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稲荷の飛び狐

作者: 風連
掲載日:2016/01/13

転校生は、珍しくない。

特別、何てこともない。

新興住宅街の新設校だから、先生も生徒も全員転校生だったし。

真新しい学校には、真新しすぎる校庭があった。

グランドには、新素材がひかれ、競技用の線も引かれていて綺麗だったが、まるでゴムみたく見えた。

砂ぼこりも舞わない。

その地下には、プールが、隠されていて、2ヶ月間だけ姿を出すって、噂だった。

三年になったばかりの、鷹森たかもり仁史ひとしには、ついていけない世界だった。

公園も、自然環境が整ってるって、父親が言っていたが、校庭と同じくゴムっぽいし、後はアスファルトがほとんどで、花壇や街路樹がいろじゅの周りだけ、土が盛られていて、残りは芝生に覆われていた。

雨が降っても、水たまりも泥道も出来ないから、長靴をく事も無い。

つまんない道だった。

仁史には、苦手があった。

跳び箱だ。

五段から、上が怖い。

先生が好きな段を飛んで良い時間を作ってくれて、皆でワイワイと飛び、挑戦したのだが、五段以上になると、急に飛べなくなった。

それ以来、跳び箱が嫌いになっていた。

走るのも、ドッチボールも負けない。

あのゴム引きの校庭での50メートル走では、クラス1だったし。

担任の中田なかた先生も、首をかしげる。

跳び箱はあっさり終わったので、中田先生以外、この事は気づいていなかった。

仁史が、いつもの通学路を外れたのは、その日の放課後だった。

知ってる奴らに見つかると、登下校時の校則違反だ、学校に言うぞ、と、騒がれるのだが、まっすぐ帰る気にならなかった。

道草をしたかった。

ランドセルをカタカタいわせて、先を急ぐ姿は、道草を食ってる感じではなかったが、走るのが楽しい。

小高い丘の古い石垣みたいなのに沿って、グルッと回ってると、階段に出た。

長い階段で、神社の参道だった。

石の鳥居をくぐると、急な階段が続く。

登りきると、下からはわからない、広い敷地が出た。

その上、下は土だ。

参道こそ石が引いてあったが、残りは、自然な地面があった。

今朝の雨が、水たまりを作っている。

木も多く、下とは別世界だった。

賽銭さいせんは無いけど、神社で、手を合わせた。

そばにカバンを置くと、走った。

神社の周りをクルクルと三回。

裏側に広い敷地を見つけ、ダッシュもした。

木や土の匂いが気持ち良い。

仁史が、住んでるマンションの裏手の神社だったが、そんなところに、こんなに木や草や土があるのを知らなかった。

通学路は、マンションやビルだらけで、見えなかったのだ。

仁史は、汗ダクで帰宅すると、風呂に叩き込まれた。

牛乳を飲みながら、お湯につかってると、幸せだった。

夕飯の時、母親に神社の事を聞いたが、引っ越しの後片付けやらで、バタバタしている頃だったので、知らないと言われた。

「でもそれって、お稲荷いなりさんじゃない。

きつねが、お稲荷さんのお使いだったでしょう。」

うんと、うなずく。

狐の像があったのを話す。

「お稲荷さんって、動かせないのよね。

壊すと、たたるって、聞いたわ。」

仁史は母親が、都市伝説や怖い話が好きだったのを思い出した。

どこそこの稲荷神社が祟った話をしだした。

「だから、開発しないで、森と神社って、残るのよ。」

嫌というほど驚かされたが、お稲荷さんだとわかったから、仁史は夕飯に向かっていった。

「相変わらず、好きよね〜。」

魚の骨から、身をむしっていると母親がため息をついた。

父親も母親も肉好きだったが、仁史は無類の魚好きだった。

ここに来る前住んでいたところは、保育園がひとつしかなくて、皆そこに行くしかなかったのだが、自然食推進派の園長さんがいて、3歳児からは、玄米と焼き魚が給食に出る。

もちろん骨つきで、箸は塗り箸。

親より箸づかいが、上手くなった。

小学校に上がった途端、給食には肉が出たし、箸よりホークやスプーンになった。

好き嫌いはないのだが、それからは、夕飯に魚を食べる習慣がついたのだった。

仁史の向かいで、ハンバーグとポテトサラダとコーンスープを飲む母親がいる。

