死体という名の……2
「シラカゼ君~ごはんだよ~」
作業をしているとまたフィリユスがドアを勝手に開けて入ってきた。そして飛び付いてくるわけだ。
「あー分かったから飛び付いてくるな。あとノックぐらいしろ」
「ごめん……」
それを叱るとフィリユスはしゅんとうなだれた。それはともかくとしてさっさとテーブルの上の道具を片付けた。
「行くぞ」
「うん……」
そう言って廊下に出て歩き出す。するとフィリユスも慌てて俺の隣にきた。それも本当にすぐ隣にだ。それだけでも鬱陶しいことこの上ないのだが、なぜか知らんがモジモジとしているのでますますイライラさせられた。
「なんだ? 言いたいことがあるなら言え」
面倒だがストレスが溜まっていく一方なのでしかたなく足を止めてやつにそう尋ねた。
「ふぇ? ……えーっと……」
「……」
するとやつはモジモジに加えさらにモゴモゴし始めた。そして俺のイラつきが加速したのは言うまでもない。
「……その……まだ怒ってるかなって……さっきのこと……」
少し待ってようやく答えが返ってきた。全くもってくだらないしムカツクことこの上ない。
「……別に。分かったならいい」
そう言ってさっさと食堂目指して歩くことにした。
「ふぁ……うん!!」
そしてまた単純なことにフィリユスは嬉しそうについてきた。正直思いっきり怒鳴ってやりたい……のだがそれをするとこいつはまた落ち込むか拗ねるかするので非常に面倒なのだ。そのせいだろうな。ここ最近はとてもイライラしていたりすると自分でも思う節があったりする。普段からバカ共が色々とやらかしたりするのでイラつかせられることにも慣れてきた……と認めたくないがまあ慣れてきている。だがここ最近のようにここまでイライラしたのは前世でも幼稚園と小学校の時、あとはあの女に……思い出したらますますイライラしてきた。
俺がそんな感じで思い出したくもないことを思い返していると食堂に着いた。するとさっきまで嬉しそうだったフィリユスが俺を盾にするよう形で後ろに隠れた。
「あっシラカゼさん……」
食堂に入るとリリィがいた。他にはアシスとピンクがそれぞれのテーブルで食事をしている。シエリアは調理場の方にいるのだろう。残りのバカ3人のうち2人は今は仕事とかで出ていたりする。
「フィリユス」
背後のフィリユスに声をかけるが無言。表情も無理矢理背を縮めて俺の背中のあたりにびったりとくっついているので見えない。
「私……シエリアさんのところに行ってますね……」
そう言ってリリィは調理場の方に行ってしまった。ここ最近リリィはフィリユスがこんな調子のためショックを受けていたりする。まあ確かに元はそこで食べているやつも含めたバカ3人が原因と言えばそうなのだが。やはりリリィを拒絶しているのも今までのことがあってのことなのだろう。
で、つい昨日のことなのだがリリィは「リコさんやシエリアさんはともかくなんでシラカゼさんは大丈夫なんでしょう?」と大変失礼なことを言われた。まあ別に自分のことを良いやつだとは思っていないがそれはそれというやつだ。それはともかくとしてまあスキルのせいだろうと分かっていたが「さてな?」と適当に誤魔化しておいた。そうスキルのせいだ……まったく早く治って制御できるようになればいいんだがな。
しかしまああいつも自分でやっておいてショックを受けるとはな……さてこれでこじれてますます面倒なことにならないことを祈るばかりだ。
「フィリユス」
リリィのことはさておき再度フィリユスに呼び掛けるが全然応じない。
「あっ……」
仕方ないので無視して昼食の置かれたテーブルの方に向かう。するとフィリユスは驚いたせいか俺から手を離した。
「早くお前も座れ」
椅子に座りながら目の前の椅子を指して座るように言った。
「う、うん……」
するとフィリユスはアシスの方をチラチラと見ながら席に着いた。アシスの方はといえば当然気づいているんだろうがそんなことは構わないと食事を続けていた。
まあいい。さて今日のメニューはパンと豆のスープ、よく分からないが鳥の肉をこんがり焼いたものと近くの森で採れる木の実が入ったフルーツサラダだ。ふむこう見ると豪華なのかもしれないな。この町の住民は思っているよりも貧困というわけではない。が、もちろん豊かというわけでもない。
おっさんの話やらによればこの町のだいたいの家庭の一般的な食事は今の俺たちのメニューから言えば、パンとスープと肉とサラダらしい。だが今目の前にあるもの程量はないだろうし、フルーツを入れて彩りを良くするといった余裕もあまりないだろう。まあそこらへんは魔物が比較的大人しいとか経済的な話やらが絡んでいるのだろうがよくは知らない。少なくともここより貧しい村や町は多くあるし、食事で言うならパンとスープぐらいしか出ないというのも珍しくないようだ。そう考えるとこの町は比較的豊かな方のかもしれない。
