも満たんならこの程度で十分だろう。あとはまあ気が向いたらというやつだ」


勘違い……?よく分からないがいずれ話してくれる……といいが。


「まあそんなことよりも言うまでもないことだがここまで話してやった以上……分かっているな?」


シラカゼは俺がここで気が変わったなどと言えば容赦なく殺すだろう。管理のことを考えるともう一人殺すのだろう。

だがそもそも俺の気持ちは変わらない。


「無論それは変わらない。お前が黙っていろと言うならそうしよう」


「そうか……ならいい。で、もういいか?」


「最後にもう一つだけ教えて欲しい。お前は本当に天使か?」


「……天使だ」


そうか……


「では戻すがお前にはここに残って基本今まで通りやって貰いたい。ただしフィリユスには注意しろ。今のあいつはとても不安定だ」


「それは俺よりも他に適任がいると思うんだが?」


そういう分野のものは俺以外のやつらの方が向いているだろう。俺はそういうものは苦手だ。


「お前が向いていないのは分かっている。一応というやつだ。お前に任せたいのはこの部屋だ。俺のいない間はこの部屋は封印する。お前はリリィとここに誰も入らないように護れ」


「もし誰かが入った場合はどうする?」


生かすか殺すか……俺なら……


「無論殺す。護りきれなかったお前たちもな」


俺も殺すか……


「フッ……分かった。お前に殺されないよう努力しよう」


お前の信頼のために……お前自身のために……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「さて行くぞお前たち。ディアニス早くしろ」


「はいはい、わあーてるっつーの」


ここ最近色々とあったがようやく本来の仕事ができるわけだ……


「では留守は任せた」


「よく分からないけど分かったのです。また人を連れてくるのです。そうすればこの宿はふふふ……あっでも男はダメなのです。ここハーレマーとその要員はお断りなのです」


「……」


「痛い! のですぅ……」


とりあえずバカをこぶしで黙らせた。面倒な時はこれが一番だ。


「コホン……では留守は任せた」


「何するd「分かった」


ピンクが何かを言おうとしたがエルの言葉が被ってしまった。


「ちょ、かぶs「うん」


次はフィリユス。


「もうy「お気をつけて」


リリィ……


「むぅ~」


「ほらほらリコちゃんをいじめちゃだめよ」


最後はシエリアに慰められると……


「じゃあいってらっしゃい」


「ああ」


で、皆に見送られた俺たち3人は町の入り口を目指す。


「あ~やっと体を動かせるぜ。このところ退屈だったしな」


「さてな? まあ戦う羽目になったらお前に任せる。が、程々にな」


平原に穴を空けられるのも、森の木々を薙ぎ倒したりされるのも目立って困る。それが一番心配だ。


「おう。ところでこれどこに向かってんだ?」


はあ……あれだけ丁寧に説明してやったというのに……


「はっ、諦めなチビ。そいつの頭は数分ぐらいしか記憶できないからさあ」


この野郎……わざわざ連れて来てやったというに……


「なんだとてめえ」


「ああ、ごめんね。数分どころか数秒しかもたないもんな」


「てめ「こんなところで暴れるなよ?」


まったくこの2人なんでこう仲が悪いんだか。しかもいつぞやに問題を起こしたくせに全然学んでいない。


「チッ……」


俺に止められたディアニスを見てアシスはニヤニヤしている。何ニヤけてんだバカが。


「ああ、だがなディアニス街から離れたら殴っていいぞ……無抵抗なところをボコボコにな」


そう言ってアシスの方を睨んでおいた。


「だとよアシス」


「おお怖。てかあんた性格悪すぎ」


「そう思うなら精々気をつけることだな」


ま、後でボコる以上その後ということになるんだろうが。しばらくして入り口についた。


「げっ」


するとそこにいたおっさんが嫌そうに顔を歪めた。


「よ、おっさん」


「またお前か。おまけに問題児2人も」


そうかそうか……


「で、また邪魔しに来たのか?」


毎回毎回失礼だな。


「まさか。俺はただ暇そうなおっさんが退屈して可愛そうだと思ってこうして話しかけてるってわけだ」


「暇じゃねえ! つーか余計なお世話だ!」


おっさん完全にツッコミキャラになったな。こういうやつがいると楽なんだよなー。


「あそ。俺しばらくこの町離れるから。じゃあなおっさん」


「また来んのか……」


なんかため息が聞こえたが気のせいだろう。

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