自由という名の束縛
一旦お茶を飲む。カップをソーサーにおいたところで話を切り出した。
「本当、とんだ戯れ言だな」
「まあ、そういう反応になるよね」
なにうんうん頷いてるんだこの神様?
「というわけでだ? もちろんこの話は断らせてもらう」
本当バカらしい。要は他の転生者と殺しあえってことだろ? こっちがチートをもらっても、向こうもチートならこっちが死ぬわ。
「……別にいいよ? まあ帰る場所があるならだけど……」
そう言われて思わず目を細めた。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ? 君は自分でも言ってたじゃないか。自分は死んだとね」
「まあしょうがない、事実なんだろうな。だがそれなら死人らしくあの世に行くのが道理だろ?」
「そうだね。でも君は行けないよ? なぜならこっちの世界にきた時点で向こうの世界には戻れない。だから当然あの世には行けないよ」
「チッ」
こいつなにふざけたこと言ってんだ? しかもニヤニヤしやがって……その顔思いっきり殴りたい。というか殴らせろ。
「どうする? もし断るなら君は無へと帰すことになるよ? 無になるっていうのは魂が徐々に削れていくから相当苦痛らしいよ?」
チッ……だから嫌なんだイケメソは。やっぱこうなったじゃねえか。
「……最初からやれと言えばいいだろうが」
「まあ一応本人の了承をね?」
なにが了承だ、拒否権なんて最初から与えるつもりもないくせに。
「まあ僕もそれじゃ悪いと思うからね。もし君たちが引き受けてくれるなら最大限のサポートはしてあげるよ?」
「当然だろうが!!」
「まあそう怒らないでよ?」
「会ってまだあまり時間が経ってないが、俺はお前が嫌いだ」
「そこまで言われると僕も傷つくなあ」
嘘つけ、笑顔で言いやがって!! 本当むかつく。
「はっ……もういい面倒だからとっとと話を進めろ」
「はいはい、それじゃあお待ちかねの能力とかの話をしていくよ」
誰も待ってない。
「能力はね、残念だけど僕らからは与えられないんだ。というのも能力は魂の質とかに依存しているからね」
じゃあこいつが俺を選んだのは、いい能力を持っているからってことか?
「んで? 俺の能力はなんだ?」
「それは……」
無駄に間を空けてきやがる。
「どうせ最後のお楽しみだろ? もういいから話を進めろ」
「やれやれ、それじゃあ次はスキルだね。スキルは魂依存の固有スキルと僕たちからあげられるスキルとかがあるよ」
「へー」
「最後に魔法だね。魔法は火水氷風土雷光闇の基本属性とそれらの混合とかがあるよ。魔法は基本的に肉体に依存するよ」
「へー」
「ねえ? ちゃんと聞いてた?」
「聞いてた聞いてた。んで?」
「はあ……それでだね……」
神様は1枚の紙をどこからか出して、俺に渡してきた。そういえばふと思ったが、こいつの名前なんだっけ?……まあいいや。
「そこには君の能力が記してあるよ」
「名前とスキルの欄が空白だが?」
「それはこれからだよ。あとこれ」
そう言って今度は鏡をだして俺に見せてきた。
そこには前世と変わらない自分がいた。白い髪に金色の目をもつ16歳の少年。今さら気づいたが服装は違うな。確か前世の最後は制服だったはず。
上は左がローブのような袖で、対称的に右は半袖となっている黒い服。下は黒のズボンに、腰から足元まである黒い布をつけていて右足から左足の半分ぐらいまで隠している。布はズボンの左腰のあたりで銀のチェーンで繋がっていて、布にも銀色の刺繍が施されていた。
「服装以外は特に変わってないんだが?」
「見た目はそのままにしてあげようかと」
「そうかい」
まあ別にどうでもいいしな。
「じゃあ、次は名前を決めようか?」
「わざわざ変える必要があるのか?」
「転生者であることを隠せるよ?」
「むしろ知ってもらったほうがいいからシラカゼで」
「名字を名前にするのかい?」
