竜という名の……8
「ディ、ディアニス君!!」
ディアニス君の居たところに降り続ける雷……しかしそれが止むとそこには無傷のディアニス君が立っていた。
「俺のことはいい!! てめえはそっちのやつの相手をしろ!」
「う、うん!」
俺はディアニス君に返事をしてから女性の方を見た。
「……あの……できれば平和的に解決したいんだけど……」
戦うという選択はやはり俺としては好ましくはないし……認めたくないけど俺そんなに強くないから負けた場合は大変なことになる。
「ええ私としてもそれが望ましいのだけど……あっちのおバカ2人のこともあるから残念だけど無理ね」
うんまあそうだよね。知ってたよ、うん。やっぱ戦わなきゃかあ……
「戦う前に一応確認させて欲しいのだけれど、あなたシラカゼ君のところの子よね?」
え……?
「えっと……シラカゼ君を知ってるの?」
「ええ、つい最近会ったのよ……それでそうなるとますます避けがたいわね。あなたを倒してあなたたちのことを色々とあなたから聞き出さなきゃいけないもの」
……ええっと……なんだかよく分からないけどつまり負けるとヤバイってことかな? なんか色々聞き出すとか言ってるし……もし負けて色々俺が喋っちゃったら……きっとシラカゼ君に殺されちゃうんだろうなあ……それは嫌だなあ、うん。
「あのよく分からないんだけどとにかく戦うってことでいいのかな?」
「そうだけど……あなた見た目はいいけど中身は残念なようね……」
なんか初めて会った人にすごくひどいこと言われたんだけど……要するにそれって俺がバカって言いたいんだよね? すごく傷つくんだけど……
「まあ駄目なくらいがちょうどいいかもしれないわね。鈍感君とツンデレ男の娘……フフ、腐腐腐……いいわ、ええとってもいいじゃない。とても萌えるわ、ええ」
……なんだろ……とりあえずドン引きしたかな、うん。あとこの人にだけは残念とか言われたくないかな、うん。
「はっ……私としたことが……まあそのあたりの話も勝ってからゆっくり聞かせて貰えばいいわ。腐腐腐、楽しみだわ」
目の前の女性は鼻息を荒げてそう言った。……本当絶対勝たないとね。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ん? なんだおまえか」
「暇そうだなおっさん」
朝食兼昼食で色々あったがその後片付けをし、さてまずはどうしようかと5秒くらい考えた結果おっさんいじ……情報集めをすることにした。
「全然暇じゃねえよ」
まわりに人がいないことは知っているがあえて左右見る振りをする。
「人がいないようだが?」
「人がいようがいまいが俺はここに居なきゃいけねえんだよ。それが仕事なんだよクソガキ」
「要するに暇なんだろ? じゃあ話し相手になってやろう」
「いらねえよ! つーか本当いちいち癇にさわるガキだなあお前」
「そうかありがとう」
「褒めてねえよ」
なんだ褒めてるのかと思ったのにな。
「それでおっさん昨日はどうだった?」
「はあ……そうだなまあ色々大変だったな。今日も竜の巣の調査をしたかったらしいが、近くの湖で例の光の柱がまたでたってんで今はそっちの調査で手がまわらんそうだ。今頃ギルドのやつらと調査中だろうよ」
昨日俺たちがとディアなんとかと戦って時のことだな。正直目立ってたから色々と後のことを考えると少し不安だったんだが……今あいつらが巣に行っていることを考えるとそっちから逸らせたから、まあ結果よければってところかな。これで町から竜の巣に調査の手が入る頃には宝は無くなってるし、事件も闇の中に葬れる。
「へぇー……もっきゅもっきゅ」
「……なに食ってんだよ」
「もきゅ……ん? ほほにふるはえに……ゴクッ、買ったやつ」
あーまあまあおいしいなこのなんとかって果物。
「後半しか分からん」
「ここに来る前に買ったやつ」
そうここに来る前に通ってきた道に店があって売っていたのだ。正直ここの果物なんか知らんから見た目てきにそこそこうまそうなのを買ったのだ。見た目は……リンゴを縦に少し長くしてオレンジ色にした感じだな。食感はリンゴのように固くなく柔らかい。味は……なんだろうな? まあとにかくまあまあだな、うん。
「そうかよ……ってそうじゃねえよ! なんで俺が話してやってるってのに食ってんだよ!」
「お腹すいたから」
「はあ? ……あーそうかよ」
「で、おっさん続きはもっきゅもっきゅ」
そこで2個目の果実に手をつけた。
「……はあ、なんなんだろうな? 最近は変なもんばっか盗まれたり、毎晩魔物が墓を荒らして、終いには竜が降ってきやがってお休み返上で働かされて……おまけになんでこんなクソガキのお守りもしなくちゃなんねえんだよまったく」
ふーん……
「大変だな」
「お前のせいだよ!!」
「人のせいにするなよおっさん」
まったく大人げない。
「はあ……休みが欲しいぜ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
おっさんとの会話の後町を回ったりして宿屋に戻ることにした。
「あっシラカゼさんおかえりなさい」
「ああ」
宿屋の入り口ではリリィがちょうど掃除をしていた。返事を返してドアを目指して横を通りすぎると……
「あのシラカゼさん」
リリィに呼び止められた。なんだと思い振り返ると不安そうな表情を浮かべているリリィがいた。
「なんだ? なにかあったか?」
なにかまた問題が起こったとすると面倒だなあ。早く対処しなければならんしなあ。
「いえ……ただそのフィルさんだけで本当によかったのかなと思って……」
なるほどな。まあ確かにあいつだけなら不安だというのも分かる。ディアなんとかを信用できるかどうかと言われればもちろんNOだしな。とはいえ現状今のあいつはそんなに強くもなければ必要な知識や技術が欠けている。ま、だからこそこれはちょっとした試練だな。まあ試練と言えるほどのものではないし正確に言うならおつかいってとこだろう。
「まあそう思うだろうな。正直俺も不安といえば不安だ」
「……様子を見に行くべきでしょうか?」
「その必要はない。まあ安心しろきちんと保険はかけてある」
ま、昨日眠かったせいで言うの忘れてたけどな。だが大丈夫だろう。今朝言ったし。
「そうですか……では私は私の仕事を頑張りますね」
「そうだなそれがいいだろう。では頑張れ」
「はい」
そう言って俺はドアのノブを開けた。
「そうそうできれば早く切り上げてくれないか? 少し手伝って欲しいことがあるんだ」
そこでもう一度振り向きふと思い出したことを伝えた。
「手伝いですか? 分かりました。じゃあリコさんにそうしてもらえるように話しておきますね」
「いやそれは俺から言っておくから仕事をつづけるといい」
「……? はい」
俺は伝えたいことを伝え今度こそ宿の中に入った。




