竜という名の……11
「さて……」
俺は例の女を閉じ込めている部屋に来た。女は椅子に鎖で縛りつけた状態だ。
「また会ったな? シエ……まあいいシエなんとか」
まあまた会いたいとは思ってなかったし、できれば会いたくなかったが。
「……」
こいつ……
「痛っ」
「いつまで寝たふりを続けるつもりだ?」
寝たふりをまだしていたので頬をぶった。まあ寝ていても起きるまで叩くが。
「女をぶつなんて最低よシラカゼ君」
「あそ」
チッ、毎回毎回……そんなのはお前らのような性別概念があるやつの話だろうが。
「で? なにやらうちのやつらと色々あったようだが?」
「……」
シエなんとかは俺の言葉にうつむいた。
「まあそれはどうでもいい。俺が聞きたいのはお前らのことだ」
「……」
「それに関しては黙ったままなのは許さんぞ?」
「……」
しかしシエなんとかは沈黙を突き通すつもりのようで、しばらく待っても黙ったままだった。
「そうか。では無理矢理聞き出すとしよう」
俺は近くのテーブルに置いていた道具の準備を始めた。
「ねえ……」
「なんだ?」
俺は構わず作業を続けながら応答した。
「アシス君は無事かしら?」
アシス……ああ……
「あの男なら別の部屋に閉じ込めてある。命という点に関しては問題ない」
あの男はここにつれてこられた時点で体の半分……機械の部分は壊れていた。もちろん機械部分はあのバカが壊したわけだが。まあ俺も機械には疎いからそれが手っ取り早いとは思うが……
「ねえ」
「なんだ? 話す気になったか?」
そうだと色々な意味で助かるんだがな。道具の費用とか時間とかな。
「……その前に頼み事を聞いてもらえないかしら?」
頼み事ねえ……よくもまあこの状況で言えるものだと思うが。
「内容によるな。まあ言ってみろ」
「私たちの身の安全と……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はあ~!! やっぱりシラカゼちゃ……シラカゼ君の料理おいしかったのですよ~。きっといいお嫁さn……主夫になれるのですよ~」
シラカゼ君たちが用意していたご飯を食べ終わったあたりでリコさんはそう言った……
「……そ、そうですね」
それに対してリリィちゃんは苦笑いし……
「ぎゃはは、そうだな。飯はうめえし女みてえだしあいつにはお似合いだぜ」
ディアニス君は爆笑し……エル君は……
「モグ……モグ……」
相変わらずの無表情だけど雰囲気がほっこりしていた。ゆっくりと料理を噛み締めている……もし本人がいたらみんなとんでもない目に……いやまた理不尽にも俺にとばっちりがくるんだろうなあ……嫌だなあ……
「じゃあ私片付けちゃいますね」
そう言ってリリィちゃんはテーブルの上の食器を片付け始めた。
「あっ、俺も手伝うよ」
俺が手伝おうと席を立ち上がると……
「ああいいですよ今日は。皆さんおつかれでしょう? 片付けは私がやりますからもう休んでください」
「おう!」
ディアニス君は返事をすると席を立って上の階に行ってしまった。
「ありがとうリリィちゃん」
今日のリリィちゃんは優しいな。いつもは俺にはすごく厳しいのに。
「いえいえ今日は特別です。明日からはまたビシビシ働いてもらいますよフィルさん」
前言撤回。やっぱり俺にだけ厳しい。
「じゃあ僕がお手伝いしますのです~」
「はい。お願いしますリコさん」
そして2人が片付けをしている間もエル君はゆったりと食べていた。俺は連日色々あって疲労がたまっているからか、少しウトウトとしていた。もう今日は休もうと思って準備をしようと席を立ったところでディアニス君が降りてきた。
「なんだまだ食ってんのかよ」
まだ食べているエル君を見てそう言った。
「モグ……モグ……」
しかしディアニス君の声はエル君には聞こえていないようだ。
「まあどうでもいいや。んなことより風呂だ風呂~」
ディアニス君はそう言ってお風呂場に歩いて行った。本当元気だなあと感心するよ。
「はあ……」
すると今度は疲れた顔でため息をつきながらシラカゼ君が降りてきた。
「どうだったの?」
シラカゼ君の表情から察するとあまりいい話合いではなかったようだけど……
「んー……まあ明日話す。今日はお前らはとっとと休め」
「……わかった」
気になるなあ……でも俺も今は眠いから聞いてる間に寝そうだ。
「お前はいつまで食ってんだ?」
またディアニス君と同じことを今度はシラカゼ君が言った。
「モグ……ん? シラカゼ」
しかし今度はエル君も反応した。流石だなあと思うよ、うん。
「これうまいぞシラカゼ」
といつもより微笑んでいる……のかな? そんな感じの表情でエル君は言った。
「そうか。そんなことより早く食って休め。お前がダラダラしていたら片付けが進まんだろうが」
シラカゼ君はそうエル君を冷たくあしらい、リリィちゃんたちのいる調理場に行ってしまった。
「……」
エル君は少し落ち込んだようだ。
「……なあフィリユス」
「ふぇっ!? なんだいエル君?」
珍しくエル君が話しかけてきた。基本仕事とかじゃない限り話しかけてこないのに。いきなりのことで驚いたし、眠気が吹き飛んじゃったよ。
「……今のはまずかったか?」
「え……? うーん……どうだろう?」
まずく……はないと思う。流石に本人にはうまくもないけどなんて言えないけど。でもまずいうまい以前に相手のことを誉めようとしていたんだからいいと思うんだけどなあ。
「もっと気の利いたことを言えればいいんだがな……」
そう言ってますます落ち込むエル君。
「あーでもほらまずくはなかったよ、うん」
ごめんエル君。俺もそこまで気の利いたこと思いつかないや。
「……そうか」
そう呟いてエル君はさっきよりも早いペースで食べ始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふう……とりあえず終わったな」
エルがやっと食べ終わったのでさっさとそれも洗い終えた。
「また作ってくださいです。シラカゼちゃ……シラカゼ君」
……
「いいぞ。ただし次作ったときはお前には食わせんがな」
「す、すみませんですー!! 許して欲しいのです~!!」
とピンク頭は涙目でしがみついてきた。
「あーはいはいわかったわかった。うざいから離れろ」
「ふう……危なかったのです」
ピンク頭は安心した表情で俺から離れるとそう言った。
「んじゃ解散だ。とっととあっちいけピンク頭」
しっしっとピンク頭に早く出ていけと手を振ってあしらう。
「むぅ~僕の扱いがひどいのです~。だいたい僕にはリコという名前があるのです~!!」
「あそ」
別に名前に興味はないからな。
「むう~……」
ピンク頭はぷくっと頬を膨らませた。
「まあまあリコさん。とりあえず今日はもう遅いですから休みましょう」
リリィに宥められながら調理場から2人は出ていった。
「ふう……やれやれ」
俺も調理場から出ることにした。今日はもう休もう。さっきのやつで疲れたしな。