そんなことを考えながら食事をしているとガタッという音がして、と同時にフィリユスがビクッと体を震わせた。チラッと横の方に目を向けるとアシスが食事を終え席から立ち上がっていた。そしてこっちのテーブルの方に歩いてきた。
「あんたに言われてたやつとってきたんだけど?」
ああ頼んでいたものか。こいつには俺が今必要なものを集めて貰っている。で、代わりに食費やらを払っているわけだ。つまり仕事を与えているということだな。
「そうか。では後で取りに行くからお前の部屋に置いておけ。今日はもう自由にしていい」
「そ」
一言というより一文字だが……そう言ってアシスはさっさと食堂から出ていった。あいつはともかくフィリユスの方を見ると目線を先程までアシスがいた方から反対の方に向けて固まっていた。しかも情けないことに涙目だ。と思っていたらそのまま目から流れ始めた。
「うっうっシラカゼ君」
後であいつには気を使うのかの字あたりまでは気を使うように言っておこう。にしてもこいつはこんな状態で本当に立ち直れるのだろうか? 不安でしかないな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夜。だいたいのやつらが眠りにつき始めるであろう時間。フィリユスのおかげで今日の夕食も大変だった。わざわざ時間をずらしたからな。まあそれはそれとして……
「来たか……」
見なくても気配のようなもので分かる。気配というようなものと言ったが正確には違う。繋がりというかなんというか……俺やそいつらぐらいにしか感じ取れないものだ。
作業を止めて背後を見ると開いた窓の桟に留まる白いカラスが見えた。ベッドの上のモコもそちらを見ていた。窓に近づき外の方を見るとそれが引き連れて来た白い影……幽鬼がいた。白いフード付きのローブ……その中にあるのはただただ白い闇……
それは3日前の夜のこと。そうちょうどバカ3人のことがあった日の夜だ。こいつらはその時やってきた。
「報告しろ」
そう言うと幽鬼は近況を語りだした。語ると言っても実際に声に出して話しているわけではない。それはまあ例えるならばテレパシーのようなものだ。それらやそれらを創った俺にしか伝わらないものだ。
この幽鬼には情報を集めさせたり伝令役をさせている。情報としては転生者のことやこの世界のことだけでなく、天界のことなども集めさせている。天界関連はまあ他の神の様子や現状を聞いている。将来的には戻るだろうから今のうちから集めた情報を元にその準備をしているのだ。と言っても大したものではない。なんせ今他の神やら議会やらに俺が復活したと知られると非常に面倒なことになるからだ。
この世界は3つの神々の派閥……アウレア、キュレイネ、イシュティスの3つと議会(正式な名前は忘れた)……が管理している。アウレアは以前メリアが話していた通りトップのじいさんが隠居して今はその息子がやっている。まあそれでも比較他よりも緩いのであまり気にしなくていいだろう。その点キュレイネのトップやらは面倒でいつもなら最も注意を払うのだが、今回は払うも何もそこの紙切れに復活させられたのだからここもそこまで気を付ける必要はない。と言いたいが色々と企てが多いので気は抜けない。イシュティスは気を付けるも何も俺が所属する派閥だ。が、今は混乱も起きそうなのでここにも知られたくない。
最後に議会だが……ここは特に注意が必要だ。ここの議長の考えはキュレイネのトップ以上に分かりづらい。それに平等を謳っている議会は神々の派閥よりも個々の主張や考えが多様だ。俺に生きていられると困るというやつもいればその逆もいる。と言っても恐らく半分以上は死んでいて欲しいと思ってるだろう。そう考えるとメリアはとても友好的だったと言えるな。
ということで大きな動きはできないということだ。まあ準備と言ってもそこまですることはないので構わないのだが僅かな動きや監視でバレる可能性があるので気を付けるように指示はだしている。以外に暇を持て余しがちなやつがいるアウレアから見つかることもあるのだ。
とまあ実は地味にこうして神様の仕事を始めていたりする。と言うと勘違いされるかもしれないので補足すると一応あのバカ共の行く末を見てやるのも仕事といえば仕事だ。なのでとっくの昔から仕事事態はやっているのだ。
「そうか……では……」
報告を終えた幽鬼に指示を出した。幽鬼は俺が語り終えると闇に溶けるように消えていった。
「お前はこれを持って行け」
俺は丸めた手紙をカラスの足に紐でくくりつけた。そしてカラスは夜空へと羽ばたいていった。今夜の月は満月しかも魔性の月だ。月から注がれる紫光が辺りを照らしている。絶好の魔術日和だ。幽鬼たちを見送り窓を閉めて作業に戻ろうとテーブルの方をを見ると下に白い大きな袋が2つと上には白いりんごのような果実がいくつか置かれていた……




