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天使という名の……3

私はニムが部屋を出ていくのを見送る。ふむ……


「しかし本当に生きていたとはな……」


先ほど彼と会話をしていた……とはいえあまりにもあっさりしすぎてあまり実感がわかんな。


「なあルシエルよ?」


そう隣に立っている天使に尋ねた。


「はい。私も驚いております」


「このことは言うな? もし今バレればまた大事になる。お前たちの()もそれは望むまい。無論他の天使たちにも黙っているように伝えておけ」


ニムの頼み……それ以前に大変な事態になるのを防ぐために今は黙っているほうがいいと考えた。今はまだだめだ。特に議会には……


「……かしこまりました」


さて……どうなるかな……?

そうして視線をテーブルの上に彼が置いていったものへと向けた。


「……どこの誰だか知らんがとんでもないものを連れてきてくれたな? まあいい今はそうやってただ俯瞰していろ」


そうしていられるのも今のうちだからな……

ねずみから視線を外してお茶を飲む。


「きゅ?」


お茶を飲みながら考える……そうして思考の海……その深い底へと沈んでいく……ふとドアが開く音がした。


「ふむ……どうやらうまくいったようだな?」


「ああ。ところで頼みがあるんだが……」


そう言って彼は視線を下に向けた。私もそちらを見ると白い鳥がいた。彼が連れてきた……そんなことは言うまでもない。白い体に光のない目……それはもうこの世(わたし)のものではない。彼のもつ法によって狂気に染め上げられたバケモノだ。彼の忠実な駒に成り果てた鳥だったもの……


「こいつを明日の夜までここに置いてくれ。明日の夜こいつはここを出る」


「どういう事情かは知らんが……もちろん構わんよ」


彼が何者かにつけられていたことには気づいていた。おそらくそれをその者に見られると困るのだろう……まああれを見ることは普通の人間には無理だろうが、念のためということだろう。あるいは普通ではないのか……まあこれに関しては私にとってはどうでもいいことだろう。深追いして痛い目を見るのだけはごめんだからな……


「そうか、ありがとう」


「ああ。では……」


とりあえず椅子から立ち上がり窓の方を見る。もう外は薄暗くなっていた。


「少し早いが夕食にしようか」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「もっきゅもっきゅ」


「フッ、よく食べるな」


「別に食べたくて食べてるんじゃない。もっきゅ、まったく、もっきゅ、この体は不便だ」


「いい経験ではないか。お前が死ぬ前に口にしたこちらのものといえば赤子のころの母乳ぐらいだろう?」


そうだったかもな……


「どうだ? うまいだろ?」


「別に……」


うまいかどうかなど実際どうでもいい。元々食べる必要も意味もないのだから……それに……


「ふう、そういうところは相変わらずか」


「こんなものをうまいと言う方がおかしい」


要は目の前のこいつの血肉を貪っているのと同じだからな。そして自分の体が食われる様を見ても嫌悪する……どころか進めてくるこいつはもっとイカれてる。


「失礼なやつだな。私に言わせれば当然ともいえるぞ? 言ってしまえば血肉を分けた子らに授乳をしているようなものだからな」


ものは言いようだな。だがやはり俺にとっては気持ち悪いことこの上ないが。


「お前はそれをミラにも言えるのか?」


「むむ? 君は痛いところをつくな……まあ無理だな。あいつは私と違って男だからな。私のような考えは持てないし、決して割りきれないないだろうさ」


それで納得したならとっくに解放されてるだろうからな。


「ま、ミラにはミラの考えがあるからな。私が口を出すことではないさ」


「そうか」


「フッやれやれだな……ミラや私のことよりも自分の家族のほうは気にはならんのか?」


「別に……」


家族といっても血の繋がりのようなものはないしな……


「冷たいやつだな……まあそうでなければあそこを管理するなどできはしないだろうがな……」


「そもそもお前たちのいう家族というものは曖昧だ。俺は別の世界の下界に転生させられた……人間の子としてな。その時の両親だったものも家族ということに「なるだろうな。だがいいではないか? 家族がいくらいようが、それが人間だろうがお前には取るに足らぬものなのだろう?」


メリアは俺の話をニヤニヤとしながら遮る……


「そうだ……」


しかたがないことだ……俺には理解し得ないことだからな……


「……なあニム……お前はだいぶこちらに馴れつつあるようだな? ……分かっているな?」


何を分かっていると聞いているのか……当然分かっている……


「……安心しろ。この肉の体を捨てればそんなこと忘れてしまう。それに殺されるのはもう嫌だからな」


むしろこっちから願い下げだ。こんな不便な肉体とルールをおしつけられて迷惑しているんだからな。その上でこいつらを敵に回す理由を作ってたまるか。


「別に脅しで言ったつもりはないぞ?……まあ実際私は今更それぐらい構わんと思っているからな」


「だろうな。結局お前にとっては大差がないだろうからな」


「そういうことだ。だがニム捨てるんだとしても今は取っておくのだろう? なら楽しんでおけ。いずれ捨てるなら……その時にはもう手に入らないだろうからな」


「……そうか」


楽しんでおけ……か……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



メリアとの食事の後、色々やって今は天使に案内された客室のベッドに座っていた。ベッドから立ち上がり窓の方に近づいた。窓辺に立ち外を見るが、見えるのはここの庭園のようなものと木々だけだ。あとは暗くて分からない……


「楽しめか……」


簡単に言ってくれるものだと思う。まああいつなりの考えやら、それこそ心配やらしているのだろう。が、それはともかく現状はそれどころではない。とりあえず情報収集は終わった。次は……が、その前に考えておくべきなのは議会の動向、そして神々やあいつらにバレないための隠ぺい工作……ふう、考えるだけで疲れてくる。あいつらは別に適当でいいだろ。バカっぽいし。神々の方は流石に今後どうせバレることを考え、協力を事前に仰ぐとして……やはり問題は議会だな。

あいつらは神々よりも下界に精通しているからな。さてどこまで隠し通せるか……できれば最後まで役目を全うしたいものだがな。恐らく無理だろうな。ま、それならそれでしかたがない。


「ふう……嫌だし、面倒だな……」


議会相手じゃな……1人なら……1人でも面倒だが複数で来られたら、多勢に無勢まず勝てないだろうな。全く……つくづく面倒だな。


「ま、それも含めて楽しむとするか……」


また殺されるのは嫌だし面倒だが……面白そうだ。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「あれのことを頼んだぞ」


「ああ、任せろ。ではまたなニム」


朝。俺はメリアに見送られ山を下りることにした。一歩踏み出し……思い出した。


「そうだメリア」


「なんだ?」


俺は首だけ後ろに向けた。


「今の俺の名前はシラカゼだ」


「……ハハハ、なるほど分かった。ではなシラカゼ」


「ああ、またなメリア」

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