仁史は、ご飯は玄米以外でも良かったが、とにかく魚だ。

「これ、何て魚?。」

「ソイっていうのよ。」

返事が投げやりだ。

トンカツやカレーを喜ばないし、毎回リクエストは焼き魚なので、作りがいが、ないのだ。

「魚くさいから、お稲荷さんの狐が友達になってくれるかもよ。」

頭の中がファンタジーな母親の事は無視。

骨を避け、皮を外し、魚は完食された。

梅雨が始まっていたが、皆傘は差しても、長靴を履く事はなかった。

そもそも水たまりが無いのだから。

仁史が放課後、稲荷に寄る様になってから、泥だらけの靴でチョイチョイ帰ってくる様になり、ついにブチ切れた母親に、長靴をはかされた。

ひとり長靴をはいて、登校した。

すると、長靴ブームが、巻き起こったのだ。

校長先生まで、長靴をはいた。

おかげで、仁史の長靴姿は目立たなかった。

こっそり、お稲荷さんに、お礼をした。

仁史には、それ以外に、突然の長靴ブームのわけがわからなかった。

梅雨が明けると、ゴムの校庭の真ん中に、プールが現れた。

何て言っても、新設校で、皆初めて見るのだから、話題はプールになり、雨も減ってきていたので、長靴ブームは、下火になっていった。

仁史は、神社に寄ると、走った。

靴が泥だらけだと、言われるので、運動靴持参で、汚れたら教えてもらったとおりに洗って干している。

二足買ってもらった。

滅多に物を欲しがらないので、父親が良いのを買ってくれたし。

プールも大好きで、平泳ぎで、往復できた。

何回も泳いだので、フラフラだったが、お稲荷さんには、寄る。

乾いた地面を走って走った。

夏の訪れが、空の高さと白い雲に現れている。

もう直ぐ夏休み。

もう、コソコソしなくても、神社に、毎日通えるのだ。

稲荷の森は深く、夏の日差しを広葉樹が、さえぎってくれていて、気持ち良いのだ。

樹々の間から、フワッと風の匂いがする。

森の木に邪魔されて、仁史には、湧き出した雲が、見えなかった。

暗くなった途端、大粒の雨が落ち、落雷が響き渡った。

慌てて、ランドセルをつかみ、階段を走り降りる。

雨は大つぶで、神社の階段を流れている。

ちゃんとランドセルを背負せおわなかったので、背負い直そうとした途端、階段が消えた。

神社の登り口の石畳が、見える。

叩きつける雨で暗い中、石の鳥居の下で何かが光った。

火の玉だ。

仁史の胸めがけて、火の玉が飛んでくる。

ぶつかると、眼をつぶった仁史は、神社の階段の中ほどで、尻餅をついていた。

雨は、止んでいた。

雲が晴れ、日差しが戻り、セミが鳴き始めた。

みるみる石段が乾いていく。

仁史だけが、ベチャベチャに濡れていた。

手をすりむいていたが、後は本当に濡れただけだった。

家に帰ると、風呂に叩き込まれた。

牛乳を、飲みながら、考えたが、わからなかった。

母親に聞くのも、面倒だった。

そのまま、夏休みが来た。

プールに通い、神社に通う。

秋の運動会では、リレーの選手にも、なった。

冬休みも神社に通い、お正月には、父親に頼んで、2年参りをした。

お年玉を全部お賽銭に入れることは、母親の反対にあい、普通に5円入れた。

「ごえんがあります様に、で、良いのよ。」

父親が笑って、百円くれたから、それもお賽銭に出来た。

普段は誰もいないのに、流石に正月には、人が出ていたし、鳥居のそばの石垣の周りに出店もあった。

母親は、たこ焼きやフライドポテトを買って喜んでいたが、仁史はそんな物は、食べたくなかった。

お菓子ッぽい物に興味がないので、イカ焼きを買ってもらった。

春が訪れ、神社の桜が咲くと、又出店が出た。

ドングリのなる木もあったが、桜も随分植えられているお稲荷さんだったのだ。

仁史には、花が咲き実がならないと、桜やカシやクヌギも、ただの木だった。

進級すると、又跳び箱があった。

三年四年と、担任をしてくれている中田先生は、仁史より不安がっていた。

背も伸びた仁史は、五段を飛んだ。

それ以上は、又飛びたいものだけが飛ぶので、問題はないはずだった。

体育で花形の鷹森仁史を、ライバル視するグループが出来ていた。

彼らは、走るのもプールもドッチボールも負けていたので、しつこく勝てる競技を探していたのだ。

今時の子たちは、放課後遊ばない。

塾や習い事が忙しいのだ。

