お礼という名の……
「それにしても……飽きた」
町を出てから何時間たったんだろうか。空を見上げるとまだ太陽が輝いているから……大して経ってないのか……周りの風景はあまり変わらず見渡す限りの草原。出てくる魔物も怯えて逃げるかサクッと倒されるか……はっきり言って暇なんだよな~。
「zzz……」
こいつは寝てるし……まあいつものことだが……
そんなことを考えていたら……
「お? なんだあれ?」
先のほうに黒い物体が見えてきた。気になるな……ちょうど退屈していたし近づいてみるか。そう思い近づいてみるとその黒い物体がなんなのかが分かった……いや分かってしまった。知りたくなかった。
「いたっ、ちょっと痛いじゃない!!」
黒い物体は魔物の群れだった。黒いウサギのような魔物で頭には角が生えている。そしてその群れの中心には人と思われる赤い物体がありウサギたちはその物体に頭の角で攻撃していた。さて……
「誰か助けて~」
面倒そうなので無視するが。俺はそのまま横を通ろうとしたが……
「あっ、ちょっと待tいたっ……スルーしn痛い痛い……助けなさいよ!!」
「チッ……」
バレたか……静かに通ればいけると思ったんだがな空気的に。
「あっ、今舌打ちした。したわよね? いたっ、ちょ、やめて」
しかもいちいちツッコンでくるあたり明らかにウザそうだ。助けた場合ウザったく絡まれるにちがいない。ならば……無視するだけだ。
「え? 待ってーーー!!助けてお願いだからーーー!!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「助けてくれてありがとね」
目の前の女はそう言った。髪は赤で白のシャツに黒いスカート……こんな草原にいるやつの服装ではないな。そうして頭の中であまりというかかなり関わると面倒な人物と結論付けた。結果的に渋々助けてしまったが……
「あそ、んじゃ」
さてそれはともかく先をいs……
「ちょっと待って何かお礼をするわ」
「いやそういうのいいんで、んじゃ」
「待ちなさいよ!! それじゃあ私の気が治まらないわ!!」
はあ……面倒だな。どうせ大したものはくれんだろうに……
「いや気持ちだけでいい」
「ダメ!!」
「チッ……ウザい」
「ウザくないわよ」
しかも地獄耳とか……はあ面倒だな。さっさとお礼とやらを受けとって行くとしよう。うん、めんどいがめんどいからそれでいいか。
「じゃあそのお礼とやらをくれ」
「結構図々しいわねあなた」
「そ。んじゃ、いいや」
「うそうそちゃんとお礼するわよ」
なんなんだめんどいなあ。
「俺急いでるんだけど?」
別に急いではいないがこう言われたら……
「あら、ごめんなさいね」
となる。予想通りだ。
「というわけで急いd「それなら好都合だわ」
は?
「こう見えて私能力持ちなのよ。しかも時を操れるの。どう凄いでしょ?」
そう言って威張る女。
「へー」
「なによその冷めた反応は……ははあ信じてないのね?」
「じゃあなんでさっきうさぎたちに襲われてたんだ?」
その時を操る能力とやらを使えば勝てなくても逃げるぐらいなら容易だろうに……
「……大人の事情よ」
真顔で言われてもね~。
「なにそれ?」
「察しなさい。色々あるのよ大人には」
やはり真顔でごり押すという……
「へー」
うんこれダメな大人だ。まあ最初から分かっていたことだが……
「で、その時を操る能力とやらで何してくれんの?」
「フッ……そんな態度でいられるのも今のうちよ。まあ見てなさい……時よ止まりなさい」
「……なにも起こらんが?」
「よく見てみなさい」
しょうがないので周りを見渡すと俺たちから少し離れたところに魔物がいた。しかし……
「おいあそこの魔物動いてるぞ」
「あら? ……おかしいわね」
「なんだ嘘か」
「ち、ちが「もういい。俺急いでるからじゃあな」
俺は女に背を向け歩きだした。
「……ちょっと待ちなさいよ!!」
女が俺の前に回り込んできた。
「なんだ?」
「あなた能力を持ってるんでしょ?」
「いや」
まあ持ってはいるが……いちいち教えてやる必要はないしな。
「嘘よ!! じゃあどうしてあたしの能力が通じていないの?」
「ふう……んじゃあ、百歩譲って俺が何かしらの能力を持っていたとしよう、だとしてもそう都合よく俺の能力がお前の能力を阻害できるものとは限らんだろうが」
「でも……」
「だいたい時を止めたとして何の役にたつんだ?」
「急いでるんでしょ? なら時を止めてる間に……」
「別にそこまで急いでないし」
「……なんなのよ」
なんか疲れてきた。
「もういいか?」
「納得できないわ。なぜあたしの能力が通じないのかよく分からないけど……なら別の形でお礼をさせて」
「礼ねえ……んじゃあこの先のルクナ村で夕食を奢ってくれ」
なんせ金があまりないからな。
「いいわよ」
フッ……作戦通り。まあ最初は面倒だったんだがしょうがない転生者から情報を引き出すとしよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「もっきゅもっきゅ……もっきゅもっきゅ……」
「あなたよく食べるわね……」
俺は約束通り女から夕食奢ってもらっていた。
「もっきゅ……人の金だからな……もっきゅもっきゅ」
前のよりはうまいな……気持ちの問題なんだろうが。
「まああたしが言い出したことだけど……」
女は呆れたような表情を浮かべた。まったく失礼なやつだな。俺はしょうがなく奢られてやってるのであって強制はしていないというのに。
「ところであなたこれからどこに向かうつもり?」
「もっきゅ……言う必要はもっきゅもっきゅ……ない」
「喋るときくらい食べるのやめなさいよ」
「あんたこそあんなところで何してたんだ?」
「大人の事情よ」
大人の事情ね~……本当は大した理由がないのかもな。なんかこの女頭悪そうだし。
「あそ……もっきゅもっきゅ」
「……本当よく食べるわね。話は変わるけどあなた……彼氏とかはいるのかしら?」
……またか。
「俺は男なんだが?」
「ええ知ってるわよ?」
ほう俺が男だと気付くとは……まあ実際は別にどうでもいいが。
「で? どうなの?」
「何が?」
「彼氏よ彼氏。もしくは夫」
……は?
「だから俺は男だ」
「ええ、だから知ってるわよ。で? いるの?」
何言ってるんだこいつ? 確かに頭が悪いと思ったがここまで悪いとは……
「男が男と付き合ってるわけないだろうが」
「フッ……考え方が古いわね。今の時代性別なんて関係ないわ。いやむしろその壁をガンガン壊すべきよ」
こいつ……何言ってるんだ? あまり理解したくない。ということで言葉が右から左へ流されていった。
「へ~」
「それじゃあシラカゼ君にはまだいないのね。もったいないわねこんなに可愛いのに」
「別にいらない」
というかお断り。
「腐ッ……まあすぐにいい人が現れるわよ。そしたら腐腐腐……」
なぜかフが腐に聞こえる気がしたが……うん、気にしないことにしよう。




