竜という名の……3
「はあはあ……」
……もう無理。そもそも俺には元からそんなに体力も筋力もないんだ。ここまでで走ったり、人の救助をしたり、今もドラゴンを切って運んだりしてるから本当につらい。
「……フィリユス、少し休んでいてもいいぞ?」
しかしそんな俺とは真逆にエル君はいつものように涼しい顔で運んでいた。しかも俺の運んでいるものよりも一回りどころか二回りも大きい。
「大……丈夫……」
正直全然大丈夫じゃない。もう足も腕も痛いと悲鳴をあげている。でもエル君も頑張ってるのに俺が頑張らないのはダメだ。少しでもいい。少しでも頑張らなくちゃダメなんだ。
「そうか……」
エル君はそう言ってスタスタと歩いていった。
「おいおいあんた大丈夫か?」
一緒にドラゴン(の肉片)を運んでいる人が声をかけてきた。
「大丈夫……です……」
「いやどう見ても大丈夫じゃねえよ。いいから少し休みな」
「でも……」
「このままあんたに過労死される方が面倒だ。ほらそれをおろしな」
とりあえず言われた通りに地面におろした。
「そこで少し休んでな」
そう言ってその人も先に行ってしまった……本当に情けないな俺……
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「遅かったなお前ら」
湖での一件を終えて俺とリリィ、そして……
「こいつらか?」
例の女と宿の部屋でフィリユスたちの帰りを待っていた。ちなみに部屋はフィリユスたちが事前に取り直していたので今いるのは3人部屋だ。
「シラカゼ。その女は?」
「ああん? てめえ今なんつった?」
面倒なやつだ……
「話が進まんからお前は少し黙ってろ」
「チッ……」
「で、こいつのことだが……」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
遡ること数時間前……
「じゃあな」
女がそう言い終えると銃声が鳴った。
「ほう……」
俺の後頭部に当てられた銃口……当然そこから放たれた銃弾はそのままいけば俺の頭を余裕で吹き飛ばしていただろう。実際竜を撃ち落としていたくらいだし、当然と言える。だがそれはあくまでもそのままいけばの話だ。
「いきなり撃つとか野蛮だなお前」
もちろん嫌なので魔術の転移で避けた。実際色々と制約があって使いどころの難しいものだが……こうしてお手軽に背後に回って氷の刃を突きつけたりできるので修得しているとお得だ。俺が避けた弾丸は……
「え!?」
そのままリリィのほうにいき命中した。やはりただの銃弾ではなかったようで、明らかに魔法やら魔術やらが込められていた。リリィのいた辺りでは煙が上がっていた。が、それもすぐに晴れてのリリィが見えてきた。
「ケホケホ……ひどいじゃないですか!! 私じゃなきゃ死んでましたよ!!」
もちろん無傷だ。代わりにその近くの木や地面抉られ、周りの木や植物が燃えていた。
「というかシラカゼさんもなんで避けたんです?」
「防ぐのが面倒だったからだ。あとこっちの方が手っ取り早い」
「なっ……」
リリィは俺の言葉を聞いて固まった。
「……お前最低だな」
「勝手にゴミを不法投棄していくお前に言われたくない。で、降参か? 面倒だからとっと降参して欲しいんだが?」
そう言うと女は両手の銃を握り直した。
「んなわけねえだろお!!」
女は背後の俺に銃弾を放った。とりあえず普通に避ける。しかし続けて弾丸が向かってくる。しかも連射で。面倒なので背後に転移し、そのまま氷刃を振るうがもちろん避けられた。なのでそれを振るうと同時に俺の後方の空中に氷属性の魔法で作成した複数の槍をそのまま女に向かわせた。女はそれを散弾で壊し、すかさず俺にも撃ってきた。
「モコ!!」
「きゅー!!」
モコに氷の壁を素早く作らせる。それと同時に俺は後方にさっきの倍の氷槍を作る。氷壁に弾が着弾し氷壁が壊れ、蒸発し白いモヤがかかった。壊れた直後に槍をモヤに向けて全て放ち、再度転移して女を切りつけるが片方の銃で防がれる。
「見た目の割りにはやるじゃねえか?」
ニヤニヤと女はそう言った。チッ、馬鹿力め。女の後方では槍と弾が衝突し互いを砕いていた。
「チッ、面倒なやつだなお前は。とっとと降参しろ」
女はもう片方の銃を俺に……向けずに上に向けた。
「やだね」
そして銃声が鳴り、続けて氷の破砕音が響き、氷の破片が降ってきた。女の頭上の方に作っておいた氷の杭が砕けのだ。仕方がないので刃に力を込めて相手を圧し、その反動を利用して後方にバックした。バックすると同時に槍を作成し投げつける。撃ち落とされる。
「チッ、おいリリィいつまでぼうっとしてる!!」
「はっ、すみません!!」
女は槍を撃ち落とし、そのまま俺に発砲。女の頭上に転移。大量の氷の杭を作成して降らせつつ地面からも一気に生やして突き立てる。
「早くこいつの足を狙え」
「あっ、はい!!」
女は素早く跳躍し、右腕を上に左腕を下に向けた。ヤバそうなので転移。すると予想通り女を中心にして光の柱が建ち、上下の杭が消滅、凄まじい音とともに地面が大きく抉られた。
その間にリリィは急いでナイフを取り出した。
「あの!! 動きが早すぎてその人の足を狙えないんですが……あと怖くて近づけません」
「バカか!! 直接じゃない!! お前の足だ!!」
「あっ、そうでした。すっかり能力のことを忘れていました」
ようやく終わる……リリィは自分の足にナイフを刺そうと構える。
「させるか!!」
女はリリィ……のナイフを狙って狙撃した。
「モコ」
「きゅー」
リリィの前に俺とモコで厚めの氷の壁を作る。氷に弾丸が阻まれた。
「えいっ」
リリィはナイフを振りかぶり自信の足に突き刺した。
「っぐ……」
すると女は呻いた。女の足にはキズができそこから赤い滴が流れ始めていた。俺はリリィのところに転移した。
「ということで終わりだ」
俺はリリィの首に氷刃を突きつける。
「えっ!? なんでですか!!」
「……お前やっぱ最低だな」
「うるさい!! 早く銃を置け」
「チッ、わあったよ。降参だ」
女は銃を地面に降ろし、両手を挙げて降参のポーズをとった。
「煮るなり、焼くなり、犯すなり好きにしろ」
……こいつ本当に女なのか? まあどうでもいいが。
「おかっ……シラカゼさんダメですよ!!」
リリィが無駄に圧をかけてきた。
「安心しろ興味ないから。んじゃ吐いてもらうぞ?」
「きょ、興味ない!? シラカゼさんまさか……」
リリィはなにやら独り言を呟き始めた。……そっとしておこう。
「はっ……何を吐けってんだ? 俺が吐けんのはたいしたことねえ身の上話とゲロぐらいだぜ?」
こいつ……
「お前も最低だな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「という感じだ」
俺はざっと湖での戦いを説明した。
「全裸のこの娘と戦ってたんだ……シュールだね」
「そうだな」
「というかなんで最初からリリィちゃんの能力を使わなかったの?」
「リリィがぼうっとしてたからだ。うっかり俺に当てられるなんて最悪だからな」
「あはは……」
リリィとフィリユスは苦い笑みを浮かべた。