中でも彼らは、体操教室に通ってる一団だった。

二回飛んでも、六段以上を飛ばないのを知ると、変なルールを言い出した。

「三回以上、同じ段飛べない奴は、それで終わりな。」

ボス的存在の高橋たかはし洋輔ようすけの一言で、ざわめきが、起きる。

男子の半分は、六段が飛べるのだ。

体操教室の面々が、次々と七段を飛ぶ。

仁史は、一回目飛べたが、尻が触ったと、囃し立てられた。

二回目も、尻が触った。

中田先生は、手に取るように仁史の心がわかったが、挑戦もしてほしかった。

三回目の助走に入ると、何故か去年の火の玉が思い出された。

あの、感覚。

確かにフワリと浮いたのだ。

仁史は、胸のあたりを一回掴むと、跳び箱に走っていった。

跳び箱とみ板の間に、光る棒が、現れた。

棒は、下から伸びている。

避けるために、踏み板を思っ切り踏み、前に飛んだ。

棒にぶつかった、と、思った途端とたん、向こう側に着地していた。

拍手と歓声が起きる。

みんな、固唾かたずを飲んでみていたのだが、完璧なホームで、仁史は飛んだのだ。

振り返ると、光る棒は、体育館を貫いている様だった。

仁史が、棒の事を聞く前に、チャイムが鳴り響き、授業は終わった。

ホッとした中田先生が、サッサと跳び箱を片付、給食当番にかつを入れる。

体育の後の給食は、戦争だ。

キャアキャア言う女子に囲まれて、仁史は、困っていた。

あまり跳び箱がうまくない男子も混ざっている。

給食は、さんまの竜田揚たつたあげで、大好物だったが、こっそりテッシュに包んだ。

学校が終わると、お稲荷さんに急いだ。

よくわからないので、石の狐の前に、さんまをあげてきた。

なんだか、お稲荷さんに、お礼をしたかったのだ。

やっぱり、クルクルと走ってから、家に帰った。

偶然にも、夕飯もさんまの竜田揚げだった。

「ごめん、給食とかぶったわよね。」

謝る母親に、大好きだからと、お代わりして、竜田揚げを食べた。

それから、飛ぶ狐がいるのか聞く。

「いるわよ。

何せ、お稲荷さんのお使いだし。

確か、飛んでる様な狐が、まつられてる神社もあったはずだわ。

狐自体がそこの神様だったりもするし、祟るぐらい力のある神様だから、願い事もいっぱい叶えてくるのよ。

祀ってるとこも多いし。」

人に何か見せる事があるのかを聞く。

「うーん、それって、啓示けいじの事。

啓示って、まあ、お知らせみたいなことで、狐火ってのもあるし。

お稲荷さんの眷族けんぞくの狐さんなら、昔は人もだましたし、化けるし。

ホラ、絵本で、たぬきと化けあってたじゃない。」

知ってる。

仁史の好きな絵本だ。

納得とは、行かないが、それ以上聞いて、光る棒や火の玉の話をしたくなかったし、跳び箱が怖かったのを知られたくなかったので、ごちそうさまをした。

それから、何かを飛ぶ時、棒が見える様になった。

6年生での、ハードル越えは、楽しかった。

次々と光る棒が現れ、飛ぶとその先に現れた。

啓示の意味もわかってきたし、これが自分だけのものなのもわかった。

走高跳びにも棒が出た。

中学になって、陸上部に入ると高跳びの選手に、なった。

何故だか親友の高橋洋輔も同じ部活で、200を走っている。

高校で、棒高跳びという競技に出会った。

まず、人気はない。

だが、きつけられる。

あの光の棒が、そこにあった。

天から地に光るラインは、ピッタリ棒高跳びの棒に沿っている。

仁史は、光のラインに合わせて、飛ぶ。

光のラインと共に、バーを越える浮遊感ふゆうかんが、仁史をとりこにしていた。

インターハイで、記録を出して、優勝してしまった。

試合前、試合後、あのお稲荷さんにお参りするし、やっぱり周りを走るのも忘れない。

鷹森仁史が、インタビューに答える。

目標は、東京オリンピックです、と。

今は、ここまで。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  悪いといえるかはわかりませんが、人名にふりがなほしかったです。読めない名前ではないですけど、一応振ってほしいです。 [一言]  はじめまして、葵枝燕と申します。  「稲荷の飛び狐」、…
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