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お礼という名の……3

「……」


シエリアは俺の返答を待ってか沈黙していた。ここで選択をミスればシエリアの言う通り最終的に俺たちは転生者たちにリンチされて終了となるわけだ。


「きゅー」


モコは俺の腕を離れ浮かび、警戒するように背中の雲を氷のトゲに変えた。


「きゅ!?」 「やめておけ」


モコを掴んで止める。実際無駄だしな。


「危害は加えないんじゃなかったのか?」


「そうね。でもその場合は例外よ」


「それも大人の事情というやつか?」


「ええ」


はあ……全く人間というやつは……


「あそ。だがあんたたちに俺たちの目的を教えるつもりはない」


「……せめて危険でないことを証明して欲しいのだけど?」


証明ね……


「どう証明しろと?」


そもそもにして無理な話なのだ。こいつらは俺たちを危険分子として見ている。そんな不利な条件があるのに俺から目的を告げたところで信用されるわけがない。


「そうね。なら私たちの保護下に入って欲しいのだけど?」


要するに監視をさせろということか。確かにそれは証明するなら確実性が高い手段と言える。


「断る」


だがそれは無理だ。今行動を制限されるわけにはいかない。俺たちの目的を達成するなら、むしろ監視下に入ってある程度信用されたところで殺す…….という方法もあるし、ここをあっさりと乗り越えられるだろう。

だが俺にはまた別の目的がある。もしこいつらの監視下に入れば俺の目的を達成するのは困難になるだろう。なぜならそれはリリィたちにもバレないようにしなければいけないからだ。少なくとも目的を達成するまでは……


「なぜ?」


「それにも答える必要はない」


「……そうね。でも私たちとしてはそれだと困るのよ」


「それはお互い様というやつだな」


同情はしよう。もちろん譲るつもりはないが。


「さてと……というわけで交渉決裂だ。で? お前は俺を殺すのか?」


だとしたら理不尽な話だ。


「……いいえ」


「ほう? それは意外だ。あんたが俺を殺すことを躊躇うとは思えんのにな」


少なくとも俺の見立てではだが。こいつの雰囲気や表情からは冷たく尖ったものを感じる。そういう人間なのだろう。その気になれば相手を容赦なく殺せる人間……だからこそ謎だ。


「ええ、そうね。私もそう思うわ。でもよくは分からないのだけどなんとなくあなたを殺したくのよ」


「わけがわからん」


「ええ……でも結局この方法だとあまり意味がないようだしね。というわけで今回は保留にするわ」


「そうか、それはよかった」


といってもいつかは向かい合わなければいけない。だがまあその時には……


「ごめんなさいね……本当はこんなことしたくないの。でも私たちも人生がかかってるから……」


そこでシエリアの冷たい表情は悲しそうなものへと変わった。


「別に謝る必要はない」


なんせこっちはお前たちを狩るつもりなのだから……


「そう……ありがとう……じゃあ私はもう行くわ」


「じゃあな」


「ええ、またね」


シエリアは去って行った。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「はあ……疲れた」


俺は宿屋のベッドの上に身を投げ出す。いやあ、本当に今日は疲れた。


「きゅー」


するとモコが乗っかってきた。心配そうな顔をしている。俺はモコを両手で掴み、腕を伸ばすような形で持ち上げる。


「きゅー?」


「……ほんとこの体は不便だ。食事やら睡眠やら……なにより疲れる。まあ流石にもう慣れたが……」


俺はモコを降ろした。眠くなってきたからだ。徐々に瞼が重くなる。ああ、明日は楽だといいg……



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「さて行くか」


「きゅきゅ、きゅー」


今日は昨日のような目に会わなければいいがな。まあ確かに退屈していたが面倒事はなあ……そういえば俺は女難の相がどうとか言われてたんだったな。まあ確かに今までを振り返れば身をもって……それも身に余るほどの目にあったな。やれやれ……やはり女には気をつけるとしよう……


「はあ……」


「きゅ?」


「いやなんでもない……」


沈んだ気持ちを抱えつつも道を進み続ける。まあ男も女も変わらんがな。同じくらい散々な目にあわされたからな。だが明確な違いとして最終的に俺を殺すのは女だ。


「さて今回は頑張って殺されないようにするか」


「きゅー!」


モコは共感するように鳴いた。こいつ前から思っていたが……まあ今はいい。

俺は彼方の方を見る。そこには目的の山がそびえ立っている。緑に染まった山……だがそこはただの山ではない。人はその山を天使たちの山と信じている。つまり神聖視しているということだ。そして実際にそれは正しい。だが今は……


「フッ……」


「きゅ?」


「いや滑稽だと思ってな」


哀れだな……俺には理解できない。お前たちの血肉を美しいなどとは思えない。


「やはりこの世界は汚いな」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「これでいいですか?」


俺は受付のおばさんに袋を渡した。袋の中には魔物の角が入っている。

シラカゼ君が去ったのは昨日のことだ。昨日はクエストを1つ受けたりして1日が終わった。


「ああ、それじゃあこれが報酬だよ」


俺はおばさんから報酬を受け取った。


「ありがとうございます」


「それにしても早かったねえ。なんだったらもう1つ受けていくかい?」


「え、ええと……どうするエル君?」


俺は首だけ振り向かせてエル君の方を見る。


「受けたい。できれば同じ場所のものを複数同時にやりたい」


「ええ!? 同時に複数って……ダメ……ですよね?」


俺はおばさんの方に顔を戻した。


「いいよ」


「ですよね。流石に複数は……って、え? いいんですか!?」


「ああ、まあ本来はダメだけど上があんたたちは良いってさ。それにちょうどやってもらいたいものがあってね。なんせ今人手が足りなくてね」


いいのかな……あきらかに特別扱いされてるけど。でもシラカゼ君はあの時断ってたから……うーん……


「フィリユス」


「ん? なんだいエル君?」


「別に受けてもいいんじゃないか?」


あっ……彼には俺の考えがお見通しだったようだ。


「でもシラカゼ君は……」


「だがそのシラカゼはお前に判断を委ねたんだ。ならお前が決めるべきだろう? 今シラカゼは関係ない」


「そうだけど……」


「口出しして悪いんだけどね。その子の言う通りだと思うよ? やれるうちにやっておいたほうがいい。また機会が回ってくるとは限らないからねえ。まあわたしたちとしても人手が足りないからあんたたちがいると助かるってもんさ」


「……分かりました」


「そうかい。それでやってもらいたいものっていうのが近くの森でポレンの実の収穫をしてきてもらいたいのさ」


「ポレン?」


ポレンってなんだろ? オレンジみたいな?


「ちょっと待ってくれるかい?」


そう言っておばさんはカウンターの奥にある扉の中に入っていった。少ししてから赤い物体を手に戻ってきた。そしてその赤い物体をカウンターの上に置いた。


「ちょうどさっき採ってきて貰ったやつだよ」


カウンターの上に置かれたそれは大きな木苺のような見た目でオレンジとは程遠いものだった。


「これを採ってくればいいんですか?」


「ああ。ただ今年はあの森にノイジーフライっていううるさい魔物が大量発生していて収穫しづらくて困っているのさ。そこであんたたちにはポレンの実の収穫とその魔物を狩る仕事をしてもらいたいんだけど。やるかい?」


「やります」


「そうかい……よし、それじゃあ行っておいで」

最近シラカゼ君の話ばかりなので今回はフィリユスたちの話も入れました。

次回も彼らの話を入れる予定です。

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