竜という名の……10
「はっ……」
いきなり途切れた意識が再び浮かんできて俺は目を開けた。
「生き返ったか……」
「え……!? エル君?」
俺が目を開けるとそばにはエル君がいた。その手には黒い剣があり、赤いラインが入っている。だからかな? かっこいいんだけど禍々しい雰囲気がある。
「なんでここにいるの?」
「シラカゼに頼まれたからだ」
そっか流石だなシラカゼ君……
「そっか……ありがとう」
おかげで痛みから解放されたしね。ああ本当痛かった。やっぱり五体満足がいちばんだよ、うん。もう二度とやりたくないかな。
「それで? なにやら向こうで戦っているようだが? どういう状況だ?」
そう言ってエル君はディアニス君たちの方を指した。そっちのほうではバリバリとか色々とすごい音が鳴り響いている。
ああそっかエル君は今来たばかりだから分からないんだった。流石にエル君やシラカゼ君もこうなるとは予想できなないだろうしね。
「ええと実は……」
ということでエル君にここまでの経緯とかを説明した。
「なるほどな……それでお前が倒した女は?」
「ええと……確かあっちのほうに……」
俺はさっき女性を吹っ飛ばした方に駆け寄る。そして折れた木のところに例の赤髪の女性がいた。折れている木は恐らく彼女がぶつかった衝撃のせいだろう。出血もしてるし、殴ったであろう腹部には穴が空いている……流石にやり過ぎだ。
「……大丈夫?」
軽く揺するが反応がない。死んでしまったかも……
「死んだか?」
「……かもしれない」
だとしたらひどいことをしたと思う。なるべくなら戦いたくないとこの人は言っていた。それを思うと……
「見せろ」
そう言ってエル君は女性に近づいてしゃがんだ。
「……辛うじて生きているようだがじきに死ぬな」
「……どうにかできないかな?」
生きているならなんとかしてあげたい。けど……
「……」
エル君は黙ったまま立ち上がった。
「行くぞ」
「……うん」
そうだよね……流石に無理だよね……
「!?」
そうあきらめていたそのときだった。彼女の血が元の場所に戻り始めた。腹部の穴はもちろん最終的にボロボロだった服も直った。
「その女を連れてこい。貴重な情報源だ」
「……う、うん……」
エル君の能力は癒す能力……
とりあえず言われた通りなんとか女性を背負った。そして彼の後を追って歩いていく。
「さて……早く終わらせて帰るぞ」
「うん……でも……」
それには戦っている2人をどうにかしなきゃだよね。身体能力は今までのことを考えるとエル君はとても高いと思う。だけど能力は戦闘向きじゃないから……うーんどうなんだろう? でも現状2人の実力は同じくらいのように見えるし、エル君が入れば勝てると思うんだけどな。
「なにか他に問題があるのか?」
「え? ああごめん。なんでもないよ」
本当は少し不安だけど……
「そうか……」
そう呟いてエル君は1歩踏み出した。そして……
「……誰だよお前?」
「……」
次の瞬間には男性に切りかかっていた。男性は棒で受け止めている。エル君は男性の問いかけには応じずに無言で相手を見ていた。
「ああん? おいてめえなに邪魔してんだよ。そいつは俺の獲物だぞ」
「残念だが時間切れだ。早く倒さないお前が悪い」
「チッ……」
そう言われたディアニス君は不機嫌だというのをまったく隠すつもりはないみたいだ。
「おいおい何が時間切れだよ? お前が俺を倒せるとでも?」
無視されたこともあって男性もムッとした表情でそう言った。
「……黙れ」
「ぐっ……」
速くて見えなかったけど今の一瞬で男性の左腕は無くなっていた。そしてドスッという音がしたのでそっちを見るとそこには男性の腕があった。
「ほう……機械仕掛けというわけか。機械はよく分からんが……まずは胸を貫いて首を飛ばすとしよう」
機械? あれが? どう見ても人間の腕に見えたけど……でも切り飛ばされたその断面から覗く赤いコードなどがそれが生身の人間の腕ではなく、機械のそれであることを証明していた。
「お前……よくも俺の腕を……」
「切られたお前が悪い」
男性は腕を切られた苛立ちのせいでエル君を睨み付けた。対して睨まれたエル君は相変わらず無表情を貫いている。
「ではな」
エル君は宣言通り相手の首と胸を狙ったようだ。だが男性は首を飛ばされるのを防いだようだ。
「ぐっ…… 」
「ほう……人間の作った鉄屑人形風情にしてはやるな」
相手はとりあえず次の一撃は耐えたようだ。でも実際は明らかに差があることを認めざるおえない。
「だがもう遊びも終わりだ……」
その言葉とともに戦闘は終了した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「では帰るぞ」
エル君はバラバラにした彼を袋に詰めた。
「ディアニス君とかエル君はとにかく俺は無理だよ」
今日はもう2回死んだし身体的疲労はなくても消費がないわけじゃないんだ。特に精神的にかな。
「なに甘えたこと言ってんだテメエ? それでも男かよ?」
「うぅ……」
まあ確かに情けないと思うところもあるけど……
「安心しろフィリユス。帰りは俺とお前が交互に能力を使えばいい」
交互にかあ……タイミングとか難しそうだなあ……というか……
「え? でもエル君の能力って……」
相手を癒す能力なんじゃ……
「何を勘違いしているのか知らないが時間がないから行くぞ」
と、この後いっぱい走って宿に着く頃には死んでいたのは言うまでもないかな……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
「というわけだ」
宿屋にめちゃくちゃな方法でついた俺は地面に倒れはあはあと荒い呼吸をしていた。
「そうか……やはりお前を行かせて良かった」
「シラカゼ……」
すぐそばではエル君がシラカゼ君にこれまであったことを説明していた。それでなぜか今はエル君から弱冠キラキラした雰囲気を感じるんだけど。
「だが本当にお前ときたら面倒を次から次へとよくもまあつれてくるものだなあフィリユス?」
別にそんなつもりはないんだけどなあ……
「まあいい。夕食は用意してあるから食べておけ」
そう言ってシラカゼ君は2階へと上がっていった。
「よし飯だ飯ー!!」
ディアニス君は元気だなあ……
「フィリユスそいつと先に行っていろ」
そう言ってエル君も2階へと上がっていった。なにかシラカゼ君に言いたいことでもあるのかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……お前か。どうした? なにか他にも言いたいことがあるのか?」
「いいや。大したことはない」
大したことはないが言いたいことはあるんだな。
「くどい言い回しをするな。とっとと言え」
「では改めて言わせて貰うが。シラカゼ。俺はおまえg「それはもういい」
まったくまたくだらんことを……
「そんなくだらんことをいいにきたのか?」
「くだらなくはないぞ?」
どこがだ。まったくもってくだらない。
「今まで竜はそこそこ見てきたつもりだったが……なるほどお前のようなバカもいるわけか。所詮は羽があるトカゲということだな」
「トカゲは嫌いか?」
そう言ってやつは俺の両手を握ってきた。とりあえずうざいのですぐに振り払った。
「そうだ嫌いだ」
俺は道具を持って部屋を出た。このバカたちがつれてきたあの女のところに行くために……




