平穏という名の……2
「まったく本当に面倒なやつらしかいないな? なんでこうも短期間で色々と問題を起こしてくれやがるのか本当に疑問でしょうがない」
今俺たちは3人部屋に集まっていた。そこでシラカゼ君が話をしているんだけど……
「おいディアニス聞いているのか? 特にお前だよ。まったく竜の宝は持ち帰ってこなかったくせに面倒なやつを連れ帰ってくるとはどういうことだ? このタダ飯食らいが」
あーあ……お説教タイムに移行しちゃった。
「うるせえなあ。しゃーねえだろ無かったんだからよ。だいたい宝ならそこのポンコツとかが盗って行きやがったんだしよ」
ディアニス君は本当にうるさそうな表情でそう返した。そのせいかシラカゼ君の殺気が増した気が……俺に向けられなくて良かった。たぶん俺なら情けないけど泣いちゃうかな……
「ほう? ではそこの二人に聞くが宝はどうした?」
シラカゼ君はディアニス君から2人に視線を向けた。アシスさんは変わらずにダルそうにしているけど、シエリアさんはそわそわしだした。
「いや~……それはもう別の子が持っていっちゃったのよね」
とシエリアさんは視線を空中に泳がせながら言った。ただシラカゼ君の殺気のせいか冷や汗をかいているように見えた……御愁傷様です。
「ということはやはりお前たちは現状無職のタダ飯食らいということになるんだが……さて今朝の朝食代も貰っていないがどうする?」
流石シラカゼ君。守銭d……きっちりしてるね、うん。
「そんなことはどうでもいいんだけど? まさか約束を忘れたわけじゃないよな?」
アシス君はやはりシラカゼ君の殺気に威圧されることなくそう言った。……約束ってなんだろ?
「無論だ。が、その前に自分のことくらい自分でなんとかするべきじゃないか? それに……」
そう言ってシラカゼ君はアシス君に近づいて何かを囁いた。小声だったから俺の位置からは聞こえなかったけど、囁かれたアシスさんが顔をしかめたから彼にとっては良い内容ではなかったのかもしれない。
「というわけでお前ら3人は仕事を見つけてこい。ま、金を持ってるとかだったらいいがな」
「チッ、めんどくせえなあ」
「文句を言う暇があるなら早く行け。それとフィリユス」
「ふぁい!!」
びっくりした。なんでこういつも俺が呼ばれるんだろ? そんな俺の反応を見たリリィちゃんはクスクス笑ってるし……
「何をボケッとしてるんだ? 忘れたなんて言わせんぞ? そいつの面倒はお前が見る約束だよな?」
……忘れてました。
「ということでそいつはお前がなんとかしろ」
「そ、そんな~」
言ったよ、うん。確かにするって言ったけど……
「分かったらとっととそいつをつれていけ」
そう言われて俺とディアニス君は部屋から追い出されてしまった。これからどうしよう……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さてとりあえずバカ2人は行ったな。で? 次はお前たちか」
「シラカゼ。その前に説明してくれないか?」
……あー、そういえば今朝の事とかで忘れてたな。
「そうだったな。まったくお前も気づいていたならもう少し早く言え」
おかげであのバカ2人を追い出してしまっただろうが。
「まだ廊下にいると思うが?」
「そうだな……」
エルに指摘され俺は部屋のドアを開けようとした。
「いや、やはり今はいい。あいつらには後で説明しよう」
片方のバカは言っても無駄だろうし、もう片方は……面倒そうだ。後で説明しろって言われたら適当に言っておくか。
「で、そいつらだがそれぞれの事情で俺たちと行動を共にすることになった。内容は秘密だ。その分俺たちのことも話す必要はない」
いわゆるプライバシーのなんたらというやつだが別に俺としてはそんなことはどうでもいい。ただ重要なのは互いに話す必要はないということだ。
「あのぉ……その人達って一応昨日フィルさんたちと戦ってたんですよね? 大丈夫なんですか?」
さてこの質問が来ることは無論想定しているが……
「はっきり言うが微妙だ」
「え?」
そう微妙なところなのだ。こいつらは敵か味方かと言われれば敵と言っていいやつらだ。そんなやつらをこうやって拠点に招いているんだからバカらしいと言えばバカらしい。
「もちろんこいつらには俺がいつでも殺せるように魔術で体に呪いの刻印を刻んでいる。もちろんなにかあればお前たちが手を下しても構わない。しかしそれで安全かどうかと言われれば微妙と言うしかないな」
それに魔術というのも解呪やらなんやらで解くことも可能だしな。それこそ俺よりも魔術が得意なやつなら余裕だし、他にも能力やらスキルで間接的に解けるだろうな。
「そうまでして生かしておく理由があるのか?」
「逆に聞くが俺がわざわざ理由も無しに生かすと思うのか?」
俺は自分が残酷なやつだとは思わんが必要ならやるな。俺はフィリユスのようなバカと違って無駄な優しさなんぞ持ち合わせてないしな。
「理由としては単純に戦力とかで使えそうだと思ったのとなによりも情報だ」
俺たちはここに来てからまだ1週間ちょっとしか経っていない。残念ながら情報は足りないな。メリアも山から出ることはない……いやそもそもあいつが人間と関わるということ自体ないからあいつから貰った情報もそこら辺については足りなかったしな。
「ま、今後のためにも情報は必要だしな」
「……そうか」
あいかわらずこいつは無表情だからいまいち何を考えているのか分からんな。まあ少なくとも言葉上は納得したようだしよしとしよう。
「リリィはどうだ?」
まあ不安に思っているだろうな。
「私もいいです」
……予想と反して嬉しそうだな。まったくこいつらの考えることはよく分からん。
「……そのシラカゼ君? 私としてはあんまりよくないのだけれど……」
嬉しそうなリリィとは対照的にシエなんとかはそう言ってきた。
「何か問題があるのか?」
「いやそのねえ……問題って言うか」
そう言ってシエなんとかはリリィの方をチラッと見た。
「シエリアさん」
「な、なにかしら?」
とリリィがシエリアの方に近づいた。
「問題……ありませんよね?」
そして……いつもどおりのぎこちないどころではない歪んだ笑顔を浮かべた。
「……え、ええ」
それに対してシエなんとかは顔をリリィから反らした。ま、あの笑顔は俺も向けられたくないな。なんせ前世のあの女みたいでムカツクからな。
「まあいい。ではお前たちの仕事をどうにかしないとな」
「シラカゼさん。それなら私がシエリアさんの手伝いをします」
……リリィのやつはりきってるな。
「いいぞ。んじゃ行ってこい」
「はい!!」
そう元気よく返事をしてリリィはシエなんとかの手を引き部屋を出ていった。「シラカゼ君やっぱり問題が、ぐはっ……」とか聞こえた気がするが気のせいだろう。
「じゃ、流れ的にエル。お前がそいつを手伝ってやれ」
「……分かった」
ほう? 珍しく嫌そうだな?
「別に俺一人で見つけられるんだけど? というかこんなホモ野郎と一緒なんてごめんだね」
なるほどそれで嫌そうなのか。
「こいつはホモじゃないぞ」
一応はな……
「そうかよ。だとしてもいらないね」
はあ……めんどい……
「そうかならしょうがない。では約束通り殺すとしよう」
「っ……分かった! 一緒に行けばいんだろ? ほんとバカみたいだ」
やれやれこの脅しもどこまで効くのかねえ……考えてみればバカらしいことを言ったと思う。まあそんなバカらしいことを実行できるんだからいいだろう。
「よし。じゃあ行ってこい」




