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竜という名の……5

「おい……」


リリィに言われ風呂に入った後、いつもの店で夕食を食べに来たんだが……


「ん? ……あんだ?」


目の前では緑髪の女がガツガツと骨付き肉に食らいついている……


「おい!! これおかわり!!」


「はーい」


別の客に酒を配っていた店員の女に肉料理のおかわりをねだる。……何皿目だよあれ?


「別に食べるのは構わんが……その金はお前が払うんだよな?」


「ん? 奢りじゃねえのか?」


「そんなわけないだろ!!」


なんで俺がこいつに奢らなくてはならんのだ!! しかもよりによって大食いだ。食費がバカにならん。アホらしい。


「いいじゃねえかこんくらい。そんな器が小せえから背も小せえんだよ。おらもっと肉を食え肉を」


「余計なお世話だバカが。お前の分は払わんからな」


まったくこれだからバカは嫌なんだ。いちいちあーだこーだとごねやがる。特にこいつみたいな脳筋バカはもっとめんどい。言うに事欠いてまず人の体型に文句をつけてきやがる。


「つうかよ……」


「なんだ? まさかあれだけ食べておきながら金がないとか言わないよな?」


そんなバカ極まるようなことを言い出したら……


「おお! よく分かったな」


……


「てことで支払いはよろしく」


このバカ後で絶対……


「まあまあシラカゼ君。今回は俺が払うからさ」


「……フン、勝手にしろ」


バカらしい。


「おう、あんがとよ」


「あはは……」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「はあ……」


宿に戻り再び全員で集まることにした。フィリユスを見ると袋の中を見て溜め息をついていた。あの後も何度かおかわりをしていたから額もそこそこになっただろう。バカめ、ざまみろ。偽善を振りかざすからそうなるんだ。


「で、お前の処遇を決めたいんだが? さてどうしてやろうか?」


「言っただろ煮るなり焼くなりおかs「もういい黙れ」


こいつはまともなことは言えんのか? 脳筋以前の問題だぞ。


「無論とっとと殺すでもいいが今は戦力が欲しくてな?」


「要するに俺に奴隷になれってことだろ? いいぜ別に。勝ったやつに俺は逆らえねえからなあ」


どうだかなあ? ニヤニヤしやがって、どうせ面白そうとか思ってんだろ。


「そうかそれはよかった。なんせ俺たちの仲間になる転生者はそういないだろうからな」


「え? ……ええ!? この子転生者なの?」


そういえばフィリユスとエルには話してなかったな。まあエルは大して驚いていないように見えるが……


「……そいつを殺さなくてもいいのか?」


「いちいち全員殺ってたらきりがないからな。それに戦力になるならあの紙も文句は言わんだろうし、実際今はその戦力が足りていないからな」


いつぞやに会った赤毛の女……あの女は『私たち』と言っていた。つまり複数で固まっているのは確定している。しかもそいつらに警戒をされているのだから実質敵視されていると言ってもいい。だが転生者はそいつらだけじゃない。できれば早くそいつらを潰してしまいたい。それも他のやつらにバレないようにな……


「ということで今からこいつは俺たちの奴隷ということで」


「流石に奴隷はやめようよ」


またお前かフィリユス……


「じゃあ下僕」


「同じだよ!! 普通に仲間にしてあげようよ」


「まったくお節介極まってウザイことこの上ないなお前は? もっと痛い目みたいのか? ん?」


今日こいつのせいでドラゴン運んだり。金を払ったりしたのにまだ懲りないとか……本当に呆れた。ここまでのバカは初めて……いややっぱ結構いたな。まあそんなことはどうでもいい。とにかくこれほどのバカを見るのは久々で頭が痛くなってきた。


「よし分かった。いいだろうこいつを仲間として迎えることにしよう」


「え? 本当?」


なに笑ってんだ?


「ただしお前がこいつも面倒を見ろ。こいつにきちんと指示したことをやらせるのもこいつの食費やらなんやらの問題をなんとかするのもお前がやれ」


「ええ!?」


そんな甘い話あるわけないだろうが。


「できなければお前も罰するし、金が足りなくなっても絶対にそいつの分はださん。いいな?」


「さ、流石にそれは……」


「まさかできないというのか? あれだけ無責任なことを言っていたくせに」


「それは……分かったよ……」


「決まりだな。では今からこいつは俺たちの仲間だ」


ま、奴隷だろうが仲間だろうが戦力が増えたならそれでいい。


「はっ……おめでたいなお前ら。いいのかこんなにあっさり俺を仲間に入れて?」


「問題ない。裏切るなら殺すだけだからな。だがそれだけとはいえ、いちいちやるのは面倒だ……俺にこれ以上手間をかけさせるなよ?」


「おお怖。へいへい真面目に働きますよっと」


「ならいいがな? まあいい。眠いからとっとと明日の指示を出すが、リリィとエルは通常通り、フィリユスはそいつと例のドラゴンの巣に行ってこい。そいつの言った通りなら宝があるはずだからな」


ま、もしかしたら盗られているかもだがな。なんせ巣の主が不在だからな。運とか感がいいやつがいるかもしれん。だがまあ早くても明日が妥当かもな。


「リリィこいつの部屋はとってあるか?」


「はい。こういうこともあるかなと思ってリコさんに頼んでおきました」


「そうかご苦労だったな。話は以上だが質問はあるか?」


「あっはい」


質問があるか尋ねるとフィリユスが手を挙げた。


「なんだ?」


「さっきので思い出したんだけど、シラカゼ君は……その……」


「なんだ早く言え。こっちは眠いんだ」


あー早く寝たい。ベッドに倒れたい。


「盗んでくるっていってたけど……」


「人聞きの悪いこというな!! 貰ったんだバカが」


「じゃあ……」


「ま、ほんの少しだがな」


そうメリアに少し金を貰っていた。ま、正確には『借りた』だが。ただそれでも俺1人の1週間程度の生活費にしかならんが。


「安心しろ1週間ぐらいで届く。ま、当然だがお前たちの生活費にあてるつもりはないぞ?」


「え?」


「何が『え?』だ。当然だろ。自分の生活費ぐらい自分で稼げ。ということでもうないなら解散だ」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



シラカゼ君が明日の予定を説明した後リリィちゃんとディアニス……君? は部屋を出ていった。シラカゼ君はさっさと眠る準備を済ませ、ベッドに入ってしまった。


「zzz……」


ベッドに入ってすぐにスースーと寝息が聞こえてきた。凄く疲れてたんだろうね。特に今日は俺も迷惑かけちゃったし……でも流石にあの子の面倒をみるというのはきついなあと思った。でも自分で言ったことだからなあ……


「……」


エル君は無言でシラカゼ君の寝顔を眺めている。いつものように微笑んでいた。幸せそうでいいなと思う。


「じゃあおやすみエル君」


「……ああ」


エル君にそう言ってベッドに入った。疲れていたからか睡魔は早く訪れた……

翌日久しぶりにエル君の頬が赤く腫れているのを見て苦笑してしまったけど。

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