竜という名の……6
「早くしろよ」
昨日のシラカゼ君の指示通り俺はディアニス君に連れられ竜の住んでいた洞窟を目指していた。その洞窟は町からは1番近い……らしいけどけっこう遠くの方に見える山にあるらしい。
「待ってよ~」
なんでみんなあんなに体力があるんだろう? ディアニス君はまあ引き締まった体だけどシラカゼ君やリリィちゃんは見た目的にそんなに無さそうなのに……しかも叩かれると痛いし……そういえばシラカゼ君は人間じゃないって言ってたような気がする。じゃあみんなも……
「ったく。あいつはなんでてめえみてえな貧弱野郎をよこしたんだ? この調子じゃ日が暮れんぞ」
「うぅ……ごめん」
やっと追い付いた。
「チッ、負けたとはいえなんで俺が……ん?」
ディアニス君は愚痴るのを止めて木々の向こうの方に目を向けていた。俺もそっちの方を見てみたけど何も変わったものはない。ただ木や草が生い茂っているだけだ。
「どうしたの?」
「いや……なんでもねえ。んことよりとっとと行くぞ。早くしねえと他のやつらにとられるぞ」
「うん」
なんだったんだろう? 気になるけど……大したことじゃないのかな? それとも……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「きゅー」
「ん……なんだ?」
ベッドで気持ち良く二度寝を満喫しているとモコが体の上に乗ってきた。
「……そうだな……流石にもう起きるか」
眠気を抑えてベッドから起き上がり着替える。
「さて今日はどうしようか……」
まあとりあえず昨日のこととか色んな情報集めをするとして……
今日の予定を考えながらドアを開け廊下にでた。
「あ、おはようございますシラカゼさん」
するとちょうど廊下の掃除をしていたリリィに会った。そういえばリリィはここで働くことにしたって言ってたっけ?
「ああ、おはよう」
「モコもおはよう」
リリィはモコに挨拶をする。
「きゅ」
が、そっぽを向かれた。相変わらず避けられているようだ。
「なんでですか~」
ガックリとしているリリィを置いて廊下の端の階段を降りた。1階に降りて共同の洗面所で顔を洗う。その後入り口の方へ向かった。
「あ、シラカゼちゃ……グフグフ、シラカゼ君おはようございますです」
……するとこの宿の店主兼唯一の店員……と言っても今はリリィもいるが、それはともかくその……なんとかがいた。
「……ああ、おはよう」
「わ、わざとじゃないのですよ?」
「ああ」
むしろわざとじゃない方がたちが悪い。この女普段から俺のこと女みたいだと思ってるってことだからな。
「そんなことより今はまだ朝か?」
「朝と昼の中間辺りなのです。ええ、なぜなら僕のボディタイマーがそう告げているのです」
何がボディタイマーだ。要するにただの腹時計だろうが。
「そうか……」
それじゃあ……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「いい臭いですね~。何をつくっているんですか?」
「カレーだ」
俺は宿の調理場を借りてカレーを作っていた。カレーと言ってもこの世界のもので作っているから正確には別物だが、まあ似ている食材をつかっているのでカレーでいいだろう。この調理場はほとんど使われていないので特に問題なく借りられた。
食器は木のものがあったが調理器具は……鍋もナイフもあるがナイフは切れ味が悪そうな上に調理しづらそうだったので氷の包丁で代用した。切れ味は魔法の腕に依存しているが……まあ余裕だろう。
次に火をつける用の木と食材だが、木は店主と色々と交渉して貰い、食材は普通に買いにいった。地味に高価な調味料はメリアからいっぱいあると言っていたので金と一緒に少し貰っていた。
「いいですね~。というかシラカゼさん料理できるんですね」
「人並みにはな」
料理は別にそこまでできるわけじゃない。実際カレーくらい面倒だが簡単なものだからな。
「いやいやそんなことないのです。だってこんなに美味しそうなのですから」
店主はスプーンを持ちながらできるのを待っていた。最悪なことに涎を口の端から滴らせて……
「リリィその女をテーブルに座らせておけ。料理に涎を垂らせたくない」
「あはは、はい。ほらリコさんあっちに行きましょう?」
「ちょ、リリィちゃん。待つのです!! せめて一口だけでも味見させて欲しいのですー!!」
店主はリリィに押され調理場を出ていった。
「モコそっちはいいか」
「きゅー」
モコには氷の製造と野菜などを冷やして貰っていた。動物……というか魔物が調理場にいるのは衛生的に問題がある気がするが、食材とかに直接触れていないし、しっかりと体も洗ったので大丈夫だろう。少なくともあの涎垂らしよりはましだ。
氷は調理器具とか飲むための水に使った。
「よしじゃあ切るか」
冷やして貰っていた果物を剥く。名前は忘れたが見た目はリンゴみたいだ。さてデリットとどっちがうまいだろうな? デリットか……懐かしいな。俺が最初に殺される前はよく食べていた。まああいつらが一緒に届けてくれるだろう。
「さて終わったし食うか」
「きゅー」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……」
今、目の前で店主が俺が作ったカレーをガツガツと凄い勢いで食べている。しかもこいつ俺が料理を並べた瞬間に食べ始めたからな。本当呆れたやつだ。
「おかわりなのです!!」
「もうねえよ。だいたいお前俺よりも1杯分多く食べてるだろうが」
「そういうシラカゼ君は僕よりもフルーツ1個多く食べたのです! ずるいのです!」
「バカが。その料理を作ったのは俺だぞ」
「その分薪をあげましたです」
「結果として木は返したがな」
木はあくまでも借りただけだ。あとで切って返すと言っていたわけだし。なのに貰った食費は一食分だから割りにあわん。
「まあまあシラカゼさんもリコさんもそれくらいいいじゃないですか」
「「よくない(のです)!!」」
カレー1食分食えないのは大きいのだ。その上『おかわり』だと……ふざけんな!
「はあ……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はあはあ……やっと着いた」
あれから歩き続けようやく俺とディアニス君は山の麓に到着した。早朝南の方にあったであろう太陽は今は真上にあった。不思議なことにこの世界の太陽は南から昇り東を通って北の方角に沈んでいるらしい。この世界に来て色々あったけど、まだ太陽のある方角に慣れないなあ。あと日付とか。
「ほんとショボいなお前」
「はあはあ……ごめん」
「チッ、こりゃ野宿確定だな。……ったくなんで俺が野郎と一緒に野宿なんかしなきゃなんねーんだよ。あーあやってらんねえなマジで。てめえがせめて女だったらよかったのにな」
「うぅ……」
確かに俺は情けないやつだけど……そこまで言わなくても……
「ま、ぐちっててもしゃーなしってやつだ。行くぞ」
「あー待ってー!!」
俺は急いで彼(?)を追いかける。チラッと見えた空を灰色の雲が覆い尽くそうとしていた。




