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死体という名の……3

茶を啜りながら書類を眺めていると扉を叩く音が聞こえた。


「入れ」


「失礼いたします」


部屋の外から聞き慣れた綺麗な女声が聞こえたかと思えば少女……の姿をした天使が入ってきた。手には紐で括られた手紙があった。


「メリア様お手紙が届いております」


私が書類に目を戻すと天使ララキエルは私の前に手紙を差し出してきた。少しの沈黙の後私は仕方なくララキエルに視線を戻した。


「……どうせまた天界からだろう? それとも珍しくキリューからか?」


前者はともかく後者はないだろうがな。あれが私に手紙など……それも敵の監視下にあると言っていい私に向けてなどあるわけがない。となればやはり天界にいるアウレアの誰かだろう。全くもってうんざりだ。くだらない仕事ばかり押し付けてくるのだからな。お気楽にも程がある。私を降ろした当初の目的を忘れているのではないかと疑ってしまう。いやあの者たちのほとんどはすでに忘れているだろう……


「ニム様からです」


「……ほう?」


なるほど無事部下と連絡がとれたというわけか。手紙を受け取り手紙を括る紐を繋いでいた封蝋を確認すると本当にニムの刻印であった。

流石はニムお手製の部下たちだ。色々な者たちから気づかれないようにやった上でこの早さは異常だ。忠犬を通り越した狂犬ぶりは相変わらずのようだ。

紐を解いて手紙を読む。内容としては感謝の言葉と後で礼をするなどと書かれていた。礼か……


「お手紙にはなんと?」


内容を聞くなど無粋といえるが一応監視ということで把握のために内容を聞いているのだろう。感心しないのはそれが建前であるということだ。


「ただの礼状だ。それはともかくララキエル。私情を職務に混じえるのは感心しないな?」


「し、私情などありません!!私はただ自分の勤めを果たそうとしているだけです!!」


指摘するも違うという。意地を張るな可愛らしい。

それにしてもニムがアウレアの天使に人気があるというのは本当だったようだ。主が緩いせいでアウレアの天使たちはいつも忙しそうだった。だからこそ当時それを無理矢理働かせて自分たちを助けてくれたニムはとても尊敬されているのだ。当の本人はどうでもいいことこの上ないのだろうが……私はもう少し関心を向けるべきだと思うな。そうしていればああもあっさり殺されることも無かっただろうに……


「メリア様?」


ああ、ついつい考え込んでしまっていた。


「ああ、すまない。お前が可愛らしかったのでな」


「可愛らし……ふざけないでください!!」


別にふざけてはいないのだがな。私かただ思っていることを言っただけだ。

ララキエルはつい最近生まれた天使だ。確か生まれてから4、50年だったかな? つまり子供だな。頬を真っ赤に染めて怒る姿は言うまでもなく可愛らしい。


「それにしてもお前はなぜニムを慕っているんだ? お前はニムを知らないだろう」


そうララキエルはニムを知らないのだ。面識どころか見たことすらないしあるはずがない。ニムが死んだのは数百年前だ。それを本当につい最近生まれたララキエルが知っているわけがないのだ。


「それは……そうなのですがあのお方が凄い方なのは生まれた頃からリシュアル様から聞かされていました」


リシュアルか……確か上位に位置する天使だったかな? まああの天使なら少しぐらいはニムのことを知っているだろうな。


「ですからニム様がおかえりになればイシュティスの方々も……」


なるほどそういうことか……


「さてどうだろうな? 可能性はある……としか言えないな。なにせニクスは気難しいからな」


ニクス……イシュティスを統べる女王にして始まりの神の一人だ。加えてニムの祖母でもある。ニクスはニムの死や戦争が起きたことをとても嘆いていた。近々起きる戦争にイシュティスが消極的なのはニクスが他にあまり干渉したがらなくなったからだ。今は居城に籠って他の派閥の神々や議会の面々とは会うことをほとんど拒絶している。