「何となくだ。まあ別にいいだろ?」
一夜とはあまり呼ばれたくないしな。
「まあいいや。それじゃあ……」
ああ、いよいよ旅立ちか……
「行くか」
「これから一緒に旅をする仲間に挨拶をしてきなよ」
「は?」
「だから仲間に「仲間? いるなら早く言えよ」
もう旅立つって気分だったのに……普通に萎えたわ。
「まあまあ」
「じゃあ呼べよ」
「いや~それがさあ」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「まあちょっとした大人の事情があってね」
「大人の事情とか言われても誤魔化されないぞ?」
面倒事は増やさないで欲しいというのが俺の実直な願いなんでな。
「察しなよ」
「分かるか!!」
「ま、君のスキルをつけたり、調整したりしておくから行っておいでよ」
神様はそう言って指を鳴らした。するとやつの後方に扉が3つ現れた。
「ところで何かスキルに希望があるかい?」
「そうだな……まあ便利なのをつけておいてくれ」
「分かった。それじゃあ行ってらっしゃい」
はあ……めんどい。結局話をそらされたし……しょうがないとあきらめ、無責任な神様に送り出されながら扉の1つを開けた。
「あっ」
中には14歳くらいの少女がいた。アイスブルーの瞳と肩ぐらいの長さに切り揃えられた同じ色の髪。白いワンピースを着ている。しかしそれらとは対極的に右の手首と左手のカッターナイフからは赤い雫が垂れていた……
バタン
………いったん落ち着こう、うん
「おい神様」
とりあえず神様を呼ぶ。
「なんだいシラカゼ君?」
「あれはなんだ?」
入った時のやっちゃったよ感が凄かったぞ……いや本当、嫌なくらい
「彼女はリスカ癖があるらしくて、ついやっちゃうんだって」
つい? それってそんな軽いノリでやるもんだっけ?
「まあ、今のは君が悪いよね。きちんとノックしなきゃ」
「知るかそんなこと」
「はいはい」
「つーか、どんな顔していけばいいんだよあれ」
「笑顔で」
「いけねえよ!! バカかお前は!!」
「シラカゼ君、第一印象は大切だよ?」
「さっきのでもう第一印象決まっただろうが!! しかも最悪な形で」
俺は肩で息をしていた。もうツッコミ疲れた……
「落ち着きなよ。ほらひっひっふー」
「やらねえよ!!」
「もうノリが悪いな。お約束だよ?」
「知らん!! つーかお前と話してると本当疲れる」
「やれやれ最近の若い子はすぐ疲れたっていう」
あーあって目を俺に向けるな老いぼれ。つーかこいつ歳いくつだ? ……まあ神様(自称)だし相当だな、うん。
「もういいとりあえず行ってくる~」
俺はげっそりしながら扉に向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さっきはすまなかった」
俺は今少女の部屋にいた。部屋の内装は床、天井、壁は白いだけ。あとは天井の照明と中央にある黒いテーブル、それを挟むように置かれた黒いソファーだけだ。俺たちはそれぞれのソファーに座っていた。
「あ、いえこちらこそ。お恥ずかしいところをお見せしました」
あれはお恥ずかしいところとかの問題なのだろうか?
「俺はシラカゼという」
とりあえず自己紹介をする。
「私はリリィです」
「……」
「……」
本当、空気最悪だな。
「……まあとりあえず、そういうことだからよろしく。んじゃ、俺はここで」
逃g……部屋から出ることにした。これ以上は無駄だと思うし……
「あ、はい」
リリィにそう言って出ていこうとすると……
「あのシラカゼさん」
呼び止められた。
「なんだ?」
体の向きはドアの方に向けたまま、首だけ後ろに向けた。
「他の方とは……」
「まだ誰とも会ってないぞ。お前が最初の一人だ」
「そうですか……それでは気を付けてくださいね……」
「ん? ああ」
疑問に思わないわけではないが……正直、聞きたくない。
そんな現実逃避をしつつ部屋を出た。