竜という名の……
俺たちは町の入り口近くで彼の帰りを待っていた……そう今日はシラカゼ君が帰ってくる日だ。
「おう、お前らか。今日もクエストか?」
そう言って話しかけてきたのは警備の人で、最初にこの町に来た時にいた人だ。俺たちはクエストの関係で町の入り口を出入りするから、この人とはよく会う。
「あっ、違います。今日は仲間の子が帰ってくる日で……」
「……なんだあのガキ帰ってくんのかよ」
この人はシラカゼ君のことが苦手……なのかな?
「あははは……」
とりあえず笑ってみるけど……絶対顔がひきつってる。そうこうしていると……
「どーーん」という音と……
「きゃーーーーーーー」
「え? な、なに?」
町の入り口とは反対の方から女性の悲鳴が聞こえた。
「……なんでしょうか?」
「おい、お前ら。悪いんだがちょっと見てきてくんねえか? 駆けつけたいのはやまやまだが俺は今ここを離れられねえ」
「分かりました。エル君行こう。リリィちゃんはここにいてシラカゼ君を待ってて」
俺は悲鳴が聞こえた方へと走る。
「気を付けてくださいよ~!!」
「うん分かっt「どぉん……どぉん……どぉん……」
「な、なにあれ?」
光の……柱?
「とにかく行くぞフィリユス」
「う、うん」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺たちがそこに着く頃には数人の人だかりができていた。近づくとその人たちの視線の先には1人の女性が傷だらけの子供を抱いていて……
「ドラゴン……」
女性の後ろには竜の死体があった……体のあちこちがボロボロで出血もひどい。けどなによりも内蔵らしきものがはみ出ているという子供には到底見せられないようなショッキングな状況がそこにあった。竜はその巨体で何件かの家を潰していた。家は燃え、隣の家にも火がうつっていた。
何人かの人が潰された家から人を救出しようとしていた。救出された人たちはほとんどが重症を負っていた。他にも火を消すために水属性の魔法を必死に展開している人もいた。
……さっきの女性は子供の名前だと思われる言葉を必死に叫んで泣いていた……
「うっ……」
正直……見ているのが辛いかも……人が死んでいく……離れていく……
『ごめんね……』
「……ス……」
『また俺を一人にするの? 嫌だよ!! 置いていかないでよ!!』
まただ……また昔の悪夢が頭の中で……うぅ……
「フィリユス!!」
そこで俺ははっと我にかえった。
「エル……君?」
「大丈夫か?」
「……うん……ごめんありがとう」
「そうか……おいこれはどうしたんだ?」
エル君が近くの人にたずねた。
「あ? ああ、それが見ての通りドラゴンが空から墜ちてきたんだ。しかもその後上から太い光の柱みたいなのが何度か突き立てられた。よくは分からんがたぶん魔法の類いだろうな」
魔法か……うーん俺は魔法に詳しくないからな……シラカゼ君なら分かるんだろうけど……ってそれどころじゃない!! 今はこの状況を何とかしなくちゃ。
「とにかくなんとかしなくちゃ。エル君俺は火を消すから、救助の方を……ってあれ?」
横を向いたけどエル君はいなかった。
「どこに行t……エル君?」
エル君はドラゴンの前にいた。死体をじっと見つめているけど……
「いやそれよりもとりあえず火を消そう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ふう……やっと見えてきたな」
「きゅ~」
山からここまで3日……長かったと言えば長かったなあ。肉の体というのは無駄に時間を感じさせるからなあ。まあ実際は……
「きゅ、きゅー!!」
「ん? あれは……」
竜か……町に墜ちていくな。その上を見上げると人影があった。しかし人影はすぐに消えた。ふむ……まあそれはともかくあいつらはどう動くんだろうな?
とりあえず近くの岩に座る。
「きゅー!?」
「急いで見に行かないのかって? バカめ。あいつらに対処させた方がいいだろうが」
「きゅ……きゅ~」
「まあ見ていろ」
さて……疲れたし休憩するか。
「きゅ~」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「とりあえず火を消したけど……」
死んだ人たちは……
「……ありがとよあんた」
男の人がお礼を言ってきた……
「いや俺は別に……」
「いやあんたのおかげで火は消えた」
「だけど……」
あの子たちは……
「優しいやつだなあんた。だがあれはあんたが悪いわけじゃない」
男の人は首を振ってそう言った。
「むしろあんたのおかげでこれ以上の被害が出ずに済んだ」
「……う、うん」
でもやっぱり……
「おいフィリユス」
そこでエル君に呼ばれた。
「こっちにこい」
「う、うん……」
俺はエル君の方に駆け寄る。エル君は俺が火を消している間もドラゴンの前で何かしていた。
ドラゴンに近づくと見たくもないグロッキーな絵が鮮明に見えてきた。と、同時に焼けた肉の匂いと血の匂いが鼻についた……俺は慣れてるけど……
「状況から見るにこいつは上空で何かと戦っていた。もしくは一方的にかもしれんが、どちらにせよこいつはそいつに墜とされたんだろうな」
「じゃあそいつは……」
「逃げたようだな。ここに来る前にだが」
逃げた……か……
「追いかけるのは不可能だろうな」
「そっか……」
「とりあえずここは他のやつに任せてシラカゼと合流した方がいいだろうな」
「そう……だね……」
「フィリユス」
「な、なに?」
「……いやなんでもない」
「そ、そう……」
……完全に見透かされてる……うぅ……
「……行くぞ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて見えてきたな」
「きゅー」
「不満そうだな」
「きゅきゅきゅー」
何を言っているのか知らんが……
「あっ、シラカゼさん」
入り口のあたりを見るとリリィが立っていた。
「リリィ」
入り口に入っていくと……
「よう、ガキんちょ。また来るとはな」
おっさんが話しかけてきた。
「……誰?」
「おい!!」
「そう怒るなおっさん。体に悪いぞ?」
俺は金入りの袋を差し出した。
「うるせえ」
おっさんは俺から奪うようにして袋をとった。まったく強欲だな。
「そんなことよりもシラカゼさん大変なんです」
「竜が墜ちたことか?」
「竜? なんだお前さっきの轟音のこと知っているのか?」
「さてな?」
「もったいぶらずに教えろ」
「ん? ただ竜が地に墜とされて。ズタズタにされただけの話だろ?」
ま、墜ちる前にすでにボロボロだったようだが。
「……それ本当の話か?」
「逆に嘘ついてどうするんだ?」
「……こんなことしてられねえ」
そう言っておっさんは走り出した。ま、頑張れ。
「あのシラカゼさん私たちは……」
「さてどうするか……というかフィリユスたちは?」
「フィルさんたちは音のあった場所に……」
だろうな……
「あ、シラカゼくーん」
と、フィリユスたちがこっちに来た。