私も封印から解放されてから一度も会っていないし、イシュティスの天使だけは私の監視についていないのだ。噂だがニクスの寿命もそろそろらしい。まあそんなことはアウレアのオルドが歳を理由に退位した時から薄々察していたが。それはともかく寿命が近いということはそろそろ神王の座を誰かに譲渡する時期が近いということでもある。

さあてニムはどうするつもりなのやら……


「まあいい。すぐに返事を書くから少し待っていてくれ」


「はい」


さて返事を書こう。早速ニムに礼の方を頼みたい。そうできるだけ早く私に余計な手間をかけさせないように上のバカ共をなんとかしろ……と。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ふう……なんとかしろ……か」


メリアに手紙を出してから1週間程経った。メリアはアウレアのバカ共をなんとかして欲しいそうだが……

俺はベッドの方を見る。そこには金髪のイケメソがモコを抱いて眠っていた……そうフィリユスだ。なぜここで寝ているかというと、とうとうあの3人部屋にいるのが耐えられなくなったからだ。で、他の部屋を借りればいいものをフィリユスはなぜか俺の部屋に来たのだ。そして一緒に寝て欲しいと言ってきた。とまあ幼児退行がかなり進んでいる。

転生者を狩る……そう狩る準備は整った。地図こそできていないがそれは徐々に作っていくつもりだ。ということでそろそろ本来の仕事を始めたいのだが……


「それどころじゃないな」


明日まで。明日までだ。明日もうだめだと思ったら……


「……嫌だ!!」


すると眠っていたフィリユスがいきなりガバッと起き上がった。と、同時に抱いていたモコが空中を舞う。それをいつものようにキャッチした。


「きゅー……」


モコを見ると当然ながら不機嫌そうな顔をしていた。


「また夢見が悪かったのか?」


「……うん」


そして最近はよく悪夢を見るという……

フィリユスはベッドから出て上着を着た。


「散歩に行くのか?」


「うん」


そして気分転換に夜の町に散歩に出る……


「そうか……静かにな」


「うん……」


フィリユスは散歩に出かけた。何をしているのか知らないがそこそこ遅く帰ってくる。単純にだらだら散歩をしているのか……準備で忙しくて見逃していたが……


「……フィリユスを追え。報告は何かあれば随時来い」


背後の窓にそう言うといくつかの気配が飛び立っていくのを感じた。


「それはそれとして……」


背後を振り替えれば幽鬼がふよふよと漂っていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「よ、おっさん」


「はあ……またお前か」


次の日俺はおっさんのところに来ていた。で、会ってそうそう嫌そうな顔をされた。


「なんだ? とうとうもう片方の窓も盗まれたか?」


「ああもう3度も盗まれたよ。ってそうじゃなくて俺は暇じゃねえんだよ」


のわりにはだらっとしてたように見えたがな。


「そうか暇か」


「お前なあ……」


すると今度は呆れた顔をされてしまった。


「そんなことよりおっさん。あんたに聞きたいことがあるんだが。ここ最近なんか問題は起きていないか?」


「そうだなここ最近っだとお前んとこのやつらが道のど真ん中で殴りあってたなあ」


痛いところをついてくる。


「冗談だ。ま、若さゆえのってことで色々あるんだろうがもう問題は起こすなよ?」


その点に関しては感謝している。なんせおっさんのおかげであまり目立たずに済んだからな。


「最近ようやく瓦礫やらの撤去が終わったてんで家を直したり調査隊を組んでるってとこだなあ。あと最近は墓荒らしに例の泥棒と魔物が活発になってきているってとこだなあ」


なるほど……どうやら聞き間違いというわけではなかったようだ。これは早くなんとかしないとな。


「そうかありがとおっさん」


「あいよ……まあそれはいいが本当に問題は勘弁だぞ?」


「分かった分かった。じゃあなおっさん」


むしろ今は解決するつもりだからな。


「……本当に大丈夫なのか?」


そんな声が聞こえた気がした。

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